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「新興国×テック」の時代はあり得るか?③~番外編:エチオピア・アディスアベバで見たチャイナな写真集

番外編として「エチオピアでみたチャイナな場面」を独断と偏見でランキング形式でご紹介します。なお、新興国でのテック/スタートアップの可能性を考えた、現地での視察のノートは前回前々回のブログを、新興国と中国の関係深化という意義での中国政府による「一帯一路」構想についての筆者の考えについては、例えばこちらを参照ください。

以下では2018年8月8日から12日にエチオピアの首都アディスアベバで滞在中に見かけた中国要素を抜き書きしてみる。こうしてみるとチャイナばかりに見えるが、当然、チャイナなところだけを抜き出しているので、街中は現地語であるアムハラ語表記や英語表記が多いことは十分に割り引いて見てください。

この手の記事は上野きよりさんの「 中国が旗を振る「エチオピア開発」の光と影」(東洋経済Online)がすでにあります。少なくとも私よりは高口康太さん山谷剛史さん辺りがもっとずっとずっと上手だと思われ、いつか氏らの手による「アフリカ×チャイナ」記事が来ることを心より祈って、ひとまずアップ。

第五位 ジャージ・シャツ

個人的には、一枚目が今回のベストショット。アフリカ最大のマーケットで目撃した荷物運びのおじさんで、写真撮ろうとすると一回断られるも、「いや、このジャージに「中国」って書いてあって、すごいからお願い」と頼んだらポーズまで取ってくれた。「国」の字が見えていないのが残念…。ほかにも時々中国語が書かれたジャージを見た。多分中国企業が、ばんばん配っているのだろう。

「中国」ジャージおじさん

このほかにも、中華街のレストラン前で美容院のシャツを着てた少年や、街中でも見かけました。

第四位 Tecno

街中でたくさん見るスマホショップTecno。何を隠そう、中国の深圳企業で、アフリカで有数のスマホ販売台数を誇る。多分中国企業だと知らない人が多いと思う。DJIと同じ2006年深圳創業で、連結の従業員数1万人程度というのも同じ、さらに機種でPhantomとかSparkとか、DJIと同名のシリーズがあって傑作。一方のDJIは欧米、そして日本でも超有名な企業となっており、そしてもう一方のTecnoは先進国ではまったくの無名。友達に「Phantom8、カメラいいよね~」と言ったら、絶対「ええ?Phantomは4まででしょ?(DJIのドローンだと思っている)」と返されること間違いなし。なかにはなんとMade in Ethiopiaのタブレット端末もあり、今後さらに研究したい企業。スマホには出会い系アプリPalmchatがインストールされ、深圳の企業がスマホを売るだけでなく、アフリカ人同士の出会いまでサポートしている事実を伝えてくれる。本社はDJI本社のすぐ近く。この辺りに深圳市南山区の奥深さがある。

噂には聞いていたフラッグシップモデル Tecno Phantom 8


MediaTekが入っている。

マンチェスターシティのオフィシャルスポンサーでもあり、Youtubeなどには関連動画もある。

出会い系アプリが標準装備。

Spark

街中でも小さいTecnoショップは結構ありました。中国系だとHUAWEI、ZTE、そのほかはやはりSamsungが一大勢力でした。

三位 アミューズメントのなかのチャイナ

アディスアベバで観光レストランYod アビシニアレストランでは民族音楽を聴けるわけですが、エチオピア人シンガーが「次の曲はチャイナの曲です」とアナウンスして、歌い始め、さらに中国人観光客とデュエット。体験として強烈だった(動画もあるので、ネット環境あるとこに戻ったらアップを試みる)。このほかにも現地テレビを見ていたら、中国の娯楽番組の一部が流れたりして、こんなに遠い国なはずなのに、メディアでも親近感がわくような取り上げ方をしているなと思った。

現地TVを見ていたら突然「ギネス中国の夜」の組体操が紹介される

ヨド・アビシニアレストランのショー。中国語で歌い始め、中国人以外は「ポカーン」となるものの、前列で立っている人とデュエット。入り口では「ニーハオ」と言われ、お水を桶にいれて持ってきてくれたウェイターさんは「洗手xishou」と親切に教えてくれた。

街を歩いていて「チャイナ~」とか子供から声かけられることもあり、生活の中に中国人がいることが一般化し始めているのかも。

第二位 建設中あるいは建設済み物件

ともかく多い中国企業による建設プロジェクト。空港の新ターミナルから始まって、金融街のビル、アフリカ連合となりの「」ビルなどなど。その割には街中ではそれほど中国人は見なかったが、街を歩いていても、観光レストランに行っても「ニーハオ」とか「チャイナ」と声を掛けられた。

ボレ国際空港

空港の新ターミナル

スタジアム

アフリカ連合のビル

およびその隣の「中国アフリカ援助本部」、建設中。

建設中の金融街の一角。

ライトレール、うっかりしっかりした写真を撮り損ねる。同行した田中さんがいい写真をとっていた。

Yosuke Tanakaさん(Accel Seed)撮影のライトレール(写真のご提供ありがとうございます)

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同上。朝は大変な混雑でアディスアベバ市内の足、といった雰囲気。

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中国関係の建設プロジェクトに関しては、素直に多いと思う。郊外や、地方都市はちがうかもしれない。

第一位 工場(Huajian)

問答無用のスケール。4700人の現地人雇用を生み出し、エチオピアにとって貴重な外貨ドルを稼ぐ、空港のようなスケールの工場。金型の削り方を教え、整理整頓された生産ラインが広がり、簡易宿舎も完備。スローガンもインパクトがあり、今回見た中では他を圧倒した印象を残した。別途また何か書くかもしれない。

