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深圳在外研究メモ~加速都市・深圳を描く~Field-work notes at Shenzhen, 2017-2018: Drawing “Accelerated City”

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(Tencentの新本社ビル(右), 2017年9月21日夕方筆者撮影. Tencent’s new headquarter at Shenzhen Software Industry Base. Taken by Asei ITO from Rocketspace Shenzhen, September 21st 2017.)

深圳大学にて在外研究中なので、フィールドワークのメモを描きためています。加速都市・深圳の過去と現在、珠江デルタの構造変化を「描い」ていきます。(I’m staying China Center for Special Economic Zone Study, Shenzhen University as a visiting scholar this year, to explore how Shenzhen is emerging as a new innovative city as well as structural changes in Pearl River Delta. Here goes my notes. )

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最近は依頼されて現地で英語でプレゼンという機会も増えています。これはXfactoryにてViolet Suさんの企画で、エジンバラ大学の研究者と学生さんにプレゼンした時の写真です。(Recenly, I often make a presentation on Shenzhen economy and innovation by invitation. This was a small workshop at Xfactory, organized by Violet Su, and audience were form the University of Edinburgh.  Jan 6th, 2018.)

深圳在外研究メモ No.1 深圳大学に到着編

深圳在外研究メモ No.2 ニコ技深圳観察会 (2017年4月)そもそもなぜ「非チャイナスペシャリスト」がツアーを企画でき、なぜそれが大事なのか編

深圳在外研究メモ No.3 ニコ技深圳観察会 (2017年4月)第一日目訪問先感想編~Trouble Maker, HAX, and Jenesis

深圳在外研究メモ No.4 ニコ技深圳観察会SegMaker出張所を開設してみた編

深圳在外研究メモ NO.5 ニコ技深圳観察会 (2017年4月)二日目訪問先感想編~Trouble Maker提携工場, Dobot, Makeblock, and 柴火創客

深圳在外研究メモ NO.6 ニコ技深圳観察会 (2017年4月)三日目訪問先感想編~Ash Cloud, Seeed, Insta360, and Tencent!!!

深圳在外研究メモ NO.7 ニコ技深圳観察会 (2017年4月)を振り返る編

深圳在外研究メモ NO.8 シェアサイクルOFOを使ってみた編~スマホ電子決済前提社会におけるシェアエコノミーの広がり

深圳在外研究メモ NO.9 世界の電子街・華強北のど真ん中でレーザーカッターと3Dプリンターワークショップに参加してみた編

深圳在外研究メモ NO.10 深圳博物館で体感する改革開放編~蛇口爆破、「深圳スピード」の由来、そして圧倒的鄧小平推し

深圳在外研究メモ No.11 深圳市ソフトウェア産業基地(深圳湾)が意識高い編~Tencent新社屋、Stargeek, NAVER, そして総理コーヒー。だいたいいつ行っても何かやってる面白さ

深圳在外研究メモ No.12 深圳で生活していて得られた情報編~青色ダイオード中村修二先生ラボ開設、DJI本社ビル建設、習近平広東指示の学習会

深圳在外研究メモ No.13 深圳大学北側の麻雀嶺工業園区付近を歩く編~元工業団地には ロボットスタートアップ、木工工房、コワーキング、メイカースペースが入居。「工場」からの脱皮を体感できる場所になっていた

深圳在外研究メモ No.14 ドローンスクールに入学してみた編~アプリ学習、Alipay支払い、そして総括は漢詩

深圳在外研究メモ No.15 デザインウィーク見学編~ガラス工場をリノベーション。主会場はプロダクト展。別会場の青葉益輝のポスターを来場者はじっと見ていた

深圳在外研究メモ No.16 3Dプリンター工場見学編~デジタルファブリケーション機器の製造現場はきわめてアナログだった

深圳在外研究メモ No.17 CUHKSZにMary Ann O’Donnelさんのレクチャーを聞きに行く編~「深圳人」をめぐる政治、経済、そして文化的解釈。「本地人は政治的に作られうる」、「本質的には深圳人とは自らを改造した人を指す」

深圳在外研究メモ No.18 アニメイベントで実況中継アプリ花椒の威力を知る編~学生グループが楽しく実況。平均課金額は200円でも、最高課金者は1.4億花椒豆(約2億3千万円)課金

深圳在外研究メモ No.19 海外政府系テックプロジェクトと深圳のつながり編~深圳の、そして中国の新しい経済、新しいエコシステムと自国をつなげようとしているプロジェクトが続々

深圳在外研究メモ No.20 Makeblockの創業者Jasen Wangの視野と初の主催イベントを見た編~深圳の真ん中で子供たちはMakeblockを遊びつくす

深圳在外研究メモ No.21 深圳のなんとなく大事なエリアの風景写真をまとめる編~徐々に成長の極は西側へ

深圳在外研究メモ No.22 深圳でKickstarterのキャンペーン戦略を学ぶ編~「クラウドファンディングとはCommunity-driven fundingである、それ相応の準備が不可欠」

深圳在外研究メモ No.23 深圳国際ドローン展2017に参加する編①~「世界無人機大会」の規模、そして南京航空航天大学の先生の「ドローン×AI」の議論が刺激的だった

深圳在外研究メモ No.24 深圳国際ドローン展2017に参加する編②~展示の特徴は産業用、大型機、固定翼、そしてアンチドローンシステム等々。非空撮市場をめぐる競争へ。

深圳在外研究メモ No.25 ローカル系レーザーカッター工場を訪問する編~東莞市の雷宇激光を訪問、メイカースペースを支える現場を見た

深圳在外研究メモ No.26 メイカースペースSegmakerでイベントを開催してみた編~ドローンミートアップと深圳観察会ワークショップ

深圳在外研究メモ No.27 メイカーフェア西安とBilibili World 2017に参加してみた編

深圳在外研究メモ No.28 番外編~バンコク出張で感じたこと

深圳在外研究メモ No.29 深圳華強北SEGMAKER来訪者向けの資料を解説する編~新世代ベンチャー企業のエコシステム、そして新しい深圳とどうつながるか

深圳在外研究メモ No.30 沿海部の東北支援策が動き出した編~深圳は哈爾浜と協力、何かが起きるのだろうか?

深圳在外研究メモ No.31 深圳テクノセンター訪問編~来料加工制度は終了へ、中国国内需要の開拓と難加工への挑戦

深圳在外研究メモ No.32 深圳イノベーション·アントレプレナーシップ・ウィーク2017編~テーマは「深圳と創造しよう」

深圳在外研究メモ No.33 深圳のゲノム・ジャイアントBGI傘下の国家基因庫(China National GeneBank)訪問編~研究院の執行副院長は30才、まるで大学の雰囲気

深圳在外研究メモ No.34 深圳開催のWTOグローバルバリューチェーンコンファレンス2017に参加してみた編~サプライチェーンにDigitalizationとChina Effectを入れたらどうなるのか?

深圳在外研究メモ No.35 深圳エレクトロニクス産業と自動車産業はどうつながるか編~スマートバックミラーから曲面ダッシュボード、そしてBYTONによれば車はスマートデバイスへ

深圳在外研究メモ No.36 南山ソフトウェア産業基地のRocketspaceでVRとAIベンチャーに出会う編~「深圳市南山区的なスタートアップ」とはたぶんこんな感じ

深圳在外研究メモ No.37 深圳大学で深圳経済についてプレゼンしてみた編~ゲリラ産業と城中村は深圳にもう不要なのか?

深圳在外研究メモ No.38 Maker Faire Shenzhen 2017に参加編~日本から多くのプロジェクトが参加、そしてMaker Education でも深圳は拠点になるのか?

深圳在外研究メモ No.39 11月後半はイベント尽くし編~Maker Faire派生イベント、David Liとお茶、Hightech-Faire, Huawei訪問…

深圳在外研究メモ No.40 番外編~ワシントン・カーネギー国際平和基金に出張

深圳在外研究メモ No.41 メイカースペースSEGMAKER入居メンバーにじっくり話を聞いてみた編~画像認識スタートアップ易視智瞳科技の場合

深圳在外研究メモ No.42 深圳湾ソフトウェアパークで感じる「社会実装先進都市」としての深圳~日々新しいサービスに囲まれて仕事をしていることが何かを意味するのかも…

深圳在外研究メモ No.43 電子製品製造受託のJENESISでインターンしてみた編~緊張感がないと日本市場向けのモノは作れない

深圳在外研究メモ No.44 2017年大晦日編 ~手前みそだけどメディアカバレッジをまとめておく

深圳在外研究メモ No.45 深圳建築ビエンナーレで城中村・南頭古城を訪問編 ~「共生する都市」、開発業者、タオバオ村の未来図

深圳在外研究メモ No.46 TEDx珠江新城で大湾区(ビッグベイ)の個性的なストーリーを聞いた編 ~シャンザイ王、名創優品(メイソー)、広州富力…

深圳在外研究メモ No.46 TEDx珠江新城で大湾区(ビッグベイ)の個性的なストーリーを聞いた編 ~シャンザイ王、名創優品(メイソー)、広州富力…

2018114日、広州市のグランドハイアットホテルで開催されたTEDx珠江新城に高須正和さん(ニコ技深圳観察会/スイッチサイエンス)と一緒に参加しました。

公式サイトはこちら

テーマは「湾区製造 City Future City Now」。英語に直訳するとMade in Bay Areaになるはずです。広東省の中核地域はこれまで珠江デルタと呼ばれてきましたが、昨年来、「大湾区」という構想が胎動しています。サンフランシスコ・ベイエリア、東京ベイエリアに匹敵する経済都市、とくにイノベーション活動を内包する都市圏をつくる構想で、中央政府も同構想を認可しています。中山大学の友人から何年か前から「東京ベイエリアについて教えてほしい」という話があったので、数年前から構想があった計画のはずです。TEDxもこの政策的トレンドにそったテーマ設定をしているように見せていますが、中身は相当オリジナルな話ばかりでした

