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深圳在外研究メモ No.53 番外編~雑貨の街・義烏で「アフリカ工業化」を聞き、「インダストリー4.0」を見る

1月に深圳でよくご一緒している高須さん、そしてハードウェアスタートアップ・FutuRocketの創業者である美谷さん、そして元ジョッキーでジムトレーナーのKajiteruさんと浙江省の義烏市を訪問しました。

義烏市には世界最大の雑貨卸売市場があり、その発展パターンは拙著『現代中国の産業集積』でも取り上げています。2000年代から「雑貨市場なんて衰退する」と言われ続けてきましたが、いまだに存在し続けている理由は、圧倒的な品ぞろえと中間財の集中にある、というのが拙著での結論でした。以下は、久しぶりの訪問のメモです。

 

1)相変わらず元気な区画とそうでない区画が分かれている

中間財の集中によって、とくにアクセサリーの分野では流行に乗った製品開発と輸出ができるため、義烏市場ではこの分野が最も活気に溢れています。それに対して、デザインが変わらず、また流行性の低い工具類といった製品は、一度マーケットを訪問すればそれ以降は必ずしもマーケットにくる必要性はなく、また工場直販になっていくため、総じて閑散としています。これは今回でも変わっていませんでした。

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2018年の春節に向けて装飾されるメインの「義烏国際商貿城1区」の入り口。

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手前がマーケットで、奥は前回訪問時には建設中だったオフィス・金融街。

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春節グッズ、とくに戌年であるので、犬のぬいぐるみが前面に置かれています。これがまさに流行に対応した製品で、次来た時には当然商品は入れ替わっています。

 

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もう一つ賑やかな場所がおもちゃ売り場。お土産で買っていく人も少なくないようで、単品から対応している店もこのエリアにはあります。広東省スワトウエリアで製造された玩具レベルのドローンが飛び回ります。

 

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4区、5区といった奥のエリアは閑散としていて、活気はありません。これも結構昔からの話。

 

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相変わらず外国人バイヤーが市場内を歩き回っており、広告も目につきました。

 

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前回訪問時にはなかった、「スマートグッズ売り場」。DJIのドローンや、深圳製と思われるようなロボットが並び、正直義烏のニーズに合うのか不明でしたが、人はそこそこいました。

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在外研究メモNo.51でも言及したCityeasyのロボットだと思われるものもなぜか並んでいました・・・。

 

2)ゴールドバッハの和田さんから日本市場向けビジネスの最前線を聞く

買い付け事務所を経営されている和田さんにお話を伺いました。想像以上に大きな倉庫兼検品事務所を運営しておられ、なおかつ可能な限り小ロットの買い付け代行にも対応しているシステムにも驚きました。和田さんは義烏市のEコマースプラットフォーム、Yiwugouの日本館の運営もしています。

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倉庫兼検品事務所。この建物やほかの場所にもシェアオフィス風の区画もあり、パートナー企業用の机やオフィスも用意しており、日本企業が義烏を活用するためのプラットフォームにもなっていました。和田さんは復旦大学卒業のがちがちの中国通で、すでに18年間中国でビジネスに携わっておられるという方です。

 

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オフィスでは日本からの注文の確認作業が進んでいました。

 

3)義烏アフリカ人商会・会長のスラさんから「アフリカ工業化」を聞く

義烏訪問のなかでもかなり衝撃的だったのはスラさんの話でした。

スラさんはセネガル出身、2003年に初めて義烏を訪問しはじめ、2006年から徐々に義烏にいる時間が長くなり、やがて常駐するようになったそうです。最初は二人で始め、現在では37名のスタッフを抱える買い付け事務所になっています。

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聞き取りはこんな感じでスラさんのオフィスで中国茶を飲みながら進みました。このスタイル自体が中国風で、スラさんは英語と中国語で応えてくれましたが、美谷さんがフランス語で話しかけるとそれにも対応していました。

もっとも印象的だったのは、「義烏で製造を学び、そしてアフリカの工業化のために投資し始めた」という話でした。

我々は義烏で学んだ。もともと物を買って、売って、その差額を儲けるだけだった。でも中国にいて、義烏に滞在し、中国人と仲良くなり、ビジネスサイドだけでなく、生産サイドについても学ぶようになった。

昔は製品を見てるだけだった。このライターを見ても、「作れるかな」などとは考えもしなかった。しかしバイヤーをやりながら、徐々に生産している工場を見るようになった。小さな工場が、機械を使って生産しているのをみたんだ。テープの工場とかも行った。小さい工場がこうした製品を作っているんだ。

そこで例えば、プラスチックのボトルをみて、自分に問うんだ、「なぜ我々アフリカ人はこれを自分でつくれないのだろうか?」と。このプラスチックのボトルをアフリカに送るには、物流はコストがかかる。例えばこのボトルは包装すると、上にも横にもスペースが必要で、場所を取るからだ。でもこのボトルの原料は、小さな盃くらいで足りる。原料をもってきて、アフリカで、セネガルで機械で生産すればいい、と思うようになった。組み立て、いろいろなアクセサリーのパーツがここにはある。

