昨年に続きMaker Faire Shenzhenに参加しました、公式HPはこちら。今年の会場は留仙洞の深圳市職業技術学院です。学校での開催と言うこともあり、特に初日は若い学生が多く来場し、展示を盛り上げていました。
1.展示の様子
主な展示は、①アート系の展示とワークショップ、②大企業(ToshibaやAcerのIoTキット)の出展、③そしてスタートアップ/メイカー系に分かれていました。
入り口の看板。
校名の看板にもMaker Faireのアイコン、Makey。
初日の朝の様子ですが、3日間つねにこのくらいの人がいました。
フランスからのプロジェクト、WaterLight Graffiti。刷毛のようなスティックで触れるとLEDが点灯していき、絵を描くことができるというMakerアート作品。
スタートアップエリアに出展していた教育用ロボットのスタートアップ。正直Makeblockにそっくりでしたが、この手のSTEM教育ロボットへのニーズは1社でカバーできる規模ではないため、こうしたスタートアップが昨年につづきいくつも見られました。
金型メーカーも出展している辺りは、Maker Faire Tokyoとの違いかもしれません。スタートアップ向けのBtoBの展示も少数ではありましたが見られました。
紙テープでアートを作るTAPIGAMIプロジェクトのDanny. 大道芸人のように会場を歩いていましたが、どこでも人だかりができていました。
4社のロボットスタートアップ合同でのロボットバトル。ロボット自体も手作り感溢れる作りでしたが、いずれも教育/レジャー系ロボティクス市場に焦点を当てたスタートアップで、1社2社ではなく、層として教育系ロボット市場を開拓する企業が生まれていることを感じさせました。
日本の鯖江から出展したLED眼鏡の出展ブース。まだプロトタイプの段階でしたが、多くの来場者が興味を持ってみていました。
漫画『ホームセンターTENCO』も出展。中国語版の冊子も販売していました。
寧波から出展していたプロジェクトアーティストとエンジニアの二人組で、デザイン志向の高い作品を販売しており、注目を集めていました。
『脳震盪』の作品の一つ「思考の手」。モーターが動くと指がゆっくりと順番に動き、哲学者が物を考えている場面を思わせるつくりでした。教育用ロボットがより機能を売りとしているのに対して、これはアート、インテリアとしての価値を探った製品です
主催者のEric Panが歩いていたので、写真をとってもらいました。夜のパーティの際に、「深圳の変化のスピードには常に驚かされる」と話したところ、Ericは「うん、でもそれが僕らにとっても対応するのが本当に大変なんだよ」と教えてくれました。私から見るとEricなんて最前線を走って引っ張っているように見えるのですが…。
2.Maker Education Forum
個人的に最も印象的だったのは「Maker Educationの実践」というフォーラムでした。コアのキュレーターはCarrie Leungで、深圳蛇口にあるアメリカンスクール(深美国際学校,Shenzhen American International School, Shekou )の先生で学校内にメイカースペースを設け、そこでプロジェクトベースラーニングを実践してる方です。
登壇者の中には前海自由貿易区に唯一ある小学校の校長先生も含まれていましたが、最も印象的だったのは、深美国際学校のカリキュラムを作ったTwila Busbyさんの講演と、深圳で子育てをして、子供がロボットコンテストなどにも参加しているRain Yuさんの講演でした。以下はお二人の講演の要約です。
2-1)Rain Yuさんの講演要約
私は清華大学卒業で、HUAWEIで15年働いたエンジニアだが、その後自分で会社を作り、子供が生まれたこともあり、いまはエンジェル投資家としても活動している。私の息子は沢山のロボットをつくり、いくつかのコンテストで賞をもらってきた。息子はもともと内向きな性格で、英語のスペリングテストも苦手で、決して目立つ学生ではなかった。しかし彼の特徴は、手を動かすのが好きな点で、家の電灯が壊れたときには自分で直し、iPadのディスプレイが割れたときにはインターネットで修理の動画を見て、Taobaoで部品を買って、自分で直した。自転車も1台組み立てて、一つ一つの部品を理解していて、もはや私よりも詳しい。
息子は登壇者でもあるJames先生と一緒にロボットを学ぶようになり、徐々に展示会やコンテストにも出るようになって、だんだん自信がついてきた。展示会では作品を説明するために知らない人と話さなければならないし、徐々により活発に、より明るくなった。
しかし中学校に入ってからは授業だけでなく、受験勉強のための塾通いが始まった。これは同級生みんながやっていることで、数学、英語、こうした科目を塾で勉強しなければ淘汰されてしまうからだ。そのため、イベントやコンテストに参加する時間がなくなってしまった。イベントに参加する時間があれば数学や英語をやらなければならないためだ。中国の教育制度自体が持っているこのような状況について私は議論したいと思っている。いまの中国の教育環境のもとで、どうすればいいのだろうか。