自分はTEDx初参加だったのですが、高須さんは「エンターテイメントとしてのTED」という記事も過去に書いているくらいTEDに詳しかったので、色々教えてもらいながら参加しました。

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ポスターの中でも圧倒的な存在感を放つ「中国山寨王(中国コピー王)」のロビン。

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1.会場の外にも展示~Mobike, NIO, スマートゴルフ練習場…

TEDxのイベントに参加するのは初めてだったので、比較できないのですが、まず会場の外の展示もキャラが濃かったです。Mobikeが、これまた城中村の駐車ステーションプロジェクトを、そしてEVベンチャーのNIOが実車をホテル1階に展示していました。あとはいつつぶれるかわからないけど、クラブにしか見えないスマートゴルフ練習場とかもありました。

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2.登壇者の話も面白かった、特にシャンザイ王とメイソウ

 登壇者と話の概略は次の通りでした。

1)婷(刺繍職人。広東語でプレゼン)

 広州の「戏服」という京劇(正確には広東では粤剧という)用の刺繍衣装を、1990年代生まれの登壇者が作り、それをさらに若者に広めていったという話。アニメフェスにいって、普通のコスプレをしている若者から「え~この刺繍すごーい」と言われたというあたりの話が面白かったです。1000人に見てもらったら、ひとりくらい本当に興味を持ってくれて、伝統的刺繍を学んでくれるようになったとのこと。

 

2)梁玉成(広州アフリカ村研究者、中山大学)

 広州にあるアフリカ人集住地区(小北)の研究者である梁先生。データから、白人に対して寛容なひとは、黒人に対しても寛容なこと、そして経済発展にともなって海外から移民が来るようになることを提示。そのうえで、「我々は先進国になったにも関わらず、途上国のメンタリティのままだ。ビッグベイエリアがニューヨークのような活力のある地域になるためには、移民を受け入れるようにならねばならない」、と強い言葉で訴えていたのが印象的でした。

実証研究を引用して、一人当たりGDPが2万ドルを超えると、地域から出ていく人よりも、中に入ってくる移民が増えることを紹介。広州はすでにこの段階を超えている、と指摘して、聴衆に移民がくるのは不可避だと提示。

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結論的なスライド、「先進国の特性と途上国の国民メンタリティを調整するのが急務」。

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3)(駐車場・シェアリングサービス)

 中国ではシェアリングビジネスが盛んだが、シェアサイクルも新たな自転車を大量に撒き、同時に大量の浪費ももたらしていると指摘。「本物のシェアリングサービスは既存のストック資産を有効活用することになる」、貴重な資産であるにもかかわらず十分にマッチングされていない駐車場のシェアリングプラットフォームを開発し、運用した実績を話していました。大きなビルの運営会社は、収入の増加になりえるので、データを示せば徐々に説得ができたそうです。

 特に面白かったのは、サービスを展開する上で、駐車場の入り口にいる「保安大」、ようするに保安員が、パーキングしたい自動車からリベートをもらえなくなるために抵抗した、という話でした。どう解消したかというと、自動車をこのサービスに誘導したら、QRコードで把握して、1台を誘導する度に5元をボーナスとして提供するというもの。ある保安員は一か月に8000元を稼いだそう。 

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4)彬(シャンザイ王。Meegoo PadCTO

 シャンザイ王(コピー製品王)・ロビンの登場。すでに前にこのメモで書いたことに近い内容でしたが、「シャンザイ王って呼ばれ、正直、嫌だなと思う気持ちがあった。最初は海外のメディアにいわれたんだ。でも彼らが見つけた、アイパッドのシャンジャイ(コピー製品)は、ぶっちゃけ自分が作ってきたジャンザイ製品のうちの一つに過ぎないんだよ。シャンザイは一つのスピリットだ。草の根で奮闘するということを示していて、日本だって、韓国だって、コピーして発展してきた。発展するためには必要な段階なのだ。でも単純な製造で食っていける時代は終わった。エンジニアをUberのようにマッチングするようなことも始めたし、それから海外のメイカーをサポートすることも始めている。アフリカにも行って、製造をし始めている。一帯一路という「対外投資ボーナス」があるこのタイミングで、外にでて、民族産業を発展させなければならない」という、ならではのストーリーを話していました。

 当然、会場も一番の盛り上がりになって、プレゼンが終わったときには歓声があがっていました。 

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ロビンと高須さんとの写真。Ideas worth spreadingで#中国山寨王#って、もうパワーワード過ぎて何も言えません。

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5)成金名創優品、ブランディングマネージャー)

 これがまた濃かったです。メイソウ、知る人はすでに知っている、なんというかユニクロのような店舗デザインなんだけど、ポップな日用品を開発製造している名創のブランディングマネージャーによるトーク。ロケットニュース曰く「名前がダイソーのもじりに見え、ロゴはユニクロのよう、品揃えは無印良品を彷彿」。

 プレゼンによると、すでに全世界60か国に展開し、今では売上は120億元に達しているそう…。その背景には、当然成功の要因がある。彼女が最も強調したのは、研究開発部隊が300人いて、デザインとしては「日本式+北欧式」の融合、そして製造の面では中国のサプライチェーンをダイレクトにコントロールすることでコストダウンする、と言う話でした。

設計理念は「日本式美学+北欧風」。「シンプルで、自然で、生活の本質に帰る」設計とのこと。

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うまく取れていないのですが、日本設計チーム、韓国設計チーム、北欧設計チーム、そして中国設計チームの合計300人で、1億元(17億円)を投入して設計開発しているそうです。

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曰く、「80%の企業は販売ルートのことを考えている。でも成功の要因は製品の開発にある。広告費なんて基本的にゼロだ。製品が良くて、有名なショッピングモールに入っていれば、自然に人の目に触れるし、消費者は良いものは良いものだとわかる」。 

 

スライド。60か国に進出、グローバル2600店舗、毎月80-100店舗増、2017年の売り上げ120億元(2040億円)。あとで話しかけて聞いたら、グローバルで従業員数が店舗こみで3万人、本社に3000人いるとのこと。このあたりのデータ、とくに売り上げはさすがに盛っているような気もするのですが、公式HPにも同等のデータが掲載されていますね。どうなんでしょうか…。

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設計開発にずいぶん時間をかけて作り上げたと紹介されていた水ボトル。これは買って飲んでみたい。

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コストカットの事例を紹介したスライド。それほど特別なことを言っているわけではなく、買い付け量を確保することで買い付け価格を抑え、そして中間ディーラーをカットする。他社では29元のものが、10元で提供できる。

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(ちょうどメイソウのモバイルバッテリーを持っていたので、登壇者の成ブランディングマネージャーに声をかけて連絡先を交換しました)

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6)伟聪(新材料開発者)

  すいません、たぶんすごい話だったと思うのですが、寝てしまいました。

7)LED関連材料の開発者およびサプライチェーンマネージャー)

 LEDのバリューチェーンの改善の話。  

8)王存川(外科医、肥満対策の手術を中国で一番実施)

中国の肥満患者向けの外科医によるトーク。もちろん面白かった。

9)黄盛(広州・富力サッカーチーム 、副総裁。広東語。)

  広州の有力サッカーチーム、富力の幹部。いかに人材を中で育てているか、そしてファンとのコミュニケーションを大事にしているか、を語っていました。足が不自由な子供ファンのためにバリアフリーの設備を導入した話はとてもいい話でした。

 

3.個性的で、なおかつグローカルなストーリー

正直、シャンザイ王やメイソウのブランドマネージャーのプレゼンが聞けるイベントはなかなか無いので、興奮しながら一日過ごしました。この大湾区には、それこそイノベーションならTENCENTでもHUAWEIでもいくらでも有名企業があるなかで、「あえてシャンザイ王とメイソウを選ぶ」キュレーターの嗅覚はなかなかチャレンジングだと思います。メイソウもユニクロやダイソーのシャンザイだと呼ばれてきたわけで、「シャンザイ王ロビン→メイソウ・ブランディングマネージャー」という流れは強烈でした。

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しかしこういった企業家がいることは事実だし、また大湾区から生まれて来た草の根のビジネスの姿を伝えています。また、メイソウの製品はモバイルバッテリーですら、品質が信頼でき、なりふり構わない量的な成長だけではない、品質管理や設計開発の面での脱皮が内在していることは否定できないと思います。そしてシャンザイ王ロビンは製品を輸出するだけでなく、エチオピアに工場を建て、メイソウは60か国に進出。「大湾区」という地域から国外に打って出ているわけです。

