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深圳在外研究メモ No.38 Maker Faire Shenzhen 2017に参加編~日本から多くのプロジェクトが参加、そしてMaker Education でも深圳は拠点になるのか?

昨年に続きMaker Faire Shenzhenに参加しました、公式HPはこちら。今年の会場は留仙洞の深圳市職業技術学院です。学校での開催と言うこともあり、特に初日は若い学生が多く来場し、展示を盛り上げていました。

1.展示の様子

主な展示は、①アート系の展示とワークショップ、②大企業(ToshibaやAcerのIoTキット)の出展、③そしてスタートアップ/メイカー系に分かれていました。

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入り口の看板。

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校名の看板にもMaker Faireのアイコン、Makey。

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初日の朝の様子ですが、3日間つねにこのくらいの人がいました。

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フランスからのプロジェクト、WaterLight Graffiti。刷毛のようなスティックで触れるとLEDが点灯していき、絵を描くことができるというMakerアート作品。

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スタートアップエリアに出展していた教育用ロボットのスタートアップ。正直Makeblockにそっくりでしたが、この手のSTEM教育ロボットへのニーズは1社でカバーできる規模ではないため、こうしたスタートアップが昨年につづきいくつも見られました。

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金型メーカーも出展している辺りは、Maker Faire Tokyoとの違いかもしれません。スタートアップ向けのBtoBの展示も少数ではありましたが見られました。

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紙テープでアートを作るTAPIGAMIプロジェクトのDanny. 大道芸人のように会場を歩いていましたが、どこでも人だかりができていました。

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4社のロボットスタートアップ合同でのロボットバトル。ロボット自体も手作り感溢れる作りでしたが、いずれも教育/レジャー系ロボティクス市場に焦点を当てたスタートアップで、1社2社ではなく、層として教育系ロボット市場を開拓する企業が生まれていることを感じさせました。

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日本の鯖江から出展したLED眼鏡の出展ブース。まだプロトタイプの段階でしたが、多くの来場者が興味を持ってみていました。

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漫画『ホームセンターTENCO』も出展。中国語版の冊子も販売していました。

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寧波から出展していたプロジェクトアーティストとエンジニアの二人組で、デザイン志向の高い作品を販売しており、注目を集めていました。

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『脳震盪』の作品の一つ「思考の手」。モーターが動くと指がゆっくりと順番に動き、哲学者が物を考えている場面を思わせるつくりでした。教育用ロボットがより機能を売りとしているのに対して、これはアート、インテリアとしての価値を探った製品ですIMG_20171110_142505.jpg

主催者のEric Panが歩いていたので、写真をとってもらいました。夜のパーティの際に、「深圳の変化のスピードには常に驚かされる」と話したところ、Ericは「うん、でもそれが僕らにとっても対応するのが本当に大変なんだよ」と教えてくれました。私から見るとEricなんて最前線を走って引っ張っているように見えるのですが…。

2.Maker Education Forum

個人的に最も印象的だったのは「Maker Educationの実践」というフォーラムでした。コアのキュレーターはCarrie Leungで、深圳蛇口にあるアメリカンスクール(深美国際学校,Shenzhen American International School, Shekou )の先生で学校内にメイカースペースを設け、そこでプロジェクトベースラーニングを実践してる方です。

登壇者の中には前海自由貿易区に唯一ある小学校の校長先生も含まれていましたが、最も印象的だったのは、深美国際学校のカリキュラムを作ったTwila Busbyさんの講演と、深圳で子育てをして、子供がロボットコンテストなどにも参加しているRain Yuさんの講演でした。以下はお二人の講演の要約です。