でかい、あまりにでかいメインの生産ライン。半分くらいは稼働していて、今後キャパ的には拡張にいつでも対応できそう。

さらなる拡張のために建設中の建屋。先がかすんでいる。中文雑誌で入居者を募集していた。

東方工業団地にはより中国企業が集まっているらしく、そこも訪問できれば面白いだろう。

番外編

普通にビルに入ったら「消火栓」。そう、ここまで中国は輸出している。

現地中文雑誌「东非瞭望」のエチオピア版。現地で活躍する中国人企業家のインタビューや、工業団地の情報、現地経済情勢や文化・宗教などの情報を紹介。内容としてはそれほど深い独自記事があるわけではなく、独自のインタビュー記事のほかはおもに中国メディアの関連情報や、国際機関のレポートの翻訳など。ただ企業リストなども載っていて有用。

この方のインタビューは面白くて、温州の陶器タイルメーカーがエチオピアにきて2年で現地最大規模のタイルメーカーになったとのこと。さすが温州人。

中華料理店。

想像できる通り、店主の個人アリペイやウィーチャットペイに直接人民元で支払いできてしまう。

中華食材店。アリペイで買えた。

中華料理店では中国でよく見るスローガンが張ってあり、アフリカにきた戦士たちを鼓舞する。

番外編の番外編:ドバイ国際空港でHuawei P20 Proの広告を大量に見る。

番外編の番外編:ドバイ国際空港で世界最大の雑貨市場・義烏の広告を見る。

後記

ジャパン的なものも一応探したが、限られていたか、実質日本と無関係のものもあった。

以上

※関連中国メディア報道

https://www.sohu.com/a/221596859_100023013

http://www.sasac.gov.cn/n103/n86114/n326638/c2178785/content.html

http://news.hbtv.com.cn/p/643419.html

※「新興国×チャイナ」という現象としての中国政府による「一帯一路」構想に対する筆者の考えは以下のものに書いています。

https://aseiito.files.wordpress.com/2016/10/ito_obor_2015.pdf

https://www.nikkei.com/article/DGKKZO18998440Z10C17A7KE8000/

http://bunshun.jp/articles/-/5608

「新興国×テック」の時代はあり得るか?②~エチオピアでスタートアップを訪問する編

南アからエチオピア・アディスアベバへ

2018年8月9-10日に、エチオピア・アディスアベバにて企業訪問をしました。はじめてのエチオピア訪問で、事前準備として黄熱病の予防接種証明書(イエローカードの取得)から始まるという、なかなかハードルの高い訪問でした。

実際に来てみると、むしろ南アフリカより治安は良く、またアディスアベバの街は建設ラッシュで、経済成長していることを感じることができます。そもそも論として、ヨハネスブルグは街を歩くことすらままならない治安だったわけですが、アディスアベバでは、街を歩き、そして道端の小さなお店で飲み物を飲む、といったこともできました。コーヒーは聞いていた通り美味しいです。ただ、インターネットインフラはまだ脆弱で、LTE回線までが整備されてはいますが、動画、写真のアップロードといった負荷のかかる作業の際は不安定でした。

今回のアディスアベバは、ニコ技深圳コミュニティの高須さん、田中さん、椛澤さんと合流して見学したので、他にもブログなどで情報発信があるかと思います。

以下では前回のエントリー「「新興国×テック」の時代はあり得るか?~南アフリカでベンチャー企業を回る編」での問題意識を前提として、現地で感じられたことをメモしておきます。

 

アディスアベバでの訪問先

南アフリカに続き、主にスタートアップ企業およびそのインキュベーション施設を訪問しました。南アフリカより貧しい国(2017年の南アの一人当たりGDPは6,160.7ドル、エチオピアは767.6ドル, 当年ドル表示, 世界銀行データ)ではあるものの、エチオピアのローカルな環境で、ITを使って何ができるかを考えている企業家がおり、また小さいながらもコミュニティが立ち上がりつつあることも感じられました。

アディスアベバでの訪問先

訪問先 概要 URL
blueMoon 2016年設立の民間のアクセラレーター。対象は18-29歳で、これまでに3つのバッチ合計で30のスタートアップをインキュベーター。4か月のプログラムを経てビジネスプランとプロトタイプがある場合、1万ドルの投資(10%エクイティ)を行う。アグリテックに特化。 https://www.bluemoonethiopia.com/
Iceaddis 6年前に開設されたインキュベーション施設。投資業務はしていないが、コミュニティをつくり、ワーキングスペースを提供している。 http://www.iceaddis.com/
50 Lomi 2015年創業、Iceaddisから育った病院向けERPシステム開発のスタートアップ。インターネット環境に問題があるため、オフラインでも動き、また極力送信データを圧縮して2G, 3G回線でも機能するシステムを開発。
Huajian Industrial Zone 中国東莞の靴メーカーによる大規模靴工場。訪問先の工場は5000名の従業員が主に靴を製造、今後2025年頃まで5万人が住み、働く工業団地の建設を実施中。基本は中国からの設備と原材料の持ち込み、全量輸出の加工貿易だが、金型も現地製造しているなど、現地化の取り組みもかなり見られた。
Triple Bottom Line Enterprise Iceaddsiにオフィスを持つ企業。2016年からプロジェクトスタート。エチオピアの農村部における水インフラの整備を、スマートバルブと需要ピーク時を避けた供給によりコストダウンを目指す。目下、パイロットケースとしてある村の500世帯にサービスを展開。 http://www.3blenterprises.com/
Orbit Health 病院向けの予約・スケジューリング・薬剤管理などの統合的ITインターフェースの開発。2016年創業、公立病院2か所に製品の納入。エチオピアでの普及に加えて、他のアフリカの国へのサービス展開を目指す。 http://orbithealthet.com/
Entrepreneurship Development Center エチオピア政府とUNDPの共同で立ち上げた企業家教育プログラムの実施部隊。 https://www.edcethiopia.org/