私はここに未来があると思う。アフリカの方がコストはもっと安いはずだし、沢山のアフリカ人がそれを、小さい製造をやり始めている。

実の話、私自身も工場を始めている。プラスチック製品の工場だ。中国の友達がセネガルに4回もきてくれていて、10年来の友達がいて、かれがパートナーだ。一緒にアフリカで工場をやっている。生産を始めるときは実際にどうやるかを見せなければならない。もっと中国の産業を、セネガルに誘致して、人を雇い、生産プロセスを教えていくことをやりたい。それが私がいまやっていることだ。ただ輸出しているだけではないんだ。次のレベルはアフリカの工業化(African Industrialization)だ。

 

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義烏市からの表彰を多く受けているスラさん。「外国人をこんなに大事にする場所はほかにないだろ?」と、ビジネス上の民事訴訟の仲裁メカニズムなどを紹介しながら力説してくれました。

 

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スラさんと集合写真。スラさんはセネガルの大統領顧問でもあります。

 

4)アクセサリー工場で「インダストリー4.0」対応を見る

義烏のローカルな産業のなかで、最も競争力を持つ産業のひとつがアクセサリー業界です。今回は友人の紹介で、なかでも面白い取り組みをしているアクセサリーメーカーを二社訪問できました。そのうちの一つの工場は、型の製造に3Dプリンターを活用し、なおかつ生産管理システムを大々的に導入することで、より小ロットでの生産を短納期で実現する方向で、生産ラインを大幅に改造していました。この会社は「浙江省工業4.0リーディング企業」にも選定されている会社です。

 

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すべての作業場にはディスプレイがあり、作業指示がされています。このシステムによって、どの従業員が、何時から何時に、どの製品のどの作業をするかが指示されています。

 

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製品設計を以前よりも自社内でするようになり、同時に小ロット生産がふえたため、3D CADを用いてサンプルを作り、それをもとに型をつくるフローができていました。

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サンプルの生産のための3Dプリンター。

 

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小ロット生産であればこういったゴム型で製造。

 

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アクセサリーのアセンブルは機械化が難しく、依然として主に手作業です。

 

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試作のためのパーツ置き場。青色の石・ビーズのみでもこれだけの品種がありました。

 

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生産システムの改善により、納期が15日から7~10日に、そして生産可能品種が32モデルから55モデルに増加、必要人員数は減少、不良率減少、といった効果があったとのこと。

わずかこの2~3年の間に、いわゆる「労働集約的産業」でもスマート化が急激に進展していることを義烏で目撃しました。

 

5)旧・賓王市場がおしゃれスポットを目指して改造中

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あまりいい写真が取れませんでしたが、もともとの卸売り市場だった賓王市場が、おしゃれ創業エリアを目指して改造中でした。正直訪問時点ではあまり活気を感じませんでしたが、どうなるでしょうか。

 

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オブジェが置いてあり、周りにはカフェやバーができていました。昔はこの雰囲気の場所は義烏には存在しませんでした。

深圳在外研究メモ No.52 華僑城OCTの何香凝美術館と華美術館を訪問編~加速都市・深圳で「デジタル山水画」を見るリアリティ

深圳で一番のおしゃれスポットOCT(Oversea Chinese Town, 華僑城)。そこのアートギャラリーで働いている友人から誘われて美術館に行き、そこで中国の現代アートのクリエイティビティに触れたので、せっかくなので紹介しておきます。

スタートアップとかイノベーションとは若干異なる領域ですが、深圳はアート産業、デザイン産業といったクリエイティブ産業に力を入れていて、こうした展示会とそこに集う人を見ることでも、この街の活力を感じられました。

とくに、後半で紹介している華美術館では「デジタル山水画」とも呼べる作品群を展示しており、深圳という街自体が急激に開発される中で見ると、ある種のリアリティを感じるという、体験ができました。とりあえずメモしておきます。

 

1)何香凝(He Xiangning)美術館

何香凝は1903年に日本留学し、私立女子美術学校(現在の女子美術大学)で田中頼章のもとで絵画を習い、のちに共産党政権に合流した画家です。深圳のOCTエリアに美術館があり、彼女が残した山水画の展示と、同時に現在は1980年代以降生まれの新世代芸術家のモダンアートの展示がされています。

 

美術館入り口。江沢民が揮毫。

 

 

 

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何香凝と宋慶齢の写真。毛沢東との写真も展示されていました。

 

 

 

 

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「克強先生」とは中国同盟会会員の黄興(1874-1916)のことで、彼に宛てた作品。猛々しい作。

 

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展示されている中では最も大作であった「松・菊」。劉亜子が長文の詩を添えている。

 

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劉少奇が「祖国山河」と題をつけた作。

 

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美術館館内の別の区画は完全にモダンアートゾーン。

 

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モダンアートを背後にセルフィーをとる若者が目立ちました。

 

 

2)華美術館のReconstructing Utopia(重构乌托邦)展示

何香凝美術館のすぐ隣の「華・美術館」。そこで現在の展示がReconstructing Utopia(重构乌托邦)。都市全体を改造し続けている深圳市でユートピア展が開かれていることは、別の都市とはまた別のリアリティがありました。

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華美術館の外観。六角形は蓮の池をイメージしている感じです。

 

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1階の展示。長幅の山水画風のモダンアート。

 

