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深圳在外研究メモ~加速都市・深圳を描く~

深圳大学にて在外研究中なので、フィールドワークのメモを描きためています。加速都市・深圳の過去と現在、珠江デルタの構造変化を「描い」ていきます。「書く」のはもう少しあとでやります…。

深圳在外研究メモ No.1 深圳大学に到着編

深圳在外研究メモ No.2 ニコ技深圳観察会 (2017年4月)そもそもなぜ「非チャイナスペシャリスト」がツアーを企画でき、なぜそれが大事なのか編

深圳在外研究メモ No.3 ニコ技深圳観察会 (2017年4月)第一日目訪問先感想編~Trouble Maker, HAX, and Jenesis

深圳在外研究メモ No.4 ニコ技深圳観察会SegMaker出張所を開設してみた編

深圳在外研究メモ NO.5 ニコ技深圳観察会 (2017年4月)二日目訪問先感想編~Trouble Maker提携工場, Dobot, Makeblock, and 柴火創客

深圳在外研究メモ NO.6 ニコ技深圳観察会 (2017年4月)三日目訪問先感想編~Ash Cloud, Seeed, Insta360, and Tencent!!!

深圳在外研究メモ NO.7 ニコ技深圳観察会 (2017年4月)を振り返る編

深圳在外研究メモ NO.8 シェアサイクルOFOを使ってみた編~スマホ電子決済前提社会におけるシェアエコノミーの広がり

深圳在外研究メモ NO.9 世界の電子街・華強北のど真ん中でレーザーカッターと3Dプリンターワークショップに参加してみた編

深圳在外研究メモ NO.10 深圳博物館で体感する改革開放編~蛇口爆破、「深圳スピード」の由来、そして圧倒的鄧小平推し

深圳在外研究メモ No.11 深圳市ソフトウェア産業基地(深圳湾)が意識高い編~Tencent新社屋、Stargeek, NAVER, そして総理コーヒー。だいたいいつ行っても何かやってる面白さ

深圳在外研究メモ No.12 深圳で生活していて得られた情報編~青色ダイオード中村修二先生ラボ開設、DJI本社ビル建設、習近平広東指示の学習会

深圳在外研究メモ No.13 深圳大学北側の麻雀嶺工業園区付近を歩く編~元工業団地には ロボットスタートアップ、木工工房、コワーキング、メイカースペースが入居。「工場」からの脱皮を体感できる場所になっていた

深圳在外研究メモ No.14 ドローンスクールに入学してみた編~アプリ学習、Alipay支払い、そして総括は漢詩

深圳在外研究メモ No.15 デザインウィーク見学編~ガラス工場をリノベーション。主会場はプロダクト展。別会場の青葉益輝のポスターを来場者はじっと見ていた

深圳在外研究メモ No.16 3Dプリンター工場見学編~デジタルファブリケーション機器の製造現場はきわめてアナログだった

深圳在外研究メモ No.17 CUHKSZにMary Ann O’Donnelさんのレクチャーを聞きに行く編~「深圳人」をめぐる政治、経済、そして文化的解釈。「本地人は政治的に作られうる」、「本質的には深圳人とは自らを改造した人を指す」

深圳在外研究メモ No.18 アニメイベントで実況中継アプリ花椒の威力を知る編~学生グループが楽しく実況。平均課金額は200円でも、最高課金者は1.4億花椒豆(約2億3千万円)課金

深圳在外研究メモ No.19 海外政府系テックプロジェクトと深圳のつながり編~深圳の、そして中国の新しい経済、新しいエコシステムと自国をつなげようとしているプロジェクトが続々

深圳在外研究メモ No.20 Makeblockの創業者Jasen Wangの視野と初の主催イベントを見た編~深圳の真ん中で子供たちはMakeblockを遊びつくす

深圳在外研究メモ No.21 深圳のなんとなく大事なエリアの風景写真をまとめる編~徐々に成長の極は西側へ

深圳在外研究メモ No.21 深圳のなんとなく大事なエリアの風景写真をまとめる編~徐々に成長の極は西側へ

ある方に頼まれたこともあり、ひとまずこの50日ほどで深圳で撮影した写真を整理しました。合計8,128のファイル(写真と動画)があるので、大事そうなエリアを並べます。基本は建物の写真ですが、それぞれのエリアに入居している企業や人についてはそれぞれリンクを張るので、そちらをご参照ください。(一部地域区分に誤りがあるかもしれませんが、ひとまずの印象でまとめます)

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日本語で有用な地図として上記の高須さんたちが作成した地図が有用です(ニコ技深圳観察会まとめ(過去のブログポータル)に掲載されています)。

深圳の面積は2,050km²で、東京都の2,188 km²よりも若干小さい程度です。東側の羅湖にアヘン戦争後に広州と香港を結ぶ列車の国境が設定されたこともあり、羅湖が長らく深圳の中心でしたが、特に1978年改革開放以来、このエリアが発展してきました。その後、2000年代に西側の福田、さらに2010年代に南山区の再開発が急ピッチで進んでいます(埋め立てを含む)。羅湖、福田、南山エリアにはほぼ工場は見かけなくなっています。現在ではさらに西の宝安に新空港ができ、さらに大きな展示会会場の建設も進んでいます。西の宝安、北側の龍華・西麗エリア、東側の龍崗エリアにはまだ工場が残っていますが、移転を検討している企業が多いのが現状です。

 