 

ローカル&ニッチ需要に立脚したスタートアップ

聞き取りができたスタートアップはわずか3社でしたが、現地のアクセラレーターとインキュベーション施設も訪問でき、ある程度の広がりを持った把握ができました。

第一の特徴は、アディスアベバのスタートアップが、アグリテックとヘルステックの分野に特化している点です。現地のアクセラレーターであるblueMoonは、育成プロジェクトを基本的にアグリテックに絞っており、これまでに育てた30社のうちで、28社はアグリテックということでした。その理由を聞くと、「エチオピアの人口の80%が農業に従事し、GDPの40%が農業から来ている」という回答で、農業の課題をIT技術や化学(肥料開発)を活用して解決していくニーズが大きいようです。

アグリテック以外の分野では、病院向けのITシステムの開発業者でも聞き取りができました(50 LomiとOrbit Health)。数人レベルのスタッフで、ウェブブラウザ、クラウド(Microsoft Azureが多かったです)を使った管理システムを開発し、病院で使うことを前提に診察予約、手術室のスケジューリング、薬剤の調達及び在庫管理といった機能をIT化しようというものでした。現状、同行者ともなぜこのようなサービスが目立つのか、議論していたのですが、エチオピアではIT管理システムが導入できるレベルの規模と資金がある、政府や国際機関のサポートも得られる、それにもかかわらずIT化が進んでいないところが病院なのではないでしょうか。エチオピアの国内にあるニッチではあるが重要なIT化のニーズをくみ取ろうとしており、すでに一定の売り上げが上がっているようでしたし、足がついている印象でした。

 

BlueMoonのワーキングスペース。

英語、アムハラ語でのシリコンバレー的スローガンが目を引きます。

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Iceaddisのコワーキングエリア。

眺望が素晴らしく、こじんまりとしたスペースながらも気持ちの良い空間でした。

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50 lomi

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Triple Bottom Line EnterpriseのChris

アメリカコロラド出身でケニアで平和維持活動のボランティアをしたのち、一時アメリカに帰国、その後エチオピアで起業。「自分のことを社会企業家だと思うか?」と聞いてみたところ、「そう呼んでもらってもいいけど、利益がでないと持続性がない。だから非営利ではなく、利益を上げるモデルを考えている」という回答が印象的でした。

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APP上でパイロットプロジェクトの村の水バルブ端末の情報が確認できます

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Orbit Health

アメリカ・シアトルのボーイング社での勤務経験もあるエンジニアがエチオピア帰国後に創業。エチオピア国内だけでなく、アフリカの他の地域へのサービス展開の構想も熱く語ってくれました。

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病院向けのインターフェースのテスト画面

ここでは薬の在庫がリアルタイムで把握可能

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課題として挙げられた融資・投資面

現地のスタートアップが共通して指摘した課題は、エチオピアの銀行をはじめとする金融業界は、確実に利益がでると考えられる建設業・ホテル業には融資を行う一方で、かれらのようなスタートアップへの融資はほぼありえないそうです。1974年のクーデター以後、共産政権が樹立され、民営の大企業が事実上禁止されたことも、いまだに民営企業を軽視する風潮につながっているとも聞きました。

とくに国内での融資・投資が得られにくい状況で、企業家たちは自己資金で創業(Orbit Health)するか、立ち上がりつつある数少ないアクセラレーター(blueMoon)から少額の投資を得ながら、なるべく早い段階で売り上げがたつようなビジネスを模索せざるをえないようです。一部には国外のスタートアップコンペに参加し、海外からの投資を得る事例もあるそうですが、まだ少数のようです。

エチオピアでは失業率が16-18%程度というデータもあり、スタートアップの企業家の夢も、いわゆる欧米スタートアップ的な上場や大企業への売却によるEXITではなく、着実に事業を拡大し、持続的に100人を雇用するような企業になること、という声も聞かれました。水道インフラ、アグリテック、ヘルステックなどをこの国で普及させようとすることは、社会企業家的でもありますが、あまりSocialであることを強調する企業家は今回聞き取りしたなかではおらず、むしろ利益を上げることで持続可能なビジネスの形で社会に貢献しようと考えているようです。

 

圧倒的スケールだった華堅集団の靴・アパレル工場

中国とエチオピアの関係は、別途どこかに書いたほうが良いと思うのですが、概要だけ触れておきます。

今回訪問した中国企業は東莞の華堅集団が2015年に建設した工場で、現時点で4700名のエチオピア人を雇用、300人の中国人が現地で働く巨大な工場でした。生産品目は主に靴で、全量が輸出(95%が米国市場向け)です。一部作業着やシャツなどの衣料品も生産していました。華堅集団は2011年にアディスアベバの別の場所に工場を建設しており、ここは二番目の工場という位置づけです。

