深圳在外研究メモ No.50 全人代開催中の首都北京でベンチャーエコノミーを見る編~エンジェル投資は北京から始まり主要都市へ伝播。中関村、回龍観、WeWork北京望京はスタートアップ密度高い…

出張続きで、貴州の後に北京に行きました。東京大学と北京大学の合同ワークショップに参加後、ベンチャー投資家やコワーキングスペース、新興開発エリアを回りました。以下はベンチャー周りの話を中心に、訪問の雑感です。

1)エンジェル投資は北京一極集中から多極化へ

中国でTOP3に入るエンジェル投資機関である英诺天使基金のパートナー、王晟さんにインタビューができたのですが、主な内容は次の通りでした。

伊藤:中国の過去5年のベンチャー投資の伸びは激しいと思います。とくに2014年、2015年から本格化した「大衆創業、万衆創新」政策の効果もあったと思いますが、どのようにご覧になっていますか?

王:確かの過去5年の変化は大きかったですね。中国でエンジェル段階の投資を機関投資家がし始めたのは2012年からです。それ以前は基本的には事業で成功した個人が早期段階のベンチャー企業に対して投資していました。2012年末から2013年にかけて中国で「エンジェル投資の機構化」が生じました。アメリカにはYコンビネーターや500スタートアップといったアクセラレーターはありました。中国では2012年以降です。

伊藤:ハイリスクなエンジェル投資の機関化で、どのような課題に直面したのでしょうか?

王:直面する課題は二つありました。一つ目は、とても早期段階での投資なので、そもそも売上すらまだないので、往々にして投資を評価する個人の主観的な判断に依存してしまうという問題です。つまり機関として投資委員会で議論して、決断する意義があるかどうか、という問題です。

第二の問題は、エンジェル投資の規模は大きくなく、せいぜい合計で1-2億元(17億円~34億円)くらいで、管理費用として運営側の予算は年間200-300万元程度しかないので、アナリスト、投資後のサービス人材などなどを雇おうとすると、管理費用負担が大きく、問題になるという点です。仮に10人の管理人材がいたら、とてもビジネスとしてまわりません。

現状では、第一の点についてはパートナーそれぞれが強い守備範囲と地域を持ちながらも合議することで投資先のバランスを保ち、第二の点については英诺天使基金は基金総額が20億元(340億円)、合計で200のプロジェクトに投資しているので、すでに規模の問題は解消されています。

伊藤:「大衆創業、万衆創新」政策が始まって以降の印象が強いのですが、その前からすでにこうした仕組みができつつあったということでしょうか?

王:中央政府が政策を立案する時点で、すでにエンジェル投資は活性化していました。「萌芽段階」とかではなく、「充分な準備」ができていたと理解しています。当然政策的なサポートのもとで、2014年から更に活性化し、そして2015年に一度ピークを迎え、2016年、2017年にかけていわゆる「投資の冬」の時期を経てまた伸びてきています。

伊藤:中国のイノベーションエコシステムは、地域ごとにいくつかの拠点があります。現状、北京の役割が大きいと思いますが、王さんはどのようにご覧になっていますか?

王:清科集団のデータを見ると、ベンチャー企業のプロジェクトの数も、そしてエンジェル投資の金額も、北京は首位です。ただ、2014年時点では中国全体のエンジェル投資の70%を北京が占めていたのですが、二年目には60%、三年目には50%に減少しました。もともとは北京に一極集中してきたのが、徐々に広がってきたと言えます。ただ依然として北京がもっとも数も規模も大きいです。
いまは、エンジェル投資の領域でいえば、「北京、深圳、上海、杭州」または「北京、深圳、杭州、上海」という順番で見るのがいいでしょう。もちろんこの他に内陸も重要な拠点になってきていて、例えば成都にはゲーム関係企業が多数あります。あとは福建福州、重慶あたりも大事です。

伊藤:良いプロジェクトを、売上もない段階で見つけるのは難しいことだと思います。どのようにプロジェクトを発掘しているのですか?

王:ABCシリーズでの投資の場合には、すでに売上があり、客観的に評価をできます。しかしエンジェル投資ではそうはいきません。

私はタケノコみたいなものだと思っています。いいプロジェクトは地面にはでていなくても、根がしっかりしています。そして地上に顔を出したら急速にのびて、あっという間に手出しできない、投資できない企業になってしまいます。なので、土の中にあるうちにみつけないといけない、ということです。

方法はいくつかありますが、一つ目は、「一手项目(だれも見つけていないプロジェクト)」を発掘して、だれよりもはやく投資することです。この方法は、人脈、ソーシャルネットワーク、高等教育機関のネットワークが大事です。我々は創業者が清華大学出身なので、このネットワークに加えて、北京大学、北京理工大学、北京航空航天大学、ハルビン工業大学の教授らとすでにつながっています。学生の時点で、いいプロジェクトを発見できます。

それからすでに投資している創業者の友達も重要です。業界で影響力のある人、そして投資機関には当然情報が集まります。AIの領域で我々はおそらく一番投資していて、スター級のプロジェクトがあります。なので、直接我々に話をしに来ることも多いです。ゲームの業界でもそうです。