1)羅湖エリア~かつて「深圳」はここを意味したが、今はむしろ一番古く感じる場所

香港から入る一番の入り口のエリア。かつては「深圳に行くとは羅湖に行くことを意味した」そうです(ブログNo.17参照)。ここを見て、「なんだ深圳、中国なんてぼろっちいな」と思う人が多いと思いますが、正直ここが一番古くなっています。新しい深圳はここではありません。

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香港との境。

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羅湖口岸エリア。古からの言い伝えによると、香港から入国し、写真奥のシャングリラホテルに入居するまでの道でスリにあう、という逸話がありました。それくらい1990年代までは危険ゾーンだったと聞いたことがあります。いまは全然安全です。

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ライチ公園横、鄧小平ポスター。「党(共産党)の基本路線は100年動揺しない」。

2)華強北~「ハードウェアのシリコンバレー」のイメージをつかむのに最適

地球上で最大の電子街・華強北。電子部品がともかく大量に販売されている。適当に歩いていると外国人バイヤーも沢山おり、話しかけるとバングラデッシュ人で、無線ルーターを買い付けていたりします。

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華強北(空撮しました)

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ニコ技深圳観察会として私が入居しているメイカースペース、Segmaker。メモのNo.4参照

SEGビル2階の電子部品売り場。

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休日の早朝の深南大道。

3)福田中心部

行政とショッピングの中心部。深圳市政府、展示会会場(会展中心)、証券取引所、ショッピングモール等々。

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会展中心(展覧会会場)。ここでは頻繁に電機電子系の展示会が開催されており、その様子は高須さんのダイヤモンドの記事「深センの電機ショー、最先端からパクリまでのカオスな面白さ」参照

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会展中心1号館。

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会展中心の前方。

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平安ビル(建設中)。カッコよすぎるビル。

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ショッピングモールCOCO PARK。ここで開催されていたMakeblockのSTEAM教育フェスタはブログNo.20を参照。

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市民中心近く。

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深圳博物館。中での展示はブログNo.10を参照。

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中国フィンランドデザインパーク。

4)南山区~新興ハイテク企業の集積地はこのエリア

南山区も大きいですが、一言で言うとテンセントビルがある辺りいがアツイ、と思います。

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手前が深圳大学の北端の建物(文科楼)、左手奥がTencent本社ビル。右側にこれまた巨大なびるを建設中。その並びにはHTC VIVEビルなどもあります。

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深圳大学中心部から、南側を空撮。奥に見えるのがソフトウェア産業基地(空撮しました)。

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深圳大学学内の池から東側。四方にビルが見えます。

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ソフトウェア産業基地エリア。ブログNo.11を参照。

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ソフトウェア産業基地エリアのテンセント新社屋。まだ未稼働ですが、いったい何人はいるのか、という巨大さです。

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ソフトウェア産業基地エリアの百度(Baidu)ビル(左)。

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追加。ソフトウェア産業基地エリアの全景(空撮しました)

20170425_164654274.jpg歓楽海岸、DJIの旗艦店(空撮しました)。

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蛇口エリア。港があります。

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前海エリア。

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蛇口、デザインウィークの会場。デザインウィークはブログNo.15を参照。

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白石洲の城中村(Urban Village)。出稼ぎの人が多く住んできた地域。ブログNo.17で紹介したMaryさんのように、こうしたエリアがなくなることを危惧する人もいます。

5)華僑城(OCT)~元KONKA工場がおしゃれデザイナーエリアに再開発

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6)西麗方面~北側の新興開発エリア

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Makeblock本社周辺。MakeblockについてはブログNo.20参照。

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柴火創客の新たなメイカースペース、Xfactory周辺。

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Xfactoryへの入り口。XfactoryについてはブログNo.6を参照。

7)郊外~いわゆる元の「特区外」エリア

深圳の西部エリア、宝安地区も開発ラッシュです。

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宝安中心駅横で建設中のプロジェクト。

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宝安中心駅から少し歩いたところ。開発待ちの空き地で、ドローンスクールではこのあたりで飛ばしています。ドローンスクールについてはNo.14を参照。

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深圳の東部、現在の地下鉄の東端、双龍駅。

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双龍駅のさらに先にBYDがあります。見学しましたので、機会を見つけて紹介したいと思います。

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大運(Universiade)駅周辺。

(ひとまずここまで。時折加筆します)

深圳在外研究メモ No.20 Makeblockの創業者Jasen Wangの視野と初の主催イベントを見た編~深圳の真ん中で子供たちはMakeblockを遊びつくす

中国のメイカーズムーブメント(≒スタートアップムーブメント)の中から登場し、ハードウェアアクセラレータHAXの第一期卒業生という意味でも「新しい深圳」を代表する会社の一つMakeblock。NHK BSの番組では深圳市政府系の投資ファンドから約1億元を調達する過程が放送されていました。STEM教育向けのロボットを開発製造し、キックスターターでは当初苦労したそうですが、現在では主力製品mBotに加えて様々な派生製品やさらにドローンまでをリリースしています。

1)HAXトークイベントでのJasenの発言要旨

Makeblockの創業者、Jasen Wang(王建軍)の話は4月18日にアクセラレータHAXのワークショップにて聞くことができたのですが、その中身は刺激的でした。

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2017年4月18日、深圳華強北のHAXでのワークショップの様子。左端がJasen Wang、右端がBenjamin。

