Aseiito.net

~加速都市・深圳を描く~

深圳大学にて在外研究中なのでメモを書きためています。加速都市・深圳の過去と現在、珠江デルタの構造変化を描いていきます。

深圳在外研究メモ No.1 深圳大学に到着編

深圳在外研究メモ No.2 ニコ技深圳観察会 (2017年4月)そもそもなぜ「非チャイナスペシャリスト」がツアーを企画でき、なぜそれが大事なのか編

深圳在外研究メモ No.3 ニコ技深圳観察会 (2017年4月)第一日目訪問先感想編~Trouble Maker, HAX, and Jenesis

深圳在外研究メモ No.4 ニコ技深圳観察会SegMaker出張所を開設してみた編

深圳在外研究メモ NO.5 ニコ技深圳観察会 (2017年4月)二日目訪問先感想編~Trouble Maker提携工場, Dobot, Makeblock, and 柴火創客

深圳在外研究メモ NO.6 ニコ技深圳観察会 (2017年4月)三日目訪問先感想編~Ash Cloud, Seeed, Insta360, and Tencent!!!

深圳在外研究メモ NO.7 ニコ技深圳観察会 (2017年4月)を振り返る編

深圳在外研究メモ NO.8 シェアサイクルOFOを使ってみた編~スマホ電子決済前提社会におけるシェアエコノミーの広がり

深圳在外研究メモ NO.9 世界の電子街・華強北のど真ん中でレーザーカッターと3Dプリンターワークショップに参加してみた編

深圳在外研究メモ NO.10 深圳博物館で体感する改革開放編~蛇口爆破、「深圳スピード」の由来、そして圧倒的鄧小平推し

深圳在外研究メモ No.11 深圳市ソフトウェア産業基地(深圳湾)が意識高い編~Tencent新社屋、Stargeek, NAVER, そして総理コーヒー。だいたいいつ行っても何かやってる面白さ

深圳在外研究メモ No.11 深圳市ソフトウェア産業基地(深圳湾)が意識高い編~Tencent新社屋、Stargeek, NAVER, そして総理コーヒー。だいたいいつ行っても何かやってる面白さ

南山区の位置する深圳大学。北はTencentの本社ビルに接し、南は深圳市ソフトウェア産業基地に接しています。このエリアには、Tencentの新社屋(移転するのではなく、拡張するらしい…)、Baiduビル、Mangoビルなどの大きなオフィスがあり、さらに関連投資機関やアクセラレーターが設置されています。ソフトウェア産業基地は、昨年10月の深圳イノベーションウィークの会場となった場所でもあり、深圳におけるソフトウェア系企業の集積地となりつつあるようです。現時点での印象としては、「中国国内市場を念頭に置いたビジネスを展開しているソフトウェア、そしてハードウェアのベンチャーのインキュベーションをしている」ように見えました(もちろんTencent, Baiduは除く)。

このあたりが面白いのは、歩いていると「メイカーカフェ」のようなお店が立ち並んでいることで、これらの店の内部にはピッチスペースがあります。何度か現地に足を運んでいるのですが、平日でもだいたい何かしらのイベントを開催しています多くのイベントは中国語で開催されており、このエリアには外国人は少ない印象です。3W Coffeeというお店では、今日はTencentのイベントが、となりのJDミルクティカフェでは韓国のNAVERのプレゼン、さらに近くのTCLスペースでは恵州の政府系機関がきて、プロジェクトの報告会を開催していました。

この一角に、Stargeekというスマートハードウェアのアクセラレーターがあるのですが、ここがなかなか面白い場所でした。4~5人ほどのチームが30ほど入居し、このほかにより規模の大きい会社も入居しているとのことでしたが、ほぼ全プロジェクトが中国国内のもので、過去の分を含めて外国系のプロジェクトは2つのみということでした。華強北のHAXのパターン、すなわち海外のチームが来て、深圳でプロトタイピングをするものの、市場は米国を筆頭とする国外というパターンとは大きく異なり、Stargeekは「中国人による、中国市場を向いたハードウェアスタートアップ」を育てていました。

Stargeekのもう一つの特徴は、スペース内にCNCを置くだけでなく、4~5名の専属エンジニア(元工場出身)が所属し、構造設計、電子設計、機械加工、外注加工まで含めたサービスを提供し、プロトタイプ製作から量産のための準備までを行うことができる点です。彼らはこれを「供应链服务(サプライチェーンサービス)」と呼んでいたのですが、私らが利用しているSegMakerよりも、さらに踏み込んだサービスを現場で提供していました。PCBボードの製作やマウントも、そうした専用の協力企業がいるので、1~2日のスピードで試作ができるそうです。

