深圳在外研究メモ No.42 深圳湾ソフトウェアパークで感じる「社会実装先進都市」としての深圳~日々新しいサービスに囲まれて仕事をしていることが何かを意味するのかも…

このブログでもたびたび取り上げている深圳湾のソフトウェアパーク。ものすごい意識高い系でもあり、テンセント新本社ビルとかあり、しかもベンチャーキャピタルのビルとかもあるので、なんだか「新しい深圳」を代表しているように見える場所の一つだ。

この場所の雰囲気については、高須さんが記事に書いていて、様子がよくわかる。

2015年メイカーフェアー深圳の様子:街が丸ごと会場に!Makeで生きる「創客」たちの楽園~Maker Faire Shenzhen 2015レポ前編【連載:高須正和】

このエリアは、在外研究している深圳大学の寮から徒歩10分の距離で、なおかつブログでも言及しているMakerNetのKevinのオフィスがこのエリアのまさにVCビルの中のRocketspaceに引っ越したので、週に2回くらいは足を運んでいます。

そして貴重な経験になっているのが、MakerNetでのインターンというか、Kevinのお仕事のちょっとしたお手伝いです。ここでの経験については別途書くとして、このエントリーでは次のことを書きます。

 

1.「社会実装先進都市」としての深圳

深圳の新しいオフィスエリアでは、新しいサービスに囲まれており、ここで働く人たちはごく自然にそれを使っている、と言うことです。より具体的にいえばローンチされて1~2年のサービスがどんどん実装され、若くてテックに興味の強いエンジニア的人材が多いこともあり、積極的にサービスを利用しています。他のエリアでもこうしたことは見られると思うので、決して深圳特殊な現象とは思いませんが、無人バスの実験(また試験段階で、人は載せていない。高須さんの現地訪問ノート参照)、Huaweiの交通管理システム(スマートシティプロジェクトの一環)の導入無印良品が展開するMUJI HOTELの世界第一号店が深圳にオープン、等々新しいサービスの導入が試行錯誤されています。多少まだ現実よりも先走っている感じはありますが、私は「社会実装先進都市」という言葉を使ってみたいと思います。

これまでの深圳がサプライチェーンによって特徴づけられ、そして次のような研究開発側の拠点開設がリリースされてきたことはすでに注目を集めています。例えば、Appleの研究開発拠点ARMの合弁会社の深圳設立Airbusの研究開発の開設などなどです。これらの現象は、海外系の製造関連企業が、「製造の場」としてではなく、「研究開発の場」として深圳を見始めていることを意味しています。

サプライチェーン、つまり「製造都市としての深圳」の次に、「研究開発都市としての深圳」もとても重要なトレンドですし、その実態がどのような中身になるか、追いかけていくべきテーマです。

ただイノベーションとは「研究開発」や「科学技術」のみによって生じるのではなく、市場との対話のなかではぐぐまれるものでもあります。この意味で、中国で進むさまざまな新サービスの動向には注目が必要でしょう。

以下では深圳湾ソフトウェアパークで体験したことをメモしておきます。なお、中国では農村部でもEコマースを中心に、ウェブとの関連での新サービスの展開が進んでおり、淘宝村のような、Eコマースと村おこしがつながったような動きがすでに数年前から報告されています。決して、都市部だけで進んでいるわけではありませんが、以下では、いわゆる「かっこいいオフィスエリア」でどんなことが起きているか、を紹介したいと思います。

 

2.深圳湾ソフトウェアパークでのある午後に体験したこと

南山区深圳大学のすぐ南のエリア、「深圳湾ソフトウェアパーク」。深圳市の国有企業である深圳市投資控股集団の子会社である、深圳湾科技発展有限公司が開発を担うエリアです。この会社は近くで生態園の開発も進めており、南山ハイテク企業が集中するエリアの開発を一手に引き受ける、重要企業です。