南山区はいい条件の場所で、先日はTeamLabの展示会にいった。友達から薦められていったのだが、芸術と科学と一体となっていてとてもよかった。もっと多くの子供に行ってもらいたいから、子供用のチケットを買ってきた。せっかくだからなんでも質問してほしい。質問してくれた人にこのTeamLab展のチケットをあげたいと思う。
今日は日曜日だ。息子は週末だから、友達と一緒にMaker Faireに来ようと思って、友達を誘った。しかし彼の友達は今日もみんな塾に行っている。だから息子の友達は一人として一緒に来てくれなかった。
2-2)Twila Busbyさんの講演要約
私は深圳のアメリカンスクールでカリキュラムを作っていた。それらはプロジェクトベースラーニングのアプローチでメイカー教育を組み込んで作ったものだ。すでに定年退職してアメリカに戻りっており、Makeマガジンに寄稿したり、Microbitを使った遊んだり、スタンフォード大学のFabLabのイベントに行ったりして過ごしている。 Makeという活動は、人間本来の活動であり、誰もができることだ。
Maker Eductionについて私の道しるべとなったのは、Invent to Learnだ。教育者にとってバイブルだ。そこでは次のように書かれている。「子供を現実のプロジェクトに参加させることで、子供たちは科学や数式が彼らのプロジェクトを継続するために必要であることを実感する。良いプロジェクトは、更に学ばなけれなならないことを教えるのだ。これはテストをしたり低い成績を与えることよりもずっとパワフルだ」。
学校(School)とMaker movementをどうつなげるか。学校という輪の中にメイカーを入れようとするのが通常のアプローチだ。しかし学校では沢山のやらないといけないことがあり、メイカー活動はそれらの中で埋もれてしまう。そこでProject Based Learning(PBL)と合わせて実施することが有効だ。PBLは思想であり方法である。ダイナミックに実際の世界の問題を解決するようなアプローチである。
現実として、学校、そして教師は生徒のテストの成績でその力量を評価されてしまうのが実情だ。いくつかの研究結果によると、実際にPBLを実施した学生は、より高い筆記試験の成績を記録している。だからこの評価軸でもPBLは有効なのだ。しかしMaker Educationが継続的に教育に組み込まれていくためにはMaker Cultureが社会の中で、培われて行かなければだめだろう。
深圳で子育てをしている母親の悩みは、会場全体に強く響いたように感じました。日曜日にもかかわらず、友達が一人も一緒にMaker Faireに来てくれないという事実にはわたくし自身も驚きましたが、中国の現状のセンター試験(高考)制度の競争の激しさを考えると、それも理解できます。会場には他の地域からも中国人の教師が多く訪れており、受験戦争の激しさ、そしてTwilaが言及した普通のアプローチではMaker活動は埋もれてしまう、といった指摘に対して、質疑応答でも多くの反応がありました。そこには何か、現場で問題意識を持つ人たちの熱い思いがあったように感じました。
深圳の教育局では学内外にメイカースペースを設置し、DJIをはじめとする深圳の会社と協力してプログラムを作っているようで、この点も興味深かったのですが、深圳で教育を現場で実施している方々の悩みを聞くことができたのが、今回のMaker Faire最大の収穫でした。深圳は世界のMaker Movementのなかでも重要な拠点の一つとなりました。次に、Maker Educationの面でも、ここから何か面白い動きが広がっていく可能性もありそうです。
登壇者。
フォーラムの様子。
Twilaさんの講演の様子。
通常のアプローチでは、学校のなかにMakerを入れようとする。
しかしこのアプローチでは他の沢山の活動のなかMaker活動は埋もれてしまう。
だからこそ学校の活動の中に分野横断的に、Project Based LearningとしてMaker Movementを組み込むことが有効、というスライド。
実は8月28日にすでに深圳のアメリカンスクールに行っていました。
その時Project Based Learningの事例を教えてくれたCarrie.
学校内のメイカースペース。
課題は「電子部品を内蔵する製品をつくり、何らかの社会問題を解決すること」。しかもクラウドファンディングをするつもりで、ビジネスプランをつくり、損益の計算も小学生・中学生に実践させていました。Carrieはサンフランシスコでも教師をしていたので、西海岸直輸入のアプローチだと感じました。深美国際学校のProject Based Learningの資料はこちらにアップロードされています。
「深圳在外研究メモ No.38 Maker Faire Shenzhen 2017に参加編~日本から多くのプロジェクトが参加、そしてMaker Education でも深圳は拠点になるのか?」への1件のフィードバック
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