たしかに、この地域でよく開催される展示会やベンチャーイベントでは、「有力企業のプレゼン」を聞くことはできるのですが、基本的にはそれは企業の宣伝です。それに対してシャンザイ王ロビンのプレゼンタイトルが、「中国はシャンザイから何を学んだか」だったことに現れているように、より広い論点に言及していたのが、個性的でした。

話者の選択も、バラエティに富んでいて、大湾区で起きつつあるちょっといい話をざっと聞けたので、行く価値があったイベントだったと思います。TEDというと、かっこいいプレゼンをする場所というイメージが先行していたのですが、実際に参加してみるとまた新たな発見があるものです。東京大学でもTEDxをやっているので、次回はぜひ見に行ってみようと思います。

深圳在外研究メモ No.45 深圳建築ビエンナーレで城中村・南頭古城を訪問編 ~「共生する都市」、開発業者、タオバオ村の未来図

2017年12月15日から2018年3月15日の会期で、深圳建築ビエンナーレが開催されています。テーマは「城市共生」(Cities Grow in Difference)、訳すとすれば「共生する都市」でしょうか。

正式名称は「2017 深港城市/建築双城双年展(深圳)」2017 Bi-City Shenzhen Biennale of Urbanism / Architecture (Shenzhen)です。すでに7回目の開催で、日本語でも調べると過去の見学レポートが見られます。

2008年のレポート(第1回):月刊旧建築trystero.exblog.jp

2009年のレポート:アジアと建築ビエンナーレを考える五十嵐太郎(東北大学教授/建築史、建築批評)

2014年のレポート:AXIS 深圳 都市と建築のビエンナーレ

いずれも建築関係の専門家によるレポートで、自分は全く建築はわからないですし、そもそもビエンナーレが「2年に1回開かれる美術展覧会のこと」ということすら知りませんでした。建築は門外漢ですが、Learning from Shenzhenを編集しているMaryさんのワークショップに参加するために現地に二度足を運び、中国研究している人間から見て、非常に面白かったので、つらつらとメモしておきます。

 

1.会場が歴史もある「城中村(Urban Village)」

会場は南山区の南頭古城。SNS大手のテンセントの現状の本社ビルから西に20分くらい歩いたところです。歴史的には晋の時代にまでさかのぼれる城壁のある小さな街です。下の写真は南頭古鎮の南側城門です。

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深圳市では1970年代末の改革開放以降に経済特区に指定されて急激に移民人口が増えました。深圳にかぎらず、1980年から1990年をピークとして、移民たちは都市の周辺部に自らの生活を成り立たせるための集住地区を作りました。北京には「新疆村」や「浙江村」といった特定地域から出稼ぎ移民が集住した「村」が生まれたことが知られています。

実は私の卒業論文は北京の浙江村を題材としたものでした。参考文献としたのは中国の社会科学院の王春光先生の本で、北京の天安門広場から南にいったところにある大紅門エリア(浙江村)になぜ温州人が集まり、そしてどのような生業で暮らしているのかを資料と現地訪問から調べた、というようなものでした。正直当時は中国語がろくにできなかったこともあり、フィールドワークといっても、街を歩くくらいでした。浙江村の場合には浙江省の温州市という商業精神の強い地域の人が、お互いに集まり、ときに北京市の強制的な「整理整頓」に遭いながらも、アパレル産業を発展させ、一時期は北京でも有数のアパレル製品の生産流通拠点を作り上げていました。

中国の都市化のなかで生まれた、立地としては都市にあるけれども、なかの住民の大多数は田舎から出てきて、農村戸籍を持ち、人的ネットワークもいわゆる都市とは異なる空間。都市の中の「村」が「城中村」です。

 

2.なぜ「城中村」でビエンナーレなのか?

ではなぜ建築ビエンナーレが「城中村」で開催されているのでしょうか?公式HPには中国語と英語でその狙いがずいぶん書かれているのですが、多少飛ばしながら訳すると以下のようなことが書かれています。

今回の深圳ビエンナーレは「共生する都市」を主題としています。「共生する都市」という問題を提起しているのは、単に今の世界や中国の都市化の現実を批判的に解読するのではなく、同時に一種の異なる未来都市の景色を提起するという試みでもあります。

我々がいま生活しているのは、危機に直面し、そして不確実性に満ちた世界です。経済発展の不均衡、文化の衝突、価値の行き違い、矛盾の叢生。当時にグローバリズム、消費主義、メディアの覇権は既存の秩序と生活を不断に再構築しています。

中国を振り返ると、現代の都市化の進展は権力と資本の間で30年余りの高度発展を遂げました。もともと存在したソビエトロシア式の現代主義と市場に主導された徹底的功利主義の二重モデルの駆動のもとで、我々の生活する都市は例外なく単一のものへと変化していきました

中国の一線都市(注:北京、上海、広州、深圳を指す)、それから二線、三線都市でも、さらには郷鎮でもますますその傾向は明らかです。生活品質を高める「都市の更新」は往々にして、これまで蓄層されてきた豊富な歴史的街区や多様で雑柔な都市生活を清掃し、グローバル化と商業化の標準的配置に置き換えました。都市の紳士化は、光沢ある表面のしたで社会的分化、そして生活の味に欠ける都市の病状を作り出しました。

このような現実の直面し、我々は一種の多元的な「共生」の都市モデルを呼び越したい。

我々は自覚的に、単一で理想化された未来図に反抗すべきだと考えます。なぜならば、都市そのものとは、高度に複雑な生態系であるからです。今日の都市は、多元的な価値体系の均衡の結果であるべきだし、人々が身を寄せる世界であるべきだし、心の中にある異なる夢の高度な異質性と差異化の文明的共同体であるべきです。都市は本来、あらゆるものを包容し、和して同じないものであるべきです。都市の生存と繁栄は最大限の「差異性」、「異類」、「他者」の包容と文化的理解に基づくはずです。

我々は”Cities, Grow in Difference”、(「都市は、異なるから生まれる」)の中国語訳を「城市共生」として、都市の中の複雑な文化、社会、空間と日常生活の多層的な共生を強調します。都市とは多重な身分と視角の重なりであります。「混雑と共生」をもって、我々は都市概念の多元、差異、攪拌、そして抵抗へ向かうべきだと強調します。

(省略)

クリエイティビティと想像力は、都市の中で不断に新たな居場所を探します。今回、彼らは展覧会の主会場に来ました。「南頭古城」です。南頭古城の管轄区域は晋の時代から今日の香港、マカオ、東莞、珠海などの広大な地域を含みました。1840年のアヘン戦争以降、香港は新安県から切り離されました。100年の間、この古城は不断に消滅し、そのかわりにまわりの村が膨張しました。深圳の都市化の加速に伴って、最終的には都市が村を包囲し、そして村がまた古城を包含するという、都市と村の入れ子構造になりました。古城は時に隠れ、時に現れるという複雑な構造、つまり「城の中に村があり、村の中に城がある」という状況をつくりました。

南頭古城は現代の「城中村(アーバンレッジ)」と歴史的な古城の高度な融合であり、1700年の歴史を持つ遺跡でもあり、なおかつ都市化のなかで自発性と異類性を持つ現代的空間でもあります。ビエンナーレの主会場として、このまちの全貌は、近代から足元の都市と村の変化を示す豊富な空間的サンプルです。

中国と西洋の共生、古今の共栄。

全世界で唯一の「都市と建築」を主題とし、都市と都市化の使命に注目してきたビエンナーレとして、本展示はいまの中国の一人一人が注目する幸福と災い(注:原文で「休戚」、うまく訳せない…)に関わる都市を議題にします。

世界の他のビエンナーレと異なるのは、会場で展示するのみならず、同時に20世紀と21世紀で最も激烈な都市化が進んだ現場に身を置くことにあります。深圳から珠江デルタへ、都市そのものが最大の展示会場であり、同時に事件の発生現場です。ビエンナーレは最も緊迫した都市問題の交流のプラットフォームであり、同時に都市建築と日常生活の実質的な改善の実験場でもあります。

城中村は現代都市の一モデルとして、特殊なやりかたで都市の長期的な変化が未完成であることを体現しています。それは外部からの圧迫の中で自発的かつ持続的に変化してきました。自己増殖と自己の更新は城中村の本領でしょう。

城中村は深圳都市化が内に向かって深掘りする最新のフロンティアであり、また同時に都市の均衡発展の最後のボトムラインです。経済特区都市として、深圳はまさに「ポスト城中村」の時代を迎え、二度にわたる都市化の波を経験し、高まる空間密度は城中村の生存と未来を拷問にかけています。ビエンナーレの介入は、まさに時を得たものです。

加速発展する都市化のなかで、都市は上から下へ(注:トップダウンの)の都市計画もあれば、下から上への(注:ボトムアップの)自発的推進力もあり、「城中村」はまさにこの二種の力の間にあります。「城中村」は、また中国の市場経済のもとでの高速都市化と、計画経済の衝突による矛盾の産物であり、もっかでは自発的に爆発な成長を遂げる都市への新移民の「入り口の都市」となっています。

城中村の面積は、深圳の総面積の六分の一で、2000万人をこえる人口のうちの約900万人がそこに住んでいます。つまり16.7%の空間が、深圳の人口45%を受け入れているのです。

