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深圳在外研究メモ No.26 メイカースペースSegmakerでイベントを開催してみた編~ドローンミートアップと深圳観察会ワークショップ

深圳の新しいエコシステムとのつながりを深めるために開設されたニコ技深圳観察会Segmaker出張所。ここでこのほど2度ほどイベントを開催したのでメモしておきます。

1.ドローンミートアップ(6月25日)

一つ目は、ドローン業界関係者を集めた情報交換を行うドローンミートアップです。在外研究メモの No.23とNo.24で取り上げた「深圳国際ドローン展2017」に合わせて、日本から来たドローン業界関係者20名と、深圳のドローン業界関係者10名ほど、そして現地で活動をしている方々10名ほどをお招きにして開催しました。

日本側の参加者にはドローン・ロボティクスベンチャーの専門家やベンチャー企業経営者をはじめ、ちょうど展示会に来ていた日本UAS産業振興協会(JUIDA)の千田副理事長などが参加しました。中国側は、ドローンレース業界団体D1の創立者、ドローンのフライトコントローラーの開発者、群体制御を用いたスタートアップの創業者、そしてドローンスクールの経営者、そして深圳衛星テレビのドローン撮影部隊などが集まりました。

期せずして、ドローンの開発者、ソリューション事業者、パイロット養成のプロなど、多方面の関係者が集まり、特に中国側からのプレゼンは大いに盛り上がりました。例えばグループコントロールのスタートアップSkypixのLiu Chuhao氏は、DJIのフランク・ワンの師匠でもある李教授からも投資を受けているベンチャーの創設者で、北京の清華大学のイベントでドローンによる舞台表現をしている企業です。展示会ではおもにハードウェア企業が多く出展していましたが、深圳にはドローン業界の様々なプレーヤーが生まれています。

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開会直後の様子。

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深圳衛星テレビのドローン部隊が撮影した作品を上映。

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最後にグループフォト。

2.深圳ハードウェアスタートアップのエコシステム(7月4日)

二つ目のイベントは深圳観察会発起人の高須正和さん、そして製造請負のJenesisの藤岡淳一さんを登壇者として開催した「深圳ハードウェアスタートアップのエコシステム」。FacebookイベントやWechatでの広報を進めましたが、日本語イベントにも関わらず幸いにも上海や東京からの参加者も得て、ほぼ満員の状態になりました。

このイベントは、前回昨年12月に東大本郷キャンパスで開催したものの延長線上なのですが、後述するように、HAXにいるFujimotoさんも最後では登壇していただき、かなりリッチな議論ができました。

始めに私から深圳の大きな構造変化、とくに下請け加工の場からイノベーションの場となりつつあること、主要な特許データや代表的な企業家の紹介などをして、次に高須さんにご登壇いただきました。高須さんのスライドはこちらにアップロードされています。

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伊藤から若干の概説説明。

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高須さんの議論はまず、そもそもイノベーション自体の在り方が、2000年代半ば以降で大きく変わったという点からスタートしました。量的に測れる性能の工場ではなく、個人やコミュニティが量的には示しえないような好みやセンスで選ばれる製品・サービスがより重要になってきている、という指摘です。

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深圳でそれを体現しているのが、オープンソースハードウェアの低ロットからの試作および受託生産を行うSeeed。いかにSeeedがやっていることが新しいか、それは卓上印刷機が同人誌とそのカルチャーを育て、DTM(卓上音楽編集機)の登場が同人音楽を作り上げたように、デスクトップファブリケーションが広がることで、グローバルでIndieなモノづくりがうまれ、それを支え、育てるSeeedのような企業が登場した、というストーリーでした。

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一方で深圳には模倣の問題も存在。それを中国の企業家がどう見ているのかというセクション。コピー品が出る前に回収しなければならないというRobin Wu(通称シャンジャイ王)の意見と、コピー製品は結局製品の高度な作りこみを放棄しているので、わかるやつにはわかるし別セグメントだ、という上海のRex Chenの意見を紹介。

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続いてJenesis社の藤岡さんご登壇。製造の最前線で観察した深圳サプライチェーンのメリットデメリットをご報告いただきました。