生産プロセスを見ると、まず金型については鋼材は中国から輸入しているものの、現地で靴の型をすでに内製しており、これらの型は国内の他の企業にも外販されているとのことでした。エチオピアで、中国人が、ボール盤で金型の削り方を教えている姿を見ることは、一つの衝撃でした。他の靴の原料も、そのプラスチックもふくめて多くが中国から輸入され、加工設備もほぼ中国から持ち込まれていました。ただ、加工プロセスについては可能な限り現地化を進めようとしていることを感じました。例えば靴のソールの生産工程では、現地で切削された金型を、中国から持ち込んだ射出成型機で、中国産の樹脂原料使いつつも、ソールを成形し、その後の後処理、熱加工などの工程はすべて現地で行われていました。

つまり、これはまさに深圳で1980年代、1990年代に行われていた「来料加工」です。ほぼすべての原料を海外から持ち込み、現地で加工し、全量を輸出するモデルです。中国企業がアフリカの工業化を進める可能性があるという議論は、Justin Lin教授をはじめとして以前からあるわけですが、そのLin教授もHuajianの工場(おそらくもう一つのほうの工場)を見学にきたそうです。金型をエチオピア人が削っている姿を見ると、工業化の伝播は、確かに中国、アジアからアフリカへの経路が生まれていることを確認しました。どれだけの広がりがでてくるのか、それは今後も注目が必要でしょう。現地JETRO事務所資料によると、アディスアベバでは現在工業団地の建設ラッシュが続いており、仮に外貨の制約などがうまく解消された場合には、さらなる工業化の可能性も感じました。

Huajianの場合、今後さらに工業団地を拡張し、中国や東南アジアではよくある工業と商業施設、住宅施設を統合したエリアの開発を計画していました。総面積138ヘクタールで、2025年頃の完成を目指しています。現状はそのなかでも製造業エリアが、おおよそ1/3程度完成している段階ですが、工業園区からはジプチへの鉄道駅も建設し(すでに完成、ただし、輸送時のトラブルなどで現在は使用せず)、最終的には5万人が働き暮らす地域の開発を計画しています。

「空港みたいでしょ」と案内してくれた方が紹介した最大規模のアセンブルの建屋。これ以外に加工やアパレル工場などが立ち並んでいます。

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金型の切削の風景

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切削された金型

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アパレル工場

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それぞれの生産ラインの管理者は現状は中国人で、東莞の本社からの派遣です。

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最終的に5万人が暮らす地域をめざす

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「新興国×テック」仮説とエチオピアの現状

新興国での経済成長が、インターネットとテクノロジーの力で加速することはありえるでしょうか。今回、エチオピアでごくごく限られた数ですが、スタートアップ企業とインキュベーション施設を見学した印象では、やはり農業、そして軽工業ベースの経済成長が重要であり、その基盤的な経済成長のパターンを、ITやスタートアップが使った効率化によって加速する可能性はあると感じました。Hallward-Driemeier and Nayyar(2017)は技術の進展が、発展途上国の工業化のパターンを変える可能性を議論しており、結論的には一部の自動化による効果の高い分野では途上国工業化の可能性が狭まるかもしれないが、引き続き軽工業分野では途上国に機会が開かれているだろうという指摘をしています。

筆者が今回のエチオピア調査から得た感想は、いわゆる工業分野だけでなく、農業やサービス業(病院のIT化など)の領域で、スタートアップ企業やソフトウェア企業が、途上国でも経済成長に重要な貢献ができる、という可能性です。それぞれの発展水準に応じつつも、一人当たりGDP800ドルの最も貧しいと言われる地域ですら、テクノロジーを活用して生産性の改善が行われつつあることが確認できました。

今回の訪問はごく短期間でした。エチオピア経済を「チャイナマネー」、「テクノロジー」といった大上段からの雑な理解でとどめるのは危険で、ベースとなる農業、軽工業における改善の状況を把握することがなによりも重要でしょう。そのうえで、今回観察した「中国人が、鋼材は持ち込むものの、金型の削り方をマンツーマンで教えている」こと、「スタートアップ企業が農業分野と病院分野の効率化を進めようとしている」ことは、エチオピア経済に、チャイナやテックが、より具体的に何をどこまでしているのかを教えてくれました。

 

※謝辞

JETROアディスアベバ事務所の脇田洋平さんに大変お世話になりました、篤く御礼申し上げます。

※記録

2018年8月11日朝、Version1.0執筆。

 

※参考

Hallward-Driemeier, Mary; Nayyar, Gaurav (2017). Trouble in the Making? : The Future of Manufacturing-Led Development. Washington, DC: World Bank.

エチオピア投資局:http://www.investethiopia.gov.et/

「新興国×テック」の時代はあり得るか?①~南アフリカでベンチャー企業を回る編

新興国におけるスタートアップとベンチャーをどう見るか?
8月6日から8日まで南アフリカのケープタウンとヨハネスブルグを訪問し、現地のスタートアップ企業でインタビューをする機会を得ました。今回の調査はグローバルなスタートアップムーブメントが、新興国でいかに広がりがあるのかを探るもので、JETROの支援を得て調査をしています。

前提となる問題意識は「先進国以外でのデジタルエコノミー、スタートアップの広がりが生まれているように見える。これは広く新興国経済を考えるうえで新しい論点となっているのではないか?」というものです。

筆者はここ数年、中国のスタートアップを追いかけてきました。特に2017年度はイノベーション都市として注目を集めつつある深圳市に滞在し、現地のエコシステムの形成を分析してきました。HUAWEIのような製造業分野の大企業から、テンセントに筆頭されるIT企業、さらにベンチャーの領域ではDJIやInsta360のような新興企業が成長しています。率直に言って、ハードウェアの領域では、中国のサプライチェーンを前提としたエコシステムが強力にベンチャー企業の立ち上げからスケール化までを支えているので、このようなハードウェアのスタートアップの大成功事例が中国に集中しているというのは否定できないでしょう。