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これも山水とモダニズムの融合。

 

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仏塔のデフォルメアート。

 

3)特によかった展示①~楊泳梁(YANG Yongliao)作「Prevailing Winds」

楊泳梁、1980年上海生まれの作家。

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遠くから見ると、こんな作品。山水画。

 

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近づくと、ビル群、そして都市であることに気づきます。山水と都市の融合。

 

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右奥の「山々」は実際には完全にビル群。立ち話で聞いた話では全国で映像をとってそれを結合しているそうです。どうも特に重慶をモデルにしているようです。

 

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そして滝。実はこの作品、動画です。なので、滝は流れ、車は動き、人も動いています。

 

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じっくりと鑑賞する人々。在外研究メモ No.45で紹介したタオバオ村のアートと近いものがありますが、こちらの方はディストピア感はありませんでした。

Yang Yongliang, 2012年の作品。The Day of Perpetual Night, Galerie Paris-Beijing。「数码山水图」、つまり「デジタル山水画」と呼ばれていて、なるほどという感じ

 

4)特によかった展示②~邱黯雄(QIU Anxiong)作「新山海経3」

邱黯雄、1972年四川生まれ。

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これも動画です。題して「新山海経3」。

 

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まず、電子部品基盤のアップで始まります。PCB(Printed Circuit Board)基板、と呼ばれるやつで、まさに深圳はこれを設計し、作る街。

 

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基板かと思いきや、徐々に立体化していき、人が上から落ちていきます。基板ではなく、ここは街なのです。

 

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マスクをした主人公が空から落ちてくる。基板の街へ落ちていく。

 

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途中、伝統的山水画の画面にも切り替わる。どうも「基板の街」の近くにはまだ自然があるようです。

 

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「基板の街」のコア部分。どうも上海をイメージしていると思われます。おどろおどろしい雰囲気で、ところどころ植物や動物をイメージさせるロボットがあります。

 

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主人公がマスクをつけて起きる。この場面は攻殻機動隊をオマージュしているようです。

 

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お寺でしょうか、「人生には根は無い」との言葉。

 

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実際には結構長い(10分くらい?)動画なのですが、最後は、主人公が街から飛び降りて終わります。

 

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作品を見る聴衆。

 

QIU Anxiongさんのインタビュー動画。

 

5)美術館を一歩出ると、改造中の街が広がる

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華美術館をでて、未知の向かい側ではこのビルを建設中です。

山水画と都市化の融合というテーマの作品群を見て、一歩でると、この街自体が大規模な開発の途中なのです。在外研究メモ No.45で取り上げたビエンナーレもそうでしたが、街自体が改造中であるため、芸術家・デザイナーの想像力との間に、交渉し得ないような壁がなく、現実感を与えうる場所になっています。2018年のいま深圳で見て、感じてもらう価値がある展示だと思います。

深圳在外研究メモ No.51 ニコ技深圳観察会第8回に参加~オープンイベントもやりながら深圳の土壌にもぐる三日間

昨年4月に続いて、ニコ技深圳観察会に参加しました。「現地集合、現地解散、実費のみ割り勘、自己責任」の大人の社会科見学、というかエンジニアのための深圳観察ツアーです。在外研究も最終盤ではあったのですが、改めて沢山の発見がありました。

 

1)第8回観察会の概況

第八回の参加者自己紹介などは第8回ニコ技深セン観察会 参加者名簿:感想まとめ

最後の高須さんのプレゼン僕たちが起こせるマジック #ニコニコ技術部 深圳観察会 ラップアップセッション

すでにTakahashi Susumuさんのニコ技深圳観察会第8回(Day:1–1)などがあり、個別の訪問についてはそちらがくわしいです。

 

※加筆

観察会ミートアップで伊藤が報告した資料(一部ちょっと修正してあります)はこちらにアップロードしてあります。

 

2)HuaweiにもDJIにも行かない、でも深圳の土壌がわかる

この深圳観察会は通常の深圳ツアーでは必ず行きそうな会社にはむしろ行きません。HuaweiのSmartcity展示室やDJIの展示室などにいってもそれなりに勉強になるのですが、PRの人が出てきて、公式ホームページやプレスリリースになっている情報を教えてくれる、というような感じになるので、ディープな対話は生まれにくいのは事実です。

観察会はローカル企業、規模でいえば100人くらいまでのところに行き、そのオフィスのなかで、創業者や海外マーケティング担当しているひと、そしてなによりも開発しているエンジニアから話を聞きます。ツアーメンバーにエンジニアが多いため、360度カメラのKandaoを訪問した際には「6つのレンズそれぞれに、レンズの周辺になればなるほど歪みがあると思うけど、それってどう対応しているの?」といったディープな議論が展開されます。

あともう一つは、参加者も訪問先企業の製品が好きだったり、強く興味をもって来ているので、その場で製品をがんがん買うことです。Insta360に行ったときはInsta360 Oneを11台購入して、その場で全員分をモバイル決済で払っていました(義烏でビジネスをしている和田さんは当然高額の決済がその場でできるし、Shao氏は日本国内での決済アプリの開発者)。それ以外にもCityeasyというロボット会社ではロボット2台を購入していました。スタートアップは来年にはつぶれているかもしれない会社なので、その場で買うこと、しかも熱狂して興味を持って買ってもらうことは彼らにとっても嬉しいことでしょう。