2-1)Rain Yuさんの講演要約

私は清華大学卒業で、HUAWEI15年働いたエンジニアだが、その後自分で会社を作り、子供が生まれたこともあり、いまはエンジェル投資家としても活動している。私の息子は沢山のロボットをつくり、いくつかのコンテストで賞をもらってきた。息子はもともと内向きな性格で、英語のスペリングテストも苦手で、決して目立つ学生ではなかった。しかし彼の特徴は、手を動かすのが好きな点で、家の電灯が壊れたときには自分で直し、iPadのディスプレイが割れたときにはインターネットで修理の動画を見て、Taobaoで部品を買って、自分で直した。自転車も1台組み立てて、一つ一つの部品を理解していて、もはや私よりも詳しい。

息子は登壇者でもあるJames先生と一緒にロボットを学ぶようになり、徐々に展示会やコンテストにも出るようになって、だんだん自信がついてきた。展示会では作品を説明するために知らない人と話さなければならないし、徐々により活発に、より明るくなった

しかし中学校に入ってからは授業だけでなく、受験勉強のための塾通いが始まった。これは同級生みんながやっていることで、数学、英語、こうした科目を塾で勉強しなければ淘汰されてしまうからだ。そのため、イベントやコンテストに参加する時間がなくなってしまった。イベントに参加する時間があれば数学や英語をやらなければならないためだ。中国の教育制度自体が持っているこのような状況について私は議論したいと思っている。いまの中国の教育環境のもとで、どうすればいいのだろうか

南山区はいい条件の場所で、先日はTeamLabの展示会にいった。友達から薦められていったのだが、芸術と科学と一体となっていてとてもよかった。もっと多くの子供に行ってもらいたいから、子供用のチケットを買ってきた。せっかくだからなんでも質問してほしい。質問してくれた人にこのTeamLab展のチケットをあげたいと思う。 

今日は日曜日だ。息子は週末だから、友達と一緒にMaker Faireに来ようと思って、友達を誘った。しかし彼の友達は今日もみんな塾に行っている。だから息子の友達は一人として一緒に来てくれなかった。

 

2-2)Twila Busbyさんの講演要約

私は深圳のアメリカンスクールでカリキュラムを作っていた。それらはプロジェクトベースラーニングのアプローチでメイカー教育を組み込んで作ったものだ。すでに定年退職してアメリカに戻りっており、Makeマガジンに寄稿したり、Microbitを使った遊んだり、スタンフォード大学のFabLabのイベントに行ったりして過ごしている。 Makeという活動は、人間本来の活動であり、誰もができることだ。

Maker Eductionについて私の道しるべとなったのは、Invent to Learnだ。教育者にとってバイブルだ。そこでは次のように書かれている。「子供を現実のプロジェクトに参加させることで、子供たちは科学や数式が彼らのプロジェクトを継続するために必要であることを実感する。良いプロジェクトは、更に学ばなけれなならないことを教えるのだ。これはテストをしたり低い成績を与えることよりもずっとパワフルだ」。

学校(School)とMaker movementをどうつなげるか。学校という輪の中にメイカーを入れようとするのが通常のアプローチだ。しかし学校では沢山のやらないといけないことがあり、メイカー活動はそれらの中で埋もれてしまう。そこでProject Based Learning(PBL)と合わせて実施することが有効だ。PBLは思想であり方法である。ダイナミックに実際の世界の問題を解決するようなアプローチである。

現実として、学校、そして教師は生徒のテストの成績でその力量を評価されてしまうのが実情だ。いくつかの研究結果によると、実際にPBLを実施した学生は、より高い筆記試験の成績を記録している。だからこの評価軸でもPBLは有効なのだ。しかしMaker Educationが継続的に教育に組み込まれていくためにはMaker Cultureが社会の中で、培われて行かなければだめだろう。 

深圳で子育てをしている母親の悩みは、会場全体に強く響いたように感じました。日曜日にもかかわらず、友達が一人も一緒にMaker Faireに来てくれないという事実にはわたくし自身も驚きましたが、中国の現状のセンター試験(高考)制度の競争の激しさを考えると、それも理解できます。会場には他の地域からも中国人の教師が多く訪れており、受験戦争の激しさ、そしてTwilaが言及した普通のアプローチではMaker活動は埋もれてしまう、といった指摘に対して、質疑応答でも多くの反応がありました。そこには何か、現場で問題意識を持つ人たちの熱い思いがあったように感じました。