(省略)

我々はこの展示のあとで、深圳城中村の発展のために豊富な記録を残し、また都市問題の議論をより広い範囲に導きたいと考えています。城中村という特殊な空間を起点として、今日の都市を顧みて、未来都市のプランを議論したいと思います。城中村は「共生する都市」の起点にすぎません。合法的で、周辺化された、そして表現されることのない空間と社会的グループを展示するすること、この展示とこれからの都市改造の試みを通して、共存と共生を試します。「2017 深港城市/建築双城双年展(深圳)」は、一つの展覧会であるだけでなく、同時に一つの介入計画であり、また一つの都市づくりの行為でもあるのです

ビエンナーレキュレーター:

侯瀚如、刘晓都、孟岩

 

3.メイン会場の風景

入り口にはこのような看板。

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歩き進むと、城壁の中に住宅が密集しています。

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広場が作られていて、子供たちが遊んでいます。

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Maryさんのワークショップ。

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デザイナーが住み込んでリノベーションし、デザインハウスを作っていました。

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下の写真がメイン会場。元工場だったと思われる建物を利用。

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中国の城中村、そして出稼ぎに関する写真展。展示枚数は少なめでしたが、印象的なものが多かったです。

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深圳市白石洲と思われる写真。これも城中村として有名な地区です。

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4.インテリ/デザイナー、住民、開発業者

ここを見に行くのは実は2回目だったのですが、英語でのワークショップをやっていると、近所の子供が遊びにきたり、また現地の保安関係者が見て、好奇と景観の眼でインテリたちが英語で討論しているのを見るという風景をたびたび目にしました。

住民と、来場者の間には明らかな壁があります。それ自体を体感させているともいえるのですが、案内してくれた方が「このような城中村のなかでの展示がされることに対して、反感をもつ住民もいる」ということでした。確かに、自分が住んでいる街が展示会会場になり、その生活空間に多くの外部の人がくることを嫌がる気持ちはありえることでしょう。城中村の生活空間に、とってつけたようなアートやデザインハウスを作ることにも、個人的には若干の違和感を感じたことも事実です。しかし「このイベント無かったら、お前はここに足を踏み入れもしなかったではないか」と言われると、返す言葉がありません。結局は、自分も含めて、きれいな、あるいはファッショナブルなデコレーションをされたりして、初めて行こうかな、と思う、それが一つの現実です。

さらに問題を複雑にさせるのは、この展示会のスペシャルサポーターが「深業集団」という深圳市が100%出資するディベロッパーで、この地区の再開発を手掛けている業者であるということです。現地で聞いたのは、深業集団はこのビエンナーレのあとには、この地域の立地の良さを生かして、より若い人たちが住む場所にしたいということでした。ある意味当然ではあるのですが、テンセントやハイテク企業で働く人が住みたいと思う街にすることで不動産価値を高める、という思惑がここにはありそうです。

単一的な都市開発に批判的であろうとする展示会すらも都市開発に利用されかねない生々しい現実があります。それとも単なるディベロッパー主導とは異なる開発がここから胎動するのでしょうか。深圳の有力ディベロッパーVanke(万科)集団も城中村の改造に着手しており、城中村の「昇級改造」を通じて深圳に新たにくる若者の住居を確保しようとする方向性が見えています。深圳市内の城中村の雰囲気がこの展示会以降、大きく変わっていくのかもしれません。

城中村と開発、都市の成長と都市の記憶をめぐる、問題そのものを突き付けてくる展示と街がここにあります。この意味でこのビエンナーレは一つの衝撃を与えうるものです

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(英語での路上ワークショップの光景を、住民は後ろから写真を撮るくらいの好奇あるいは警戒の目で見ていました)

 

5.衝撃を受けた「タオバオ村」が極限まで進化した姿を示したアート

個人的に一番衝撃を受けたのは、オーストラリアの建築家であるLiam YoungによるNew Cityという映像作品です。

壁一面にプロジェクターで投影されていたものです。

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中国の農村の風景ですが、レールが敷かれており、段ボールが高速で動いています。

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作品右をよく見ると「農村淘宝 いるものはなんでもある」と書いてあります。そう、この作品は、Eコマースの農村タオバオが極限まで進化した未来をデフォルメして描いています。

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作品左にも、中国タオバオ村 ○○村(よく読めない)と書いてあります。山肌は段ボールによって埋め尽くされています。

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高速で動くベルトコンベアー。そしてBGMには若干不気味な音楽が流れています。

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更に不気味なのは作品をよく見ると、屋根がかかっていることです。巨大な倉庫のような空間を思わせます。

 

Liam Young氏はDistopia系の作品をずいぶん作っているようで、このシリーズの中国版だったようです。

 

その他参考資料

http://www.sznews.com/news/content/2017-12/22/content_18080008.htm

http://www.oeeee.com/html/201712/18/525272.html

http://money.163.com/17/1223/10/D6B87UK2002580S6.html

http://money.163.com/18/0104/05/D79JNT6A002580S6.html#from=keyscan

http://news.sina.com.cn/c/2018-01-09/doc-ifyqiwuw8382912.shtml

http://money.163.com/18/0106/09/D7F7C0EC002580S6.html

http://news.sz.fang.com/open/27494919.html

深圳在外研究メモ No.44 2017年大晦日編 ~手前みそだけどメディアカバレッジをまとめておく

深圳在外研究中のメディアカバレッジをまとめておきます。

1.自分で書いた記事

割と研究よりの成果は置いておいて、メディアにおける言及としては下記のようなものがありました。2018年1-2月に掲載されるものも含めて書いておきます。

1)『日本経済新聞』2017720日付朝刊 経済教室「中国「一帯一路」どう見る()アジア投資銀通じ関与を 個別事業は進展に濃淡も」(https://www.nikkei.com/article/DGKKZO18998440Z10C17A7KE8000/)

この記事は、はっきり言えば、AIIBを通じて制度的に「一帯一路」に関与するのがいいのでないか、という趣旨で書きました。より本質的には、日本自らが、方針をたてて「一帯一路」に対応することが望ましいという論旨です。

結果的には、2017年後半以降、日本政府は「一帯一路」に対して協力的な対応を取り始めたので、この意味では提言と近い展開ですが、同時に、その内容としては特定領域での協力と言うことになっているので、内容とは異なる点もあるのも事実です。

(中国『参考消息』2017721日に中国語版要約が掲載、http://column.cankaoxiaoxi.com/2017/0721/2205315.shtml)

中国語に翻訳されていますが、部分訳です。やっぱり選択的に翻訳されますね。

 

2)『聯合早報(シンガポール)』20171016日「如何与一帯一路相処」(http://www.zaobao.com.sg/forum/views/opinion/story20171016-803271)

上記記事の要旨と、シンガポールのリーシェンロンさんの講演などに触れた内容です。

 

3)『ドローンジャーナル』201767日記事「加速都市・深圳から見るドローンの未来」(https://www.watch.impress.co.jp/headline/docs/extra/drone/1063832.html

深圳で目撃したドローン開発業者の動向を書いてみました。

 

4)『ドローンジャーナル』20171124日記事「中国発の水中ドローンベンチャーが続々登場~「水中のDJI」は現れるのか?」(https://www.watch.impress.co.jp/headline/docs/extra/drone/1092800.html

色々なベンチャーを回る中で見つけた、「水中ドローン」のベンチャーについて書きました。いわゆる深海探査をするようなROVとは異なり、ドローンベンチャーの延長線上にある業界の誕生、とくに中国のベンチャーの動向としては日本語では初めてのレポートだったと思います。

5)『文春オンライン』2018年1月1日記事「中国の新しい経済地図 動き出した「デジタル一帯一路」」

http://bunshun.jp/articles/-/5608

なぜか文春さんから「新しい地図」なるテーマでお声がけいただいたので、中国が描こうとする世界地図と、中国で塗り替わる国内地図という観点でちょっと書いてみました。

 

 

2.インタビューによるコメント掲載などの報道

1)『朝日新聞』2017118日朝刊「耕論 中国の夢と足元」(https://www.asahi.com/articles/DA3S13218100.html)。

一九大党大会のタイミングで受けたインタビュー記事です。私は中国のイノベーションの動向について答えています。

 

 

2)『朝日新聞 Globe』201712月3日記事「[Part2]世界最先端の都市を見たければ、深圳だ」

(http://globe.asahi.com/feature/article/2017112800007.html?page=2)

インタビューを受けて一言掲載されています。

 

)『Wedge』20181月号

メールと現地で取材を受けましたので、なにか一言でるらしいです。

 

4)『日本経済新聞』2018年1月5日「米中ITの「二都物語」 本社コメンテーター 中山淳史  」

https://www.nikkei.com/article/DGXMZO25318780U8A100C1TCR000/

一言掲載されています。ちょっと内容的に違和感があるところもあります(ユニコーン企業の数は北京のほうが圧倒的に多い)。

 

NHK20171018日「クローズアップ現代+ シリーズ 習近平の中国② 加速する“創新(イノベーション)”経済」にてコメント(https://www.nhk.or.jp/gendai/articles/4048/index.html)