  1. 2013年に創業し、2017年4月現在従業員数は400名に達した。そのうち50名は自社工場にいる。全従業員が深圳におり、ほぼ全員が中国人である。
  2. 創業の前、ともかくお金がなかったのでアクセラレータHAXに応募した。お金がほしかった。私は一人でHAXに応募した唯一の事例ではないか。
  3. 2014年にRadioshack(要確認)から300万元の注文を得たが、当時の従業員数は20名で、この規模のオーダーに応える体制はできていなかった。資金も尽きてかけていたが従業員には全く言えなかった。高利貸しから100万元を借りて、2か月後に110万元を返して乗り切った。その後は資金調達もできて、資金に困ったことはない。現在ではサプライヤーにはパーツが納入されてから45~90日後に代金を支払っているため、キャッシュフローの問題もない。(コメント:ここでの300万元の受注が、Makeblockにとって最初の成功、「第一桶金」だったのだと思われます、この点、今度また確認します)
  4. 深圳にはこの手のスタートアップとして参考になる会社はなかった。だれもキックスターターには挑戦していなかったし、DJIもHUAWEIも参考にはならなかったので、定期的に自分自身の決定を振り返りながら進めていった。
  5. 2015年はCOOを探していたが、結局選定した人が自分の考えと違い、二人で一つのハンドルを取り合っているような状況になったため、彼には辞めてもらった。
  6. 創業しようと決めたその日から、まずはMaker向け製品、次にSTEM教育用、そして最後に一般コンシューマー向け製品を展開すると決めていた。Makerは製品に多少問題があっても自ら直してしまうが、一般消費者はそうはいかないため、各段階でよりユーザーへの細かな配慮が必要である。

Jasenは「僕は社交的なやつじゃないんだよ」と言いながらも、自信に溢れて今後の展開も描いて見せていました。エンジニアでありながらも、何よりも野心を持つ企業家であることを強く感じました。

2)STEAMカーニバルでみた活気

2017年5月13-14日、深圳市福田のショッピングモールCOCO PARKにて「第一回 深圳市STEAM科技クリエイティビティカーニバル」なるイベントがありました。Makeblockが出展するということで行ってみたところ、むしろMakeblockの一社単独でのイベント開催でした。二日間でどのくらいの参加者が来ていたのか不明でしたが、会場は大きくないものの、子供連れで大変にぎわっていました(公式の回顧サイトはこちら)。

会場で感じたのは、「とにかく子供に触ってもらおう」としていることでした。アトラクションを5つ体験すると、くじ引きができるようになっており、子供たちは様々なMakeblock製品を触るという仕掛けです。運よくJasenにも話が聞けたのですが、子供に触ってもらうこと、そして「STEM教育とは何か」を親に知ってもらうことを主眼に置いているとのことでした。STEMを理解してもらえば、子供たちが最初に触ったこの製品を選ぶだろう、というブランディング戦略だと説明してくれました。またMake Xという初めてのロボットバトルも、開催されており、大変活気に溢れていました。

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ショッピングモールCOCO PARK中庭をMake Blockが占拠。モール内にはイオン、ユニクロ、ラコステ、テスラモーターなどが入居しています。

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会場となりは平安の新ビルが建設中。COCO PARKはまさに深圳のヘソという場所の一つです。

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日曜日(14日)午後の様子。ダンサー、DJ、コスプレイヤーも登場して、会場を盛り上げていました。

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メインアトラクションである、MAKE X。キットからロボットを制作して、相手陣内のピンを倒す対戦ゲームで、トーナメント方式。Jasen曰く、操作しているのは高校生だが、今回はMakeblockのエンジニアが基本的に個別のロボットを制作したとのことでした。

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mBotサッカー。

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ドローンにもなるAirblockをホバークラフトにして、動かすアトラクション。操作が結構難しいので、子供たちは真剣な目になっています。

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キャタピラーを動かして一周するアトラクション。

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針金がついたmBotをタブレットで操作して、風船を割るアトラクション。

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タブレットのボタンを押すと、コメントを付けたバーが横から登場。中国で流行中の実況アプリをまねたアトラクション(ふあじゃおについてはブログNo.18を参照)

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MITメディアラボのプログラムツールScratchを疑似体験できるゾーン。(PETSのアイデアをフィジカルに再現したような感じでした)

 

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運よくJasenとまた会えました。このパネルはWeChatのモーメンツと呼ばれる近況を投稿する画面を模してあります。そこのコメントがユーモラス。达康书记は現地で一大ブームを巻き起こしているTVドラマ「人民の名義」の登場人物で、彼が「いいね」を連発し、隣のおじさんが「あいつの家はSTEM教育をしているんだよ、先月うちの息子にmBot買ってくれたよ」と言い、Microsoftが「Makeblockとはうちも協力してるよ~」などと言っています。

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もう一つ印象的だったのは、イベントが終わると撤収が始まるのですが、Makeblockで働いている人はみんな手がよく動くというか、手際よくものの10分足らず(5分くらい…?)でロボットバトルのステージをバラして片づけてしまうのはなかなか壮観でした。

深圳在外研究メモ No.19 海外政府系テックプロジェクトと深圳のつながり編~深圳の、そして中国の新しい経済、新しいエコシステムと自国をつなげようとしているプロジェクトが続々

このブログシリーズで取り上げているように、深圳市が中国のなかでも注目されるテックベンチャーや実験の都市になっています。このことを反映して、国外から深圳への注目度も高くなっており、WIREDの動画Shenzhen: The Silicon Valley of Hardware、The Economistの記事 SPECIAL REPORT “Jewel in the crown: Welcome to Silicon Delta Shenzhen is a hothouse of innovationを筆頭に挙げることができます。

さらにこちらで色々と歩いていると、「国外政府系の出先機関」だけど、いわゆる深圳の下請け工場時代には絶対なかったようなプロジェクトが動いていることに気が付きます。先に結論を書いておくと、総じて、深圳の新しい経済、新しいエコシステムと各国をピンポイントでつなげるという共通性を見出すことができます。自分で見たり、直接当事者からお話を伺えている事例のみ書きます。