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深圳の成熟しきったサプライチェーンに完全に乗っかる形で事業を展開している、との談。深圳に多数存在する、ソリューションハウスが提供する部品リストやサプライヤーリストを活用し、中華部品(ローカル部品)を活用することで短納期、低価格の製品供給を目指している。

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深圳を中心に形成された成熟したサプライチェーン。1時間以内に、電子部品モジュール、基板、金型、成型、ソリューションハウス、検査、さらに輸送インフラまでが揃う環境にある。

写真がないのですが、一方で、メリットだけでなく、デメリットもあるというお話も強調されていました。とくに、この流行りの大きなサプライチェーンのなかで調達できない尖った性能を持つパーツを利用しようとすると、むしろ輸入関税がかかり高価となってしまうそうです。

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Q&Aセッションでは、ハードウェアアクセラレーターHAXに現役で入居しているWalkies Labの藤本剛一さんにもご登壇いただきました。カナダから応募し、HAXで経験していること、そして実際に深圳でハードウェアを開発するなかで生じている問題点、とくに重要パーツが入手困難な場合も少なくないことなども率直にご報告いただきました。有難うございました。

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2つのイベントを開催してみて、深圳で深圳を多様なバックグラウンドの方々と議論する場所を作っていくことは有意義だなと感じました。在外研究メモNo.19でも若干紹介しているのですが、フィンランド、イギリス、フランス、韓国などの各国が自国のエコシステムと深圳をつなげようとしているなかで、Segmakerを利用して日本とのつながりが深まるのようなイベントを開催していければ、そのうち何かにつながるかもしれません。

深圳在外研究メモ No.25 ローカル系レーザーカッター工場を訪問する編~東莞市の雷宇激光を訪問、メイカースペースを支える現場を見た

在外研究メモのNo.9で、華強北エリアで開催されたレーザーカッターのワークショップに参加したことを書きました。このワークショップに来て現場の講師役を務めていたレーザーカッターメーカーが、東莞市雷宇激光設備有限公司です。今回この会社を訪問できたので、そのメモをまとめておきます。

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東莞市沙田鎮にある工場入り口。2010年から2013年にレーザーカッターの貿易を始めたものの、品質の管理に苦労したため、20135月に自ら生産に参入。現在、従業員数は25人ほどの小さな工場でしたが、とても若くまた明るい雰囲気の工場でした。基幹電子部品はすべて外部からの購入ですが、アルミフレームの切削加工は自社内でおこなっており、後述するレーザーチューブの検品を全量行うことで、製品の品質を安定化させていることが、この価格帯のレーザーカッターとしての差別化につながっているようでした。

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当社の主力製品であるNova、販売価格は約2万元(36万円)。

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木材加工の例。

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同上。

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アクリル加工の例。

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5層の加工による毛沢東像。

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工場の生産現場。

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コントロール系統が入る箇所。サーボモーターとコントロール系統は雷賽智能のものを使用。

前回、3Dプリンター工場を訪問した際にも明らかだったのですが、XY軸をコントロールする軸自体を安定させることが重要で、ここは手作業での調整がものを言います。また、サーボモーター、そしてコントロール系統が深圳東莞エリアで製造されていることの意味も大きいでしょう。木材加工やアクリル加工のように、それほど精度を求められないセグメントでは、もはや現地調達されたサーボモーターとコントローラーで十分な性能が得られます。「XY軸を正確に動かし、それにレーザーを連動させる」というシンプルな課題に安価に応える現場がここにあると感じました。

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炭酸ガスチューブ。

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工場を見学した中で、案内してくれたKen(副総経理)が最も大事だといったのは、炭酸ガスチューブのエイジングと検査工程でした。Ken曰く、米国産のサイズのレーザーを購入すると10万元(約160万円)かかるそうで、それに対して中国産チューブの価格は1/20以下。寿命は約1/10で、米国産4万時間に対して中国産は4000時間ほどで交換が必要になるそうです。Kenによれば、雷宇の現在の販売先である欧米の工場や、手工芸用の教室、そしてメイカースペースでは、それほど長時間の使用をしない場合が多いため、4000時間の寿命で2年ほど持つそうで、寿命が来たら交換する形でコストを抑えているとのこと。