深圳の教育局では学内外にメイカースペースを設置し、DJIをはじめとする深圳の会社と協力してプログラムを作っているようで、この点も興味深かったのですが、深圳で教育を現場で実施している方々の悩みを聞くことができたのが、今回のMaker Faire最大の収穫でした。深圳は世界のMaker Movementのなかでも重要な拠点の一つとなりました。次に、Maker Educationの面でも、ここから何か面白い動きが広がっていく可能性もありそうです。

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登壇者。

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フォーラムの様子。

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Twilaさんの講演の様子。

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通常のアプローチでは、学校のなかにMakerを入れようとする。

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しかしこのアプローチでは他の沢山の活動のなかMaker活動は埋もれてしまう。

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だからこそ学校の活動の中に分野横断的に、Project Based LearningとしてMaker Movementを組み込むことが有効、というスライド。

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実は8月28日にすでに深圳のアメリカンスクールに行っていました。

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その時Project Based Learningの事例を教えてくれたCarrie.

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学校内のメイカースペース。

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課題は「電子部品を内蔵する製品をつくり、何らかの社会問題を解決すること」。しかもクラウドファンディングをするつもりで、ビジネスプランをつくり、損益の計算も小学生・中学生に実践させていました。Carrieはサンフランシスコでも教師をしていたので、西海岸直輸入のアプローチだと感じました。深美国際学校のProject Based Learningの資料はこちらにアップロードされています。

深圳在外研究メモ No.27 メイカーフェア西安とBilibili World 2017に参加してみた編

7月は15-16日に陝西省西安市にてメイカーフェア西安(西安国际创客嘉年华)が、21-23日に上海市メルセデスベンツアリーナでBilibili World/VR/Macro Linkが開催されたので、見学してきました。

1. メイカーフェア西安(西安国际创客嘉年华)

メイカーフェア西安は深圳に本拠を置き、柴火創客にも在籍していたKevin(刘得志)が運営するMakerNetが主催しました。Kevinによると、二日間で4~5万人の入場者を迎え、特に子供の来場者の多さが特徴的でした。

そもそもなぜ西安での開催を考えたのかをKevinに聞いてみたところ、次のような回答でした。

深圳は若い都市で、ハードウェアの技術がある。西安には歴史があり、文化があり、そして理系の有力な大学がある。深圳と西安は全く違う都市だからこそ、つなげると大きなものが生まれる可能性がある。僕らは深圳で普段活動してきたが、西安と深圳がつながれば、何か面白いものが生まれると思う。

4月の深圳観察会でKevinと知り合って以来、やり取りをするなかで、日本からの出展予定者が多いこともあり、現地でのサポートを依頼され、設営や準備のボランティアをしたことも貴重な経験になりました。実際にサポートした業務は、①現地大学で日本語学ぶ学生をWechatで面接して、言語レベルを把握し、適切な日本からの出展者に割り振る、②FPVドローンレースを開催するにあたっての設営と当日の運営、③登壇者、出展者、ドローンレース周りの物資などと確認と手配、などなどでした。

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準備段階のホールの様子。

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ロボット漫才の様子。来場者は子供連れが多かったのが印象的です。

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メイカーといっても、伝統工芸系の出展者も多く、また来場者の反応も良い様子でした。

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日本からの出展とライブパフォーマンスを行った明和電機の展示。

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西安市書記を案内するKevin。

 

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ドローンレースの結果。日本から参加した横田敦さん、高梨智樹さんが2位に入賞しました。

 

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日本からも多くの出展者、レース参加者がいました。

現地報道1

現地報道2

 

