中国に関して結構面白いにも関わらず、日本ではあまり言及されていないものが諸々あるので、すこし書いてみる。
一つは「第二次社会主義改造」(“the second wave of the Socialist Transformation”)論だ。
『財新』という雑誌の論説(2018年9月24日)を読んでいて、飛び込んで来た一説が「最近、第二社会主義改造説が議論になっている」という言及だ。
社会主義改造(The Socialist Transformation)とは、1955年から1956年にかけて高潮(あるいは「紅」潮)を迎えた、中国経済の国有化/集団化のことだ。現代中国経済を議論した教科書を見れば必ず言及があるはずで、例えばBarry NaughtonのThe Chinese Economy(The Second Edition)をちょうどゼミで輪読しているが、引き続き、当然言及がある(Chapter4)。
過ぎ去った過去のことだと思いがちだが、この手の中国における保守派(計画経済派/国有企業派)的議論はこの10年ほどを見ても時折顔を出す。2006年から2007年に私が北京に滞在していたときに出会ったのは「民営企業原罪論」だった。曰く、中国の民営企業はその事業立ち上げにあたり、何らかの罪を犯している、例えば国有資産の安すぎる価格での買取であり、または計画価格と市場価格の二重体制の下での不正な蓄財などがその当時は想定されていた。それに対する反発も当然あった。「原罪などない。むしろ原功だ(功績だ)」というようなものもあった。
2018年9月、湖南省長沙市党校の曹习华氏が「中国は今まさに第二次社会主義改造の時期にある(中国正处于第二次社会主义改造时期 )」という論考を発表した。曰く「一人当たりGDP1万ドルの水準を目標よりも30年早く実現した」、「改革開放40年を経て、中国の工業化水準と企業発展レベルはすでに換骨奪胎し、すでに生産力は落伍したものではなく、いわゆる町工場方式でもない。中国はすでに理想的な社会主義を建設する条件を有しており、中国は第二次社会主義改造に入る時期は熟した」というようなものだ。
Baidu, Alibaba, Tencent、いわゆるBATにも言及がある。
曰く「この度の社会主義改造時期において、特に民営企業家への教育が必要である、もしも党と政府の寛容な態度と支持がなければ、企業は発展規模化が不可能だった。例えばBATなどの大型インターネット企業は、国家がEコマースでの税収を免除し、金融面でのイノベーションを含む支持を与え、またゲーム領域での寛容性等々、これらの国家が与えた政策と制度的なボーナスは国民全体が享受すべきもので、事実、企業の背後の様々な株主がその恩恵を受け、もしもこれらの会社が混合所有制改革を実行できなければ、国有資本は長きにわたり空位となり、公正と公平の原則に反することになる(在这次社会主义改造时期,特别要教育民营企业家,如果没有党和政府的包容和支持,企业不可能发展壮大。如BAT等大型互联网企业,国家在网购税收上的豁免,在涉及金融创新上的支持,在游戏领域上的宽容等等,这些国家赋予的政策、制度红利是应该惠及全体国民的,事实上惠及了企业背后形形色色的股东,如果诸如此类股份制企业不能进行混合所有制改革,国资长期缺位,本身就背离了公正公平原则。)」。
上記の解釈は中国政府の政策的サポートがインターネット企業が成長したという説に沿ったものだが、中国のインターネット企業がその初期段階で国有銀行から融資も得られず、やむを得ず国外から投資を得たというような歴史を看過しているし、また外資を含む企業間の激しい競争もまた議論されない。
無論、このような議論は疑義と批判が起き、また結局のところ習主席と李首相も演説で、9月最終週以降に民営企業/民営経済の重要性を指摘するに至っている。
確かに現状の中国経済は、引き続き公式見解としては「社会主義初級段階論」だし(現行2018年憲法の前文を参照)、「いつかは社会主義実現に向かう」ということになっている。
しかし、改革開放40年の節目に、「社会主義改造」という言葉が出てくるのに驚いた。同時に、これが中国における言論界の現状でもある。中国の未来は中国人が決めるものなので、一外国人としてはできることは限られているが、改革開放が実現した市場経済化と対外開放がいかに豊かな社会を実現してきたかについては、今を生きている中国人が一番理解しているはずだし、またその点においては近隣国の一市民としても強調しておきたいところだ。
ワシントンから中国に対する脅威論が噴出し、多くのアナリストもその影響を受けている。そこで結論的に言われることは「中国異質論」だ。国有企業への補助金、技術の盗用、サイバーテロ等々。301条のレポートやホワイトハウスのレポートがこれらの点を指摘する。一方で、中国国内に存在する上記のような議論は確かに異様に見える。「改革開放40周年」の年に本来祝うべきは市場メカニズムと対外開放経済の貢献ではないのか。「第二次社会主義改造」論が、少なくとも小さな議論としては「改革開放40周年」の年に噴出したことを明記しておこう。
蛇足:
関志雄先生の『中国を動かす経済学者たち―改革開放の水先案内人』も刊行が2007年、10年経った。そういえば中国の経済論壇の主要登場者はどれくらい変わったのだろうか。相変わらずJustin LinとWeiying Zhangの論争が目立つような気がするが、メンバーは変わっているのだろうか。