さらにJDカフェに行くと、オープンスペースでなんだか少人数でのプレゼン会がスタート。なんだろうと思っていると韓国語で、話を聞いてみると、「深圳に興味を持っている韓国の投資家や企業家を連れてきて、ツアーをしている」とのこと。プレゼンターは韓国最大手の検索エンジン、NAVERの研究部門だと思われるNAVER LABの深圳支社長。面白いと思ったので、韓国語のプレゼンを一通り聞いてみました。正直わからない部分もあったのですが、Shanzhaiとか、Prototypeとか、AIとかでてきました。そして最も時間を割いていたのは、AMICAというAIの話。今度お話を伺いに行ってみようと思いますが、少なくともNAVERの研究拠点が深圳の南山にある、という事実に若干驚きました。もしかしたらAIの研究もやっているのかもしれません。

NAVER LABのプレゼンで結構強調していたAIのプロジェクト。Siriとかコルタナみたいな感じだろうか。

IMG_20170417_183119.jpg

Tencentの「濱海」新社屋。いったい何人入るんだろうか…。

IMG_20170417_183707.jpg

深圳市ソフトウェア産業基地の模型。この周りにTencent, Baidu, 中国航天, Mango, 創投ビルが並ぶ。

 

IMG_20170417_183324.jpg

地図。

IMG_20170417_183333.jpg

ざっと数えて15のメイカースペースというか、創業促進系の機関が入居しています。

 

IMG_20170421_171831.jpg

「深圳湾創業広場」、そのまま直球の名前です。

IMG_20170417_183834.jpg

建設中のビル。手前にはバスケットボールのコートが。試合をすることもあるのでしょうか。

IMG_20170421_145244.jpg

Stargeek入り口。

IMG_20170421_144552.jpg

Stargeekの内部。一階には4~5人レベルのチームが入居しており、机一つがひと月800元ということだった。ただし、入居プロジェクトは、基本的にはAI、スマートハードウェア関連で、実際中では家庭用ロボット、ドローン、IoT家電が目についた。

 

IMG_20170421_141919.jpg

CNCがバリバリに動いていた。試作のサンプルも見せてもらいましたが、プロトタイプ用の金属の加工もここでしていました。金型の設計もここで委託できるらしい。

IMG_20170421_142143.jpg

360度カメラのプロトタイプ。3Dプリンターかと思ったら、切削で作ったとのこと。まさに今流行の製品を作りつつある様子でした。

IMG_20170421_143655.jpg

ラボ。卓上3Dプリンター2台、レーザーカッター1台、あとはもろもろの工具が並ぶ。

IMG_20170421_143924.jpg

家庭用ロボット、億家智宝。

IMG_20170421_144003.jpg

小型ドローン。パロットのビーバップに似ているのは気のせいでしょうか。

IMG_20170421_144041.jpg

網膜スキャンでロックする金庫。

IMG_20170421_154830.jpg

NAVER LABの方のプレゼン。Why Shenzhen for Naver Labs China Office?というタイトル。まさに聞いてみたタイトルだったのですが、韓国語だったのであまり理解できませんでした。

IMG_20170421_154937.jpg

結構ベーシックなことから解説して、最後はAIの話をしていたようでした。

IMG_20170421_150233.jpg

3Wカフェで飲んだ、「総理コーヒー」。李首相が飲んだのでしょうか…。

華強北も面白いのですが、ここ1~2年で急激に開発が進んでいる深圳湾エリアもなかなか面白い動きがあります。現時点での印象では、「中国国内市場を念頭に置いたビジネスを展開しているソフトウェア、そしてハードウェアのベンチャーのインキュベーションをしている」というのが仮説ですが、学校のすぐ隣ですので、時間を見つけてインタビューをしていこうと思います。

深圳在外研究メモ No.10 深圳博物館で体感する改革開放編~蛇口爆破、「深圳スピード」の由来、そして圧倒的鄧小平推し

深圳市の中心部、駅で言うと市民中心から徒歩圏内にある、深圳博物館。初めて行ってみたのですが、「鄧小平の改革開放」を体当たりで展示している、非常に面白い博物館だと思いました。無料で開放されているので、関心のある方にはお勧めします。