2. Bilibili World/VR/Macro Link 2017

ニコニコ動画にそっくりなサイトとして有名なBilibili動画(中国では通称B站)。そこが主催する年一回の展示会、Bilibili Worldと関連ライブに参加してきました。位置づけとしてはニコニコ超会議に近いと思うのですが、展示は大きな企業ブースが多く、一部行動を一緒にさせていただいたニコ動のいよかんさんも、スタイルの違いを感じていたようでした。ただ、現場の熱気とスケールは圧倒的で、とくにメインのライブ、Bilibili Macro Linkのチケットはプレミアチケットと化しました。さらに面白かったのは、Bilibiliのライブのチケットを購入するためには、Bilibiliに登録し、さらに制限時間2時間のテストを経て、Level2の会員にならねばならないという鬼畜仕様です。参加するためのハードルを上げて、それでも満員であったことは、中国市場の大きさを感じさせるのに十分でした。

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展示会Bilibili Worldの入り口。

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展示会のブース割。大型の企業ブースが多かったです。

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ゲーム実況ゾーン。

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アトラクションゾーン。

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MAYBELLINE NEW YORKが、コスプレ用のメイク講座をしていました。コスプレ市場マーケティングとでも言うべき、面白い取り組みでした。

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Bilibiliの公式キャラクター33娘(左)と22娘(右)のコスプレとねんどろいど。運営が手配したコスプレイヤーだったようです。

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深圳の展示会でもみたHoloeraが出展していました。Gateboxに似た、ホログラム機器です。

 

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Bilibili VRライブの様子。中文ボーカロイド洛天衣を筆頭とするボーカロイドによるライブです。初音ミクのコアファンで、中国のボーカロイド事情にも詳しいEjiさんと一緒に見たのですが、いい曲が多いものの、多くはプロの作曲家によるもので、いわゆる「野生の」、あるいは「作ってみた」系の楽曲の広がりはまだまだ限られているという評価でした。2233が歌った「双眼Eyes」という曲は初音ミクのTell your worldを感じさせる良い曲でしたが、これもライブで初お披露目という、プロが制作したものでした。

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Bilibili Macro Linkの様子。踊ってみた、歌ってみた系の演出が多かったですが、おそらく一番盛り上がったのは、ソードアートオンライン(中国語では刀剑神域)の楽曲(Crossing field, シルシ, Catch the moment)を歌った、日本のアーティストLiSAさんだったと思います。LiSAさんのブログによると前日は福岡で歌っていたようで、ハードスケジュールのなか素晴らしいパフォーマンスでした。日本からはこのほかにGARNiDERiAさん、大黒摩季さんが出演し、どちらも盛り上がっていました。大黒摩季さんが中国の新作アニメの主題歌を歌っていることを初めて知りましたし、MCでは母親が中国東北部生まれであることに言及していました。

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スタジアムには若干タイムラグはあったのものの、Bilibiliで実況放映されているコメントも流れていました。

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フィナーレ。

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Bilibili Macro Linkの総責任者アーヨウさん(右)。25才らしく、この年齢でこの規模のイベントを総括していることに驚きました。

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終演後のメルセデスベンツアリーナ。上海万博が開催されたエリアにあります。

振り返ってみると、メイカーフェア西安のKevinも、Bilibili Macro Linkのアーヨウさんも、新世代の中国人ということができそうです。若い世代がイベントを統括し、新しい取り組みをけん引していることを実感した2つのイベントでした。

深圳在外研究メモ No.26 メイカースペースSegmakerでイベントを開催してみた編~ドローンミートアップと深圳観察会ワークショップ

深圳の新しいエコシステムとのつながりを深めるために開設されたニコ技深圳観察会Segmaker出張所。ここでこのほど2度ほどイベントを開催したのでメモしておきます。

1.ドローンミートアップ(6月25日)

一つ目は、ドローン業界関係者を集めた情報交換を行うドローンミートアップです。在外研究メモの No.23とNo.24で取り上げた「深圳国際ドローン展2017」に合わせて、日本から来たドローン業界関係者20名と、深圳のドローン業界関係者10名ほど、そして現地で活動をしている方々10名ほどをお招きにして開催しました。