また新興国ブームのなかで注目された国々のなかには資源価格の下落以降に経済の低迷にあえぐ国もあり、こうした国々の株式を対象として組成された投資ファンドも、パフォーマンスが低迷しているものが目立ちます。いわゆるニューエコノミーが、新興国のマクロ経済を救うのか、と聞かれれば、いまだにその貢献は限定的かもしれません。例えば中国経済の中に占める戦略的新興産業を2020年に15%とすることを中国政府は目標として掲げていますが、仮にこうした分類を用いた場合には、依然として経済全体に占める新興産業の規模は1割程度ということになります。

このような限定性もありますが、中国に加えてインドネシアでのGo-Jek、ケニアでのMPESAに代表されるように、分野としてはモバイル決済、シェアリングエコノミーの領域は新興国でも広がりを見せています。そして仕組みとしてはコワーキングスペースやアクセラレーター、VCといったベンチャー企業を育てるエコシステムも新興国の主要都市部に広がっています。ここから果たしてどれだけ、現地経済を変えていくようなスタートアップが生まれてくるのか、いまだに評価は定まっていないように思います。
知り合いの日本人スタートアップの動きを見ていても、国境を超えた協業や受注を見聞きします。東京に拠点を置くAIソリューションの会社がベトナムのエンジニアを活用する事例、バンコクのスタートアップが、ロシアのテックイベントに参加し、現地企業と協業する事例、そしてドローンを使ったソリューション企業がアフリカで事業を受注するなどを見聞きしてきました。

「デジタル化のパラドクス」?
新興国でのデジタルエコノミーやシェアリングエコノミーの加速を、どのように理解できるでしょうか?前提として携帯電話とそれを支える通信インフラ、クラウドインフラが普及したこと、そのような環境を活かそうとするベンチャー企業が生まれたこと指摘できるでしょう。日本でのUberやAirbnbに対する規制や反発をしり目に、むしろ新興国でシェアリングエコノミーが拡大しているわけです。

このような状況を、筆者は「デジタル化のパラドクス」あるいは「社会実装のパラドクス」と呼んでいます。もう少しはっきりいえば、「一人当たりGDPとデジタルエコノミーの普及度合いは、あまり相関しないのではないか?」という仮説です。メカニズムとして想定されるのは、例えば「後発性の優位(Advantage of backwardness)」や「イノベーションのジレンマ(とくに共食い)」といった現象です。「後発性の優位」は、おもに工業化の文脈で議論されることが多かったと思いますが、後ろからキャッチアップする経済のほうが、ある時点でもっとも成熟した技術や設備を先進国から導入できるために、成長が加速するという議論です。もう少し産業内のプレーヤーの視点を含んだ議論として考えられるのは、「イノベーションのジレンマ」で、先進国では既存の産業インフラで事業を展開する企業が多いために最新設備への導入が遅れる、という可能性があるでしょう(この点については伊神満さんの著作が、先進企業が優位を維持するような「駆け抜け」といった可能性も考慮して、より綿密な整理と分析を加えています)。

現状、デジタルエコノミーに関する統計はあまり充実していないのですが、例えば世界銀行のGlobal Findex Dataには、過去1年間に携帯電話またはインターネットを通じた金融機関口座にアクセスした人の比率」といったデータが含まれており、たたき台として、上記の「デジタル化と社会実装のパラドクス」に接近することができます。

下記の図は、横軸に国レベルの一人当たりGDPを、そして縦軸に「過去1年間に携帯電話またはインターネットを通じた金融機関口座にアクセスした人の比率」をとったものです。見ての通り、おおむね右肩上がりの傾向が見て取れ、一人当たりGDPの上昇につれて、携帯・インターネットを通じた口座へのアクセスの比率が高まります。先進国のほうが、普及が進んでいるといえ、筆者が考えているような「パラドクス」、とくに下記の図が右肩下がりになるような強いパラドクスは観察されず、否定された、と言わざるを得ないでしょう。おおむねベースラインの傾向としては、デジタルエコノミーも経済発展水準と相関するわけです。

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注:横軸が一人当たりGDP,縦軸が「過去1年間に携帯電話またはインターネットを通じた金融機関口座にアクセスした人の比率(金融機関口座を持っている15歳以上に占める比率)」。
出所:世界銀行のGlobal Findex DataおよびWorld Development Indicatorsより筆者作成。

ただ、上記の図でいえば縦軸の普及度40~60%のエリアに、かなりのバリエーションがあることも指摘できます。これらのバリエーションをどのような変数やメカニズムによって説明できるのか、今後より踏み込んだ実証分析を加えてみたいと考えています(エンジニアの数、教育水準と普及度、金融業の発達の度合い、若年人口の比率、制度の成熟の度合いといった要因がもしかしたら効いているかもしれません)。
モバイル決済の普及がさらにスコアリング、小口融資、そしてさらに様々なO2O(Online to Offline)のサービスの発展につながることを考える必要もあります。

新興国経済論の新段階はありえるか?
新興国の、少なくとも一部で、デジタルエコノミーが急激に発達しつつある現象に着目してみると、途上国、新興国経済を巡る新たな論点が浮かび上がっていると考えられます。振り返ってみれば、2000年代のBRICs論は多分に資源、そして中間層市場を論点とした議論でした。「新興国×資源」、「新興国×市場」という問題設定をする議論であったわけです。通商白書でも中間層の取り込みを目指した議論がありましたし、そしてBoP市場論もこうした系譜に位置づけられるでしょう。

