深圳在外研究メモ No.8 シェアサイクルofoを使ってみた編~スマホ電子決済前提社会におけるシェアエコノミーの広がり

中国におけるシェアサイクルの広がりは、すでに様々なメディアで紹介されています。ここでは深圳大学や深圳市内で2週間ほど乗ってみて気が付いたことを書きます。旅行者にはハードルは高いですが、とても便利で、まだまだ発展途上のサービスだと感じます。そして、こうしたサービスの背景には「スマホと電子決済が前提の社会」があり、そこにいまどのような問題があり、それがどのように解決されていくのか、注目する価値があると思います。

1.前提としてのスマホと電子決済

基本は街中に置かれている自転車を見つけ、スマホのアプリから開錠パスワード情報を得ます。以下では黄色い自転車、ofoを中心で話を進めますが、 ofoのホームページによると、中国国内の都市部以外にも米国、英国、シンガポールの合計33都市でサービスを展開しているとのことです。

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ofoの場合にはまず99元のデポジットをWechat PayかAlipayで支払い、実名を登録・確認し、その後の費用も電子決済での支払う必要があります。このため、シェアサイクルを利用するための前提として以下の条件を満たす必要があります。

1)スマホを保有しており、インターネットに接続されている

2)Wechat PayかAlipayがアクティベーションされている

実はこの二つの条件を満たすのは、短期旅行者では少し手間がかかります。SIMフリーのスマホを持っているとして、中国で携帯電話用のSIMカードをまず入手する必要があります。一般には、大手キャリア(中国移動と中国聯通)の路面店で、パスポートを持参していれば契約可能です。携帯と中国のネットワークアクセスを確保し、ofoとWechatをダウンロードしましょう。ここで第二の条件、Wechat Payのアクティベーションが必要です。正攻法は、中国で銀行口座を開設し、人民元を入れて、Wechatと紐づけるという手続きになりますが、中国の銀行にパスポートを持参しても、短期訪問の場合には多くの場合は断られます(中信銀行が比較的ルーズだと思います)。ただ、Shaoさんのブログ記事「中国に住んでない僕らが WeChat Pay を有効化して使う方法 (中国大陸の銀行口座不要)」で紹介されているように、友達やホテルの従業員に頼んで残高を自分宛に送ってもらい対面チャージすればアクティベートできます。

気合は求められますが、その価値はあります。

2.乗ってみよう~久しぶりに自転車に乗ろう

街中を歩いていればだいたい見つけることができますが、アプリ上に自転車の場所が表示されます

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乗り終わり、携帯上で決済が終わった場所をGPSで捕捉していると思われます。

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駅前には沢山の自転車があります。実際に行くとこんな感じです。深圳大学駅前、ofoが並んでいます。

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WechatかAlipayでデポジットを支払い、車両の前後のプレートの番号を入力すれば、開錠パスワードがわかるので、開錠し利用開始。利用し終わったら、施錠し、錠前のパスワードを適当に回しておき、アプリ上で費用を支払います。1時間まで1元ですが、週末は無料といった特典期間も頻繁にあるようです。快適で、とても気分も良いですし、毎日1度くらいは利用しています。

3.乗るうえでの注意~残念、その自転車は…

ofoの場合、いくつもの世代が出ているのですが、現状で深圳市内でよく見る世代の場合、自転車側にはいかなる電子機器も搭載されていません。要するに、普通のパスワード錠前付きの自転車に、車両番号プレートがついているだけです。普通の自転車なのに、「スマホと電子決済」を使うとシェアエコノミーができてしまう、というなかなか思いつかない事態が生じています(普通の発想では、自転車にGSPと電子化されたキーロックをつけよう、と考えると思います。Mobikeはこの路線に近いですが、よりコストがかかってしまいます)。したがって、ofoの場合、パスワードを一度発行してもらったものは、その自転車では実はずっと有効、ということになります。この「コストを抑えるために端末は安く」という設計ゆえに、街中でも学内でも、「シェアサイクルの私物化」という現象が散見されます。(よく考えると、以前のメモで紹介したJenesis藤岡さんのIoTビジネスの提案と、ofoがやっていることはかなり親和性があります)