日本側の参加者にはドローン・ロボティクスベンチャーの専門家やベンチャー企業経営者をはじめ、ちょうど展示会に来ていた日本UAS産業振興協会(JUIDA)の千田副理事長などが参加しました。中国側は、ドローンレース業界団体D1の創立者、ドローンのフライトコントローラーの開発者、群体制御を用いたスタートアップの創業者、そしてドローンスクールの経営者、そして深圳衛星テレビのドローン撮影部隊などが集まりました。

期せずして、ドローンの開発者、ソリューション事業者、パイロット養成のプロなど、多方面の関係者が集まり、特に中国側からのプレゼンは大いに盛り上がりました。例えばグループコントロールのスタートアップSkypixのLiu Chuhao氏は、DJIのフランク・ワンの師匠でもある李教授からも投資を受けているベンチャーの創設者で、北京の清華大学のイベントでドローンによる舞台表現をしている企業です。展示会ではおもにハードウェア企業が多く出展していましたが、深圳にはドローン業界の様々なプレーヤーが生まれています。

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開会直後の様子。

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深圳衛星テレビのドローン部隊が撮影した作品を上映。

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最後にグループフォト。

2.深圳ハードウェアスタートアップのエコシステム(7月4日)

二つ目のイベントは深圳観察会発起人の高須正和さん、そして製造請負のJenesisの藤岡淳一さんを登壇者として開催した「深圳ハードウェアスタートアップのエコシステム」。FacebookイベントやWechatでの広報を進めましたが、日本語イベントにも関わらず幸いにも上海や東京からの参加者も得て、ほぼ満員の状態になりました。

このイベントは、前回昨年12月に東大本郷キャンパスで開催したものの延長線上なのですが、後述するように、HAXにいるFujimotoさんも最後では登壇していただき、かなりリッチな議論ができました。

始めに私から深圳の大きな構造変化、とくに下請け加工の場からイノベーションの場となりつつあること、主要な特許データや代表的な企業家の紹介などをして、次に高須さんにご登壇いただきました。高須さんのスライドはこちらにアップロードされています。

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伊藤から若干の概説説明。

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高須さんの議論はまず、そもそもイノベーション自体の在り方が、2000年代半ば以降で大きく変わったという点からスタートしました。量的に測れる性能の工場ではなく、個人やコミュニティが量的には示しえないような好みやセンスで選ばれる製品・サービスがより重要になってきている、という指摘です。

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深圳でそれを体現しているのが、オープンソースハードウェアの低ロットからの試作および受託生産を行うSeeed。いかにSeeedがやっていることが新しいか、それは卓上印刷機が同人誌とそのカルチャーを育て、DTM(卓上音楽編集機)の登場が同人音楽を作り上げたように、デスクトップファブリケーションが広がることで、グローバルでIndieなモノづくりがうまれ、それを支え、育てるSeeedのような企業が登場した、というストーリーでした。

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一方で深圳には模倣の問題も存在。それを中国の企業家がどう見ているのかというセクション。コピー品が出る前に回収しなければならないというRobin Wu(通称シャンジャイ王)の意見と、コピー製品は結局製品の高度な作りこみを放棄しているので、わかるやつにはわかるし別セグメントだ、という上海のRex Chenの意見を紹介。

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続いてJenesis社の藤岡さんご登壇。製造の最前線で観察した深圳サプライチェーンのメリットデメリットをご報告いただきました。

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深圳の成熟しきったサプライチェーンに完全に乗っかる形で事業を展開している、との談。深圳に多数存在する、ソリューションハウスが提供する部品リストやサプライヤーリストを活用し、中華部品(ローカル部品)を活用することで短納期、低価格の製品供給を目指している。

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深圳を中心に形成された成熟したサプライチェーン。1時間以内に、電子部品モジュール、基板、金型、成型、ソリューションハウス、検査、さらに輸送インフラまでが揃う環境にある。