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アルミ部品の加工現場。

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ドイツの代理店関係者との写真。販売実績の90%が海外で、ドイツに300台、米国に200台、日本にはまだ34台の納入にとどまっています。中国国内でもメイカーズムーブメント(創客)の広がりによってニーズが生まれているそうですが、圧倒的に3Dプリンターへのニーズが勝る状況にあり、こうした教育系市場へのレーザーカッターの普及にはまだ時間がかかりそうです。むしろ東莞ではアパレル生地の裁断用のレーザーカッターメーカーが多数あるとのこと。

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記念撮影。ともかく現場の明るい雰囲気が印象的でした。

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訪問終了時には、記念撮影したものが木版に彫刻されて、プレゼンしていただきました。

Kenさん、ありがとうございました!

講演会告知:深圳ハードウェアスタートアップのエコシステム(深圳硬件新兴企业的生态圈 )

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日時(时间):2017年7月4日18:30-20:30

会場(地点):深圳市福田区華強北賽格広場12階Segmaker(华强北赛格广场12楼赛格众创空间)

主催(主办方):ニコ技深圳観察会Segmaker出張所

事前登録:不要です(不需要登记)

言語:日本語(this workshop will be hold in Japanese, but welcome international friends to join. 这研讨会语言为日语,但非常欢迎国际友人过来参加)

 

登壇者(演讲来宾)

高須正和(teamLab)

無駄に元気な、チームラボMake部の発起人。チームラボ/ニコニコ学会β/ニコニコ技術部/DMM.Makeなどで活動、『ニコ技輸出プロジェクト』を開催。『メイカーズのエコシステム 新しいモノづくりがとまらない。』(インプレスR&D, 2016年)を出版。ブログでも情報を発信:https://medium.com/@tks

 

藤岡淳一(創世訊聯科技(深圳)有限公司 董事總經理)

1996年千代田工科芸術専門学校卒、派遣技術者として家電大手の製造部門で勤務。デジタル機器ベンチャーを経て2011年にジェネシスを創業。2013年深圳工場を設立。イオングループの「格安スマホ」の納品を手掛けるなど、深圳のサプライチェーンの最前線で活躍。http://jenesis.jp/

 

司会(主持人)

伊藤亜聖(東京大学社会科学研究所/深圳大学中国経済特区研究センター)

 

タイムテーブル(时间表)

18:00開場、おいしいフルーツティを用意しております (18点开始入场,喝喝水果茶)

18:30講演会開始(18点半开始演讲会)

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連絡先(联系人):伊藤亜聖

Wechat ID: aseiito

Email: asei@iss.u-tokyo.ac.jp

(地図データなどシェアできるので、できればWechatでご連絡ください)

 

深圳在外研究メモ No.23 深圳国際ドローン展2017に参加する編①~「世界無人機大会」の規模、そして南京航空航天大学の先生の「ドローン×AI」の議論が刺激的だった

私は新興産業の事例研究として、中国のドローン産業にも注目して研究をしています。最近ですと日本の専門メディアDrone Journalに「加速都市・深圳から見るドローンの未来」を書いています。

現在滞在している深圳では、昨年に続き深圳市無人機協会の主催による深圳国際ドローン展が開催されています。昨年の展示会にも参加しているので、去年の開催概要はこちらをご覧ください。

以下、初日に参加した雑感を写真にメモしておきます。現時点での印象としては、①昨年は参加が見られなかったDJIが、副総裁をコンファレンスに出したことが会議自体の重みを大きく変え始めている、②コンシューマーセグメントにおけるDJIの一強状態を反映して、出展メーカーは産業用ドローンメーカーが圧倒的に多いこと、③「世界無人機大会」というコンファレンスが巨大で、しかも海外の来賓のプレゼンより中国側のプレゼンが刺激的だったことがあります。展示の内容については明日以降に取材したものを次に書くことにして、以下では、初日のコンファレンスについて若干触れておきたいと思います。