HuaweiもDJIも、それぞれ深圳を代表する会社です。しかしこの観察会はこういった企業が生まれてくる土壌のようなところ、かっこいい部分だけでなく、いまはこのレベルというようなところも含めて、エコシステムの土の中を掘り返していきます。参加者には深圳に関わっていきたいと考えているひとが多いので、このアプローチは有効だと思います。

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沙井のモーター・工具系マーケット訪問時の高須さん(ここも絶対普通のツアーは行かない)。右手にINSTA360 One(全天球を撮影し、あとで自由に切り出して編集可能)、左手にブルートゥースマイク(電機街華強北で売ってる)、ネコミミ装備という現時点でのフルスペック状態の高須さん。高須さんはプレゼンも一言目から言い切る濃いメッセージを出せる人なのですが、歩きながらや立ち話での解説も同じく面白かったです。工場を見ていて、ラインだけでなくそこに掲げてあるスローガンに注目してみたり、ならではの高須センサーに反応した発見が解説されます。

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JENESISを訪問し、工場飯をご馳走になり、そして解説いただく。この場面は、モジュール化されたサプライチェーンのなかでも、いかに作り方の選択肢がたくさんあるか、差別化する余地があるのか、という話。2つの電池があり、見かけ上は同じスペックでも価格が3割違い、品質も異なるという事例で、どちらもタブレット端末に使える。コストダウンに走れば、それだけの品質になるので、たとえ「レシピ」があったとしても、その組み合わせ方は実は奥が深い。

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今回訪問したなかの隠れMVP企業、Cityeasy。ロボホンぽいものを作っているだけと思いきや、もともとGPSモジュールを作っている社長さんが、常に新製品を開発しています。行くたびに発見がある会社の一つ。

 

3)やっぱり深圳のハードウェアスタートアップは加速している

ちょうどいま日経新聞の「やさしい経済学」で「加速する中国のイノベーション」という連載をしています。そこでは、中国のイノベーションをサプライチェーン型、デジタルプラットフォーム型、社会実装型、科学技術型に分類して、ざっくりと解説しています。その分類でいくと、深圳でとくにみられるのはサプライチェーンを活用したハードウェアのイノベーションです。

今回ハードウェアスタートアップとしてはInsta360やKandao、そしてあまり有名ではないですが、Cityeasyというコンシューマー向けロボットを作っている会社に行きました(HAX訪問には私は別件で合流できなかった)。

Insta360は新製品Oneのファームウェアアップデートを、Kandaoはまったく新しい3D360度カメラ(小型)を、そしてCityeasyは子供用ウェアラブルをかわしいスマートスピーカー風にセットにした製品を作っていました。私はどの会社も以前に訪問したり話を聞いていたわけですが、いずれの話も3か月前にはなかった話で、四半期ごとに行くたびに、なにか発見があるのが深圳、ということを再確認にしました。

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Cityeasyの知能卵。LEDがあり、スマートスピーカー風だけど、開けると・・・

 

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こうなっている。ウェアラブルに、対話機能がついていて、なるほど考えてみれば、これで「スマートスピーカーとウェアラブルが合体」できている。言われてみれば簡単ですが、これを思いつくか、というと難しい。顔が横になってしまっていますが、ジャイロをつかってちゃんと前を向くように最初になっていました。まだまだ調整中みたいだけど、3月末(もうすぐ)には出荷できるとのことでした。

 

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Kandaoの社長さん、陳丹さん。復旦大学を卒業した量子物理学の専門家が、次世代360度カメラを開発していました。まさに研究者という雰囲気の方でしたが、オフィスには100人くらいのエンジニアがぎっちり入っていました。

 

4)2回のオープン・ミートアップでコミュニケーションが爆発する

もう一つ今回の観察会の特徴だったのは、二つのオープンイベントを開催し、そこで異なるバックグラウンドの人達で、情報交換し、議論しまくることです。

深圳観察会のOBや、その他のスケジュールで深圳に来ているひと、深圳でビジネスしている人が自由に合流するイベントです。なので全員が基本は自腹・自力で来ている人達なので、濃いイベントになっていました。一つ目は深圳南山区に残り城中村・白石洲のクラフトビール屋さんの前で開催されたミートアップ(Big Maker Meetup, 白石州, Shenzhen, PECO and Bionic Beer)、そしてもう一つが電気街SEGMAKERで開催されたミートアップ(Open Day/Meetup 2nd ニコ技深セン観察会 Seg+出張所)です。

白石洲のイベントの方には、おそらく60人くらいは来ていました。なによりも深圳側からSeeed StudioのEric、山寨王ロビン、Jenesis藤岡さん、SwieのZhai始め、かなり濃いメンバーが来てくれて、イベント多い深圳と言えども、このメンバーが集まるのはニコ技観察会ミートアップだけなのでは、と思いました。

もう一つは最終日のワークショップで、参加者の感想をシェアリングしたうえで、伊藤が中国のイノベーションの話、Shao氏(シリアルアントレプレナー)がインターネットビジネスの話、そして高須さんがメイカーズと自分たちでできるムーブメントについて話しました。この様子は「僕たちが起こせるマジック #ニコニコ技術部 深圳観察会 ラップアップセッション」にアップロードされています。

