1月に深圳でよくご一緒している高須さん、そしてハードウェアスタートアップ・FutuRocketの創業者である美谷さん、そして元ジョッキーでジムトレーナーのKajiteruさんと浙江省の義烏市を訪問しました。
義烏市には世界最大の雑貨卸売市場があり、その発展パターンは拙著『現代中国の産業集積』でも取り上げています。2000年代から「雑貨市場なんて衰退する」と言われ続けてきましたが、いまだに存在し続けている理由は、圧倒的な品ぞろえと中間財の集中にある、というのが拙著での結論でした。以下は、久しぶりの訪問のメモです。
1)相変わらず元気な区画とそうでない区画が分かれている
中間財の集中によって、とくにアクセサリーの分野では流行に乗った製品開発と輸出ができるため、義烏市場ではこの分野が最も活気に溢れています。それに対して、デザインが変わらず、また流行性の低い工具類といった製品は、一度マーケットを訪問すればそれ以降は必ずしもマーケットにくる必要性はなく、また工場直販になっていくため、総じて閑散としています。これは今回でも変わっていませんでした。
2018年の春節に向けて装飾されるメインの「義烏国際商貿城1区」の入り口。
手前がマーケットで、奥は前回訪問時には建設中だったオフィス・金融街。
春節グッズ、とくに戌年であるので、犬のぬいぐるみが前面に置かれています。これがまさに流行に対応した製品で、次来た時には当然商品は入れ替わっています。
もう一つ賑やかな場所がおもちゃ売り場。お土産で買っていく人も少なくないようで、単品から対応している店もこのエリアにはあります。広東省スワトウエリアで製造された玩具レベルのドローンが飛び回ります。
4区、5区といった奥のエリアは閑散としていて、活気はありません。これも結構昔からの話。
相変わらず外国人バイヤーが市場内を歩き回っており、広告も目につきました。
前回訪問時にはなかった、「スマートグッズ売り場」。DJIのドローンや、深圳製と思われるようなロボットが並び、正直義烏のニーズに合うのか不明でしたが、人はそこそこいました。
在外研究メモNo.51でも言及したCityeasyのロボットだと思われるものもなぜか並んでいました・・・。
2)ゴールドバッハの和田さんから日本市場向けビジネスの最前線を聞く
買い付け事務所を経営されている和田さんにお話を伺いました。想像以上に大きな倉庫兼検品事務所を運営しておられ、なおかつ可能な限り小ロットの買い付け代行にも対応しているシステムにも驚きました。和田さんは義烏市のEコマースプラットフォーム、Yiwugouの日本館の運営もしています。
倉庫兼検品事務所。この建物やほかの場所にもシェアオフィス風の区画もあり、パートナー企業用の机やオフィスも用意しており、日本企業が義烏を活用するためのプラットフォームにもなっていました。和田さんは復旦大学卒業のがちがちの中国通で、すでに18年間中国でビジネスに携わっておられるという方です。
オフィスでは日本からの注文の確認作業が進んでいました。
3)義烏アフリカ人商会・会長のスラさんから「アフリカ工業化」を聞く
義烏訪問のなかでもかなり衝撃的だったのはスラさんの話でした。
スラさんはセネガル出身、2003年に初めて義烏を訪問しはじめ、2006年から徐々に義烏にいる時間が長くなり、やがて常駐するようになったそうです。最初は二人で始め、現在では37名のスタッフを抱える買い付け事務所になっています。
聞き取りはこんな感じでスラさんのオフィスで中国茶を飲みながら進みました。このスタイル自体が中国風で、スラさんは英語と中国語で応えてくれましたが、美谷さんがフランス語で話しかけるとそれにも対応していました。
もっとも印象的だったのは、「義烏で製造を学び、そしてアフリカの工業化のために投資し始めた」という話でした。
我々は義烏で学んだ。もともと物を買って、売って、その差額を儲けるだけだった。でも中国にいて、義烏に滞在し、中国人と仲良くなり、ビジネスサイドだけでなく、生産サイドについても学ぶようになった。