さかのぼれば、1970年代から1990年代の新興工業化経済(Newly Industrialized Economies, NIEs)に関する議論は、「新興国×工業化」という側面に着目したものであり、それ以前の途上国論は多分に貧困を問題視した「途上国×貧困」の議論だったはずです(アジア経済の過去の議論については、筆者も執筆した『現代アジア経済論 「アジアの世紀」を学ぶ』の第一章で整理しています)。

これに対して、上記で議論したような新興国でのデジタルエコノミーの発展は、「新興国×テック」とも言いうるような新しい現象を提示しているのではないでしょうか。ここで言う「テック」とは、いわゆる科学技術の基礎研究に根差したイノベーションではなく、むしろ既存の技術インフラ(プログラミング言語を含むグローバルな開発環境、プラットフォーム、クラウドに筆答されるインフラ)を活用して、課題を解決していくような領域です。科学技術の基礎研究に根差した領域を「ハードテック」と呼ぶとしたら、より市場で普及が進みつつある「ソフトテック」の領域でのサービスの広がりです。

「新興国×テック」という課題設定は多分に仮説的なものです。しかし言語化してみる、そして過去の議論との対比をしてみることで、新たな領域が可視化されることもあります。このように考えて、議論としてはまだまだ未熟ですが、筆者があえて提起してみています。

途上国/新興国を巡る議論の系譜

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出所:筆者作成。
南アフリカのスタートアップコミュニティで見たもの~先進国を目指す方向性と新興国を目指す方向性、コワーキングスペースでの熱気、エンパワーメントの取り組み~
今回南アフリカにきて、ケープタウンとヨハネスブルグで、合計9か所を訪問し、現地のスタートアップ、インキュベーション施設、投資家について聞き取りができました。

詳しいレポートは後日、JETROのHPに掲載されると思いますが、以下の表ではひとまずの概況をまとめておきました。

南アフリカでの訪問先

訪問先 概要 URL
Data Prophet (ケープタウン) 工場の生産性向上のためのAIソリューション企業。ケープタウン大学出身者が2014年創業、現在30人。Python/Tensflowを使い、工場内の生産工程データを分析、改善のためのソリューションを提案。トラックエンジンの事例では、製造工程に関わる1万以上の変数を機械学習で分析、不良品率を劇的に削減した。大規模かつハイレベルな工場が顧客となるため、目下欧州をはじめとした先進国市場の開拓を目指している。 https://dataprophet.com/
Aerobotics(ケープタウン) ドローンを使ったソリューション企業。農業のなかでも木の生育状況を管理する精密農業ソリューションに目下、特化しており、画像認識技術を使って、個別の木レベルで600万本分のデータを蓄積。南アの市場の限定性ゆえに、欧州、オーストラリア市場の開拓を目指している。共同創業者がMIT出身のメカニカルエンジニアであったこともあり、創業当初はハードウェアも開発していたが、DJIの製品で十分なため、ソフトウェアソリューション領域へ特化。 https://www.aerobotics.io/
JUMO(ケープタウン) モバイル金融システムのバックヤードシステムを開発するスタートアップ。アフリカ7か国で、通信キャリアと組み、スコアリングアルゴリズムを提供。中東、アジア地域への進出も進める見込み。 https://www.jumo.world/
GirlCode 若年女性のエンジニアによる創業を支援するためのコーディングコンペ。南アのヨハネスブルグ、ケープタウン、ダーバンで予選を開催し、代表1チームをWomen in Techのイベントに送る。見学したイベントの際の参加者は30名ほどで、全員が黒人女性で、大学生が多かった。 https://girlcode.co.za/
Siliconcape ケープタウン、そして南アのベンチャーエコシステムの情報収集と発信、マッチングを行う。 http://www.siliconcape.com
Investec(ケープタウン) 南ア大手銀行のベンチャー投資部門責任者と面会。ボストンでVCに勤務経験のある人で、昨年来、南アでの投資案件を開拓中 https://www.investec.com/en_za.html
CROSSFIN(ケープタウン) 投資会社。2022にアフリカ最大のFintechの投資機構になることを目標に、各種モバイルサービスに投資 http://www.crossfin.co.za/
Aerial Monitoring System(ヨハネスブルグ) ドローン製造メーカー。アフリカ地場のニーズに対応するための森林モニタリング用、2万ドル以下かつ固定翼ドローン(4時間飛行、内燃機)を開発。製造部品は汎用品を活用して徹底的にコストダウン。 https://www.aerialmonitoringsolutions.co.za/who-we-are
EmptyTrips(ヨハネスブルグ) 物流のキャリア間のマッチングテック企業。アフリカ、中東での物流ロスを解消することを目指し、BCG出身者が立ち上げ。現在ユーザーの拡大、新製品の開発、次ラウンドの資金調達を目指して活動中。 www.emptytrips.com
Tshimologong Precinct(ヨハネスブルグ) インキュベーション施設。Wits大学、政府機関、テック企業が出資し、デジタルエコノミーの領域での起業を支援。ブートキャンプやミートアップを開催。訪問時はJ.P.Morganのブートキャンプ(12週)の開催中だった。道を挟んだところにメイカースペースもある。 www.tshimologong.joburg

先進国市場狙いの事例1:Data Prophet 
製造業向けAIソリューションを提供するData Prophetの創業者、Frans Cronje氏、28歳。機械学習を活用したサービスは色々ある得るわけですが、「現状で顧客に価値を提供できるのは、工場内の効率化だ」と考え、もっぱら工場内のソリューションに特化し、先進国市場の開拓を目指していました。