写真がないのですが、一方で、メリットだけでなく、デメリットもあるというお話も強調されていました。とくに、この流行りの大きなサプライチェーンのなかで調達できない尖った性能を持つパーツを利用しようとすると、むしろ輸入関税がかかり高価となってしまうそうです。

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Q&Aセッションでは、ハードウェアアクセラレーターHAXに現役で入居しているWalkies Labの藤本剛一さんにもご登壇いただきました。カナダから応募し、HAXで経験していること、そして実際に深圳でハードウェアを開発するなかで生じている問題点、とくに重要パーツが入手困難な場合も少なくないことなども率直にご報告いただきました。有難うございました。

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2つのイベントを開催してみて、深圳で深圳を多様なバックグラウンドの方々と議論する場所を作っていくことは有意義だなと感じました。在外研究メモNo.19でも若干紹介しているのですが、フィンランド、イギリス、フランス、韓国などの各国が自国のエコシステムと深圳をつなげようとしているなかで、Segmakerを利用して日本とのつながりが深まるのようなイベントを開催していければ、そのうち何かにつながるかもしれません。

講演会告知:深圳ハードウェアスタートアップのエコシステム(深圳硬件新兴企业的生态圈 )

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日時(时间):2017年7月4日18:30-20:30

会場(地点):深圳市福田区華強北賽格広場12階Segmaker(华强北赛格广场12楼赛格众创空间)

主催(主办方):ニコ技深圳観察会Segmaker出張所

事前登録:不要です(不需要登记)

言語:日本語(this workshop will be hold in Japanese, but welcome international friends to join. 这研讨会语言为日语,但非常欢迎国际友人过来参加)

 

登壇者(演讲来宾)

高須正和(teamLab)

無駄に元気な、チームラボMake部の発起人。チームラボ/ニコニコ学会β/ニコニコ技術部/DMM.Makeなどで活動、『ニコ技輸出プロジェクト』を開催。『メイカーズのエコシステム 新しいモノづくりがとまらない。』(インプレスR&D, 2016年)を出版。ブログでも情報を発信:https://medium.com/@tks

 

藤岡淳一(創世訊聯科技(深圳)有限公司 董事總經理)

1996年千代田工科芸術専門学校卒、派遣技術者として家電大手の製造部門で勤務。デジタル機器ベンチャーを経て2011年にジェネシスを創業。2013年深圳工場を設立。イオングループの「格安スマホ」の納品を手掛けるなど、深圳のサプライチェーンの最前線で活躍。http://jenesis.jp/

 

司会(主持人)

伊藤亜聖(東京大学社会科学研究所/深圳大学中国経済特区研究センター)

 

タイムテーブル(时间表)

18:00開場、おいしいフルーツティを用意しております (18点开始入场,喝喝水果茶)

18:30講演会開始(18点半开始演讲会)

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連絡先(联系人):伊藤亜聖

Wechat ID: aseiito

Email: asei@iss.u-tokyo.ac.jp

(地図データなどシェアできるので、できればWechatでご連絡ください)

 

深圳在外研究メモ No.19 海外政府系テックプロジェクトと深圳のつながり編~深圳の、そして中国の新しい経済、新しいエコシステムと自国をつなげようとしているプロジェクトが続々

このブログシリーズで取り上げているように、深圳市が中国のなかでも注目されるテックベンチャーや実験の都市になっています。このことを反映して、国外から深圳への注目度も高くなっており、WIREDの動画Shenzhen: The Silicon Valley of Hardware、The Economistの記事 SPECIAL REPORT “Jewel in the crown: Welcome to Silicon Delta Shenzhen is a hothouse of innovationを筆頭に挙げることができます。

さらにこちらで色々と歩いていると、「国外政府系の出先機関」だけど、いわゆる深圳の下請け工場時代には絶対なかったようなプロジェクトが動いていることに気が付きます。先に結論を書いておくと、総じて、深圳の新しい経済、新しいエコシステムと各国をピンポイントでつなげるという共通性を見出すことができます。自分で見たり、直接当事者からお話を伺えている事例のみ書きます。