深圳博物館には特設展のほかに、次の常設展があります。①野生動物の剥製エリア、②深圳の古代史エリア(石器時代から清代初期まで)、③深圳の近代史エリア(アヘン戦争から抗日戦争、国共内戦まで)、④深圳民俗展示エリア(水上生活漁民、タンミン等)、⑤改革開放エリア(1949年~)、です。このうち、特設展では私が訪問した時にはチベット仏教展が開催されており、特にラサのNorbulingkaに所蔵されている仏像群の圧倒的な存在感には驚かされました。

ただもちろん、この博物館の独自な所蔵物は、深圳に関する展示です。古代史エリアでは現地で出土した石器が並べられており、約1万年前から人類が住んでいたことがわかります。深圳に特徴的な展示としては、「海防」、つまり海上交易にともなって生じた紛争に如何に対応したのか、という展示でしょう。近代史エリアではアヘン戦争の結果、大英帝国に割譲された香港・九龍・新界に関する展示、抗日戦争と現地共産党の組織化過程、キリスト教の伝播の様子、広州から香港(ティムシャーツイ)までの鉄道の建設などが展示されています。

続いて、1949年から1970年代までの計画経済期のエリアは照明も暗く、特に文化大革命期の混乱の様子が写真で展示されています。当時、深圳と香港との間には、農民のレベルで10倍の収入格差があったため、「逃港」と呼ばれる、不法移民が続いていました。文革期の写真で、この「逃港」をまさにつるし上げている場面や、強制退去処分になった農民の写真が展示されており、計画期の苦境が垣間見えます

そしてこの博物館の展示の白眉というか、目玉は何といっても改革開放エリアです。この展示は、改革開放を体感できるように、映像、現物、ジオラマが総動員されており、明らかにほかのエリアとは力の入れようが違います。無料で見れるので、改革開放期以降の中国経済に興味を持つすべての方にお勧めしたいと思います。

まず当時の最高権力者鄧小平が経済特区の設置を認めた経緯が説明されます。「中央政府にはお金がないから、地方は自力でやりなさい」、「特区と呼んで構わない」といった鄧小平の言葉が紹介されています。展示として目を引くのは、第一には深圳蛇口の開拓の風景で、ダイナマイトで山を破壊し、海を埋めていく様子が大きなディスプレイで展示されます。第二に、大きなジオラマで再現されているのは、国貿ビルの建設現場です。当時、3日で1階分を建設し、これが「深圳スピード」という言葉の由来となった、というお話が紹介されています。わざわざこのジオラマつくるあたり、気合の入り方が違います…。

このあたりの展示には現物の展示も多いです。例えば、①中国ではじめて土地使用権の入札が行われた際に使われたハンマーや、②香港資本の進出によって始まった加工貿易で生産していたものの現物、そしてなによりも③鄧小平が来た時に植樹したスコップ、乗った車、泊まった部屋(!)が移設されて展示されています。1980年代と1990年代の展示は圧倒的に「鄧小平推し」が明確で、その後の1990年代以降は江沢民と香港返還、胡錦涛時期の社会福祉の拡充といった論点が強調されますが、前半の迫力に比べると一般的な展示という印象はぬぐえません。そして展示の最後の部屋には習近平総書記が前海を視察した際の様子を巨大ディスプレイで放映して、展示は終了です。

南方での交易史は広州の方が展示が豊富でしょうし、香港の割譲などについては当然香港歴史博物館の展示が勝ると思うのですが、深圳博物館は「改革開放」を知るのにはベストの博物館かもしれません。

 

IMG_20170418_115846.jpg

入り口。

IMG_20170418_121112.jpg

チベット展に出展されていた「仏母像」。それほど大きなものではありませんが、一見して、仏像の前からしばらく動けなくなるくらいひきつけられました。

 

IMG_20170418_140002.jpg

文革期、香港逃げる「逃港」を扇動したとして打倒される「階級の敵」。

IMG_20170418_143916.jpg

「改革開放の第一の号砲」とも呼ばれている、蛇口の山を爆破して埋め立てているようす。

IMG_20170418_144308.jpg

「深圳スピード」の由来になった国貿ビルの建設の様子。このあたりの展示は気合の入り方が違う。

IMG_20170418_145028.jpg

中華人民共和国成立以降で、初めて土地使用権の入札が行われた際に使われたハンマー。

 