コワーキングスペースSEGMAKERにてインタビューを受けた部分がコメントに使われています。

 

NHK20171026日、おはよう日本「“習一強”中国の経済戦略 カギはイノベーション」にてコメント。

ドローンパイロットがどの程度ニューエコノミーとして意味を持っているかについてコメントをしています。

 

)新華社通信20171126日記事「善学者!感受全球野下的深圳奇迹」にコメント掲載。(http://xhpfmapi.zhongguowangshi.com/share/index.html?docid=2611829&from=timeline&isappinstalled=0)

深圳のメイカースペースSEGMAKERにいたときに、たまたま新華社の記者さんが来て、インタビューを受けたときの記事です。この記者さんは実は演劇の台本まで書いている知識人で、別途お茶をした時にはずいぶん色んな話ができて勉強になりました。

 (加筆予定)

深圳在外研究メモ No.43 電子製品製造受託のJENESISでインターンしてみた編~緊張感がないと日本市場向けのモノは作れない

 201712252627,日,29日の4日間、日本向け電子製品の製造受託をしているJENESISの工場でインターンをする機会を得ました。生産ラインに入れていただき、限られた時間ではありましたが、現場の雰囲気と作業を体験できました。JENESISの藤岡さんには深くお礼を申し上げます。一緒に体験した茂田さん、美谷さん、Minakoさんにも感謝です。別日程にて体験された高須さんの記事(おそらく年明けに公開、そしたらリンクします)も面白い観点でまとめられているので、そちらもチェックしてほしいと思います。

追記:藤岡さんは、ご著書『ハードウェアのシリコンバレー深圳に学ぶ』に創業からの経緯を詳しく書かれています。ぜひご一読をお薦めします。

 以下ではJENESISインターンの体験記をメモとして残しておきたいと思います。

 

まずは朝礼から

 朝、作業場に入る前の更衣室(靴を履き替え、作業着を羽織る)までは、生産ラインの作業員たち(全員女性)はそこそこしゃべりながら待機している。しかし始業時間を告げる音楽(「エリーゼのために」)が鳴ると、静まり返り、生産ラインにつながるドアが開く。これ以降は作業員による無駄な私語は禁止のようだ。生産ラインの人数は、インターン3人を除いて2829名だ。

 まず朝礼が行われる。短くて3分、長ければ15分くらいだ。朝の体操はない。生産ラインの組長、そして一番上の劉経理が順番に話をする。話をする内容は基本的には3点程度。まず品質管理上の注意が行われる。特に日本輸出製品のため、いかに不良コストがかかってしまうかが連日指摘される。次に、当日の作業の内容がその場で通知される。「今日の生産は○○だ(ロボット名)。モジュールを組み立てる」とか、「今日は739(タブレット型PCの型番)をやる」とか「HA-002を作る」などと指示される。その場になるまで、作業者はその日に何をするか、わからない。また、ある工程の作業が終了した後、次に何をするかもおそらくトップの2人が管理しており、個別の作業員はその場その場で対応してゆく。

 朝礼での品質管理の注意は、例えば、「○○○(コミュニケーションロボットの名前)では、3つの検査が必須だ。まずは「自検」、だ。これは作業したら、自分自身でその作業が問題なく遂行されたか検査することだ。次に「互検」だ。これは生産ラインの次の工程(中国語で工位)の人が、前の人の作業をチェックする。そして最後に「専検」。これはラインとは別に専門の検査員が検査する。これを徹底する。」などだ。この言葉の意味を自分たちは後で垣間見ることになる。あるいは「色々皆には教えているが、わからなかったらわからないと言ってくれ。わかったといって、間違えられるのが一番困る」など、だいたい前日に発生した状況をもとに注意がされる。

 

過度の集中でも、注意散漫でもないライン

 生産ラインのうえでは、実際には小声での会話がたまにされるが、基本的に、彼女たちは黙々と作業を進める。過度に集中しているようでもないが、注意散漫でもない。生産ラインは二部屋だが、主に手前の一部屋で生産作業が進み、奥の部屋は包装用に使われている。ライン組長と経理が頻繁に巡回しながら、工程のチェック、次の工程の準備、部品納入状況のチェック、作業員の出勤状況の管理、試作された製品の問題点のチェックなどを忙しくこなしている。

 私が体験した工程は当然、かなり簡単な作業であったが、通常の作業員は次のような工程をこなしていた。61ラインでコミュニケーションロボットモジュールの組み立て、41ラインでコミュニケーションロボット・ディスプレイのはんだづけ、10名1ラインでタブレットの組み立て、などだ。当該作業が終わると速やかに段取り替えが行われる。段取り替えを仕切るのはトップの二人。基本的にこの2人がラインの作業者に対して仕事を割り付けており、ほぼすべての工程を把握していると思われる。当然、どのやり方がOKで、どのやり方がNGかを知っているわけだが、どう作業するとうまくいくかのコツ(例えば「フィルムを張る時に、中指で製品の真ん中に貼るといいぞ」)まで知っていて教えてくれる。

 

ケーブルがクリスマスツリーに見えてくる

 特に長時間した作業は、ロボット内部の各種ケーブルの所定の箇所に、油性マジックで線を引いてマーキングする作業だ。正直なぜこの作業が必要なのかはその時点でわからなかった。ただ、完成ロボット内部は相当な数のケーブルで接続されており、このマーキングがないと、組み立ての際に困るのだろうと思った。いろんなケーブルがあるわけだが、あるケーブルは、白、赤、黒、緑、という色の4本が接合しているもので、これと半日くらい格闘していると、だんだん「クリスマスツリー」に見えてきたり、アラブ首長国連邦の国旗に見えてきたりして、なかなか面白い体験をした。振り返ってみると、ケーブルのなかに明らかな不良というは一本もなかった。

 

10分間の休憩はあっという間、「エリーゼのために」で仕事モードへ

 作業時間の終了を告げるベルが鳴ると、彼女たちは13秒程度で作業をやめる。通常の休憩時間は10分。一気に30名が部屋をでると更衣室が混雑するので、2組に分かれて、1組目が完全にでたら、二組目が更衣室にはいる。更衣室出口には、金属探知機をもった作業員がおり、部品などの流出がないかをチェックしている。トイレに行って、水筒のお茶を飲んだら34分は経過しているので、一息つくのは6分程度だろう。ちょっとスマホをいじってみたり、椅子に座って、少ししゃべったりして、静かに休む。休憩時間の89分目には基本的には更衣室に戻り、作業開始時間をつげる「エリーゼのために」が鳴るのを待つ。「エリーゼのために」が流れ始めると途端に彼女たちは仕事モードに入るのだ。

 

待ちに待った昼食。スープがうまい。しかし彼女たちは相当な早食いだ

 昼食休憩は60分。彼女たちがご飯を食べるスピードははやく、12:30から休憩が始まると、12:45には食べ終わる。12:50には食べているのは自分たちだけ、のような状況になる。列に僕らが先にならんで、食べ始めて、後ろの女の子たちが先に食べ終わる。13:28くらいには、生産ラインの一つ手前の靴箱がある更衣室に戻って待機するため、43分ほどは自由に過ごせる。比較的多いと思われるのは、食堂のわきにある、ソファーに座り、すこしおしゃべりをし、あるいは昼寝をするパターンだ。または外の空気を吸いにでる人もいる。自分たちは、外の空気にふれ、コーヒーを一杯飲んでいた。

 昼食は1か月の献立表が、食堂の隅に貼られている。基本的な構成は、ごはん、スープ、3つのおかず、という組み合わせだ。ある日の例でいうと、ごはん、スープ、トマト卵炒め、豚足煮込み、キュウリのピリ辛炒め、だった。担当のおばちゃんがいて、どうも田舎から来たようで、ずいぶんなまった中国語で話しているが、彼女は生産ラインの女の子たちから結構好かれているみたいだ。深圳大学の学食との比較で言うと、味としては互角以上だと思う。おいしい。気のせいか愛情を感じる味だ。特にスープの味がよい。中華料理で中国人にとって一番大事なのは、温かいことと、もう一つはスープがあることだ。スープの無いごはんは、格が落ちる。ちゃんとこの二つを満たしている。少し塩味が強めだと感じるが、このくらい効いていたほうがいいのだろう。ホワイトカラーの人たちは、どうも先に食べているようだ。ただ、一緒に食べる人もいる。生産ラインもホワイトカラーも同じ場所で、同じご飯を食べている。藤岡さんもだ。藤岡さんが食べなくなると、もしかしたらおばちゃんは手を抜くのかもしれない。

 

「え~~~コーヒーって苦いの?!」

 自分はもともと、ほぼ毎日コーヒーを飲むので、3日目に瓶入りのインスタントコーヒーの粉を食堂の水筒置き場にもっていって飲み始めた。ラインの女の子たちが見つけて、「これコーヒー?」と聞かれたので、「そうだよ、飲んでいいよ」といって、粉を分けてあげたが、「うわ~~~!にが~~い!」と言われて、たぶんあげた二人とも飲み切っていなかった。中国では普通、コーヒーというとネスレの砂糖とミルクが混ざった粉末をお湯で溶かしたものを意味するので、甘い。砂糖と粉乳なしの、ブラックコーヒーをどうも彼女たちは初めて飲んだみたいだった。ちょっとしたカルチャーのすれ違いを体験したわけだが、でもこれもこれで、お互いにちょっと笑える体験だった。「え~、コーヒーって苦いの~~~!?」。