1)Sino-Finnish Design Park

深圳市は2013年6月にフィンランドのヘルシンキと姉妹都市協定を結んでいます。これをきっかけに1年5か月後の2014年11月にSino-Finnish Design Parkが開業。深圳市が力を入れるデザイン力を高めるためにこのデザインパークが開設され、国内外のデザインハウスや関連スマートハードウェア企業を誘致し、現在41社が入居が進んでいます。 福田にあるSIDA(Shenzhen Industrial Design Profession Association、深圳市工業設計行業協会)の大きな開発区内にあり、おそらくこの一帯は少し前まで工場または倉庫だったと思われるエリアです。

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55度に中身を保つ保温瓶。展示室には色々なプロダクトが並んでいます。

 

2)KOTRA深圳オフィス

日本で言うとJETROにあたるKOTRAはどうも中国国内の拠点の数が多いようで、深圳にも会展中心のすぐ近くにKOTRA深圳事務所が設立されています。この事務所は2014年12月に開設されており、その事業内容は興味深いです。一つは展示会の開催業務で、これはまあ普通なのですが、もう一つは韓国のAR/VR、ロボティクス、医療、ビッグデータ、画像認識系のスタートアップを深圳に連れてきて、こちらの投資家とのマッチングをやっています。シリコンバレー、イスラエル、シンガポールに続く第四のベンチャーのハブとして深圳を位置づけてサポートを行っているそうです。

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KOTRAの入るビル。

3)La French Tech Shenzhen

ラスベガスのCESでもフランスのベンチャー企業の数が米国、中国に次ぐ数だったことが注目を集めていました(日経記事「ブラブラカーだけじゃない 仏スタートアップが熱い」等参照。)。この背景の一つに言われているのが、フランス政府が推進するフレンチテック(La French Tech)というネットワーキングとアクセラレーション政策です。上記の日経の記事では、スタートアップを外に出して「火をつけ」、メンターとファンドをつけて「アクセラレート」する点が紹介されています。HAXのBenjaminもLa French Techを高く評価していて、観察会で訪問した際にも、失業保険をもらいながらスタートアップをできるし、みんなそれが当たり前だと思っている環境も含めて大事だ、という話をしていました(この点、Benjaminさんのプレゼン資料にも表れています:How to create 1,000 SONY)。

La French Tech深圳プログラムは2016年10月に正式スタートしており、Cecileさんにお話を伺ったのですが、活動内容としては①“Discover the Local Ecosystem”ツアーの開催(次はこれ)、②“École Centrale Graduates“プログラムと呼ばれる元留学生をフレンチテック関連企業を訪問するツアー、③毎月の深圳のバーでのカジュアルなミートアップ、④その他HAXなどでのミートアップやピッチイベントの開催とのことでした。

Ambassadorsと呼ばれるメンターには、HAXのBenjamin、Parrotのアジアパシフィックの代表TCHEN Elise氏、TCLのCHAMBON François氏 、ST MicroelectronicsのLECONTE Damien 氏が名を連ねています。日常的にはWeChatのLa French Tech Shenzhenのグループに100名ほどのメンバーがいるとのことで、ここで様々な情報が交換されているそうです。

Le French TechはHong Kongにすでに拠点があるらしく、そことの協力もしながらイベントの開催を行っているそうですが、香港ではコンサルタント事業が多い一方で、深圳はハードウェア系が強いため、プロジェクトとしては必ずしも一体感があるとは言えないそうです。La French Techの国外での仕組みは、話を聞いても正直まだよくわからなかった(というかかなり自由にやっていそうな感じだった)のでまた今後Cecileさんに教えてもらおうと思います。

Cecileさんご自身はワインを輸入し、それにQRコードやアプリケーションによるワインの特徴や体験を付加するようなアグリテックビジネスを展開しているそうです。

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観察会の時にもHAXのBenjaminは日本で起業する人を増やすうえで、La French Techが参考になると言及していました。

