2019年9月22-26日の日程でインドのニューデリーと郊外のグルガオンを訪問しました。
今回は中国深圳をコミュニティベースかつ継続的に探ってきたニコ技深圳観察会の派生プロジェクトという位置づけで、有志メンバーでの訪問です(ニコ技深圳観察会について:https://medium.com/ecosystembymakers/about-e306f96168b8)。昨年のエチオピア・アディスアベバ訪問に続く試みでした(昨年の南ア・エチオピア訪問時のメモ:https://aseiito.net/2018/08/08/emerging_x_tech/)。
エンジニアを中心とするメンバーと一緒に新興国・途上国を見て回ることで見えてくるものがたくさんあると感じており(https://aseiito.net/2017/04/09/shenzhen_2017_2/)、その取り組みの続編という位置づけです。
現地集合/現地解散なのでコア日程以外は皆見たものはそれぞれでしたが、道中の様子はこちらも参照:
https://togetter.com/li/1409458
「中国×テック」という領域が発生するのに伴い、非中国専門家のエンジニアたちが深圳のスタートアップ動向を見出したのと同様に、インドでも「インド×テック」の問題領域が生じることで、外部からの視点が新たな知見をつくりだすことも十分ありえるでしょう。
デリーの空港を降りてから、グローバル対応のSIMカードを起動し(AirSIM等)、UBERでタクシーを呼び、Google Mapで位置情報とレストラン情報を確認し、Booking.comでホテルを予約し(しかし予約はキャンセルされるケースも頻発)、クレジットカードで決済し、英語で議論をしました。百度地図をダウンロードし、GAFAのサービスに対応する香港SIMを確保し、さらにモバイル決済やライドシェアアプリ(DIDI)のアクティベーションの難易度が高い中国と比較すると、ある意味でより容易にデジタル技術を活用した移動とアポは手配できるということも感じました。
インド訪問の個人的な狙いは人口大国である中国とのデジタル社会化の比較という視点を得るためです。まとまった論考は近く刊行を予定しているので、ここではいくつか訪問した場所についてのメモを書いておきます。きっと一緒に見て回った皆もそれぞれの視点からブログを発信するはずですので、以下ではまずは概要をメモします。道中に様々なバックグラウンドの人とじっくりああだこうだと議論できたことに感謝します。また今回の訪問を企画してくれたコミュニティ発起人の高須正和さん、現地で受け入れ体制を整えてくれた田中陽介さん、現地での食のグレードをぐっと高めてくれた一瀬卓也さん、そして現地でレクチャーをしていただいたJETRO Delhi事務所にとくに感謝いたします、ありがとうございました。
1.電子情報技術省~Digital India Initiativeの推進役
インド政府はモディ政権誕生以後に「デジタルインディア(Digital India)」というプロジェクトを始動しており、生体認証IDの発行と決済プラットフォームの構築を筆頭とする基盤プロジェクトを推進しています。JETROデリー事務所の力添えで訪問したのは、このデジタルインディアプロジェクトの推進役であるMinistry of Electronics and Information Technology(電子情報技術省, MeitY)です。デジタルインディアは2015年に始動し、①個人生体認証IDの発行と証明書発行の電子化、②政府購買の透明化とIT化、③初等中等教育向けの遠隔教育サイトの整備(学生むけと教師むけを含む)、④農業情報の透明化と発信(地区別の土壌情報の発信、農作物価格情報の発信)、⑤Eガバメント(パブリックコメントサイトの整備)を主要な柱とするイニシアティブです
概要は日本総研の藤田さんのレポート「インドのデジタル化政策とフィンテック発展の可能性」や、JETROレポート「インドEC市場調査報告書(2019年6月)」にまとまっています:https://www.jri.co.jp/MediaLibrary/file/report/rim/pdf/10181.pdf
https://www.jetro.go.jp/world/reports/2019/02/077e21895f950a3e.html
今回の訪問では実際にどのような取り組みなのかを目にすることができました。Directorの方が強調したのは“Empowering People”というスローガンです。政府方針や政策に関するパブリックコメントサイトでは自由に特定政策へのコメントができ、また農業分野では農地の土壌情報を地域ごとに見られるようにすることで、作付け品種の検討に役立ててもらうことが含まれています。インドの生体認証IDアダール(AADHAAR)の実績をリアルタイムに提示するダッシュボード(https://uidai.gov.in/aadhaar_dashboard/)。実に12億人以上が登録済み。ここでデジタルIDを作る理由がインドの状況を反映しており、特に強調されたのは貧困層への補助金を直接に支払うというDirect Benefit Transferのためのデジタル化です。生活保護をはじめとする様々な社会保障の補助金が、それを必要とする人々に届く前に中抜きされているという問題から、指紋と虹彩の認証を含む個人IDによって確実に本人に届けるという狙いです。さらに銀行口座の幽霊口座(Ghost Account)や存在しない学生への奨学金給付といった問題への対処にも活用されているそうです。ビジネス上で一番必要とされているのは銀行、通信事業者、ネットサイトをはじめとするサービスでの本人確認で、個人の記述情報を指紋情報をデータベース側に送ると、本人かどうかがYES or NOで出力されるそうです。
2.Technoxian~インドのロボコン&ハッカソン
現地開催のロボコンも訪問しました。Digital Indiaからも協賛を得て、ロボットをぶつけ合うバトル、マイクロマウス、水力ロケット、ドローンなどの各種競技の合計で2800チームが参加し、またスタートアップや学生によるプロジェクト展示もありました。3.Indian Institute of Technology, Delhi, Foundation for Innovation and Technology Transfer(FITT, IIT)~インド工科大学の産学連携とインキュベーション拠点サイト:https://fitt-iitd.in/
スタートアップを訪問
1) 電池設計スタートアップ(15名、基盤の設計)2) Vizara(20名、3Dモデリングと若干のコンサルテーション)
UNESCOのチームが3Dスキャンした遺跡の点群データをもとにモデリングすることを主要業務とするスタートアップ。遺跡は破損しているものも多く、3D化する過程で実質的に修復・復元するノウハウも必要になる。2-3人でスタートして20名まで拡大している。
「これがデジタルガンディ(Digital Gandhi)だよ」と説明してくれた3Dプリンター製のガンディ。お土産物になりそう。
3) flexnotiv(松葉づえスタートアップ)
4) Kariya labs(近隣州のわらを再生してコップ等を作成するスタートアップ)
4.街に見るデジタル化
舗装されていない道路や建築途上の建物等、いかにもインドな光景も日々目撃しましたが、以下ではとくにデジタル化を感じたものをピックアップしておきます。空港ではサンフランシスコ空港等と同様にUber Pick-up Zoneが。電気街の風景。
Suzukiの自動車、Oppo/Vivoのスマホ、Uberで配車、クレカ、Google Pay、Paytm決済が典型的なという組み合わせ。
交通渋滞はかなりきつかった。コネクテッド三輪バイクタクシー。自動車、三輪車、バイクが横並びで表示される画面がMaaSを体現。
UBERの画面に並列にならぶ自動車/三輪車/バイク。
飛び地にハイテクエリアとなっているグルガオンのCiberhub。デロイト、サムスン、UBER、ZOMATO、Xiaomiといった企業のオフィスが集中。
Expedia, Microsoft等が入居するビル。
グルガオンでひときわ目立つSamsungビル。
Xiaomi Indiaのビル。デリー・グルガオンの高速道路のわきにある。高速にそってIT企業が集まる様子は米国ベイエリアを思わせる。
Delloitもかなりの拠点を構えていました。