深圳で一番のおしゃれスポットOCT(Oversea Chinese Town, 華僑城)。そこのアートギャラリーで働いている友人から誘われて美術館に行き、そこで中国の現代アートのクリエイティビティに触れたので、せっかくなので紹介しておきます。
スタートアップとかイノベーションとは若干異なる領域ですが、深圳はアート産業、デザイン産業といったクリエイティブ産業に力を入れていて、こうした展示会とそこに集う人を見ることでも、この街の活力を感じられました。
とくに、後半で紹介している華美術館では「デジタル山水画」とも呼べる作品群を展示しており、深圳という街自体が急激に開発される中で見ると、ある種のリアリティを感じるという、体験ができました。とりあえずメモしておきます。
1)何香凝(He Xiangning)美術館
何香凝は1903年に日本留学し、私立女子美術学校(現在の女子美術大学)で田中頼章のもとで絵画を習い、のちに共産党政権に合流した画家です。深圳のOCTエリアに美術館があり、彼女が残した山水画の展示と、同時に現在は1980年代以降生まれの新世代芸術家のモダンアートの展示がされています。
美術館入り口。江沢民が揮毫。
何香凝と宋慶齢の写真。毛沢東との写真も展示されていました。
「克強先生」とは中国同盟会会員の黄興(1874-1916)のことで、彼に宛てた作品。猛々しい作。
展示されている中では最も大作であった「松・菊」。劉亜子が長文の詩を添えている。
劉少奇が「祖国山河」と題をつけた作。
美術館館内の別の区画は完全にモダンアートゾーン。
モダンアートを背後にセルフィーをとる若者が目立ちました。
2)華美術館のReconstructing Utopia(重构乌托邦)展示
何香凝美術館のすぐ隣の「華・美術館」。そこで現在の展示がReconstructing Utopia(重构乌托邦)。都市全体を改造し続けている深圳市でユートピア展が開かれていることは、別の都市とはまた別のリアリティがありました。
華美術館の外観。六角形は蓮の池をイメージしている感じです。
1階の展示。長幅の山水画風のモダンアート。
これも山水とモダニズムの融合。
仏塔のデフォルメアート。
3)特によかった展示①~楊泳梁(YANG Yongliao)作「Prevailing Winds」
楊泳梁、1980年上海生まれの作家。
遠くから見ると、こんな作品。山水画。
近づくと、ビル群、そして都市であることに気づきます。山水と都市の融合。
右奥の「山々」は実際には完全にビル群。立ち話で聞いた話では全国で映像をとってそれを結合しているそうです。どうも特に重慶をモデルにしているようです。
そして滝。実はこの作品、動画です。なので、滝は流れ、車は動き、人も動いています。
じっくりと鑑賞する人々。在外研究メモ No.45で紹介したタオバオ村のアートと近いものがありますが、こちらの方はディストピア感はありませんでした。
Yang Yongliang, 2012年の作品。The Day of Perpetual Night, Galerie Paris-Beijing。「数码山水图」、つまり「デジタル山水画」と呼ばれていて、なるほどという感じ。
4)特によかった展示②~邱黯雄(QIU Anxiong)作「新山海経3」
邱黯雄、1972年四川生まれ。
これも動画です。題して「新山海経3」。
まず、電子部品基盤のアップで始まります。PCB(Printed Circuit Board)基板、と呼ばれるやつで、まさに深圳はこれを設計し、作る街。
基板かと思いきや、徐々に立体化していき、人が上から落ちていきます。基板ではなく、ここは街なのです。
マスクをした主人公が空から落ちてくる。基板の街へ落ちていく。
途中、伝統的山水画の画面にも切り替わる。どうも「基板の街」の近くにはまだ自然があるようです。
「基板の街」のコア部分。どうも上海をイメージしていると思われます。おどろおどろしい雰囲気で、ところどころ植物や動物をイメージさせるロボットがあります。
主人公がマスクをつけて起きる。この場面は攻殻機動隊をオマージュしているようです。
お寺でしょうか、「人生には根は無い」との言葉。
実際には結構長い(10分くらい?)動画なのですが、最後は、主人公が街から飛び降りて終わります。
作品を見る聴衆。
QIU Anxiongさんのインタビュー動画。
5)美術館を一歩出ると、改造中の街が広がる
華美術館をでて、未知の向かい側ではこのビルを建設中です。
山水画と都市化の融合というテーマの作品群を見て、一歩でると、この街自体が大規模な開発の途中なのです。在外研究メモ No.45で取り上げたビエンナーレもそうでしたが、街自体が改造中であるため、芸術家・デザイナーの想像力との間に、交渉し得ないような壁がなく、現実感を与えうる場所になっています。2018年のいま深圳で見て、感じてもらう価値がある展示だと思います。
「深圳在外研究メモ No.52 華僑城OCTの何香凝美術館と華美術館を訪問編~加速都市・深圳で「デジタル山水画」を見るリアリティ」への1件のフィードバック
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