このほかに協力機構の推薦であったり、コンペティションの入賞者の情報をもらうことも大事です。Sony中国之星というプロジェクトは、中国の一番優秀な開発者を発掘するスキームですが、この卒業生にはうちは結構投資しています。

「公开市场」、つまりすでにプレゼンショーをはじめたら、もう手遅れですね。みんなが見つけられるので、投資することは難しいです。

「いいベンチャー企業=タケノコ」説とかすごく面白い表現でした。

 

 

2)以下、写真

その他色々面白い聞き取りがあったのですが、書ききれないので、それはまたの機会。

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天安門広場。訪問したのはワークショップ終了後の3月11日日曜日午後だったので、期せずして憲法修正案の採決が隣の人民大会堂で行われているタイミングでした。

 

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2006年から2007年に人民大学にいたときには、地下鉄はわずか2本だったはずなので、この路線図には驚きました。大学エリア(海淀区)から中心部、そして大学エリアから新興開発エリア(望京など)にもストレスなく移動できます。

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全人代期間中ということで、右側の車道交通規制中。

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東大と北大の合同ワークショップ。東京大学・高原明生先生が日本側取りまとめで開催されました。先方は国際関係学院だったので、必然的に国際関係系、なかでも一帯一路関連の報告が多かったです。学生さんも一帯一路をどう分析するのかを苦労しているようでしたが、具体的な論点(例えば非伝統的安全保障)に絞るとか、具体的なプロジェクトに絞る(メコン開発と一帯一路)ことでフレームワークを確保し、実証性を高めようとしていたのが印象的でした。一帯一路は経済も外交も、安保も、文化交流も、何でも中に含められてしまっているので、確かに院生が真正面から研究テーマとするのは、リスキーだと思います。

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北京大学の校内には北京大学の学生と先生限定のOfoがありました。QRコードを読んで立ち上げると「学生と先生のみした乗れません」と出てきて、どうも学生証か職員証で認証が必要とのこと。さらに学外にでるとGPSで把握してペナルティがあるそうです。Ofoはこの時期に習近平さんの宣伝キャンペーンをアプリ上でも展開していました。

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北京大学学内のインキュベーションセンター。学生からプロジェクトを募集してオフィスを提供するというスタイルです。深圳大学の中にも同様のスペースがありますが、正直学生の「自習室」化しやすく、成果を評価するのは簡単ではありません。

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中関村にある、中国でもトップ3に入るエンジェル投資機関(英诺天使基金)のアクセラレーター/コワーキングスペースの様子です。さすがにトップレベルの場所だけあって、中身がぎっちり入っており、カフェでは投資家へのピッチ、会議室ではベンチャー企業の内部の会議、小型のミーティングスペースも満室という状況でした。

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ミーティングのために座る場所がないくらい満室。

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英诺天使基金のパートナー、王晟さん。エンジェル投資の機関化についてじっくりお話を伺いました。

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中関村にある動画配信サイトiQIYIの本社ビル。

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近くの「中関村創業大街」。ここは私は人民大学(このすぐ南側)にいたときは、本屋街として発展させようとしていました。まだ写真右のとおり、「中国書店」が残っていますが、それ以外は3Wカフェや京東ミルクティカフェのような、いわゆるスタートアップカフェ、そして政府系のサービス機関などがありました。

 

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「中関村創業大街」。正直ここはあまり大事ではないと思いましたが、展示室には中関村が含まれる海淀区関係のテック系ベンチャーの製品が展示されていました。

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北京市内北西部、昌平にある「回龍観」にある「創客広場(メイカープラザ)」。昌平政府とテンセント、そして英诺天使基金が協力して5.5万平米の大きな建物のなかに巨大なスタートアップ向けのオフィスを設置していました。

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昌発展が地方政府系の開発事業者です。

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内部のコワーキングスペースは、テンセントコワーキング(腾讯众创空间)という形で運営されており、これまでに366のスタートアップが入居、累計の企業価値は110億元、1億元を超えた企業が16社、現状では4000名がここで働いているとのことでした。

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このエンジェル投資と関連する有力プロジェクトとして紹介されていた「智行者科技」。京東と協力して物流倉庫での運搬プロジェクトを進めているとのことでした。

 

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スマートロック事業で成功しつつあると紹介された会社。

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オフィスは小型または部屋共有というパターンから、部屋占有のパターンまであり、最大で600名の会社があり、200人程度の企業も少ないそうです。

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建物内部には地元政府の工商行政管理局が入っており、企業登記、事業許可証の発効などが可能になっていました。実際に内部はにぎわっていました。

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地方政府が運営に入っているということで、党の指導を強調するような宣伝も目立ちました。

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北京市北東に建設された新興エリア、望京のランドマーク、望京SOHO.

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同上。

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SOHOではなく別のビルですが、WeWork Wangjingを訪問しました。

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東京のWeWorkはまだ見に行けていないのですが、おそらく同じような内装のはず。個室もざっとみましたが、ほぼ満室でした。

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アートエリア798。

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同上。

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798のあるショップ内部の様子。想像以上に大きかったので短時間の訪問ではとても見切れませんでした。

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