とくに高須さんのプレゼンは、一言目から「20世紀は組織が先にあって~」という話から始まる最高にクールなもので、後半は「面白いと思って裸で踊っていたらみんな一緒に遊んでくれるようになった」というような話。ムーブメントを自分で起こして、その一部になりながら成長していくというあたりは業界を問わず大事になると思いました。ぜひ動画を見ていただくのをおススメします。

このワークショップでのプレゼンは、三人が登壇しました。全員が深圳を面白がっているものの、それぞれ異なるバックグラウンドから全く違う話をしたあたりは、唯一無二なワークショップになりましたし、これこそ異なる視点から同じ対象を議論する価値を示していました。

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深圳在外研究メモ No.50 全人代開催中の首都北京でベンチャーエコノミーを見る編~エンジェル投資は北京から始まり主要都市へ伝播。中関村、回龍観、WeWork北京望京はスタートアップ密度高い…

出張続きで、貴州の後に北京に行きました。東京大学と北京大学の合同ワークショップに参加後、ベンチャー投資家やコワーキングスペース、新興開発エリアを回りました。以下はベンチャー周りの話を中心に、訪問の雑感です。

1)エンジェル投資は北京一極集中から多極化へ

中国でTOP3に入るエンジェル投資機関である英诺天使基金のパートナー、王晟さんにインタビューができたのですが、主な内容は次の通りでした。

伊藤:中国の過去5年のベンチャー投資の伸びは激しいと思います。とくに2014年、2015年から本格化した「大衆創業、万衆創新」政策の効果もあったと思いますが、どのようにご覧になっていますか?

王:確かの過去5年の変化は大きかったですね。中国でエンジェル段階の投資を機関投資家がし始めたのは2012年からです。それ以前は基本的には事業で成功した個人が早期段階のベンチャー企業に対して投資していました。2012年末から2013年にかけて中国で「エンジェル投資の機構化」が生じました。アメリカにはYコンビネーターや500スタートアップといったアクセラレーターはありました。中国では2012年以降です。

伊藤:ハイリスクなエンジェル投資の機関化で、どのような課題に直面したのでしょうか?

王:直面する課題は二つありました。一つ目は、とても早期段階での投資なので、そもそも売上すらまだないので、往々にして投資を評価する個人の主観的な判断に依存してしまうという問題です。つまり機関として投資委員会で議論して、決断する意義があるかどうか、という問題です。

第二の問題は、エンジェル投資の規模は大きくなく、せいぜい合計で1-2億元(17億円~34億円)くらいで、管理費用として運営側の予算は年間200-300万元程度しかないので、アナリスト、投資後のサービス人材などなどを雇おうとすると、管理費用負担が大きく、問題になるという点です。仮に10人の管理人材がいたら、とてもビジネスとしてまわりません。

現状では、第一の点についてはパートナーそれぞれが強い守備範囲と地域を持ちながらも合議することで投資先のバランスを保ち、第二の点については英诺天使基金は基金総額が20億元(340億円)、合計で200のプロジェクトに投資しているので、すでに規模の問題は解消されています。

伊藤:「大衆創業、万衆創新」政策が始まって以降の印象が強いのですが、その前からすでにこうした仕組みができつつあったということでしょうか?

王:中央政府が政策を立案する時点で、すでにエンジェル投資は活性化していました。「萌芽段階」とかではなく、「充分な準備」ができていたと理解しています。当然政策的なサポートのもとで、2014年から更に活性化し、そして2015年に一度ピークを迎え、2016年、2017年にかけていわゆる「投資の冬」の時期を経てまた伸びてきています。

伊藤:中国のイノベーションエコシステムは、地域ごとにいくつかの拠点があります。現状、北京の役割が大きいと思いますが、王さんはどのようにご覧になっていますか?

王:清科集団のデータを見ると、ベンチャー企業のプロジェクトの数も、そしてエンジェル投資の金額も、北京は首位です。ただ、2014年時点では中国全体のエンジェル投資の70%を北京が占めていたのですが、二年目には60%、三年目には50%に減少しました。もともとは北京に一極集中してきたのが、徐々に広がってきたと言えます。ただ依然として北京がもっとも数も規模も大きいです。
いまは、エンジェル投資の領域でいえば、「北京、深圳、上海、杭州」または「北京、深圳、杭州、上海」という順番で見るのがいいでしょう。もちろんこの他に内陸も重要な拠点になってきていて、例えば成都にはゲーム関係企業が多数あります。あとは福建福州、重慶あたりも大事です。

伊藤:良いプロジェクトを、売上もない段階で見つけるのは難しいことだと思います。どのようにプロジェクトを発掘しているのですか?