 午後はちょっと眠くなるが、重労働というわけでもないので、基本は大丈夫であった。自分は午後にだいたい、若干糖分が足りなくなるので、スニッカーズをひとかけらくらいたべれば大丈夫だった。

 

休憩時間は休む、ごく当たり前のことだ

 食事の最中、そして休憩中に彼女たちと話そうとするが、結構難しい。まず自分自身が作業でそこそこ疲れているので、ついつい休みたくなってしまう。それに彼女たちもそうだ。更衣室より奥には、スマホを持ち込み不可なので、彼女たちも休憩時間でスマホでメッセージを送りたいし、ちょっとニュースサイトとか読んだりしたくなるわけだ。自分はこれまで研究者というホワイトカラーな仕事をしてきたので、昼休みはむしろ体を動かしたくなるわけだが、午前中にラインで少なくとも腕を200分動かしっぱなしにした後には、むしろあまり動きたくはならなかった。

 作業していて思ったのは、彼女たちのテンションが一番高くなるのは、午後15:40~15:50の休憩だろうということだ。その時間帯の彼女たちは、あと130分でおわるという感じで、ちょっとだけ高揚しているし、自分もそうだった。その高揚感に乗って、写真を撮らせてもらったりした。ピースしてくれている子もいる。もちろん、その後残業している人も多いとは思うが、18時で終わりにする人も少なくない。劉経理から、「今日は残業はするかい?(残業してほしいっぽいニュアンス)」で聞かれるが、正直ちょっと風邪気味だったので、残業する体力はなかった。通常勤務は9時から18時まで、作業時間は100+100+130+130、合計460分(7時間40分)で、当然ながら決して楽というわけでもない。普通のホワイトカラーの仕事の場合、ちょっと携帯を見たり、実は休めることもあるが、それも無くなるので、やはり生産ラインでの仕事というのは楽ではない。

 

緊張感がないと、日本市場向けのモノは作れない

 特にJENESISの製品は日本市場向け、あれだけうるさい消費者に不満をもたせないものをつくるためには、緊張感ある環境での作業が求められる。ゆったりした、和気あいあいの生産ラインからは、日本市場向けの製品は製造不可能だ。現場で加工しているのは、作業場の彼女たちだ。彼女たちが手を抜けば、その瞬間に不良が流れてしまう。当然検品をするわけだが、生産ラインで実際に作業をしていると、劉経理が醸し出すピリピリした緊張感が、品質管理の上での肝なのだろうと感じた。彼はJENESISにきて3年目らしいが、見ている限りでは、ずいぶん様々な仕事をしている。生産ラインの主、という感じだ。生産ラインで何をやるか、30人の作業者をどう割って、どのタスクを割り振るか、瞬時に判断していく。脳内にやるべきタスク票と、そのために必要なリソース(作業員、原材料、および作業時間)、納品期日などのデータが入っている感じだ。私の想像では、彼は夜に残って、何をやらねばならないか、何が必要か、確認していると思う。

 

四色の作業着

 生産ラインには四色の作業着を着た人たちがいる。

 第一が、赤、というかピンク色の作業着。比較的長い時間この工場にいる熟練工だ。ある1995年生まれの女の子は通常のラインには属さず、単独でタブレットの修理を担当していた。彼女はJENESISの工場にきて2年経ったそうだ。

 第二のカテゴリーが、青、というか薄めの空色の作業着を着た人で、臨時工、と呼ばれている。ある二人組に声をかけて「いつから来ているの?」と聞いたら、「もう結構長いわね、1か月くらいかしら」と言われた。たぶんあの二人は、故郷は別だけど、寮の同じ部屋で過ごしていて、お互いには心を開いているようだった。昼食も一緒に食べていていた。臨時工の中に、一人ものすごく物静かな子がいて、すこしおびえたような感じで僕らを見ていた。「春節明けにはまた戻ってくるの?」と聞いてみたら、「深圳には戻ってこないわ。故郷の海南で過ごす」と答えられた。「海南かー、いいところだね」と返した。

 第三は黄色の作業着だ。これは検品専属の従業員が着ており、より経験を積んでいるようだった。

 そして第四は白い作業着だ。劉経理はこれを着ているし、藤岡さんも白だ。主にホワイトカラーや試作などを行っている人が生産ラインに入るときに着る作業着で、このほかにも顧客やソリューションハウス(方案公司)の人もこれを着ている。ごく少数しか着ておらず、インターンとして自分たちが着たのもこの白だった。インターンは、本当は赤を着るべきなのかもしれない。

 一人一人、それぞれの理由や条件の中で、この街に、そしてこの工場に来ているのだ。この工場では赤い作業着の熟練工の方が多い。だから、結構な長期間、みんな一緒に過ごしていることになる。午後の休憩時間はとくにきゃぴきゃぴしていて、普通に生活を楽しんでいる感じでもある。

 藤岡さんは、著書『ハードウェアのシリコンバレー深圳に学ぶ』の中で、結構胸にくる言葉をいくつか書いている。なかでも重いのは、ある「もうすぐ夜逃げする工場」を昼間に見に行ったときのエピソードだ。社長はすでに夜逃げをすることを決めているが、表にはまだ出しておらず、従業員もまだ普通に作業をしている。しかし、すでに何か月か給料を滞納している。「春節前にまとめて出すから」とだまして、春節直前に、突然夜逃げするのだ。その時藤岡さんは黙々と作業をする従業員を見て、複雑な気持ちになったことを記している。藤岡さん自身、工場のラインでの作業からキャリアを始めた人だから、そのあたりには文字ではなかなか表現できない同感とか同情があるのだと思う。

 

劉経理は忙しい

 劉経理は、ほぼひっきりなしに、比較的大声で指示を出し続けている。テンションは高いし、ともかく社内から、社外から電話がひっきりなしにかかってきていて、指示を出したり、交渉したりしている。その内容は深圳のサプライチェーンの実態を理解するのに最適なものだった。例えば「おい、おまえ、今日はなんで出勤していないんだ、困るぞ」とか、「これじゃ臨時工がたりない、午後から人を増やそう」とか、「お前のところ(派遣会社)からきたあいつ、今日来ていないのはもういいんだけど、寮の鍵持って行ったままなんだよ。それはないだろう。来ないのはいいけど、鍵はどうにかしてくれってあいつに連絡してくれよ」とか、「お前のところの部品が届いていないぞ」とか、「○○番のねじがない。試作のときとは違う番号のねじが必要だ。至急用意してくれ」とか、「ラインの機械が1台壊れた。担当者に連絡して呼んでくれ」とか、ともかく色々だ。モグラたたきのようにボコボコ発生する小さい問題を、その場その場で瞬時に叩いて解消していく。

 作業ラインの部屋の隅に劉経理の机がある。その机には、作業指示書や、作業員が行った工程について書く作業報告書などが置いてある。座っている時間はほとんどない。小さな小さな席だが、工場ライン部屋のなかで、個人に割り当てられている机は2つだけ。経理の机と組長の机はそれだけ特別だ。小さな机だけれども、生産ラインをまとめる彼らのみが座れる特別な席だ。

 

「ここはゆっくりやっていい」

 1-3日目に担当した工程のなかで、重要な作業となったのが、電池に防火フィルムと衝撃吸収クッションを張り付ける作業だ。3人で3つの役割を分担し、作業に取り組んだ。劉経理からは、「電池はとても重要なパーツなので、持つとき、置くときに慎重に扱うように」と重ねて注意を受けた。もしも床に落としたら、その時点で問題なくても、あとで問題がでるかもしれないから、落とした時点でその電池は「NG」(不良品扱い)だ。

 とても驚いたし、勉強になったのは次のやり取りだ。3つの工程のうち、FutuRocketの美谷さんが担当した2つ目の工程は特に慎重な作業が必要な工程だった。高価な防火フィルムをシートから慎重にはがし、机に置いて、所定の位置に電池を置いて、さらに密閉しなければならない。時間も他の2人の作業に比べてかかる。3人で並ぶと、ラインの流れをひっぱらないように、ついつい急ぎたくなる工程だ。しかし劉経理は、「この工程はとても大事で、しかもやり直しがきかず、防火フィルムは高価だ。だからゆっくりやっていい」と言ったのだ。それを伝えられた美谷さんは、「ああ、なんかそう言われると安心するなぁ」と言っていた。

 1000台という小ロット生産であれば、多少は生産ラインの担当者間での時間的ムラや、わずかな工程間の待機が発生しても、それを完全に平準化できる手段はなかなかない。もちろん熟練工なら、別の作業を指導して、ちょっと貯めてから一気に取り掛かるとかも可能だ。このあたりの事例は、高須さんが別の日程で体験した際にまさに目撃している。しかしこのようなことは、臨時工には無理だ。ではどうするか。迷わずにJENESISにとって最も大事な「1000台を日本市場に十分な品質で作り上げる」という目標を優先するのだ。

 

