深圳在外研究メモ No.41 メイカースペースSEGMAKER入居メンバーにじっくり話を聞いてみた編~画像認識スタートアップ易視智瞳科技の場合

在外研究メモNo.4で書いたように、深圳市の電気街華強北のランドマークビル、賽格広場にあるメイカースペースSEGMAKERにスペースを借りています。イベント開催や日常的な打ち合わせに使っているのですが、スペース内にはおよそ30社のスタートアップが入居しています。ロシア、ドイツ、ベラルーシ、香港、台湾といった大陸中国以外のプロジェクトもありますが、大部分は中国ローカルのスタートアップです。

なかでも一番大きなチームとして存在感があるのが、画像認識スタートアップの易視智瞳科技有限公司です。以前から知り合いになっていたのですが、共同創業者でCEOの黄さんに今回じっくり話を聞くことができたので、このエントリーではインタビュー形式で、同社を紹介したいと思います。


伊藤:今日は時間を取っていただいてありがとうございます、はじめに黄CEOの経歴を教えてください

黄CEO:私は1977年生まれの広州出身です。杭州の浙江大学で学部と修士を取ってから、香港中文大学(CUHK)の機械自動化専攻で博士号を取得しました。CUHKを2007年に卒業してからは香港政府が基礎研究の産業化のために設立した香港自動車部品研究センター(香港汽车零部件研发中心)でEV関係の研究プロジェクトに携わりました。2012年から2015年には中国安防集団に転職しました。その会社の本部は深圳で、香港と上海にも拠点があり、三か所を行き来する生活になりました。ただ、ずっと自分のプロジェクトで会社を興したい気持ちがあったため、2015年12月に現在の会社を創業しました。

伊藤:御社の事業はどのような内容ですか?

黄CEO:当社は「工業用ロボットのためのスマートな眼」を開発することを目指しています。現在の工業用ロボットはロボットアームが典型ですが、基本的には単なるセンサーで、事前に決められたことしかできません。機械学習を組み込んだ、生産ラインの自動化設備の開発はまだまだ可能性があります。当社は半導体製造メーカーやスマホメーカーに向けて、カスタマイズされ、スマートで、フレキシブルな自動化設備を開発製造し、納入しています。具体的にははんだ付け、糊付け、フレキシブル基盤への加工、ロボットアームの誘導、スマホカメラモジュールの取り付け、スマホメインボードの加工、指紋モジュールの設置、スマホ内側ケースの取り付けといった加工工程の自動化設備を開発しています。

伊藤:現在の事業規模、人材、納入先について教えてください。

黄CEO:現在拠点は香港と深圳にあり、基本的には深圳本社で開発製造販売をしています。合計28名の従業員がおり、うち22人が研究開発を行っており、ソフトウェアエンジニア、アルゴリズムエンジニア、ハードウェアエンジニア、このほかに製品のアフターサービスを行う技術サポートエンジニアがいます。もう一人の共同創業者の時CTOは、CUHKで画像認識の博士号を取得しており、技術的に言えば私がハード担当、彼がソフト担当という関係です。

今年の売り上げは約1000万元。顧客は中国の珠江デルタと長江デルタに集中しており、国外市場はやっていません。スマホ製造のサプライチェーンに顧客が集中していることと、国外市場を開拓するには言語や認証の面で手間がかかるため、国内市場に取り組んでいます。

伊藤:競合企業の状況や、それとの対比での御社の強みはどこにあるのでしょうか?

黄CEO:スマホ製造ラインの画像認識設備で言うと、Fast、オムロン、パナソニック、Cognex、NI Vision、Halconといった会社が競合になります。市場に参入できている理由は、当社の製品の性能はそれらの製品に比べても、優れた結果を出していることに加えて、ユーザーの要望に合わせたカスタマイズを行った設備を納入していることがあります。これらの大規模な設備メーカーの場合、細かな調整ができない場合が多く、その点で当社は、ハード、ソフト、そしてトータルソリューションの面での調整を行っています。

IMG_20171220_181322.jpg

易視智瞳科技有限公司の黄卜夫CEO。SEGMAKERのラボで納入機器の試験が進んでいます。

伊藤:現時点で直面している課題はありますか?