1)Sino-Finnish Design Park

深圳市は2013年6月にフィンランドのヘルシンキと姉妹都市協定を結んでいます。これをきっかけに1年5か月後の2014年11月にSino-Finnish Design Parkが開業。深圳市が力を入れるデザイン力を高めるためにこのデザインパークが開設され、国内外のデザインハウスや関連スマートハードウェア企業を誘致し、現在41社が入居が進んでいます。 福田にあるSIDA(Shenzhen Industrial Design Profession Association、深圳市工業設計行業協会)の大きな開発区内にあり、おそらくこの一帯は少し前まで工場または倉庫だったと思われるエリアです。

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55度に中身を保つ保温瓶。展示室には色々なプロダクトが並んでいます。

 

2)KOTRA深圳オフィス

日本で言うとJETROにあたるKOTRAはどうも中国国内の拠点の数が多いようで、深圳にも会展中心のすぐ近くにKOTRA深圳事務所が設立されています。この事務所は2014年12月に開設されており、その事業内容は興味深いです。一つは展示会の開催業務で、これはまあ普通なのですが、もう一つは韓国のAR/VR、ロボティクス、医療、ビッグデータ、画像認識系のスタートアップを深圳に連れてきて、こちらの投資家とのマッチングをやっています。シリコンバレー、イスラエル、シンガポールに続く第四のベンチャーのハブとして深圳を位置づけてサポートを行っているそうです。

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KOTRAの入るビル。

3)La French Tech Shenzhen

ラスベガスのCESでもフランスのベンチャー企業の数が米国、中国に次ぐ数だったことが注目を集めていました(日経記事「ブラブラカーだけじゃない 仏スタートアップが熱い」等参照。)。この背景の一つに言われているのが、フランス政府が推進するフレンチテック(La French Tech)というネットワーキングとアクセラレーション政策です。上記の日経の記事では、スタートアップを外に出して「火をつけ」、メンターとファンドをつけて「アクセラレート」する点が紹介されています。HAXのBenjaminもLa French Techを高く評価していて、観察会で訪問した際にも、失業保険をもらいながらスタートアップをできるし、みんなそれが当たり前だと思っている環境も含めて大事だ、という話をしていました(この点、Benjaminさんのプレゼン資料にも表れています:How to create 1,000 SONY)。

La French Tech深圳プログラムは2016年10月に正式スタートしており、Cecileさんにお話を伺ったのですが、活動内容としては①“Discover the Local Ecosystem”ツアーの開催(次はこれ)、②“École Centrale Graduates“プログラムと呼ばれる元留学生をフレンチテック関連企業を訪問するツアー、③毎月の深圳のバーでのカジュアルなミートアップ、④その他HAXなどでのミートアップやピッチイベントの開催とのことでした。

Ambassadorsと呼ばれるメンターには、HAXのBenjamin、Parrotのアジアパシフィックの代表TCHEN Elise氏、TCLのCHAMBON François氏 、ST MicroelectronicsのLECONTE Damien 氏が名を連ねています。日常的にはWeChatのLa French Tech Shenzhenのグループに100名ほどのメンバーがいるとのことで、ここで様々な情報が交換されているそうです。

Le French TechはHong Kongにすでに拠点があるらしく、そことの協力もしながらイベントの開催を行っているそうですが、香港ではコンサルタント事業が多い一方で、深圳はハードウェア系が強いため、プロジェクトとしては必ずしも一体感があるとは言えないそうです。La French Techの国外での仕組みは、話を聞いても正直まだよくわからなかった(というかかなり自由にやっていそうな感じだった)のでまた今後Cecileさんに教えてもらおうと思います。

Cecileさんご自身はワインを輸入し、それにQRコードやアプリケーションによるワインの特徴や体験を付加するようなアグリテックビジネスを展開しているそうです。

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観察会の時にもHAXのBenjaminは日本で起業する人を増やすうえで、La French Techが参考になると言及していました。

 

4)British Council “Hello Shenzhen” program

英国の文化事業であるブリティッシュカウンシルのプログラムでも、深圳のメイカーズムーブメントのコアメンバーを英国1か月呼び、英国のメイカースペースを訪問するツアーを開催しています。Hello Shenzhenプログラムと名付けられており、深圳側のファンド(深圳市国際交流合作基金, The Shenzhen Foundation for International Exchange and Cooperation)もついて費用がねん出されたそうです。深圳観察会で、柴火創客のVioletさんがこの体験をシェアしてくれたのですが、おおよそ下記の内容でした。

①4週間で3都市(London, Edinburgh, Cambridge)を訪問し、20社のベンチャースタートアップに面会、11のメイカースペースまたは組織を訪問

②深圳のメイカーが技術を重視したスタートアップとしての性格が強いのに対して、英国のメイカーたちはSocial Impactを重視している(例:METTLEという会社は視覚障碍者向けのイヤホンを開発)

 

深圳観察会にてイギリス訪問のプログラムを紹介してくれた柴火創客のVioletさん。

また、2017年5月13日、文化産業博覧会の分科会として、SIDA事務所にて”Hello Shenzhen”プログラム(第二回)の経験シェア会が開催されました。「創客西遊2.0」、つまり「メイカー西遊記2.0」というキーワードが的確で、基本的にはどの参加者もVioletさんと類似した英国と深圳のメイカーズカルチャーの差異を感じていたようでした。ツアー参加者10名のうち、4名はハードウェアメーカーや工業デザインハウスの青年創業者でした。

