Aseiito.net

ホーム » ベンチャー、VC/PE » 「新興国×テック」の時代はあり得るか?②~エチオピアでスタートアップを訪問する編

「新興国×テック」の時代はあり得るか?②~エチオピアでスタートアップを訪問する編

南アからエチオピア・アディスアベバへ

2018年8月9-10日に、エチオピア・アディスアベバにて企業訪問をしました。はじめてのエチオピア訪問で、事前準備として黄熱病の予防接種証明書(イエローカードの取得)から始まるという、なかなかハードルの高い訪問でした。

実際に来てみると、むしろ南アフリカより治安は良く、またアディスアベバの街は建設ラッシュで、経済成長していることを感じることができます。そもそも論として、ヨハネスブルグは街を歩くことすらままならない治安だったわけですが、アディスアベバでは、街を歩き、そして道端の小さなお店で飲み物を飲む、といったこともできました。コーヒーは聞いていた通り美味しいです。ただ、インターネットインフラはまだ脆弱で、LTE回線までが整備されてはいますが、動画、写真のアップロードといった負荷のかかる作業の際は不安定でした。

今回のアディスアベバは、ニコ技深圳コミュニティの高須さん、田中さん、椛澤さんと合流して見学したので、他にもブログなどで情報発信があるかと思います。

以下では前回のエントリー「「新興国×テック」の時代はあり得るか?~南アフリカでベンチャー企業を回る編」での問題意識を前提として、現地で感じられたことをメモしておきます。

 

アディスアベバでの訪問先

南アフリカに続き、主にスタートアップ企業およびそのインキュベーション施設を訪問しました。南アフリカより貧しい国(2017年の南アの一人当たりGDPは6,160.7ドル、エチオピアは767.6ドル, 当年ドル表示, 世界銀行データ)ではあるものの、エチオピアのローカルな環境で、ITを使って何ができるかを考えている企業家がおり、また小さいながらもコミュニティが立ち上がりつつあることも感じられました。

アディスアベバでの訪問先

訪問先 概要 URL
blueMoon 2016年設立の民間のアクセラレーター。対象は18-29歳で、これまでに3つのバッチ合計で30のスタートアップをインキュベーター。4か月のプログラムを経てビジネスプランとプロトタイプがある場合、1万ドルの投資(10%エクイティ)を行う。アグリテックに特化。 https://www.bluemoonethiopia.com/
Iceaddis 6年前に開設されたインキュベーション施設。投資業務はしていないが、コミュニティをつくり、ワーキングスペースを提供している。 http://www.iceaddis.com/
50 Lomi 2015年創業、Iceaddisから育った病院向けERPシステム開発のスタートアップ。インターネット環境に問題があるため、オフラインでも動き、また極力送信データを圧縮して2G, 3G回線でも機能するシステムを開発。
Huajian Industrial Zone 中国東莞の靴メーカーによる大規模靴工場。訪問先の工場は5000名の従業員が主に靴を製造、今後2025年頃まで5万人が住み、働く工業団地の建設を実施中。基本は中国からの設備と原材料の持ち込み、全量輸出の加工貿易だが、金型も現地製造しているなど、現地化の取り組みもかなり見られた。
Triple Bottom Line Enterprise Iceaddsiにオフィスを持つ企業。2016年からプロジェクトスタート。エチオピアの農村部における水インフラの整備を、スマートバルブと需要ピーク時を避けた供給によりコストダウンを目指す。目下、パイロットケースとしてある村の500世帯にサービスを展開。 http://www.3blenterprises.com/
Orbit Health 病院向けの予約・スケジューリング・薬剤管理などの統合的ITインターフェースの開発。2016年創業、公立病院2か所に製品の納入。エチオピアでの普及に加えて、他のアフリカの国へのサービス展開を目指す。 http://orbithealthet.com/
Entrepreneurship Development Center エチオピア政府とUNDPの共同で立ち上げた企業家教育プログラムの実施部隊。 https://www.edcethiopia.org/

 

ローカル&ニッチ需要に立脚したスタートアップ

聞き取りができたスタートアップはわずか3社でしたが、現地のアクセラレーターとインキュベーション施設も訪問でき、ある程度の広がりを持った把握ができました。

第一の特徴は、アディスアベバのスタートアップが、アグリテックとヘルステックの分野に特化している点です。現地のアクセラレーターであるblueMoonは、育成プロジェクトを基本的にアグリテックに絞っており、これまでに育てた30社のうちで、28社はアグリテックということでした。その理由を聞くと、「エチオピアの人口の80%が農業に従事し、GDPの40%が農業から来ている」という回答で、農業の課題をIT技術や化学(肥料開発)を活用して解決していくニーズが大きいようです。