タブレット端末の製造ラインを体験

 4日目、コミュニケーションロボットの電池のパッケージングに加えて、タブレット端末の組み立ても体験できた。自分が体験したのは16人ラインの1番最初の工程だったプラスチックケースに、ディスプレイをはめる、という作業だ。簡単そうに見えたが、左側に3つのツメが、右側にも3つのツメがあり、うまい角度でディスプレイを押し入れなければ入らない。なおかつ、ディスプレイの保護フィルムをはがすためのテープが、プラスチック枠の表側に出ていなければならない。当然ディスプレイは、プラスチック枠の裏側からはめるので、その保護フィルムテープを指でうまく枠の表側に出しながら、なおかつツメにはめなければならない。無理に入れようとすると、ケースのツメが破損するか、ディスプレイを傷つけてしまう。見た目以上に難易度があり、今回体験した中では一番難しいと感じた作業だったし、生きたラインの中に入ると、それだけでも結構な緊張感だった。

 自分だけがこの工程を担当すると、最初は物の流れが遅くなってしまうため、3番目の工程の担当の女の子が、頃合いを見て手伝ってくれた。青色の作業着、つまり臨時工だ。聞いてみると広西省から来ていて、春節前までの契約で来ているそうだ。何日くらいこの工場にいるのか聞いてみると、「今日で20数日目かな」。エレクトロニクスの工場で働いてきたようで、ずいぶん手馴れているように見えた。春節の後には、彼女はまたどこか別のところに行くようだ。

 

劉経理が静かになる時

 作業員のみんなはそんな劉経理に対して、若干の畏怖を感じているようだが、それがラインの緊張感をもたらしている。劉経理も、試作を担当する男性の従業員(正社員)には結構冗談を言って、和やかだが、ラインの女の子たちには基本笑顔は見せていない。彼なりの線引きをしているのだと思う。彼の口癖は、誰かが部品などを落として大きな音を出した時の「どうゆう状況だよ!?(什么情况!?)」だ。劉経理はキャラは管理者としてとてもキリリとしているが、正直もともとの顔つきは相当人が良さそうな人だ。彼が朝、845くらいにビルに到着した時の顔は、まだOFFで、けっこうヌケた顔をしているのを私は知っている。

 劉経理は基本ラインの部屋にいるので、ラインの部屋はいつも賑やかだ。彼は本気で怒っているわけではないが、常に駄目だしをするか、交渉するか、指示をするか、ということをしているので、普通の日本人から見たらずっと怒っているように見えるかもしれない。彼が静かになるのは、藤岡さんがラインに入って来た時だ。藤岡さんは1日に12回くらいラインに入ってくる。劉経理は藤岡さんをラオバン(老板)と呼んでいて、藤岡さんと話すときは若干穏やかになる。当の藤岡さんも、生産の細かな工程を、この部品は何か、なぜこの工程が必要になっているか、説明してくれた。当然、劉さんをはじめ、従業員とは中国語で話している。しかもがりがりのローカルな、そして生産工程ならではの会話をしている。

 

「このネジじゃないぞ!」

 JENESISのラインで深圳のサプライチェーンの意味を感じることがあった。

 二日目だったと思う。作業をしていると、いつにも増して向こうのラインにいる劉経理がにぎやかだ。聞き耳をたてると、「おい、ネジがちがうじゃないか!」。1000台のロボットを、30人で組み立てているわけだが、ある工程の、一つのネジの型番が違う。試作の時は、確かに今手元にあるネジで良かった。しかし量産工程に入る際に、若干の設計変更があったのだ。「いや、あの時はこれでよかったんだけど、今日はこれじゃだめなんだよ!おい、業者に連絡しろ!」と劉経理は電話越しで言っている。たぶん、JENESISホワイトカラーの誰かに電話越しに言う。製品のブラッシュアップはハードウェアスタートアップにとって必須だが、その過程で当然部品が変わるわけで、その対応は最終的には現場で解消されることになるのだ。

 それからも、がやがや、ああでもない、こうでもないと言いながらうろうろしている。1時間くらいすると、ライン部屋のドアが開いて、ネジが届く。「ネジが届きました」。1000本のネジ、たった一袋のネジだ。しかし、当たり前のことだが、ネジ一つないと、アセンブルができない。型番が異なるネジでは、止まらないし、無理にやれば筐体が損傷するからだ。ネジ1個を、調達できないと、生産ラインのうえにいる30人、いや一部だとして例えば6人とか、10人の作業がその分、止まってしまう。

 ネジが一個届かなければ、ロボットは永遠に完成しないのだ。

 もう一つ目撃したのは、ラインのうえの卓上機械が1台不具合を起こした時だ。この時も、その日の就業時間内に担当者が来て、調整をしていた。結局その場では修理は完了しなかったのだが、藤岡さんが時々言う、「1時間圏内に業者が揃っている」ことの意味を、ラインでも目撃することになった。

 

「ロボットが動かないぞ!」

 2日目まで、生産ラインはフルでロボットを組み立てていた。まだまだ初期の仕込みのような段階だが、部屋全体でロボットのいろんな部品を組んでいた。しかし3日目、現場に行ってみると、我々インターン3名が相変わらずロボット用のケーブルの仕込みをしている以外は、皆、タブレットPCを組み立てている。

 なぜロボットを組まないのか。部屋のあるラインに目を向けると、そこには完成ロボットが数台置いてあって、そのうちどうも3台が結構なトラブルを抱えている。2日目まで、ラインの大多数では部品の仕込みをしていたわけだが、あとで聞いてみると、同時に10台だけ、試しに完成まで組んでいたのだ。量産に入る直前、最後の最後の問題を洗い出す作業だ。一緒にインターンに入っていた茂田さんに状況を説明すると、この作業を「ためし量産」と命名していて、うまいこと言うなと思った。

 そして判明したことは、10台中7台は良品だが、3台は不良となったのだ。1台は、音が出ない。もう1台はファームウェアのアップデートができない。もう1台は別の問題を抱えている。重要部品についてはサプライヤーからの受け入れの時点で全数検品をしており、無論のこと、メインボードは全数検品だ。しかし組んでみると、メインボードに起因すると思われる、ファームウェアアップデート不能という事態が発生する。音が出ない問題も、ケーブルの接続を何通りか試してみるもののうまく解決しない。日本のロボットメーカーから出向してきている方もラインに張り付いての調整がはじまった。試作担当も含めて、終業時間以降も調整をしているようだった。

 

「いままで作ってきて一番難しかったもの?」

 4日目の昼食の際に、劉経理の横に座って、気になっていたことを聞いてみた。

伊藤「今日作っているタブレットの部品点数はいくつですか?」

劉経理「59(即答)。だいたいタブレット端末は40-70の間に収まる。だから、今日作っているタブレットは結構複雑な方だね。」

伊藤「へー。じゃあ、あの○○○(コミュニケーションロボットの名前)は部品点数いくつですか?」

劉経理「211(即答)」

伊藤「すごい数ですね。ところで今まで作ったものの中で一番難しいかった製品はなんですか?」

劉経理「そりゃあ○○○だよ!(いま作ってるロボットのこと)」

 どうも部品リスト(BoM)をそれこそきっちり読んで、把握しているようだった。ロボットは部品点数211を揃え、重要部品を検品し、なおかつ基本手作業で製造している。それはそれは複雑な課題になるのだ。ハードウェアスタートアップの製品とは、いまだに市場に無いものを意味するので、生産ラインにとっても未知の体験となっているのだ。

 製造現場の新たな挑戦が決着するところが見たい。また数日お世話になりそうだ。

(たぶんつづく…)

 

以下、基本情報および写真

就業時間

9:00-10:40 (100分作業)

10:40~10:50(10分休憩)

10:50~12:30(100分作業)

12:30~13:30 (昼食休憩)

13:30~15:40 (130分作業)

15:40~15:50 (10分休憩)

15:50~18:00 (130分作業)

残業の場合 18:30~切りのいいところまで(22:00には完全終業)

 

25日の作業(すべてコミュニケーションロボット)

1)19番ケーブルを、小さい基盤(センサーモジュール)に差す

2)18番ケーブルを、小さい基盤に差す

3)黒ケーブルの220mm箇所にマーキング

4)磁石が引っ掛けてある(ノイズ除け?)ケーブルの220mm箇所にマーキング

 

26日作業(すべてコミュニケーションロボット)

1)4番ケーブル、250㎜箇所にマーキング

2)01番ケーブル、190㎜箇所にマーキング

3)14番ケーブル、70mm箇所にマーキング

4)10番ケーブル、255mm箇所にマーキング

5)六本線のケーブル220mm箇所にマーキング

 

27日作業(すべてコミュニケーションロボット)

1)ケーブル、270㎜箇所にマーキング

2)250㎜箇所にマーキング

3)LANケーブルに線を引く

4)電池の加工

一人目:電池の3面にクッションシートを張る

二人目:防火フィルムで覆い、密閉する(防火フィルムを半分に折り、その真ん中に電池を起き、反対側も貼り付け、餃子のように密閉する)

三人目:前工程検査、クッションシート貼り付け、電線をプラスチックでとめる

 

29

1)電池の加工(27日と同じ)

2)タブレット型PCの製造ラインの臨時工担当部分を体験

3)別のタブレット型PCのディスプレイフィルムの両面テープをはがす

 