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昨年に続き会展中心で開催されているドローン展。

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7-8号館が会場となっていますが、主に8号館にドローンが、7号館には画像認識系の展示が集まっています。

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開幕式の様子。1時間くらい押して始まりました。

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「世界無人機大会」、深圳市ドローン協会・楊金才会長による挨拶。

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合計10のキーノートスピーチの一番で登壇したDJIの副総裁、徐華濱氏。タイトルは「娯楽から生産力へ:ドローン産業の未来の生態系」。

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DJIの機種開発を4つの段階に分けて説明。第一段階は、飛ぶのに十分な飛行機能(ホバリング、操作)を持たせる段階。第二段階が空撮セグメントを開拓するために必要な機能(カメラおよびジンバルの搭載)を持たせる段階。第三段階が、衝突回避、追跡、ジェスチャーコントロールといったスマート化。そして第四段階が産業用ドローンの段階で、悪天候への耐久性、信頼性、モジュール化およびオープン化によるカスタマイズ需要への対応、という段階。

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ハードウェアは主に3つのプラットフォームで対応。

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ソフトウェアは、①フライトコントローラー、②データ収集、③データ分析の3つのレイヤーでパートナーを選定していく。

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マーケティングとシステム開発の両面でパートナーを増やす戦略、とのこと。本当はDJIはもっと未来を考えているはずですが、ここではあくまでもパートナーを増やすというプレゼンテーションをしていました。

 

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別のプレゼンの中で、強烈だったのは南京航空航天大学の黄大慶先生のプレゼンです。ドローンにAIを搭載し、ネットワーク化することで何ができるかという議論をしていました。結論として、蜂の群れの研究を応用し、相互に連結した、自律したドローンの群れにAIを搭載すれば、第一に軍事用途では「この顔のテロリストを排除せよ」と命令すれば自動で発見し攻撃し排除できる。世界を5つくらいのエリアにわけて管理すればよい、とのこと。第二に、民用では、AIに「農作物を育てて収穫量を増やせ」と命令すれば、ドローンの群れが自動で農薬をまき、水の生育状況を把握できる。他の登壇者が実務的な機体開発、法規制、ソリューション、そして国際協力の話をする中で、黄教授のものが最も野心的なプレゼンで、「ドローン×AI」の議論は刺激でした。

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ドローンにAIと自律的グループコントロールを追加した場合に可能になる民用用途を解説しているスライドです。

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「世界無人機大会」の様子。

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「深圳無人機宣言」を多くの国から来た代表と署名し、「世界無人機大会」はフィナーレ。

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二日目以降には専門的なセッションが複数開催されます。すべては把握できませんが、展示の内容と合わせて次回書きます。

深圳在外研究メモ No.22 深圳でKickstarterのキャンペーン戦略を学ぶ編~「クラウドファンディングとはCommunity-driven fundingである、それ相応の準備が不可欠」

今週は深圳のメイカーコミュニティではKickstarterのデザインディレクターであるJulio Terraが来ていたこともあり、 クラウドファンディングに関わるセッションが開催されていました。その内容を簡単に紹介します。

1.Crowdfunding Masterclass@HAX

まずは水曜日にHAXで開催されたセッション。最初のセッションではMakeblockのJasenが経験をシェア、そして第二セッションではKickstarterのプロジェクトのサポートに特化したPR会社によるトークセッション、そして最後にHAXの現役やOBによるトークでした。

第一セッションでの話は、前回のHAXでのセッションに近く、第二セッションの話は広告の見地から、どのように重点的な顧客層に情報を発信するかという話が中心でした。この中でショッキングだった情報は、Jellop のGil Shterzerが割とあっさりと紹介した「Kickstarterのウェブサイトを見ている人の80%が男性である」という事実でした。ですから女性向けのプロジェクトが成功することが難しいそうです。

セッションとして一番面白かったのは時間的には短かったのですが、最後のセッションでした。それぞれのプロジェクトの責任者が、Kickstarterでローンチして以降の日ごとのBack金額のグラフを見ながら、「この時にあのメディアに載って、それでちょっと増えたんだよね」とか話していました。一つの典型的なパターンとして、MindsetというヘッドフォンプロジェクトのJacobが示したのが、U字型のグラフでした。キャンペーンが始まった直後に比較的関心が集まった後、停滞する時期が続き、後半にメディアへの掲載が入ることで終盤にBack額が上がるというパターンです。