IMG_20170418_145806.jpg

香港系企業の進出。下は現在のKonka。

IMG_20170418_150829.jpg

鄧小平が植樹したスコップ。

IMG_20170418_152826.jpg

鄧小平の1992年、「南巡講和」で深圳を訪れた際に乗った車。

IMG_20170418_145734.jpg

1980年代初め、加工貿易の生産品目。

IMG_20170418_154448.jpg

90年代後半、徐々に電子製品も生産開始。

IMG_20170418_155657.jpg

2000年代後半以降、携帯電話から徐々にスマートフォンへと移行。

IMG_20170418_155342.jpg

福田地区の1995年からの変化。この博物館があった場所も全くの更地だったことがわかる。

IMG_20170418_160544.jpg

深圳の「10大概念」、これが面白い。

1)時は金なり、効率は命なり

2)無駄な議論は国を誤り、実践が国を興す

3)天下の先を競う

4)改革とイノベーションは深圳の根であり、魂である

5)本を愛読することで、尊重される都市になろう

6)イノベーションを激励して、失敗に寛容になろう

7)市民の文化的権利を実現しよう

8)人にばらを送ったら、手元には香りが残る

9)深圳、ここは世界と距離がない

10)来たら、すなわち深圳人

IMG_20170418_161813.jpg

最後はやはり習近平総書記の前海視察。展示は蛇口の爆破からスタートし、前海の視察で終わる。

深圳在外研究メモ No.9 世界の電子街・華強北のど真ん中でレーザーカッターと3Dプリンターワークショップに参加してみた編

深圳に到着する前から中国のメッセージアプリWechatは使っていたので、以前来た時から知り合っていた深圳の友人のグループチャットに入れてもらっていました。例えば私が参加しているWechatのグループにはコワーキングスペースやメイカースペース系のものが多いのですが、そこからのつながりで、ある日、通知がきて曰く、4月3日、華強北でレーザーカッターの入門コースをやります、と。

Screenshot_20170331-165813.png

こんなポスターがWechatのグループに投稿されるわけです。費用は400元なので、正直安くはないのですが、参加を表明すると、今度はレーザーカッター講習会のグループチャットに招待されて、「このソフトダウンロードしてね、STLファイルでの出力できるパッチファイルは僕が明日カフェで渡すね」、と。

IMG_20170402_151800.jpg

次の日、華強北のSEGプラザのすぐ隣の「いかにも」なカフェに行き、イギリス出身のLuke(左)にソフトのパッチファイルをもらいました。彼は深圳のメイカースペースで講習会を開いていて、メイカースペースで働いていたこともあるらしいのですが、いまはフリーで活動しているそうです。右のJoiceはアメリカ出身の教師で、英語と自己表現・演劇を教えている方。彼らと話していて、深圳には、大雑把に言うと「English&STEMを教える外国人コミュニティ」があるようだと知りました。

IMG_20170402_143153.jpg

三次元描画ソフトSkechUpをダウンロードし、この日はカフェでまずは簡単な操作を学ぶところで終了。

翌日はレーザーカットを実際にやるレクチャー。華強北の東南端、SEG Plazaのすぐ隣のCparkLukeによる講習会がスタート。電気街のど真ん中での開催です。

 IMG_20170403_102847.jpg

レーザーカットの技術的な仕組みから始まり、基本的なステップをレクチャーを受けて、その後、実際にソフトで描画、そして制作となりました。

 IMG_20170403_124454.jpg

ワークショップには、使用したレーザーカッターの製造業である雷宇激光からもKenさんが参加し、細かな調整まで説明してくれました。実際にレーザーカッターを作っている人に教えてもらえるワークショップが開催されているのには驚きました。今度東莞の工場を見学させてもらえることになりました。こうしたものづくりの現場との圧倒的な近さは華強北で強く感じることです。

しばらくしたら今度は3Dプリンターのセミナーをやるとの連絡がきました。今回はソフトウェアは3D描画のRhino。一つ一つの線をつなげる必要があったりして、正直初心者には操作が難しかったです…。講師は前回のLukeに加えて、イタリア・ミラン出身で深圳でデザイナーをしているLeleさんも加わりました。彼はElectroMilan Design Studioでとくにクラブファッション系のプロダクトデザインをしています。

IMG_20170416_145335.jpg

WeChat Image_20170420142845.jpg

中山市に長く暮らしていたオーストラリア出身の家族も、子供連れで参加していました。

二つのセッションに参加してみて、面白かったことは①装置メーカーが珠江デルタに密集しており、レーザーカッターを作っている人がレクチャーに来てくれるくらい近接性があることと、②外国出身のデザイナーも深圳に拠点を持っており、コミュニティを作っているらしい、ということです。Shenzhen Fashion Weekも開催されており、深圳は「デザインの街」としての性格を強調し始めています。その典型は中国フィンランドデザインパークでしょう。このあたりの話はLukeやLeleへのインタビューをしながら、まだ今度取り上げたいと思います。