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先進国市場狙いの事例2:Aerobotics 
ドローンソリューション企業、AeroboticsのCTO、Benjamin Meltzer氏。ソフトウェアエンジニアで、「ドローン飛ばすの?何持っているの?」と聞いてみたら「いや、僕はソフト専門なんだよね」というやり取りがありました。部屋の中に一角、黒人系のスタッフが多い場所があり、聞いてみると「顧客である農家とのやり取りは黒人が主にやっているんだ」と、南アのリアリティある現状についても教えてくれました。

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新興国市場のデジタルエコノミー市場を開拓:JUMO
新興国の通信キャリアに対して、小口金融のためのスコアリングのサービスを提供しちえるのがJUMOです。2014年創業で、現在340人を超える企業に成長しており、すでにアフリカではザンビア、ガーナで市場を展開さらにパキスタン、バングラデッシュといったアジア地域でも事業展開を準備しているとのことでした。アフリカでは、MPESAを筆頭に、通信キャリアのシステム内にデポジットを預ける形でのモバイル決済が広がっているため、通信キャリアが強い顧客ネットワークに加えて各種の支払い情報を持っているたま、このデータを活用した信用スコアリングと小口融資サービスが展開できます。しかし通信キャリア側にはこうしたデータ分析の技術はない点に着目し、南アのこのスタートアップがソリューションを提供しています。南アに立地することで高いレベルのエンジニアを確保する一方で、先進国市場はむしろ見ておらず、アフリカ、アジアの新興国市場への拡大を目指している点が、南アフリカに立地するスタートアップらしい特徴だと感じました。

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インキュベーション施設の事例:Tshimologong Precinct
ヨハネスブルグのインキュベーションセンター、Tshimologong Precinct内のようす。訪問時に開催されていたJ.P.Morganのブートキャンプは「黒人スタートアップ40社を生み出すこと」を目標に、12週にわたってメンタリングが行われるプロジェクトで、オフィス内は多くの黒人企業家たちでにぎわっていました。南アではめずらしいFree Wifiを提供しており、これを目当てに、表通りには車まで集まることもあるとのこと。

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コワーキングスペースでのイベントの事例:GirlCode
ちょうど「女性月間」ということもあり、期せずして女性のエンパワーメントの文脈でのスタートアップイベントを複数見ることができました。
そのうちの一つ、GirlCodeは若年女性エンジニア向けのコーディングイベントで、南アの主要都市で予選を開催し、最終的に南ア代表1チームを、今年はアムステルダムで開催されるWomen in Techのイベントに送る、という取り組みでした。見学したのはケープタウンのお台場のような場所、ウォーターフロントにできているコワーキングスペース、Workshop17 でした。とてもファッショナブルな場所で、30名ほどの主に学生が、それぞれ3-4名のチーム分かれてアプリの開発案を練っていました。ただ依然として南アでは女性企業家、とくにテック業界ではまだまだ少数ということも事実だそうです。

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BRICs会議での議論、そして南アフリカの政策的イニシアティブ
政策的にも南ア政府はデジタルエコノミーを重視する姿勢を見せています。
筆者の訪問直前に、BRICS首脳会議が南ア・ヨハネスブルグで開催されていました(2018年7月25-27日)。
今回のテーマは「アフリカにおけるBRICS:第四次産業革命による包摂的成長と共栄のための協力」。第四次産業革命がタイトルに入っており、南アフリカのラマポーザ大統領は演説でデジタルという言葉に3回言及し、強調しています。

“Our task is to give practical expression to an economic partnership that will catapult the industrialisation of our respective economies beyond the digital age”

(July 25th, 2018, BRICS Business Forum, http://www.thedti.gov.za/brics_president.jsp)

このほかにも産業発展計画のIndustrial Policy Action Plan(2018/19-2020/21)でも“Digital Industrial Revolution(DIR)”が強調されています(http://www.thedti.gov.za/DownloadFileAction?id=1245)。

現地のベンチャー企業への聞き取りでは、政府の汚職を含む効率性の低さから、こうした政策の効果に対して懐疑的な声も多く聞かれ、むしろ民間ベースでの創業が続きそうだ、というのが現地で感じられた肌感覚でした。

期せずして感じられた中国の存在感

もう一つ、中国研究者として興味深かったのは、各所で中国に関する話がこちらから振ってもいないのにでてきたことです。BRICS会議の直後ということもあり、中国とのMOUをきっかけに、南アのハイテク産業への中国からの投資案件が立ち上がる可能性がある、という話や、ある企業では「今度ジャック・マー財団の人が会いに来る」という話も聞きました。

筆者は中国のテック企業の対東南アジア投資の状況について調べてみたことがあるのですが(「中国のデジタルエコノミーはアジアをどう変えるか?」『 タイ国情報 』2018年5月号)、どうも今後そのフロンティアはアフリカを含むものになりそうです。

「新興国×テック」の時代はあり得るか?あり得るとすれば日本企業はなにをできるのか?
「新興国×テック」の時代が来ているのか?筆者は中国ばかりを研究している人間なので、まわりの様子は見えておらず、まだ確信はありません。ヨハネスブルグでも、密集した住宅地や、公園で寝そべる若い男性をたびたび目撃し、またまともに街中を歩くことすらままならない治安状況も体験しました。テクノロジー、ベンチャー企業、ニューエコノミーといった言葉が特に空虚に感じられるような現実もまた厳然として存在しているわけです。