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深圳観察会にてイギリス訪問のプログラムを紹介してくれた柴火創客のVioletさん。

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“Hello Shenzhen”プログラム(第二回)の経験シェア会の様子。

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柴火創客のVioletさん。深圳+ロンドン+アムステルダム+成都、というフレームで新しいメイカーズの交流プロジェクトを準備中とのこと。パワフルな人達をつなげると、こうした新しいプロジェクトにつながっていく。

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オープンソースハードウェア・ラズパイで作ったロボットを、マインクラフト側でコントロールしてみよう、というプロジェクト。

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車いすを誰でもオーダーメイドのように調整できるようにしようというプロジェクト。英国側のメイカーが強調する”Social Impact”に影響され、こうした新しいプロジェクトに中国側の工業デザイナーが参画。

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「メイカー西遊記2.0」のメンバー。

 

5)そして日本はどうなのか?

ご覧の通り、かなりピンポイントで深圳のニューエコノミーを狙い撃ちにしたようなマッチングプログラムが動いていることがわかります。私も深圳に住みはじめて1か月なので、まだわからない部分もありますが、少なくとも上記のように政府が予算をつけている形で、日本と深圳(または中国)の新しいエコシステムやニューエコノミーをつなげようとしているプロジェクトは聞いたことがありません。このような不作為が深圳だけで起きているのであればまだいいのですが、もし仮にほかの世界のイノベーションの拠点でも生じつつあるとしたら、それは日本にとってはもったいないことだろうと感じます。民間でやればよい、という考えもあり得ますが、上記のような各国のプロジェクトが2014年からの2~3年で急激に動きつつあり、まだどれがベストプラクティスかはわかりません。それぞれの国ごとに状況は異なるので、答えはそもそもないのかもしれません。ただ、新たな越境したスタートアップやメイカーたちのコミュニティが生まれつつあるのを見ることができます。

日本の場合、とくに支援もなく自腹だけで運営されているニコ技深圳観察会がこうしたネットワーキングを担っているのは、正直例外的でもあり、逆にすごい気もします…。また、METIのフロンティアメイカーズ、JETROやJST(科学技術振興機構)は広い意味ではすでにこうした取り組みをやっているともいえますし、すでに日本からも視察にはたくさん来ているようです。

深圳在外研究メモ No.18 アニメイベントで実況中継アプリ花椒の威力を知る編~学生グループが楽しく実況。平均課金額は200円でも、最高課金者は1.4億花椒豆(約2億3千万円)課金

深圳市内の遊園地「歓楽谷(Happy Valley, Huanlegu)」で「次元の壁を打破しよう」といううたい文句のアニメイベントが開催されていたので少し見てきました。

イベントの内容としては、参加者公募式で、アニメやゲームに関連する歌や劇を一般人が披露し、最後に表彰する形式です。細かくはわかりませんが、予選がずっと開催され、最終日に20組ほどが残っていました。日本語のアニメソングを歌う人が半分くらいで、日本のコンテンツの強さを感じたわけですが、現地で見学していて一番面白かったのは、スマホアプリで中継をしているグループがいくつかあったことです。

 

1.実況中継のグループに声をかけたら深圳大学の学生だった

写真はエントリーの下に並べてありますが、アニメイベントの一角で、5人組で脚立にスマホを乗せて、何やら実況しているグループが。メインの実況者は軽くコスプレをしている綺麗な女の子で、その周りで4人がサポートしています。さっそく声をかけてみると、実況は「花椒直播」アプリを使い、主に実況しているのは深圳大学2年生の66(りゅーりゅー)さんで、それ以外の人はみな社会人だけど、アニメやコスプレが好きで、66さんの活動をたまにサポートしているメンバーとのことでした。実況中継開始時にはほとんど見ている人はいなかったのですが、後半はリアルタイムで7500人を超えるユーザーが彼女のこの実況を見ていました。逆にインタビューされて、私も花椒に若干ですがデビューしました。

 

2.花椒(ふあじゃお、Huajiao)の概要

花椒(ふあじゃお、Huajiao)についてはすでにいくつかの記事で紹介されています。例えば「中国、スマホの中の「女神」たち 私生活さらし月収200万円」などで、主に女性の実況者が実収入を得ているという点が報道されています。「【中国EC】1年足らずで急成長「生放送アプリ」のパワーがすごい!」では類似サービスと広告料まで掲載されています。中国の企業系列でいうと、アンチウイルスソフト大手の奇虎360系列です。

もう少し利用の手続きとビジネスモデルを確認しておくと、

1)アプリをダウンロードしたら、誰でも視聴はできる。ブラウザからの視聴もできる。おそらく一見してその雰囲気は伝わると思います。

2)中国の携帯電話番号と紐づけることでコメントの書き込みができる

3)WeChat PayやAlipayとリンクすることで、アプリ内通貨「花椒豆(Huajiaodou)」を購入でき、これを気に入った実況中継者にリアルタイムで贈れる。もらった側は電子通貨や銀行口座に換算して振替可能(換金時の換算率は普通配信者で75%、優秀配信者で80%との報道あり。要確認)。要するにデジタル投げ銭ができる。

4)アプリ内通貨に当たる豆は、60豆6元から課金可能。購入量を増やしても割引は一切なし。10豆1元=16円なので、1豆1.6円から「実況乙です!」とデジタル投げ銭ができる。

5)中国の身分証で実名登録すると実況ができる。なお、Alipayの機能である、芝麻信用(Zhima Xinyong)とリンクさせることで、手続きはワンクリックで終了する。ちなみに実況画像をリアルタイムで「可愛く」修正することもできる。中国の身分証を持たない外国人は「信頼できる友人の身分証番号をいれる(この場合この友人のアカウントに入金される)」か別途カスタマーサービスに問い合わせてくれ、とのこと。