王:ABCシリーズでの投資の場合には、すでに売上があり、客観的に評価をできます。しかしエンジェル投資ではそうはいきません。

私はタケノコみたいなものだと思っています。いいプロジェクトは地面にはでていなくても、根がしっかりしています。そして地上に顔を出したら急速にのびて、あっという間に手出しできない、投資できない企業になってしまいます。なので、土の中にあるうちにみつけないといけない、ということです。

方法はいくつかありますが、一つ目は、「一手项目(だれも見つけていないプロジェクト)」を発掘して、だれよりもはやく投資することです。この方法は、人脈、ソーシャルネットワーク、高等教育機関のネットワークが大事です。我々は創業者が清華大学出身なので、このネットワークに加えて、北京大学、北京理工大学、北京航空航天大学、ハルビン工業大学の教授らとすでにつながっています。学生の時点で、いいプロジェクトを発見できます。

それからすでに投資している創業者の友達も重要です。業界で影響力のある人、そして投資機関には当然情報が集まります。AIの領域で我々はおそらく一番投資していて、スター級のプロジェクトがあります。なので、直接我々に話をしに来ることも多いです。ゲームの業界でもそうです。

このほかに協力機構の推薦であったり、コンペティションの入賞者の情報をもらうことも大事です。Sony中国之星というプロジェクトは、中国の一番優秀な開発者を発掘するスキームですが、この卒業生にはうちは結構投資しています。

「公开市场」、つまりすでにプレゼンショーをはじめたら、もう手遅れですね。みんなが見つけられるので、投資することは難しいです。

「いいベンチャー企業=タケノコ」説とかすごく面白い表現でした。

 

 

2)以下、写真

その他色々面白い聞き取りがあったのですが、書ききれないので、それはまたの機会。

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天安門広場。訪問したのはワークショップ終了後の3月11日日曜日午後だったので、期せずして憲法修正案の採決が隣の人民大会堂で行われているタイミングでした。

 

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2006年から2007年に人民大学にいたときには、地下鉄はわずか2本だったはずなので、この路線図には驚きました。大学エリア(海淀区)から中心部、そして大学エリアから新興開発エリア(望京など)にもストレスなく移動できます。

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全人代期間中ということで、右側の車道交通規制中。

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東大と北大の合同ワークショップ。東京大学・高原明生先生が日本側取りまとめで開催されました。先方は国際関係学院だったので、必然的に国際関係系、なかでも一帯一路関連の報告が多かったです。学生さんも一帯一路をどう分析するのかを苦労しているようでしたが、具体的な論点(例えば非伝統的安全保障)に絞るとか、具体的なプロジェクトに絞る(メコン開発と一帯一路)ことでフレームワークを確保し、実証性を高めようとしていたのが印象的でした。一帯一路は経済も外交も、安保も、文化交流も、何でも中に含められてしまっているので、確かに院生が真正面から研究テーマとするのは、リスキーだと思います。

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北京大学の校内には北京大学の学生と先生限定のOfoがありました。QRコードを読んで立ち上げると「学生と先生のみした乗れません」と出てきて、どうも学生証か職員証で認証が必要とのこと。さらに学外にでるとGPSで把握してペナルティがあるそうです。Ofoはこの時期に習近平さんの宣伝キャンペーンをアプリ上でも展開していました。

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北京大学学内のインキュベーションセンター。学生からプロジェクトを募集してオフィスを提供するというスタイルです。深圳大学の中にも同様のスペースがありますが、正直学生の「自習室」化しやすく、成果を評価するのは簡単ではありません。

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中関村にある、中国でもトップ3に入るエンジェル投資機関(英诺天使基金)のアクセラレーター/コワーキングスペースの様子です。さすがにトップレベルの場所だけあって、中身がぎっちり入っており、カフェでは投資家へのピッチ、会議室ではベンチャー企業の内部の会議、小型のミーティングスペースも満室という状況でした。

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ミーティングのために座る場所がないくらい満室。

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英诺天使基金のパートナー、王晟さん。エンジェル投資の機関化についてじっくりお話を伺いました。

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中関村にある動画配信サイトiQIYIの本社ビル。

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近くの「中関村創業大街」。ここは私は人民大学(このすぐ南側)にいたときは、本屋街として発展させようとしていました。まだ写真右のとおり、「中国書店」が残っていますが、それ以外は3Wカフェや京東ミルクティカフェのような、いわゆるスタートアップカフェ、そして政府系のサービス機関などがありました。

 

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「中関村創業大街」。正直ここはあまり大事ではないと思いましたが、展示室には中関村が含まれる海淀区関係のテック系ベンチャーの製品が展示されていました。

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北京市内北西部、昌平にある「回龍観」にある「創客広場(メイカープラザ)」。昌平政府とテンセント、そして英诺天使基金が協力して5.5万平米の大きな建物のなかに巨大なスタートアップ向けのオフィスを設置していました。

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昌発展が地方政府系の開発事業者です。

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内部のコワーキングスペースは、テンセントコワーキング(腾讯众创空间)という形で運営されており、これまでに366のスタートアップが入居、累計の企業価値は110億元、1億元を超えた企業が16社、現状では4000名がここで働いているとのことでした。

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このエンジェル投資と関連する有力プロジェクトとして紹介されていた「智行者科技」。京東と協力して物流倉庫での運搬プロジェクトを進めているとのことでした。

 

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スマートロック事業で成功しつつあると紹介された会社。

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オフィスは小型または部屋共有というパターンから、部屋占有のパターンまであり、最大で600名の会社があり、200人程度の企業も少ないそうです。

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建物内部には地元政府の工商行政管理局が入っており、企業登記、事業許可証の発効などが可能になっていました。実際に内部はにぎわっていました。

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地方政府が運営に入っているということで、党の指導を強調するような宣伝も目立ちました。

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北京市北東に建設された新興エリア、望京のランドマーク、望京SOHO.