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ただ、また新興国経済を語る上での新しい問題群として、デジタル化が新たな論点となっていることはすでに否定できないでしょう。今後、新興国のインフォーマルセクターを、農業を、製造業を、サービス業を、女性のエンパワーメントを、開発計画を、権威主義体制を、議論する上でデジタル化が新たな論点を提起しています。

このような状況は、日本企業にも新たな課題を提起することになります。製造業を念頭に置き、そしてコストの差があるというスマイルカーブ的なフレームワークを考えると、「自国で研究開発とマーケティング、新興国で製造と販売」という分業が成り立たなくなってくるからです。

中国の深圳で生じつつある変化はまさにそうです。いままでスマイルカーブの真ん中の、付加価値の低い製造工程を担ってきた場所から、自ら開発し、自ら営業する企業が生まれてきたからです。こうした新たな状況に日本企業も対応を進めています。一歩踏み込んだカスタム化開発を中国企業と実施する事例や、ベンチャーキャピタルやアクセラレーターに出資して情報収集するような取り組みが観察されます。これまでの分業パターンとは大きくことなる取り組みです。

南アの事例で言えば、Data ProphetのようなAIソリューション企業は、先進国の製造業領域を目指していて、ソリューションプロバイダーとして候補になるかもしれません(さすがに南アだと遠いかもしれませんが)。一方でJUMOのようなアフリカと新興国に独自の営業ネットワークを持つ企業は、新興市場のモバイル決済周りの動向を把握しており、この領域に食い込んでいく上では面白い協業パートナーになるかもしれません。

筆者は、仮説としての「デジタル化と社会実装のパラドクス」、そして「新興国×テック」という問いかけは、問題設定としては、投げかけてみるに値するものだと考えています。とくに昨今の日本で、新たなテクノロジーの普及と実装が、「ソサエティ5.0」という言葉があるにもかかわらず、進みそうであまり進んでいないこの状況も念頭においています。むしろ新興国でデジタルエコノミーやそれを活用した社会実装が加速する、そのような現象があり得るのか、あるとすればなぜなのか、どのような対応が考えられるのか、引き続き検討を深めていきたいと思います。

※謝辞
この記事は、2018年8月7日、JETROヨハネスブルグ事務所で筆者が講演した「「新興国×テック」の時代が到来したのか?」の内容をもとに執筆しています。現地では根本裕之所長、高橋史さん、とりわけ高崎早和香さんに大変お世話になりました(というか引き続きエチオピアでもお世話になります)、記して御礼を申し上げます。

※記録
2018年8月8日、Version1.0. ヨハネスブルグからアディスアベバへ向かう飛行機の中で執筆。

2018年8月12日、Version1.01 誤字脱字修正。

なお、関連する着想は下記の中国について検討したものにも書いています。

「イノベーション加速都市・深圳 「新興国×テック」の時代に日本はどう取り組むのか?」『日立総研』Vol.13-1 特集「新興国に拡がるイノベーション・ホットスポット」

『電子書籍 加速都市深圳 (β版)』

関連資料:

2018年8月9日Bloomberg「アリババ会長:アフリカと「テクノロジー共有するために何でもする」」

https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2018-08-09/PD6HEM6TTDS201

2018年7月31日JETRO「BRICS首脳会議が南アで開催、保護主義への反対で一致」

https://www.jetro.go.jp/biznews/2018/07/cf7ea06120cee06e.html

Aug 24th, 2016, The World Bank, “The Importance of Mapping Tech Hubs in Africa, and beyond”

http://blogs.worldbank.org/ic4d/importance-mapping-tech-hubs-africa-and-beyond

Sep 2nd, 2015, “Is Nairobi no longer the innovation hub of Africa?”

http://www.theeastafrican.co.ke/news/Is-Nairobi-no-longer-the-innovation-hub-of-Africa/2558-2854354-view-printVersion-1olj67z/index.html

『通商白書2018』に引用されました

2018年7月に経済産業省より刊行された『通商白書 2018』の第1部世界経済編の2章3節「主要国・地域の経済動向及び対外経済政策の動き アジア」と第2部分析編:大きく転換するグローバル経済の3章2節「急速に変化する中国経済 新産業の躍進」にて報告書および論文が言及されました(RIETIの張先生に御教示いただきました、ありがとうございました)。

http://www.meti.go.jp/report/tsuhaku2018/whitepaper_2018.html

http://www.meti.go.jp/report/tsuhaku2018/pdf/bunken.pdf

インタビューが掲載されました~ダイヤモンド・ハーバード・ビジネスレビュー(ウェブ版)

ダイヤモンド・ハーバード・ビジネスレビューのウェブ版のインタビュー連載記事「Going Digital」のシリーズに「デジタル技術の社会実装に正解はない 中国IT企業から日本が学ぶべきポイントとは」が載りました。いつもの話ですが、中国で1年暮らしてみて感じた新サービス普及のスピードや、コミュニケーションの速さを紹介してみています。
http://www.dhbr.net/articles/-/5444

伊藤亜聖のページです

中国に軸足を置きながら、アジア、そして新興国の経済を研究しています。ここにはメモのような雑文を書いています。
上の写真は上海市出身のアーティスト、楊泳樑氏(Yang Yongliang)のPhantom Landscape Ⅱ (蜃市山水贰, 2007)です。山水画に見えますがよく見るとビル群で、2000年代後半の開発の様子を思わせます。Yang Yongliang Studioの許可を得てヘッダー画像として掲載しています。