VUEというスマートグラスウェアのプロジェクトの場合、一貫して低迷気味だったのですが、終盤にForbes、そしてTech Crunchに記事が掲載され、一気に金額が伸びたそうです。この日のトークのなかで、有力メディアに如何に掲載されるか、その一歩手前で、ジャーナリストに如何にプロジェクトの魅力を伝えるのか、といった点がたびたび出てきたのですが、こうしたグラフを見るとその意味がよく分かります。

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満員御礼のHAX。少し見ないうちに、座席も倍に拡張されていました。

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Jasen(Makeblock)とJulio(Kickstarter)のトークセッション。期せずして全く同じ格好。

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Kickstarter専門のPR会社へのインタビュー。

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一番盛り上がったセッション。現役HAX入居プロジェクトメンバーによるシェア。左からVUE(Tiantian)、Trainerbot、Roadie、そしてMindset(Jacob)。Jacobが過去最年少という話を聞いたけど、本当だろうか。

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MindsetのデイリーBack金額の推移。後半に一気に伸びているのはメディアに取り上げられたから(Kicktraqから検索可能)。

2.Julio Terra from Kickstarter@Xfactory

翌日の夜、柴火創客の新たなMakerspaceであるXfactoryにてJulioによるトークが開催されました。

こちらはしっかりとしたプレゼン形式だったので、とりあえずプレゼンを聞きながらメモした内容をシェアしておきます。

 自分はもともとデザインコミュニティ出身でKickstarterで現在デザインと技術の担当をしている。

Kickstarterに最初に接したのは2010年にGlifというiPhone用の三脚をバックしたことだった。その後、100万ドルを調達するようなプロジェクトが登場し、かなりの金額をクラウドファンディグで調達できることがわかってきた。そしてKickstarter に入ることになった。

もしもKickstarterで自分が何かしようと思うのであれば、まずどれかプロジェクトをバックするべきだと思う。一つだけでなく、複数のものをサポートすべきだ。フロアのなかに、Kickstarterでプロジェクトを実際にやっている人はいるかな?今日はオーディエンスに4~5人くらいはプロジェクトしているひとがいるみたいだ。

1) 求められる戦略

Kickstarterでのクラウドファンディングは、戦略がないと成功しにくい。運で成功することはあるが、それは戦略とは言えない。今日のプレゼンの目標は、皆さんに道具をあげることだが、しかしこれをやればいいというレシピを提供することではない。

Kickstarterで成功するためには、5つのレベルを満たす必要がある。

  • まず初めに人が欲しいと思っているものをつくる
  • 人を動かす(あるいは衝動買いさせる、Compelling)プロジェクトにする
  • コミュニティを作る。
  • Buzzとメディアで注目を集める
  • さらに有料メディアを使い、売り上げをあげる。

このうち、この中でも真ん中の3つを話す。なかでも一番大切なことは、クラウドファンディングとはCommunity-driven fundingだということだ。

2)準備時間

まずはどのくらいの時間をかけてキャンペーンを準備するべきだろうか。最低でも2か月半は必要だろう。成功するプロジェクトは普通、6か月くらいはかけている。ハードウェアプロジェクトの場合、最低限、リリースの前にBOM(Bill of Material)の作成が済んでいることが必要である。部品の単価がわかって、初めて最終製品の価格を決められるからだ。

その次に、10-12週はかけてキャンペーン用のHPをつくる必要がある。英語でなければならないし、ビデオを作らなければならない。そして8-10週かけてメディアへの準備が必要である。ジャーナリストへのプレゼン資料を作成し、説得する準備が必要だ。一度ニュースや雑誌記事でBuzzると、1万通レベルのメールがくるので、それに対応できるようにしなければならない。