6)花椒運営側の収入は①デジタル投げ銭の換金差額(1元課金したら0.2元は確実に運営側のものになる)、②アプリとしてデイリーで500~1000万人が利用するので広告料収入が大きい、そして③花椒豆として預けられている多額の資金の運用、この三つが主要な収入だと思われる。

第三の投げ銭ができることが決定的で、これによりプロ、セミプロの実況中継者が続出し、ユーザーも増加しているようです。2015年6月にリリースされ、2016年6月にアクティブユーザー1000万ユーザーを超えたそうです。

 

3.課金額

現地記事「花椒直播发布首份年度大数据报告 详解直播行业发展现状」によると…

1)2016年の実況中継者が得た贈り物の回数は50億回、この中には無償のものも含まれているので、換金できる「花椒豆」の総収入は1.28億元(1元16円換算で20.48億円)。

2)課金している人の内訳は自営業27.8%、会社職員18.9%、産業・サービス業従業者14%、会社管理・経営者11.7%、大学教授6.3%(本当なのか…)。大学教授の課金額は5000万元に達したそう。

3)大学生が実況するのは一番多いらしく、毎日10万本の実況が行われている。学生で最高の収入を得たのは、190万元(3040万円)。

2016年の総課金額20.48億円を、ユーザー数年央のアクティブユーザー数1000万人で割ると、204.8円になりますので、割とあり得る金額になっています。ただ、高額課金者はけた違いです。アプリ内で「今日の最高課金者」とか「累計最高課金者」を見ることができます。それによると、2017年5月7日夜12時時点では、1位は1.44億花椒豆を人に贈っており、1440万元、つまり2億3040万円を課金しています。クラッシュオブクランなどの世界的なスマホゲームではこのくらいの課金があり得るのでしょうか…。

4.ひとまずの感想

ちょっとした感想をメモしておくと、66さんはあまり投げ銭には関心を持っていない感じで、趣味で好きなことを実況している層のようでした。一方で、アプリ内には美女が踊って歌ってしゃべって、露骨に課金あおるような雰囲気もあります。シェアサイクルやシェアバッテリーを紹介した回とも共通することですが、「スマホと電子マネー」が結合することで、誰もがその場で課金できるようになったことで、このような実況中継アプリの興隆が起きているのでしょう。この他に中国や東南アジアで感じることですが、自撮り文化が強く、こうした配信が広まりやすい土壌もあるように思います。

 

※補足

なお、このような番組を通して、「過度なお色気」番組を配信したり、「国家転覆」などを意図した場合には即配信停止かつ実名登録なので場合によっては逮捕されるようです。利用規約を参照。

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イベント会場の一角で実況中継するグループ。中央が66(りゅーりゅー)さん。右のサポート役は機材を運んだり、する機材担当で、左側はサポートで会話に参加したり、コメント欄を盛り上げる役だった。あともう一人の男性はカメラマンで、女性も時々66さんと会話しながら盛り上げていく感じ。

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画面ではこのような感じ。右上に表示されている7,343人がリアルタイムで見ている。画面下のチャットには、入室、発言、贈り物がタイムラインで流れていく。例えば、画面中央左側には「中継おつです×11」と表示されていて、11豆が66さんに贈られている。ちなみに66さんの花椒号(ふあじゃおアカウント)は115464146です。なお、中堅の実況者で視聴者数万人はざらのよう。

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サポートメンバーも手伝いつつ実況。機材はスマホ、脚立、ワイヤレスマイクのみ。データ通信料だけが気になる。

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2時間にわたる実況の終盤。66さんは「午後は授業だからそろそろ中継終わるね~」と去って行った…。ポーズといい、装備といい、溢れる「RPGのパーティー感」。

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タグには「歌唱」、「アウトドア」、「踊り」、「楽器」、「星座」など色々あるなかで「キャンパス」を見ると確かに全国の大学がヒットする。特に芸術系の学校が目立つが、もしこちらに留学中の方がいたら、学内で誰が中継しているか探してみたらいいかも。タグのなかには「顔値」なるものまである。

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他の実況者の画面。5.8万人が視聴しており、総累計で330万豆(=33万元、528万円)を受け取っている実況者。画面下に課金アイテムやイベントアイテムを選択でき、「実況お疲れ様」が1豆(0.1元、1.6円)、右側のよくわからないアイテムは19,999豆なので、1,999元、つまり31,984円の課金アイテムをワンクリックで実況者に贈ることになる。

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地味にゲームや将棋、麻雀を実況する人たちも。

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課金ランキング。上位は1億豆、つまり1000万元(1.6億円)くらいの課金。北京、上海、広州、深圳のいい場所にマンション一部屋か場合によっては二部屋買えるくらい課金をしている。

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同時点で二位だった(直前まで1位でした)の「星爷」さんは1.2億豆を送っていますが、フォローしているのは一人の実況中継者のみ。ハードコアなファンであることを感じさせる。ユーチューバーの場合には何よりもアクセス数を増やすことが重要ですが、花椒ではコアなファンを深掘りする戦略が有効。

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受け取り側ランキング。豆の数に1.6をかけた円をもらっているので、最上位は数千万~億豆クラス、1億円くらいを稼いでいる。日本人ユーチューバーでいうとHIKAKINさんやマックスむらいさんクラスか。

 