深圳在外研究メモ No.8 シェアサイクルofoを使ってみた編~スマホ電子決済前提社会におけるシェアエコノミーの広がり

中国におけるシェアサイクルの広がりは、すでに様々なメディアで紹介されています。ここでは深圳大学や深圳市内で2週間ほど乗ってみて気が付いたことを書きます。旅行者にはハードルは高いですが、とても便利で、まだまだ発展途上のサービスだと感じます。そして、こうしたサービスの背景には「スマホと電子決済が前提の社会」があり、そこにいまどのような問題があり、それがどのように解決されていくのか、注目する価値があると思います。

1.前提としてのスマホと電子決済

基本は街中に置かれている自転車を見つけ、スマホのアプリから開錠パスワード情報を得ます。以下では黄色い自転車、ofoを中心で話を進めますが、 ofoのホームページによると、中国国内の都市部以外にも米国、英国、シンガポールの合計33都市でサービスを展開しているとのことです。

Screenshot_20170402-190028.png

ofoの場合にはまず99元のデポジットをWechat PayかAlipayで支払い、実名を登録・確認し、その後の費用も電子決済での支払う必要があります。このため、シェアサイクルを利用するための前提として以下の条件を満たす必要があります。

1)スマホを保有しており、インターネットに接続されている

2)Wechat PayかAlipayがアクティベーションされている

実はこの二つの条件を満たすのは、短期旅行者では少し手間がかかります。SIMフリーのスマホを持っているとして、中国で携帯電話用のSIMカードをまず入手する必要があります。一般には、大手キャリア(中国移動と中国聯通)の路面店で、パスポートを持参していれば契約可能です。携帯と中国のネットワークアクセスを確保し、ofoとWechatをダウンロードしましょう。ここで第二の条件、Wechat Payのアクティベーションが必要です。正攻法は、中国で銀行口座を開設し、人民元を入れて、Wechatと紐づけるという手続きになりますが、中国の銀行にパスポートを持参しても、短期訪問の場合には多くの場合は断られます(中信銀行が比較的ルーズだと思います)。ただ、Shaoさんのブログ記事「中国に住んでない僕らが WeChat Pay を有効化して使う方法 (中国大陸の銀行口座不要)」で紹介されているように、友達やホテルの従業員に頼んで残高を自分宛に送ってもらい対面チャージすればアクティベートできます。

気合は求められますが、その価値はあります。

2.乗ってみよう~久しぶりに自転車に乗ろう

街中を歩いていればだいたい見つけることができますが、アプリ上に自転車の場所が表示されます

Screenshot_20170417-210952.png

乗り終わり、携帯上で決済が終わった場所をGPSで捕捉していると思われます。

IMG_20170403_074102.jpg

駅前には沢山の自転車があります。実際に行くとこんな感じです。深圳大学駅前、ofoが並んでいます。

Screenshot_20170410-141405.png

WechatかAlipayでデポジットを支払い、車両の前後のプレートの番号を入力すれば、開錠パスワードがわかるので、開錠し利用開始。利用し終わったら、施錠し、錠前のパスワードを適当に回しておき、アプリ上で費用を支払います。1時間まで1元ですが、週末は無料といった特典期間も頻繁にあるようです。快適で、とても気分も良いですし、毎日1度くらいは利用しています。

3.乗るうえでの注意~残念、その自転車は…

ofoの場合、いくつもの世代が出ているのですが、現状で深圳市内でよく見る世代の場合、自転車側にはいかなる電子機器も搭載されていません。要するに、普通のパスワード錠前付きの自転車に、車両番号プレートがついているだけです。普通の自転車なのに、「スマホと電子決済」を使うとシェアエコノミーができてしまう、というなかなか思いつかない事態が生じています(普通の発想では、自転車にGSPと電子化されたキーロックをつけよう、と考えると思います。Mobikeはこの路線に近いですが、よりコストがかかってしまいます)。したがって、ofoの場合、パスワードを一度発行してもらったものは、その自転車では実はずっと有効、ということになります。この「コストを抑えるために端末は安く」という設計ゆえに、街中でも学内でも、「シェアサイクルの私物化」という現象が散見されます。(よく考えると、以前のメモで紹介したJenesis藤岡さんのIoTビジネスの提案と、ofoがやっていることはかなり親和性があります)

