すでに深圳観察会の初日からだいぶ時間が経っていますが、深圳に滞在していることもあり、個人的には「過去のこと」という感じにはなっていません。出張ベースで調査でこちらにきても、飛行機で東京に戻ると通常業務に完全にスイッチが切り替わるので、なかなかじっくり振り返ることができません(在外研究期間でなければ、4月は基本的に講義とその準備にかなりの時間を使っているはずです)。今回は「頭の周波数」が変わることなく、少しずつですが考えることができています。
1.「観察会ツアー」という取り組み自体から学んだこと
No.2にも書きましたが、深圳観察会という存在自体が意味することは、第一に、非チャイナプロフェッショナルが興味を持ち、またエンジニアまたは企業家だからこそ理解できるという領域が中国に生まれた、ということでしょう。
そして第二に、テクノロジーとコミュニティの力で情報を収集し、刺激しあい、理解とコミットを深めていっています。下手な知識よりもアプリケーションを活用することのほうが有効である事実をまざまざと見せつけられました。これは中国に限らない話でしょう。
Insta360のJKさんからサインをもらうShaoさん。
2日目のレクチャーの後、柴火創客のバイオレットさんを囲む参加者たち(Takuさん、Tanakaさん、Konさん)。情報を得る、関わるには積極的に動くしかない、それしかない。
2.関連報道や文献について
深圳については情報も増えており、中国国外のメディアに限っても下記のものが最近出ています(ちょっとまえのWiredのビデオくらいまではカット)。
深圳を経済発展と成功のユートピアと見る立場と、巨大な搾取が行われているディストピアと見る見方を、都市研究の立場から乗り越えようとする書籍。経済学的なアプローチのものは別の書籍であるのですが、問題設定はこの本の方がより面白いかなと感じています。
2)The Economist SPECIAL REPORT “Jewel in the crown: Welcome to Silicon DeltaShenzhen is a hothouse of innovation“
The Economistが珠江デルタ特集をしたうちの、深圳に関するアーティクルです。導入がまず面白い。
a scholar from Beijing duly set the tone by asserting that “order is important in the market.” But one of the local speakers livened things up by delivering a surprisingly stout defence of disruptive innovation. Xu Youjun, vice-chairman of the Shenzhen division of the Chinese People’s Political Consultative Conference, a government advisory body, said Shenzhen owed its success not to the government or the Communist Party but to its policy of allowing people to go “beyond the planned economy”.
北京の学者が「秩序」を語ったのに対して、深圳の政治協商会議のメンバーが、「計画経済を超えることで成功してきた」と指摘した、という一幕を紹介しています。
the average value China adds to its exports is 76% (the EU’s is 87%). The World Bank reaches similar conclusions.
iPodの付加価値のうち、中国で付加されているのは5%という説がありましたが、最近の研究では輸出製品価格うち76%が中国国内で付加されているというデータが紹介されています。またDavid Liの次のような解説も紹介されています。
Silicon Valley is obsessed with rich-world problems, he thinks, but China’s open innovators work on affordable solutions for the masses
このほかに、企業としてはHax組が二社登場します。深圳に関する内容としては、私も参画した東洋経済の特集『深センメイカー革命』とも重なるのですが、The Economist誌は珠江デルタというより広い範囲を取り上げている点に特徴がありそうです。
(そろそろシンガポールニュースチャンネルの番組Smart Cities 2.0の特集に深圳が登場するらしいです)
3)青色LEDの中村先生が深圳にラボを開いていた
日本ではほとんど報道されていませんが、中村修二先生が深圳市にLEDの研究ラボを、昨年開設していました。現地記事によると、当時の深圳市の許勤市長も出席して開所式を開いていたとのことです。それによると、中村先生は「深圳はレーザー・照明技術の研究と産業化で優良な環境と唯一無二の条件を持っている」と言っています(ざっと調べた限り、日本語ではほどんど報道されていないようです)。ちなみにノーベル賞受賞者が統括するラボが今日時点で深圳には4か所あるそうです。
3.ツアーでの一言
他の参加者によるツアーの感想はこれからアップロードされていくと思います。私が参加している中で、ドキッとしたのは、深圳の新興企業や、電子決済の普及を見て回る中で、あるエンジニア兼社長が言った「こんな日本にしたかったんですよね」という言葉です。無論、これは深圳のベンチャー企業やメイカーズムーブメントを見ているなかで出てきている話なので、一般化はできません。また、梶ピエールさんのブログ「必読・中国社会の新しい動き」でも指摘される通り、情報の取り扱いが最終的にどのような事態をもたらすのか、引き続き注目が必要でしょう。上記のブログでは、圧倒的な応用の広がりと、もう一方での情報を誰かが掌握しているという事実をどう考えるか、という問題提起がされていると思います。
しかし、エンジニアが、深圳(あるいは中国)の製品や企業、あるいは電子決済といったシステムの普及のスピードを見て驚いているという現象も、また事実です。先日は私はある会合で、ドローンの最先端製品DJI Phantom4の分解図のレポート(テカナリエ社)を参加者に見せました。その時、参加していた経験豊富な複数のエンジニアが興味津々でレポートを眺め、ひとしきり議論したあと、一人の方が「ああ、ついに中国の製品をリバースエンジニアリングする時代が来たのか」と言いました。
この事実から何が言えるのか、何を言うべきなのか、どんな行動を起こすべきなのか、私は特に答えを持っているわけではありません。ただ、直観に従って、ここから見えてくる事実を体感し、研究していきたいと思っています。
Ash Cloudでの集合写真。最後の最後になりましたが、高須さん、ありがとうございました!(深圳観察会(2017年4月)については、これでひとまずのまとめ)
「深圳在外研究メモ No.7 ニコ技深圳観察会 (2017年4月)を振り返る編」への1件のフィードバック
コメントは受け付けていません。