追記

東洋経済に記事「色気で稼ぐ「生中継アイドル」を量産する現場 上海のアイドルマネジメント会社を直撃」が面白いです。実際、わたくしが取り上げている上のグループも、後日わかったことですが、メディア会社の支援がありました。

http://toyokeizai.net/articles/-/171337

深圳在外研究メモ No.17 CUHKSZにMary Ann O’Donnelさんのレクチャーを聞きに行く編~「深圳人」をめぐる政治、経済、そして文化的解釈。「本地人は政治的に作られうる」、「本質的には深圳人とは自らを改造した人を指す」

例によってこちらではWeChatの各種グループチャットで情報が交換されています。「レーザーカットのワークショップやるよ」であったり、「展示会にVR出しているよ」だったりするわけです。今回は次のような通知が来ました、「Mary Ann O’Donnelさんが香港中文大学(CUHK)の深圳キャンパスでレクチャーします」、タイトルは「中国初の村なき都市:深圳におけるローカルの再編」と。

Mary Ann O’Donnelさんは今年の初めにThe University of Chicagoから出版されたLearning from Shenzehn: China’s Post-Mao Experiment from Special Zone to Model Cityの編著者で、1995年から深圳に在住している在野の研究者であり、アーティストです。この本は一読してとても勉強になっていたので早速レクチャーに参加してきました。香港中文大学深圳キャンパス(CUHKSZ)は地下鉄の3号線の大運駅(Universiade)からさらに距離があるので、華強北から軽く1時間はかかる距離でした。

英語と中国語を両方混ぜた形でレクチャーは進みました。中身が面白かったので要点を書きます。レクチャーの参加者の大多数が深圳に住むCUHKSZの学生で、大部分が広東省出身のようで、いわゆる中国の南方の歴史については事前の知識がないと理解は困難な内容でした。

1)歴史的にみて「本地人」とはどのような概念か?

Maryさんの解説によると深圳人を考える上では、そもそも「本地人(bendiren)」の概念を知っておく必要があります。

Maryさん「嶺南という概念があるが、含まれる範囲は広い。珠江デルタ地域全体が含まれているが、土地と水との関係で区分すると、嶺南にも複数のグループの人々が暮らしてきた。第一が広州を中心とする官府(guanfu)系は土地も水も保有している支配的なグループであった。これに対して、第二のグループ、客家系は嶺南東部の山地に流れ着いたが、この地域は耕地に適さず、また水も限られていた。第三のグループがタンミン(船上生活漁民)たちで、彼らは土地と水源に対するアクセスを持たず、なおかつ科挙への参加資格もなかった。ここで「嶺南の「本地人」はだれか?」ということになるが、3つのグループにはヒエラルキーがあり、官府が一番上、次が客家、そしてタンミンが最下層に位置づけられた。官府系だと答えるのが主流的な見解になるだろう。」

いきなりディープな議論からスタートして学生も若干ざわついていました。

Maryさん「このような状況下で、香港と新界が英国に割譲された。上記のグループの中で誰が英国に協力するだろうか?官府系はこれまですべてを掌握してきたわけで、協力するメリットは全くなかった。むしろ植民に協力的だったのは客家でありタンミンだった。もっともはっきりとこれが現れるのは、英国が開発した鉄道のルートだ。鉄道は珠江デルタ地域を避けて客家の山岳地域を走っている。ここで重要なことは、植民地主義が来ることで、この地域内での「本地人」の序列が動揺したことだ。客家系は英国と協力することで伝統的に豊かであった珠江デルタの中心地を避けつつ勢力を拡大することを目指した。つまり、「本地人」は政治的につくられたり、改変されたりしうる概念である。」

デルタ地域は当然土地が湿地帯なので、そもそも鉄道敷設には向いていなかったのではないかと思うのですが、Maryさんの解説曰く、官府系の協力が得られなかったことが大きいとのことでした。ここまでが前説。

2)「深圳人」とは誰であって、誰ではないのか?どのような理念なのか?

現在の深圳、かつての宝安県、さらにさかのぼると新安県には上記のような様々なグループが潜在的にはいたわけです。では改革開放の時になにが起きたのでしょうか。

Maryさん「特区が出来上がったばかりのころ、「深圳に行く」とはつまり羅湖に行くことを意味した。福田には何もなかったからだ。やがて福田が開発されてきて走私(密輸入など)と夜总会(カラオケ、キャバクラなど)の街になった。」

Maryさん「1984年に鄧小平が深圳に来た時、漁村を訪問した。その村は養殖で豊かになった村で、請負生産制の成功例として認識されていた。農業生産請負制を政治的を補強するために、深圳の漁村を訪問することが有益だと考えられた。この訪問によって「深圳には漁民しかいない」という説が広まることになった。実際にはすでに紹介したような様々なグループがいたが、それらのグループが言及されることはなかった。政治的なストーリーのもとで、「本地人」が書き換えられたのだ。」

「深圳は漁村でした」説は鄧小平1984年訪問の産物だという指摘です。

Maryさん「その後、改革開放が進む中で、「深圳の人」が表象されることも増えていった。その展示物を見ていくと、鄧小平であり、男性である。はっきり言えば、「「深圳人」は男性」なのだ。これは伝統的な戸籍制度の考え方とも近い。男性こそが本地人であり、女性は嫁いでどこかへ行ってしまう可能性がある、と考えられてきたからだ。知識分子である以上、「深圳人」がコンセプトとして誰を意味するのか考えなければならない。」

この指摘もかなりエグイと言わざるを得ません。いわゆる「女工」さんをどう考えるか、という質問はあり得るのですが、おそらく地元に帰るという前提で考えていた、ということでしょう(レクチャーに呼んだ先生方も結構ハラハラしていたのでは…)

3)「都市改造」の先にはなにがあるのか?自分には何ができるか?