そして6-8週かけて、いいビデオをつくる。概略を作って、台本をつくり、実施にロケーションをみつけ、役者を決めて、撮影し、編集して、音楽つける。これはなかなか時間がかかることだし、実際Kickstarterで成功するにはとても重要なプロセスだ。

次にコミュニティを作ること。最重要だ。これは非常に時間がかかるプロセスで、準備期間からキャンペーン中まで、ずっと必要な活動だ。Email Listはコミュニティではない。コミュニティの質が重要であり、人数の問題ではない。プロジェクトへの関心が高い人がいるコミュニティ、それこそが「質が高いコミュニティ」だ

設計や生産の面では、DFM(Design for Manufacturing)で設計を行うのに数か月の時間がかかる。そしてそれを1年かそれ以上かけて生産し、出荷することになる。

このように、プロジェクトの段階によって、タスクが変わっていくが、コミュニティづくりはずっと続く。このようなプロジェクトを一人で遂行するのは非常にむずかしいから、チームでやる必要がある。10万ドル以上のプロジェクトの場合、おそらく個人では難しいだろう。

3)時期ごとにやるべきこと

次に、キャンペーンのローンチまでの期間ごとにやるべきことを整理すると次の通りになる。

3-6か月前。そもそも、皆さんのビジネス全体にとって、キックスターターはとても小さい部分を占めるに過ぎないはずだ。会社全体の方向性を考えることがまず必要だ。Kickstarterで調達できる金額が多いほうがいいと思っている人がいるが、そうではない。たしかにスケールがあるほうが生産には規模の経済性が働くが、金額を調達すればそれだけのリスクを負うことになる。Backしている人は、「人間」であって、「ただの数」ではない。当然プロジェクトについて質問してきたりする。1万人のBackerがいれば、それだけの連絡が来ることになる。コミュニティと各段階での進捗をShareしていく必要がある。

ローンチの2か月前。実際に中身をつくっていく段階だ。キャンペーンのアウトラインを作り、メディアへの対応を準備する。ハードウェアの場合にはプロトタイプを作り、BOMを作っていく段階だ。

1か月前。コストを計算し、ビデオをつくり、最終的な目標金額(Funding Goal)を決めて、広報もスタートする時期だ。この時期に、製品の発送時期を決めることになるが、「これなら2か月で発送できる」と思ったら4か月後に設定したほうがいい。2倍くらい時間がかかると思ったほうが良い。

1週間前。プロジェクトの中身についてKickstarterの会社側のReviewにだす。そしてローンチ後のコミュニティへのアップデートの準備を始めなければならない。ダブルチェックで誰かにコスト(COGS)を精査してもらうことを勧める。とくに「全世界に発送」というのは現実的ではない。現実的になろう。Shipping Costを考える必要がある。

スタート。コミュニティ、そしてメディアにリリースを連絡しよう(Get the word out widely)。始まったらプロジェクトメンバーは様々な人に話し続ける必要がある。そしてコミュニティにはアップデートを送りつづけるべきだ。

4)個別のタスクについて

アウトラインはストーリーだ。ストーリーテリングなプロジェクトを作る必要がある。クラウドファンディングとは、「まだできてもいないもの、できるかわからないもの、そして出来たとしても6か月後に発送されるものに100ドルとか払わせようとする試み」。正直言って、ふざけた話だ。つまり熱狂させないと成功しない。

キャンペーンのなかで、それぞれのメディアの役割は異なる。

ビデオ:Why should I care

キャンペーンページ:Tell me more(Spec, size, science, tech)

アップデート:Explore details

ビデオは何を作っているか、からはじめよう(プロジェクトのOriginはいらない)。全体で2~3分をおススメする。最初の2分間は製品を触っている反応だけのやつとかよかった。

 クラウドファンディングでBackしてくれる人は、製品だけをかっているわけではない、クリエイターが好きで、その創造のプロセスとか、Passionを持つ人のためにお金を出している人だ。だから、コミュニティを協力者だと思って進めるべき。そしてコミュニティとの関係を築くうえでは、Transparencyが大事。懐疑的に思われると質問してきて、場合によっては敵対的になってくる場合もある。