アグリテック以外の分野では、病院向けのITシステムの開発業者でも聞き取りができました(50 LomiとOrbit Health)。数人レベルのスタッフで、ウェブブラウザ、クラウド(Microsoft Azureが多かったです)を使った管理システムを開発し、病院で使うことを前提に診察予約、手術室のスケジューリング、薬剤の調達及び在庫管理といった機能をIT化しようというものでした。現状、同行者ともなぜこのようなサービスが目立つのか、議論していたのですが、エチオピアではIT管理システムが導入できるレベルの規模と資金がある、政府や国際機関のサポートも得られる、それにもかかわらずIT化が進んでいないところが病院なのではないでしょうか。エチオピアの国内にあるニッチではあるが重要なIT化のニーズをくみ取ろうとしており、すでに一定の売り上げが上がっているようでしたし、足がついている印象でした。

 

BlueMoonのワーキングスペース。

英語、アムハラ語でのシリコンバレー的スローガンが目を引きます。

WeChat Image_20180811040135.jpg

 

Iceaddisのコワーキングエリア。

眺望が素晴らしく、こじんまりとしたスペースながらも気持ちの良い空間でした。

WeChat Image_20180811040211.jpg

 

50 lomi

WeChat Image_20180811040206.jpg

 

Triple Bottom Line EnterpriseのChris

アメリカコロラド出身でケニアで平和維持活動のボランティアをしたのち、一時アメリカに帰国、その後エチオピアで起業。「自分のことを社会企業家だと思うか?」と聞いてみたところ、「そう呼んでもらってもいいけど、利益がでないと持続性がない。だから非営利ではなく、利益を上げるモデルを考えている」という回答が印象的でした。

WeChat Image_20180811040215.jpg

APP上でパイロットプロジェクトの村の水バルブ端末の情報が確認できます

WeChat Image_20180811040219.jpg

 

Orbit Health

アメリカ・シアトルのボーイング社での勤務経験もあるエンジニアがエチオピア帰国後に創業。エチオピア国内だけでなく、アフリカの他の地域へのサービス展開の構想も熱く語ってくれました。

WeChat Image_20180811040224.jpg

病院向けのインターフェースのテスト画面

ここでは薬の在庫がリアルタイムで把握可能

WeChat Image_20180811040229.jpg

 

課題として挙げられた融資・投資面

現地のスタートアップが共通して指摘した課題は、エチオピアの銀行をはじめとする金融業界は、確実に利益がでると考えられる建設業・ホテル業には融資を行う一方で、かれらのようなスタートアップへの融資はほぼありえないそうです。1974年のクーデター以後、共産政権が樹立され、民営の大企業が事実上禁止されたことも、いまだに民営企業を軽視する風潮につながっているとも聞きました。

とくに国内での融資・投資が得られにくい状況で、企業家たちは自己資金で創業(Orbit Health)するか、立ち上がりつつある数少ないアクセラレーター(blueMoon)から少額の投資を得ながら、なるべく早い段階で売り上げがたつようなビジネスを模索せざるをえないようです。一部には国外のスタートアップコンペに参加し、海外からの投資を得る事例もあるそうですが、まだ少数のようです。

エチオピアでは失業率が16-18%程度というデータもあり、スタートアップの企業家の夢も、いわゆる欧米スタートアップ的な上場や大企業への売却によるEXITではなく、着実に事業を拡大し、持続的に100人を雇用するような企業になること、という声も聞かれました。水道インフラ、アグリテック、ヘルステックなどをこの国で普及させようとすることは、社会企業家的でもありますが、あまりSocialであることを強調する企業家は今回聞き取りしたなかではおらず、むしろ利益を上げることで持続可能なビジネスの形で社会に貢献しようと考えているようです。

 

圧倒的スケールだった華堅集団の靴・アパレル工場

中国とエチオピアの関係は、別途どこかに書いたほうが良いと思うのですが、概要だけ触れておきます。

今回訪問した中国企業は東莞の華堅集団が2015年に建設した工場で、現時点で4700名のエチオピア人を雇用、300人の中国人が現地で働く巨大な工場でした。生産品目は主に靴で、全量が輸出(95%が米国市場向け)です。一部作業着やシャツなどの衣料品も生産していました。華堅集団は2011年にアディスアベバの別の場所に工場を建設しており、ここは二番目の工場という位置づけです。

生産プロセスを見ると、まず金型については鋼材は中国から輸入しているものの、現地で靴の型をすでに内製しており、これらの型は国内の他の企業にも外販されているとのことでした。エチオピアで、中国人が、ボール盤で金型の削り方を教えている姿を見ることは、一つの衝撃でした。他の靴の原料も、そのプラスチックもふくめて多くが中国から輸入され、加工設備もほぼ中国から持ち込まれていました。ただ、加工プロセスについては可能な限り現地化を進めようとしていることを感じました。例えば靴のソールの生産工程では、現地で切削された金型を、中国から持ち込んだ射出成型機で、中国産の樹脂原料使いつつも、ソールを成形し、その後の後処理、熱加工などの工程はすべて現地で行われていました。