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同上。

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SOHOではなく別のビルですが、WeWork Wangjingを訪問しました。

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東京のWeWorkはまだ見に行けていないのですが、おそらく同じような内装のはず。個室もざっとみましたが、ほぼ満室でした。

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アートエリア798。

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同上。

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798のあるショップ内部の様子。想像以上に大きかったので短時間の訪問ではとても見切れませんでした。

深圳在外研究メモ No.49 「ビッグデータ」産業の振興にかける貴州貴陽を訪問編~最貧地域からもユニコーン企業が登場、そして沿海のイノベーションエコシステムが内陸へと浸透を開始

過去数年、時折耳にしていた貴州のビッグデータ産業基地を訪問する機会がありました。いくつか感想をメモしておきます。

 

1.貴州からもユニコーン企業~「後発地域xテック」でなにが起きるか

 貴州といえば中国の中でも内陸に位置し、なおかつ目立った産業のない貧困地域と位置付けられてきました。1980年代に現地を訪れたことのある方からは当時はご馳走として出てきた食べ物が豆腐だったという話を聞いたことがあるほどです。

現在重慶市党書記に昇進した陳敏爾氏が貴州省書記の時代に、米国を視察し、現地のビッグデータ産業の胎動を目にし、それを貴州省の発展戦略の中核に据えたことが、現在の蛙飛び型のビッグデータ産業発展戦略につながっているそうです。現地では政策のキーワードが「脱貧困、ビッグデータ、大自然」が標語となっているほどです。

 現地ではハイテク区におけるビッグデータ関連の展示室なども見ましたが、個人的にもっとも印象だったのは現地でのテック系企業の成長です。その代表ともいえるのが、Uberの物流トラック版ともいえる「貨車帮」という会社で、この会社は貴州省から唯一のユニコーン企業となっており、テンセントや世界銀行からの融資を受けています。

また、遠隔医療のサービスの社会実装も進められており、医療のマッチングサービスの領域では「貴州インターネット病院(贵州互联网医院)」というサービスがすでに展開していました。スマートフォンからも診察を受けられるほか、貴州省内の貧困地域の高齢者を想定して、貴陽市市内の中核病院と、農村の診療所をつないだ遠隔診療の仕組みもすでに実動していました。あるおばあちゃんが遠隔診療を受けている映像をリアルタイムで見たのですが、こうしたサービスが、貴州という貧困地域かつ山岳地域で導入されていることには驚きました。

 中国にかぎらず、ユニコーン企業に代表されるベンチャー企業の立地は主要都市に集中しています。下の表に示しているように、中国のユニコーン企業の87%が北京、上海、深圳、杭州に集中している状況です。しかしながら、貨物輸送や遠隔診療といった地域のニーズに根差したサービスからベンチャー企業が伸びてきていることもまた事実です。「後発地域xテック」「貧困地域xテック」というような切り口で、主要都市へのベンチャー経済の集中と同時に、ロングテイルというか、中国の広大な地方で、少しずつでも有力なテック系ベンチャーが育ってきているとしたら、この現象には注目が必要でしょう

表 中国のユニコーン企業の立地データ(2017年11月末時点)

ユニコーン企業数 中国全体に占める比率 ユニコーン企業の企業価値総額 (億人民元) 中国全体に 占める比率
中国合計 120 29,470
北京 54 45% 13,750 47%
上海 28 23% 4,580 16%
杭州 13 11% 5,420 19%
深圳 10 8% 2,840 10%
四都市合計 105 87% 26,590 92%
注:2017年11月30日時点で、胡潤研究院の集計で、10億ドル(70億元)以上の評価額の企業のリストである。集計対象地域は中国大陸および香港、マカオ、そして台湾を含む。
出所:『2017胡润大中华区独角兽指数』(Hurun Greater China Unicorn Index 2017)より(http://www.hurun.net/CN/Article/Details?num=5602F6026D18)。

貴陽のような後発地域でトップダウンで特定産業を支援しようとするビッグプッシュ政策をどう評価すべきかは、現状では評価が難しい問題です。一面では、現実とのかい離が生じている可能性も否定できません。見学したビッグデータ展示センターの周辺では、正直あまり多くの若者を見なかったことも事実です。ただ、現地での新興産業の育成の他に、中国全土としてみたときに、こうした内陸地域でも新興産業の発展戦略が策定され、遠隔診療を筆頭に、現地政府によるサポートにより新サービスが実装されていっています。「中国全土として事実上の、そして結果的な規制のサンドボックス」となっていることを考えると、こうした地方政府およびその意思決定者が思い切った政策を試していることを、単純に否定するだけでは済まされてないでしょう。

 

2.沿海部のイノベーションエコシステムが内陸に浸透し始めている

 