キャンペーンを始めるにあたり、Prototype demosは必要だろう。プロトライプのデモを見せられないときにもUser experienceは大事。だからビデオですくなくとも説得できるように、一部の機能でもいいから、何ができるようになるのかを見せていくことが不可欠。私が一番すきなビデオはMakey Makayでまったくお金はかかっていないがよかった。デザインのプロセスは、外の人から見たら結構面白いからそれを見せていく。

正直、正確な寸法の写真Renderingは必要ではない。Lifestyle photoがむしろ必要。生活の中でどのように使えるかがわかるものがいい。そして人とプロセスを見せていくことが有効だ。月の模型のプロジェクトはすごくいいビデオで、彼らが作っているところ見せていく(MOON)。名前だけでなくで、クリエイターの写真も見せていくことが有効だ。

広報(Outreach。コミュニティとの関係を、取引的(Transactional)には思わないほうがいい。Kickstarterはまだあなたの旅の一部でしかない。ジャーナリストとの関係もそうで、この後も色々関係が生まれてくる。RelationはGive and takeだ。徐々に関係を作っていくことが大事だ。

Build don’t Launch。ハードウェアスタートアップとは、アップルとかマイクロソフトとは全く違うサイズ。最後まで情報を隠しておいて、最後にリリースして大きくBuzzらせよう、とか思っても、それはむりだ。情報をどんどん出して作っていくことが大事。Build upだ。

Be ready to capture interest. 幸運にもテッククランチとかメジャーなメディアに記事が載ると、数日で4万通のメールがきたりする。それに対応できないと、それらのチャンスを逃すことになる。そのための準備をしておかなければならない。

これで分かったと思うが、Kickstarterのローンチの初日のために、クリエイターはすごい努力している。

キャンペーン終了後、アップデートし続けることが大事だ。メールで「僕らのプロジェクトをシェアして!シェアして!」ではむりがある。読者、Backerをインスパイアしていかなければならない。Kickstarter Liveで経験をシェアしていく、等の方法がある。

以上のように、かなり実践的な「レクチャー」という印象でした。

要約すると、本当に送られて来るかどうかわからないものに100ドル払わせようとするなら、それ相応の準備が必要で、なかでもコミュニティ(要するにファン)を作っていかなければ成功しない、となりそうです。

そしてQAも30分ほどはあったのでかなりみっちり議論が展開されたのですが、そのなかでも中国ならではだったのは、「Kickstarterに載っている製品が、ずっと安くTaobaoで売られているじゃないか」という質問でした。このテーマは結構まえの「山寨死」に関するエントリーでも取り上げたテーマでもあります。Julioの回答は、次のようなものでした。

コピーキャットへの簡単な対応策はない。Kickstarterの写真をそのままコピーして、そのまま売り始めたりする。対応策としては、ブランドをつくり、コミュニティをつくっていくことが大事だ。過去4年、Kickstarterを見ていると、実際に模倣されるケースもある。技術的にコピーが難しいものや、ソフトウェアで差別化されたものを作る必要がある。本物と偽のものの間には差がある。

この質問をした方は工場の人だったようで、質問の意図はむしろ「Kickstarterよりもこの辺の工場の方が安くていいものが作れるんじゃないか」という質問だったようにも思います。ですからJulioの回答が果たして彼を満足させたのかはわかりません…。

いずれにせよ、HAXでのセッションも満員でしたし、これだけの観衆が集まったわけで、この地域にKickstarterを巡るコミュニティがはっきりと形成されているのがよくわかりました。しかし同時に、Kickstarterは中国大陸には支社を設けておらず、中国大陸の住所ではキャンペーンをできないこともQ&Aでは話題に上りました。中国大陸のプロジェクトは、こうした不便さをものともせず、ローンチされていることになります。今度は、中国大陸から実際にプロジェクトを遂行している人たちにもこのあたりの話を聞いてみようと思います。

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Xfactoryにおけるセッションの風景。実況アプリ・映客でも実況されていました。

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キースライドの一つ。プロジェクトの段階ごとに、おおよそどのようなタスクがあるかを図示。

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キャンペーンページのおもな役割を解説。

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ストーリーを作ることを強調。