 

4)British Council “Hello Shenzhen” program

英国の文化事業であるブリティッシュカウンシルのプログラムでも、深圳のメイカーズムーブメントのコアメンバーを英国1か月呼び、英国のメイカースペースを訪問するツアーを開催しています。Hello Shenzhenプログラムと名付けられており、深圳側のファンド(深圳市国際交流合作基金, The Shenzhen Foundation for International Exchange and Cooperation)もついて費用がねん出されたそうです。深圳観察会で、柴火創客のVioletさんがこの体験をシェアしてくれたのですが、おおよそ下記の内容でした。

①4週間で3都市(London, Edinburgh, Cambridge)を訪問し、20社のベンチャースタートアップに面会、11のメイカースペースまたは組織を訪問

②深圳のメイカーが技術を重視したスタートアップとしての性格が強いのに対して、英国のメイカーたちはSocial Impactを重視している(例:METTLEという会社は視覚障碍者向けのイヤホンを開発)

 

深圳観察会にてイギリス訪問のプログラムを紹介してくれた柴火創客のVioletさん。

また、2017年5月13日、文化産業博覧会の分科会として、SIDA事務所にて”Hello Shenzhen”プログラム(第二回)の経験シェア会が開催されました。「創客西遊2.0」、つまり「メイカー西遊記2.0」というキーワードが的確で、基本的にはどの参加者もVioletさんと類似した英国と深圳のメイカーズカルチャーの差異を感じていたようでした。ツアー参加者10名のうち、4名はハードウェアメーカーや工業デザインハウスの青年創業者でした。

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深圳観察会にてイギリス訪問のプログラムを紹介してくれた柴火創客のVioletさん。

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“Hello Shenzhen”プログラム(第二回)の経験シェア会の様子。

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柴火創客のVioletさん。深圳+ロンドン+アムステルダム+成都、というフレームで新しいメイカーズの交流プロジェクトを準備中とのこと。パワフルな人達をつなげると、こうした新しいプロジェクトにつながっていく。

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オープンソースハードウェア・ラズパイで作ったロボットを、マインクラフト側でコントロールしてみよう、というプロジェクト。

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車いすを誰でもオーダーメイドのように調整できるようにしようというプロジェクト。英国側のメイカーが強調する”Social Impact”に影響され、こうした新しいプロジェクトに中国側の工業デザイナーが参画。

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「メイカー西遊記2.0」のメンバー。

 

5)そして日本はどうなのか?

ご覧の通り、かなりピンポイントで深圳のニューエコノミーを狙い撃ちにしたようなマッチングプログラムが動いていることがわかります。私も深圳に住みはじめて1か月なので、まだわからない部分もありますが、少なくとも上記のように政府が予算をつけている形で、日本と深圳(または中国)の新しいエコシステムやニューエコノミーをつなげようとしているプロジェクトは聞いたことがありません。このような不作為が深圳だけで起きているのであればまだいいのですが、もし仮にほかの世界のイノベーションの拠点でも生じつつあるとしたら、それは日本にとってはもったいないことだろうと感じます。民間でやればよい、という考えもあり得ますが、上記のような各国のプロジェクトが2014年からの2~3年で急激に動きつつあり、まだどれがベストプラクティスかはわかりません。それぞれの国ごとに状況は異なるので、答えはそもそもないのかもしれません。ただ、新たな越境したスタートアップやメイカーたちのコミュニティが生まれつつあるのを見ることができます。

日本の場合、とくに支援もなく自腹だけで運営されているニコ技深圳観察会がこうしたネットワーキングを担っているのは、正直例外的でもあり、逆にすごい気もします…。また、METIのフロンティアメイカーズ、JETROやJST(科学技術振興機構)は広い意味ではすでにこうした取り組みをやっているともいえますし、すでに日本からも視察にはたくさん来ているようです。