そしてソフトウェアパークのなかのランドマークである、創投大夏。投資ファンドや資産運用会社が多数入居しています。

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国有企業が運営するだけあって、ディスプレイにも宣伝部系の広告がよく表示されています。「一九大党大会の精神を深く学び、青年イノベーション創業を紅く導こう」というスローガンが表示されています。ただ、あくまでも大家さんが国有で、中の個別企業は別です。特に中小のテック系企業はあまり国とか党とかあまり気にしていないというのが、日々話を聞いていて感じることです。

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ビルの前は、例によってシェアサイクルが並びます。これは主要都市ではよくあることでしょう。シェアサイクルが普及し始めて1年ほどですが、すでに勝負がつき、三番手のBluegogoが倒産したことで、黄色のOfoと、オレンジのMobileの二強体制となっています。IMG_20171228_121736.jpg

お昼どきのこのビルの前には、Uber Eatのような宅配サービスの配送員が多くいます。彼らがみんなエレベーターに乗るととても混雑することとセキュリティ上の理由から、彼らはビルのなかには入れません。アプリを通じて、電話で注文者の「届いたよ、ビルの下に受け取りに来て」と連絡するわけです。奥に見えるのがTencentの新本社ビルです。まだ稼働していません。ここが稼働すると更ににぎやかになるでしょう。

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このビルのワンフロアに、サンフランシスコから展開してきたコワーキングスペース、RocketSpace Shenzhenがあります。ここのキーパーソンたちはだいたいアメリカ帰りの中国人で、そのネットワークは広く、またとてもできる人たちが多い印象です。そしてこのコワーキングスペースには、この半年ほどで一気に全国に広まった、設置式の自動販売棚があります。仕組みとしては、基本は無料でオフィスに設置し、消費者は必要な商品を自分でRQコードを読んで支払います。つまり、正直、盗める、ということです。そのためそれほど高価なものは置いていませんが、かなり消費者側のモラルが試されるのは事実でしょう。防犯カメラはこの棚のためには設置されておらず、これ以外に冷蔵庫のなかにはドリンクもならびます。写真に写っている男性は業者の担当者で、在庫をチェックしていました。

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ビルの1階には当初なにも入っていなかったのですが、12月頭に「超級物種(Super Species)」がオープンしました。今年アリババが出資した盒馬鮮生という上海の生鮮スーパー兼飲食店の複合店が注目を集めました。私も夏に行きましたが、アプリ上での決済ができ、宅配も気軽に頼める利便性を感じました。そしてこの「超級物種(Super Species)」は、福建から出てきたイートインを強味にするスーパーと飲食の複合企業で、最近、テンセントが買収した企業です

(参考:【中国小売業界】スーパーマーケットチェーンのオムニチャネル化が急加速する理由)。

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アプリ上で注文すると30分で宅配可能。今度実際に寮に届くか、試してみようと思います。

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最近結構各都市で流行っているステーキ屋さん。グラムの計り売り形式。食べてみましたが、味はなかなか良かったです。

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お昼時の「超級物種」。テンセント新本社ビルのなかにもひょっとしたら何かできるかもしれませんが、本社すぐ近くにこうした店舗ができているのは面白い動きです。

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レストランの机の上には、卓上の充電端末。QRコードを読んで、お金を払って充電できます。すでに電子決済が進んでいるので、基本は、財布を持たずに外出することが増えています。スマホの電源が切れると何もできなくなる(地図がみれない、お金が払えない、連絡できないなどなど)ので、充電インフラは決定的に大事です。

 

3.「このくらいは中国のどこでもある」のかもしれないけど…

上記のようなサービスは、ほかの地域のサービスが流れてきているので、決して深圳特殊な現象ではないでしょう。ただ、この密度はなかなかのものだと感じます

例えば私は広州にもよく出張にいきます。シェアサイクルはあるし、宅配も当然あります。ただ、深圳のこのエリアにはテンセント本社があり、次世代スマホやドローンを開発する人がいて、ベンチャー投資家がいます。彼らがこの密度で新サービスを体験しながら、日々、次の事業を考えています。

開発者自身が、そして投資家自身が新サービスを日々感じることができている。このことが何を意味するのか、まだわかりません。ただ、単なる「研究開発都市」ではなく、「社会実装先進都市」でもあるような街が生まれてくると、開発者の発想の前提が変わってくるように思います。

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