まずは朝礼。さっそくかなりの緊張感だ。話しているのが劉経理。

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生産ライン。ここが仕事場だ。

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丸二日半取り組んだ、ケーブルに線を引く作業。

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電池の工程。高価なものなので、緊張する。

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Futurocketの美谷さんと熟練プログラマーの茂田さんと一緒にインターン。

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更衣室。ここで始業時間がくるのを待つ。

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初日の昼食。ジャガイモ炒めの量がすごかった。そしてキノコ炒めもピリ辛でおいしい。左上のスープ、画面では全く伝わらないが、おいしかった。

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二日目の昼食。ナスが大好きなのでテンションが上がった。

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最後の日に体験した、タブレット端末の工程。ディスプレイをはめるのは見た目以上に難しかった。 IMG_20171229_154212.jpg

 

 

深圳在外研究メモ No.42 深圳湾ソフトウェアパークで感じる「社会実装先進都市」としての深圳~日々新しいサービスに囲まれて仕事をしていることが何かを意味するのかも…

このブログでもたびたび取り上げている深圳湾のソフトウェアパーク。ものすごい意識高い系でもあり、テンセント新本社ビルとかあり、しかもベンチャーキャピタルのビルとかもあるので、なんだか「新しい深圳」を代表しているように見える場所の一つだ。

この場所の雰囲気については、高須さんが記事に書いていて、様子がよくわかる。

2015年メイカーフェアー深圳の様子:街が丸ごと会場に!Makeで生きる「創客」たちの楽園~Maker Faire Shenzhen 2015レポ前編【連載:高須正和】

このエリアは、在外研究している深圳大学の寮から徒歩10分の距離で、なおかつブログでも言及しているMakerNetのKevinのオフィスがこのエリアのまさにVCビルの中のRocketspaceに引っ越したので、週に2回くらいは足を運んでいます。

そして貴重な経験になっているのが、MakerNetでのインターンというか、Kevinのお仕事のちょっとしたお手伝いです。ここでの経験については別途書くとして、このエントリーでは次のことを書きます。

 

1.「社会実装先進都市」としての深圳

深圳の新しいオフィスエリアでは、新しいサービスに囲まれており、ここで働く人たちはごく自然にそれを使っている、と言うことです。より具体的にいえばローンチされて1~2年のサービスがどんどん実装され、若くてテックに興味の強いエンジニア的人材が多いこともあり、積極的にサービスを利用しています。他のエリアでもこうしたことは見られると思うので、決して深圳特殊な現象とは思いませんが、無人バスの実験(また試験段階で、人は載せていない。高須さんの現地訪問ノート参照)、Huaweiの交通管理システム(スマートシティプロジェクトの一環)の導入無印良品が展開するMUJI HOTELの世界第一号店が深圳にオープン、等々新しいサービスの導入が試行錯誤されています。多少まだ現実よりも先走っている感じはありますが、私は「社会実装先進都市」という言葉を使ってみたいと思います。

これまでの深圳がサプライチェーンによって特徴づけられ、そして次のような研究開発側の拠点開設がリリースされてきたことはすでに注目を集めています。例えば、Appleの研究開発拠点ARMの合弁会社の深圳設立Airbusの研究開発の開設などなどです。これらの現象は、海外系の製造関連企業が、「製造の場」としてではなく、「研究開発の場」として深圳を見始めていることを意味しています。

サプライチェーン、つまり「製造都市としての深圳」の次に、「研究開発都市としての深圳」もとても重要なトレンドですし、その実態がどのような中身になるか、追いかけていくべきテーマです。

ただイノベーションとは「研究開発」や「科学技術」のみによって生じるのではなく、市場との対話のなかではぐぐまれるものでもあります。この意味で、中国で進むさまざまな新サービスの動向には注目が必要でしょう。

以下では深圳湾ソフトウェアパークで体験したことをメモしておきます。なお、中国では農村部でもEコマースを中心に、ウェブとの関連での新サービスの展開が進んでおり、淘宝村のような、Eコマースと村おこしがつながったような動きがすでに数年前から報告されています。決して、都市部だけで進んでいるわけではありませんが、以下では、いわゆる「かっこいいオフィスエリア」でどんなことが起きているか、を紹介したいと思います。

 

2.深圳湾ソフトウェアパークでのある午後に体験したこと

南山区深圳大学のすぐ南のエリア、「深圳湾ソフトウェアパーク」。深圳市の国有企業である深圳市投資控股集団の子会社である、深圳湾科技発展有限公司が開発を担うエリアです。この会社は近くで生態園の開発も進めており、南山ハイテク企業が集中するエリアの開発を一手に引き受ける、重要企業です。

そしてソフトウェアパークのなかのランドマークである、創投大夏。投資ファンドや資産運用会社が多数入居しています。

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国有企業が運営するだけあって、ディスプレイにも宣伝部系の広告がよく表示されています。「一九大党大会の精神を深く学び、青年イノベーション創業を紅く導こう」というスローガンが表示されています。ただ、あくまでも大家さんが国有で、中の個別企業は別です。特に中小のテック系企業はあまり国とか党とかあまり気にしていないというのが、日々話を聞いていて感じることです。

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ビルの前は、例によってシェアサイクルが並びます。これは主要都市ではよくあることでしょう。シェアサイクルが普及し始めて1年ほどですが、すでに勝負がつき、三番手のBluegogoが倒産したことで、黄色のOfoと、オレンジのMobileの二強体制となっています。IMG_20171228_121736.jpg

お昼どきのこのビルの前には、Uber Eatのような宅配サービスの配送員が多くいます。彼らがみんなエレベーターに乗るととても混雑することとセキュリティ上の理由から、彼らはビルのなかには入れません。アプリを通じて、電話で注文者の「届いたよ、ビルの下に受け取りに来て」と連絡するわけです。奥に見えるのがTencentの新本社ビルです。まだ稼働していません。ここが稼働すると更ににぎやかになるでしょう。

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このビルのワンフロアに、サンフランシスコから展開してきたコワーキングスペース、RocketSpace Shenzhenがあります。ここのキーパーソンたちはだいたいアメリカ帰りの中国人で、そのネットワークは広く、またとてもできる人たちが多い印象です。そしてこのコワーキングスペースには、この半年ほどで一気に全国に広まった、設置式の自動販売棚があります。仕組みとしては、基本は無料でオフィスに設置し、消費者は必要な商品を自分でRQコードを読んで支払います。つまり、正直、盗める、ということです。そのためそれほど高価なものは置いていませんが、かなり消費者側のモラルが試されるのは事実でしょう。防犯カメラはこの棚のためには設置されておらず、これ以外に冷蔵庫のなかにはドリンクもならびます。写真に写っている男性は業者の担当者で、在庫をチェックしていました。

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ビルの1階には当初なにも入っていなかったのですが、12月頭に「超級物種(Super Species)」がオープンしました。今年アリババが出資した盒馬鮮生という上海の生鮮スーパー兼飲食店の複合店が注目を集めました。私も夏に行きましたが、アプリ上での決済ができ、宅配も気軽に頼める利便性を感じました。そしてこの「超級物種(Super Species)」は、福建から出てきたイートインを強味にするスーパーと飲食の複合企業で、最近、テンセントが買収した企業です

(参考:【中国小売業界】スーパーマーケットチェーンのオムニチャネル化が急加速する理由)。

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アプリ上で注文すると30分で宅配可能。今度実際に寮に届くか、試してみようと思います。

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最近結構各都市で流行っているステーキ屋さん。グラムの計り売り形式。食べてみましたが、味はなかなか良かったです。

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お昼時の「超級物種」。テンセント新本社ビルのなかにもひょっとしたら何かできるかもしれませんが、本社すぐ近くにこうした店舗ができているのは面白い動きです。

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レストランの机の上には、卓上の充電端末。QRコードを読んで、お金を払って充電できます。すでに電子決済が進んでいるので、基本は、財布を持たずに外出することが増えています。スマホの電源が切れると何もできなくなる(地図がみれない、お金が払えない、連絡できないなどなど)ので、充電インフラは決定的に大事です。

 

3.「このくらいは中国のどこでもある」のかもしれないけど…

上記のようなサービスは、ほかの地域のサービスが流れてきているので、決して深圳特殊な現象ではないでしょう。ただ、この密度はなかなかのものだと感じます

例えば私は広州にもよく出張にいきます。シェアサイクルはあるし、宅配も当然あります。ただ、深圳のこのエリアにはテンセント本社があり、次世代スマホやドローンを開発する人がいて、ベンチャー投資家がいます。彼らがこの密度で新サービスを体験しながら、日々、次の事業を考えています。

開発者自身が、そして投資家自身が新サービスを日々感じることができている。このことが何を意味するのか、まだわかりません。ただ、単なる「研究開発都市」ではなく、「社会実装先進都市」でもあるような街が生まれてくると、開発者の発想の前提が変わってくるように思います。

伊藤亜聖のページです

 中国に軸足を置きながら、アジア、そして新興国の経済を研究しています。ここにはメモのような雑文を書いていこうと思います。
 上の写真は中国広東省、深圳市の海上世界という場所です。昔は海だったようですが、いまでは埋め立てられて、ファッショナブルなショッピングモールやバーが並ぶ場所になっています。