つまり、これはまさに深圳で1980年代、1990年代に行われていた「来料加工」です。ほぼすべての原料を海外から持ち込み、現地で加工し、全量を輸出するモデルです。中国企業がアフリカの工業化を進める可能性があるという議論は、Justin Lin教授をはじめとして以前からあるわけですが、そのLin教授もHuajianの工場(おそらくもう一つのほうの工場)を見学にきたそうです。金型をエチオピア人が削っている姿を見ると、工業化の伝播は、確かに中国、アジアからアフリカへの経路が生まれていることを確認しました。どれだけの広がりがでてくるのか、それは今後も注目が必要でしょう。現地JETRO事務所資料によると、アディスアベバでは現在工業団地の建設ラッシュが続いており、仮に外貨の制約などがうまく解消された場合には、さらなる工業化の可能性も感じました。

Huajianの場合、今後さらに工業団地を拡張し、中国や東南アジアではよくある工業と商業施設、住宅施設を統合したエリアの開発を計画していました。総面積138ヘクタールで、2025年頃の完成を目指しています。現状はそのなかでも製造業エリアが、おおよそ1/3程度完成している段階ですが、工業園区からはジプチへの鉄道駅も建設し(すでに完成、ただし、輸送時のトラブルなどで現在は使用せず)、最終的には5万人が働き暮らす地域の開発を計画しています。

「空港みたいでしょ」と案内してくれた方が紹介した最大規模のアセンブルの建屋。これ以外に加工やアパレル工場などが立ち並んでいます。

WeChat Image_20180811045509.jpg

 

WeChat Image_20180811041144.jpg

 

金型の切削の風景

WeChat Image_20180811045730.jpg

切削された金型

WeChat Image_20180811045742.jpg

アパレル工場

WeChat Image_20180811041206.jpg

それぞれの生産ラインの管理者は現状は中国人で、東莞の本社からの派遣です。

WeChat Image_20180811041213.jpg

最終的に5万人が暮らす地域をめざす

WeChat Image_20180811043558.jpg

「新興国×テック」仮説とエチオピアの現状

新興国での経済成長が、インターネットとテクノロジーの力で加速することはありえるでしょうか。今回、エチオピアでごくごく限られた数ですが、スタートアップ企業とインキュベーション施設を見学した印象では、やはり農業、そして軽工業ベースの経済成長が重要であり、その基盤的な経済成長のパターンを、ITやスタートアップが使った効率化によって加速する可能性はあると感じました。Hallward-Driemeier and Nayyar(2017)は技術の進展が、発展途上国の工業化のパターンを変える可能性を議論しており、結論的には一部の自動化による効果の高い分野では途上国工業化の可能性が狭まるかもしれないが、引き続き軽工業分野では途上国に機会が開かれているだろうという指摘をしています。

筆者が今回のエチオピア調査から得た感想は、いわゆる工業分野だけでなく、農業やサービス業(病院のIT化など)の領域で、スタートアップ企業やソフトウェア企業が、途上国でも経済成長に重要な貢献ができる、という可能性です。それぞれの発展水準に応じつつも、一人当たりGDP800ドルの最も貧しいと言われる地域ですら、テクノロジーを活用して生産性の改善が行われつつあることが確認できました。

今回の訪問はごく短期間でした。エチオピア経済を「チャイナマネー」、「テクノロジー」といった大上段からの雑な理解でとどめるのは危険で、ベースとなる農業、軽工業における改善の状況を把握することがなによりも重要でしょう。そのうえで、今回観察した「中国人が、鋼材は持ち込むものの、金型の削り方をマンツーマンで教えている」こと、「スタートアップ企業が農業分野と病院分野の効率化を進めようとしている」ことは、エチオピア経済に、チャイナやテックが、より具体的に何をどこまでしているのかを教えてくれました。

 

※謝辞

JETROアディスアベバ事務所の脇田洋平さんに大変お世話になりました、篤く御礼申し上げます。

※記録

2018年8月11日朝、Version1.0執筆。

 

※参考

Hallward-Driemeier, Mary; Nayyar, Gaurav (2017). Trouble in the Making? : The Future of Manufacturing-Led Development. Washington, DC: World Bank.

エチオピア投資局:http://www.investethiopia.gov.et/


1件のコメント

  1. […] 番外編として「エチオピアでみたチャイナ」ランキング。新興国でのテック/スタートアップの可能性を考えた、もう少しまじめな現地での視察のノートは前回、前々回のブログを参照。 […]

    いいね

コメントを残す

以下に詳細を記入するか、アイコンをクリックしてログインしてください。

WordPress.com ロゴ

WordPress.com アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト /  変更 )

Google+ フォト

Google+ アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト /  変更 )

Twitter 画像

Twitter アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト /  変更 )

Facebook の写真

Facebook アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト /  変更 )

%s と連携中

2018年8月
« 7月    
 12345
6789101112
13141516171819
20212223242526
2728293031  
%d人のブロガーが「いいね」をつけました。