Maryさん「2006年に「来了就是深圳人(来たらすなわち深圳人)」というスローガンが使われ始めた。この時期にはいわゆる旧特区内での工場開設がすでに制限され始めており、いわゆる第三次産業、文化産業の新興が始まった。しかしこの言葉をそのまま受け取ってはいけない。例えば深圳市の戸籍人口は現在400万人と言われるが、ある政府関係者が語ったのは「管理しているのは2000万人」ということだった。つまり、生活している人の1/5しか深圳の戸籍を持っていない。「ここにきて、男性で、そして不動産を持っていたら深圳人だね」というのが一つのリアリティだ。誰が来たら深圳人ということになるのかよく考えねばならない」

この「管理人口2000万人」説は初めて知りました…。Maryさんは中国語もばっちりなので、はっきりとこう表現していました。他のデータからも要確認です。

ではもう少し別の角度から「深圳人」を定義できるでしょうか?

Maryさん「土地や不動産ではなく、実生活上で感じられる「深圳人」とは、出生地でもなく、資産によっても定義されない。行動によって定義される。この点については書籍でも議論していることだが、その定義とは「自らを改造した人、それが深圳人だ」というものだ。深圳人とは創造の結果であり、自らを改造し、変更した結果である。深圳人は過去を認めない、未来のみを認める(深圳人是不认过去的,认未来的)。北京人はちがう、北京人とは北京で生まれた人を意味する。深圳人は出稼ぎ労働者でも、その子供でも良い。お金持ちになった人であり、工場のワーカーからホワイトカラーになったひとである。」

このあたり、レクチャーの一言一言が重く、CUHKSZの学生も興味津々。福田の人は子供に標準語しか教えないし、子供も「広東語なんてできないわ!」と自信満々に言う一方で、羅湖はちがうらしく、広東語をちゃんと子供にも教えるらしい。このあたりの認識の深さにはCUHKSZの学生もまったく同意だったらしいです。「自らを改造した人」、頭にはセクシーサイボーグさんが脳裏に上りましたが、それ以外にも多くの「ああ、この人、深圳っぽいな」という人は、深圳に来てから自ら何かをはじめ、自らも、そして世界も多少変えている人が多いので、この定義には賛同できます。

Maryさん「外から、「我々とは違う人」が来て、そして自らを改造することで深圳人になってきた。その場を提供してきたのは、いわゆる「城中村(Urban Village、都市の中の村)」だ。いま問題なのは、白石洲もそうだが、こうした城中村が改造され、きれいで価格の高いマンションになっていく、ショッピングモールになっていくことだ。では、城中村がなくなったとき、「我々とは違う人」はどこから深圳に入ればいいのだろうか?いままで、みんなそこからこの都市に入ってきたのではないか?これ以降は「一定水準の人」とか、「ちゃんとした単位の人」だけが深圳に来れるようになるのだろうか?それでは北京とも、上海とも同じではないか?城中村が改造されていく流れを止めることはとてもできないが、私は白石洲に302というアートスペースを開いていて、そこで現代アートをすることで、「もう一つの可能性」を模索している。Alternativeとか、Another wayとか、Something elseでもいいが、ともかく何かをしようとしたことを残さねばならない。

1990年代に私はポスドクだったが、全く職が得られなかった。それは研究対象である深圳をだれも知らなかったからだ。だから深圳を宣伝したい気持ちをずっと持ってきた。しかし、いまはすでに深圳はInternational Cityとしても有名になった。むしろいまは深圳に対して言いたいには、「もっと謙虚になるべきだ」ということだ。だから深圳でのトークでは、かならず城中村の話をしている。深圳人は、深圳の歴史をもっと知るべきだ、本当にもっと知るべきだ、もっと知るべきだ。」

人も、都市自身も改造し続ける都市・深圳。そこで20年暮らしてきたからこそ、研究してきたからこそのレクチャーでした。レクチャーの最中、「2010年の時点で深圳にいた人はいる?」という問いかけに対して、手を挙げたにはおそらく2割くらいだったでしょうか。学生以外のシニアも含めて、みんな外から来ているので、誰も過去を知らないという事実がありました。実はこれ以外には急激な都市化とはどのようなことなのか、マンハッタンとの比較などもしていましたが、ここでは割愛…。

深圳が過去を必要としない加速都市だとしても、Maryさんのように民間の立場から都市の歴史を複層的に書いていこうとする活動に感銘をうけました。Maryさんは米国を訪問されるそうなので、深圳に戻ってきたら次は白石洲に会いに行きます。

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WeChatで流れてきたポスター。

 

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大運駅。

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CUHKSZ入り口。

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ちょっとした落書きも。

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レクチャースタート。

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香港から広州への鉄道のルートを示し、客家の土地しか走っていないと指摘するMaryさん。

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鄧小平が訪問した漁民村。これが「深圳は漁村」説を生んだと指摘。

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「深圳人は男を意味している」。

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城中村の取り壊し例をいくつか紹介。その中で莫大なお金が動いたことも話していました。

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実際はもっと学生さんいたのですが、集合写真まで残っていたのはこのくらいでした。

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伊藤亜聖のページです

 中国に軸足を置きながら、アジア、そして新興国の経済を研究しています。ここにはメモのような雑文を書いていこうと思います。
 上の写真は中国広東省、深圳市の海上世界という場所です。昔は海だったようですが、いまでは埋め立てられて、ファッショナブルなショッピングモールやバーが並ぶ場所になっています。