今回の調査でもう一つ驚いたのは、あるアクセラレータ/コワーキングを訪問した際の事業モデルでした。訪問したスペースは、渓雲小鎮というスペースで、現地の地方政府が開発プロジェクトを立ち上げたものの、その実際のオペレーションは深圳市のベンチャーキャピタル(沸騰創投、このブログでも何度か取り上げている深圳湾ソフトウェア産業基地のVCビルに本部)の人材が担っていたことでした。内装もそういえば深圳市のコワーキングスペースで見たことのあるようなデザインが目立ち、まさにこの事例では深圳モデルの波及とも言えそうな現象が観察できました。

実際に入居してる4社の企業にインタビューをできましたが、目立ったのは、沿海部のコンテンツ系やネット系のベンチャー企業で、本部を沿海都市に置きながら、内陸部での事業の拡張を目指して二次展開をしているパターンでした。現状ではこのコワーキングスペースはプロジェクトを集めるためにある基準を満たす企業に対しては賃料を無料に設定しており、こうした支援のもとで、沿海部からも企業が来ているようでした。同時に、渓雲小鎮は貴州大学のキャンパスのすぐ近くに立地しており、また周辺の大学を合わせると在校生は20万人を超えるという大学街でした。このため、現地の学生の創業事例もあり、今後はこうしたローカルな人材による創業も支援していくことを目指していました。

渓雲小鎮の事例では深圳市のVCがからんでいましたが、こうした。これまで特定都市に集中してきたエンジェル投資も今後広がっていくことになりそうです。

「大量の創業にもとづくイノベーション」という波が、沿海部主要都市を超えて、どこまで面として広がるのでしょうか?この点は、中国のマクロ経済にあたえるベンチャーエコノミーの貢献と可能性を考えるうえでも重要な論点となりそうです。

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ハイテク区の中に建設された「ビッグデータ広場」。

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「ビッグデータ広場」にある展示室で見た政策的支援のタイムライン。習近平、李克強といったトップレベル層が貴陽のビッグデータ産業発展を支持していることを宣伝していました。

 

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貨車帮のリアルタイムでの貨物発注の状況を見ました。数秒おきに新たな発注がプラットフォーム上に流れ込み、それに個人や企業の運送業者がマッチングされていきます。

 

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貴陽インターネット病院での、リアルタイムでの診療の状況。ある村の診療所と貴陽市人民第一病院をつなぎ、診療をしていました。

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スマホからログインして、人民医院の先生を選び、診療。このほかにも予約も取れるようになっていました。これは中国でこれまで深刻な問題であった病院の番号待ち問題の解決にむけてとても大事な取り組みです。私も2007年に留学していた時に、高熱を出して体調を崩して病院に行った際、長時間待たされて憔悴した経験があります。

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渓雲小鎮の外観。もともとは自動車の修理・アフターサービス店舗(いわゆる4S店)だったところを改築したそうです。たしかにBaidu地図上では自動車販売店でした。

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近くには小川がながれ、山があり、なんとも風光明媚ところでした。貴州大学もすぐ近くにありました。

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コワーキングスペースの様子。写真の部分はオープンスペースで、このほかに個室がありました。この時点で「なんだか見おぼえがるなぁ」というデザインです。

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そして深圳に「あるある!」なデザイン。これは深圳のSimplyworkなどで見たような覚えがあるデザインです。北京や上海などでもよくあると思います。

 

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沸騰創投の説明。まさに深圳大学のすぐとなり、深圳湾ソフトウェア産業基地から貴州貴陽にまで進出しているという面白い事例でした。

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また現地にはメイカースペースもありました。このメイカースペースでは自動運転のハッカソンを準備しており、この方(かつて鉱山系の国有企業につとめていたエンジニアで、コンゴにも滞在していたそうです)は自動運転車のプラットフォームの上に、ロボットアームを使って自動でコーヒーをいれるモジュールを載せるというプロジェクトをやっていました。ロボット系の開発では、東莞にも拠点がありますが、内陸でもこうした取り組みがあることに驚きました。

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そして貴陽空港の近くにて建設が進むVRテーマパーク「科幻谷」。今年5月のオープンを見込んでおり、60メートルのロボットが入り口でお出迎え。VRも体験しましたが、私は車酔いにも弱いほうなので、正直きつかった・・・。ただ深圳のショッピングモールにあるVRなどにくらべるとVR自体の出来は悪くなくて、とくに貴州の観光名所を体験できるVRはなかなかのものでした。

 

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おなじく「科幻谷」の一部。

参考資料:

http://www.ceh.com.cn/fgwxx/2017/09/1040938.shtml

http://news.hexun.com/2016-03-09/182660227.html

http://www.sohu.com/a/143964867_115035

http://www.gzgov.gov.cn/xxgk/jdhy/zcjd_8115/201802/t20180223_1098829.html

伊藤亜聖のページです

中国に軸足を置きながら、アジア、そして新興国の経済を研究しています。ここにはメモのような雑文を書いています。
上の写真は上海市出身のアーティスト、楊泳樑氏(Yang Yongliang)のPhantom Landscape Ⅱ (蜃市山水贰, 2007)です。山水画に見えますがよく見るとビル群で、2000年代後半の開発の様子を思わせます。Yang Yongliang Studioの許可を得てヘッダー画像として掲載しています。