この結果、シェアサイクルを利用する上では、自転車を見つけたときに、①その自転車は、自転車として成立しているかを確認し、さらに②車両プレートを読めるかを確認する必要があります。以下、いくつか見ていきましょう。IMG_20170404_081428.jpg

残念、このofoにはサドルがついていません。他を探しましょう。

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残念、一見乗れそうですが、ペダルがありません。他をあたりましょう。

IMG_20170403_072734.jpg残念、これは一桁目が読めません。試し打ちをしてみても良いですが、異なる車両番号を入力してパスワードが発行されても、1元かかるので避けましょう。

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これも同様です。番号が読めないので、他をあたりましょう。

IMG_20170415_122504.jpg残念、スプレーで塗りつぶされています。このほかにも、車両番号プレートが外されているものや、単純にパンクしているものなどもあります。

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ofoでももう少し電子化されたバージョンもあります。また299元のデポジットを求めるMobike社の自転車には3Gの通信ルーター(現地報道による)が搭載されており、サービス事業者によっても、端末とアプリケーションの機能には一定の幅があります。

以上のように、私物化されているシェアサイクルがとくに学内では散見されます。正直、使いたいときに、いちいち乗れるか、コード読めるかをチェックしなければいけないので、若干面倒でもあります。これはマナーの問題でもあり、また車両端末側の脆弱性に起因しているものでもあります。さらに深圳大学学内に限ってみると、学生数に対してシェアサイクルの台数が足りていないという印象を受けます。利用者側のマナー向上、端末の強化(せめてサドルは外れにくくする、とか)、そして何よりも物量作戦によって解決されるのかもしれません。駒形先生の記事「中国で急成長!利益率50%を誇る激アツ産業「シェアサイクル」とは」によると、主要なサービス提供者は今年100万台ペースでの普及させるということなので、さらに台数が増えることに期待しています。

深圳で利用していてもう一つ感じることは、ofoに代表される「物のシェアリング+電子決済」というモデルが、自転車に限定されていないということです。携帯バッテリーチャージャーのシェアリングもすでに普及しており、レストランのレジの横に置いてあったりします。そしてシェアエコノミーを利用しているのは、いわゆる若者に限定されていません。朝、ofoに乗って工事現場に向かう土建屋さんを見ますし、充電バッテリーを借りる壮年の方も普通にいます。「スマホと電子決済が前提の社会」で、IoT応用サービスの開発と普及が進んでいるのです。「たかが自転車の共有か」と捉えるのではなく、その前提となっている技術的・社会的背景や、それを活用しようとする企業家の存在を視野に入れて、こうしたシェアエコノミーにも注目が必要だし、またその価値があると感じています。

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レストランの受付。左端にある端末がシェアバッテリーの端末です。

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暗くなってしまっているのですが、AlipayかWechatでQRコードを読み、デポジット100元を入れるとバッテリーを引き抜くことができます。

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私の場合、1時間49分利用して、費用は1元。返却するとデポジットから99元が戻ってきました。

 繰り返しになりますが、深圳で生活していて感じることは、ofoに代表される「物のシェアリング+電子決済」というモデルが、自転車に限定されていないということです。そしてシェアエコノミーを利用しているのは、いわゆる若者に限定されていません。朝、ofoに乗って工事現場に向かう土建屋さんを見ますし、充電バッテリーを借りる壮年の方も普通にいます。「スマホと電子決済が前提の社会」で、IoT応用サービスの開発と普及が進んでいるのです。プラットフォームになっているのは圧倒的にスマホと紐づけられたAlipayとWechatで、この先にさらにZhima信用のような個人の信用力を評価する仕組みがあります。たかが自転車の共有か」と捉えるのではなく、その前提となっている技術的・社会的背景や、それを活用しようとする企業家の存在を視野に入れて、こうしたシェアエコノミーにも注目が必要だし、またその価値があると感じています。

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