この結果、シェアサイクルを利用する上では、自転車を見つけたときに、①その自転車は、自転車として成立しているかを確認し、さらに②車両プレートを読めるかを確認する必要があります。以下、いくつか見ていきましょう。IMG_20170404_081428.jpg

残念、このofoにはサドルがついていません。他を探しましょう。

IMG_20170406_065220.jpg

残念、一見乗れそうですが、ペダルがありません。他をあたりましょう。

IMG_20170403_072734.jpg残念、これは一桁目が読めません。試し打ちをしてみても良いですが、異なる車両番号を入力してパスワードが発行されても、1元かかるので避けましょう。

IMG_20170404_081452.jpg

これも同様です。番号が読めないので、他をあたりましょう。

IMG_20170415_122504.jpg残念、スプレーで塗りつぶされています。このほかにも、車両番号プレートが外されているものや、単純にパンクしているものなどもあります。

IMG_20170410_141314.jpg

ofoでももう少し電子化されたバージョンもあります。また299元のデポジットを求めるMobike社の自転車には3Gの通信ルーター(現地報道による)が搭載されており、サービス事業者によっても、端末とアプリケーションの機能には一定の幅があります。

以上のように、私物化されているシェアサイクルがとくに学内では散見されます。正直、使いたいときに、いちいち乗れるか、コード読めるかをチェックしなければいけないので、若干面倒でもあります。これはマナーの問題でもあり、また車両端末側の脆弱性に起因しているものでもあります。さらに深圳大学学内に限ってみると、学生数に対してシェアサイクルの台数が足りていないという印象を受けます。利用者側のマナー向上、端末の強化(せめてサドルは外れにくくする、とか)、そして何よりも物量作戦によって解決されるのかもしれません。駒形先生の記事「中国で急成長!利益率50%を誇る激アツ産業「シェアサイクル」とは」によると、主要なサービス提供者は今年100万台ペースでの普及させるということなので、さらに台数が増えることに期待しています。

深圳で利用していてもう一つ感じることは、ofoに代表される「物のシェアリング+電子決済」というモデルが、自転車に限定されていないということです。携帯バッテリーチャージャーのシェアリングもすでに普及しており、レストランのレジの横に置いてあったりします。そしてシェアエコノミーを利用しているのは、いわゆる若者に限定されていません。朝、ofoに乗って工事現場に向かう土建屋さんを見ますし、充電バッテリーを借りる壮年の方も普通にいます。「スマホと電子決済が前提の社会」で、IoT応用サービスの開発と普及が進んでいるのです。「たかが自転車の共有か」と捉えるのではなく、その前提となっている技術的・社会的背景や、それを活用しようとする企業家の存在を視野に入れて、こうしたシェアエコノミーにも注目が必要だし、またその価値があると感じています。

IMG_20170406_195458.jpg

レストランの受付。左端にある端末がシェアバッテリーの端末です。

IMG_20170406_195013.jpg

暗くなってしまっているのですが、AlipayかWechatでQRコードを読み、デポジット100元を入れるとバッテリーを引き抜くことができます。

Screenshot_20170406-213638.png

私の場合、1時間49分利用して、費用は1元。返却するとデポジットから99元が戻ってきました。

 繰り返しになりますが、深圳で生活していて感じることは、ofoに代表される「物のシェアリング+電子決済」というモデルが、自転車に限定されていないということです。そしてシェアエコノミーを利用しているのは、いわゆる若者に限定されていません。朝、ofoに乗って工事現場に向かう土建屋さんを見ますし、充電バッテリーを借りる壮年の方も普通にいます。「スマホと電子決済が前提の社会」で、IoT応用サービスの開発と普及が進んでいるのです。プラットフォームになっているのは圧倒的にスマホと紐づけられたAlipayとWechatで、この先にさらにZhima信用のような個人の信用力を評価する仕組みがあります。たかが自転車の共有か」と捉えるのではなく、その前提となっている技術的・社会的背景や、それを活用しようとする企業家の存在を視野に入れて、こうしたシェアエコノミーにも注目が必要だし、またその価値があると感じています。

伊藤亜聖のページです

 中国に軸足を置きながら、アジア、そして新興国の経済を研究しています。ここにはメモのような雑文を書いていこうと思います。
 上の写真は中国広東省、深圳市の海上世界という場所です。昔は海だったようですが、いまでは埋め立てられて、ファッショナブルなショッピングモールやバーが並ぶ場所になっています。