黄CEO:はい、あります。人材面です。北京、上海、深圳では創業ブームになっていることもあり、エンジニアを雇うコストは上がっています。さらに、適格なスキルを持った人材を探すのは難しいです。能力のある人ほど、自ら会社を創業したがるからです。起業するか、大企業で働くか、という選択です。したがって、当社のようなスタートアップ企業で、まだブランド力が弱い段階では、なかなか人材を取れません。現在のコアの人材は香港で研究していた時のつながりで、創業から一緒にやっている人たちです。自らのネットワークのなかで人を集めることがこの段階では有効でした。

伊藤:深圳市の創業環境についてどう思われますか?評価を伺いたいです。

黄CEO:深圳の創業環境はとても良いです。第一に、資本があります。多くの投資家と会うことができます。彼らがあなたを認めるかどうかはわかりませんが、ともかく投資家が沢山います。もう一つ重要なことは投資家のマインドが、とてもオープンで、またイノベーションに対して積極的なことです。他に地域にも投資家はいますが、マインドが違います。深圳の投資家は新しいものや、リスクのあるものにも積極的に投資をします。

第二に、人材です。この都市にはまだまだ他地域から若い人材が入ってきています。この人材のプールが重要です。

第三に、当社にとっては市場があります。すでに言及した通り、設備の自動化、とくに精密電子製品のサプライチェーンはここにあります。自動化の需要も旺盛です。

第四は、政府の態度と政策です。私は友人もいるので、北京、上海、そして国外とも事業環境を比較しました。結果として、現時点で、私は深圳市政府のイノベーションと創業への支援は世界一のレベルだと考えています。私自身も深圳市の人材誘致政策である孔雀政策の対象で補助をもらっています。これに加えて、オフィスの賃料面での補助や、技術面での補助金などが完備されています。当社の場合、VCから入った最初の資金は深圳創新投資からでしたが、二番目の投資はより政府系のファンドで、彼らはあるレベルの投資家が認めると、一定額をより良い条件で投資するというスキームを持っています。政府自体にはベンチャーを目利きする能力がないので、有力なVCが投資すると決定したところに相乗りする形です。このような方法は、始まったばかりで、あとから深圳市政府の役人が私のところにきて、「こんな方法でやりはじめているが、君は正直この方法は有効だと思うか?」とインタビューに来ました。フィードバックを得るためです。彼らも模索しているのです。私は「とても有効だ。ただ更に改善できるところはある」と答えました。

IMG_20171220_181228.jpg

SEGMAKERの一角は易視智瞳のエンジニアで埋まっています。熱心な開発の風景が日々見られます。

伊藤:非常に興味深い話ばかりです。今後の事業展開について教えていただけますか?

黄CEO:ちょうどいま、3回目の投資がほぼ決まったところです。金額的には数千万元です。これで当面の資金需要は問題ありません。更に上にレベル、別の段階の企業になりたいと考えています。そのために、実はこのメイカースペースからも引っ越しする予定です。

伊藤:そうだったのですが、ちょうどその直前でお話を聞けて良かったです。ぜひまた話を聞かせてください。

黄CEO:はい、新オフィスにもぜひいらしてください。


 

インタビューは上記のような内容でした。SEGMAKERにはより小型のプロジェクトが多いのですが、なかでも最も元気と思われる会社は、上記のような高学歴と、BtoBでのプロフェッショナルな設備の開発を手掛けています。このようなプロジェクトばかりではありませんが、深圳のメイカースペースには、例えばこのくらい元気な会社がある、そしてそこには若く能力ある企業家がいる、この点は否定できないでしょう。政府のサポートについても踏み込んだ話を聞けたので、今後さらに調べていこうと思っています。

最後になりましたが、長時間のインタビューにお付き合いいただいた黄CEO、ありがとうございました!百忙之中,感谢黄总接受我的采访!