昔は製品を見てるだけだった。このライターを見ても、「作れるかな」などとは考えもしなかった。しかしバイヤーをやりながら、徐々に生産している工場を見るようになった。小さな工場が、機械を使って生産しているのをみたんだ。テープの工場とかも行った。小さい工場がこうした製品を作っているんだ。
そこで例えば、プラスチックのボトルをみて、自分に問うんだ、「なぜ我々アフリカ人はこれを自分でつくれないのだろうか?」と。このプラスチックのボトルをアフリカに送るには、物流はコストがかかる。例えばこのボトルは包装すると、上にも横にもスペースが必要で、場所を取るからだ。でもこのボトルの原料は、小さな盃くらいで足りる。原料をもってきて、アフリカで、セネガルで機械で生産すればいい、と思うようになった。組み立て、いろいろなアクセサリーのパーツがここにはある。
私はここに未来があると思う。アフリカの方がコストはもっと安いはずだし、沢山のアフリカ人がそれを、小さい製造をやり始めている。
実の話、私自身も工場を始めている。プラスチック製品の工場だ。中国の友達がセネガルに4回もきてくれていて、10年来の友達がいて、かれがパートナーだ。一緒にアフリカで工場をやっている。生産を始めるときは実際にどうやるかを見せなければならない。もっと中国の産業を、セネガルに誘致して、人を雇い、生産プロセスを教えていくことをやりたい。それが私がいまやっていることだ。ただ輸出しているだけではないんだ。次のレベルはアフリカの工業化(African Industrialization)だ。
義烏市からの表彰を多く受けているスラさん。「外国人をこんなに大事にする場所はほかにないだろ?」と、ビジネス上の民事訴訟の仲裁メカニズムなどを紹介しながら力説してくれました。
スラさんと集合写真。スラさんはセネガルの大統領顧問でもあります。
4)アクセサリー工場で「インダストリー4.0」対応を見る
義烏のローカルな産業のなかで、最も競争力を持つ産業のひとつがアクセサリー業界です。今回は友人の紹介で、なかでも面白い取り組みをしているアクセサリーメーカーを二社訪問できました。そのうちの一つの工場は、型の製造に3Dプリンターを活用し、なおかつ生産管理システムを大々的に導入することで、より小ロットでの生産を短納期で実現する方向で、生産ラインを大幅に改造していました。この会社は「浙江省工業4.0リーディング企業」にも選定されている会社です。
すべての作業場にはディスプレイがあり、作業指示がされています。このシステムによって、どの従業員が、何時から何時に、どの製品のどの作業をするかが指示されています。
製品設計を以前よりも自社内でするようになり、同時に小ロット生産がふえたため、3D CADを用いてサンプルを作り、それをもとに型をつくるフローができていました。
サンプルの生産のための3Dプリンター。
小ロット生産であればこういったゴム型で製造。
アクセサリーのアセンブルは機械化が難しく、依然として主に手作業です。
試作のためのパーツ置き場。青色の石・ビーズのみでもこれだけの品種がありました。
生産システムの改善により、納期が15日から7~10日に、そして生産可能品種が32モデルから55モデルに増加、必要人員数は減少、不良率減少、といった効果があったとのこと。
わずかこの2~3年の間に、いわゆる「労働集約的産業」でもスマート化が急激に進展していることを義烏で目撃しました。
5)旧・賓王市場がおしゃれスポットを目指して改造中
あまりいい写真が取れませんでしたが、もともとの卸売り市場だった賓王市場が、おしゃれ創業エリアを目指して改造中でした。正直訪問時点ではあまり活気を感じませんでしたが、どうなるでしょうか。
オブジェが置いてあり、周りにはカフェやバーができていました。昔はこの雰囲気の場所は義烏には存在しませんでした。
「深圳在外研究メモ No.53 番外編~雑貨の街・義烏で「アフリカ工業化」を聞き、「インダストリー4.0」を見る」への1件のフィードバック
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