深圳在外研究メモ No.29 深圳華強北SEGMAKER来訪者向けの資料を解説する編~新世代ベンチャー企業のエコシステム、そして新しい深圳とどうつながるか

観察会や各種報道の情報が広まっていることや、夏休みの時期ということもあり、深圳を視察に来る方が増えている印象があります。10名以上でニコ技深圳観察会SEGMAKER出張所にいらっしゃる場合には、時間を見つけてメイカースペースを案内するほかに、「イノベーション都市としての深圳」というタイトルのプレゼンをすることもあります。

 

ここに簡略版PDFを張り付けておきます:aseiito_shenzhen_as_innovative_city

 

このスライドは深圳のベンチャー企業やニューエコノミーに関して興味がある方向けで、議論の前提としてHUAWEIやZTEといった大企業が生まれていることをすでに既知のこととしています。HUAWEIの成長については、例えば田濤・呉春波著『最強の未公開企業 ファーウェイ: 冬は必ずやってくる』(東洋経済新報社、2015年)を読むことでその企業内部の統治システムも含めて理解できます。

 

スライドの概要はだいたい以下のとおりです。

1.第一節 中国経済の変化、3つの方向性

そのうえで、スライドではまず中国経済の三つの方向性を簡単に指摘しています。私は3つの方向性のうち、とくに高度化、イノベーションの方向性を理解する上で深圳に注目することが有効だと考えています。

 

2.第二節 深圳への注目

Economist誌やWIRE誌からの注目が集まっており、急増する中国のPCT特許出願の46.6%が深圳市からによるもの、なおかつ南山区がその半分を占める事実を指摘します。例えばこの南山区に立地する新興企業としては、たとえばドローンの世界最大手DJIの成長という事例を挙げられるわけです。10年で従業員が約1万人(スライドは3月時点のデータで、9月時点では1.1万人らしいです)を超えているようないわゆるユニコーン企業が生まれたわけです。DJI一社が偶然生まれたという可能性もありますが、この報告では、DJIの登場はまぐれではなく、むしろ深圳市にはハードウェアスタートアップが生まれ、また成長する仕組み、換言すればエコシステムがあることを解説しています。

 

3.第三節 新世代ベンチャー企業のエコシステム

ここがスライドの中核です。説明を簡略化するために①巨大で充実したサプライチェーンの存在、②参入が容易な産業構造、③クリエイティビティとマーケティング能力を付加する要素、この三点で説明しています

サプライチェーンについてはJENESISの藤岡さんのスライドを利用(許可を得ています)し、部材、金型、組み立て、検査からさらに物流機能まで完備されています。そのうえで、深圳市のデータによると、2016年深圳市単独で3.8億台の携帯電話を生産しています。さらに東莞市のOppo, Vivoを足すと、この地域で6億台以上の携帯電話が生産されていることになります。

サプライチェーンのもう一つの特徴は公板と公模の存在です。公板は特定製品用の基盤で、電気街華強北ではフリーペーパー上で、ウェアラブル製品やブルートゥーススピーカー用の基盤業者の広告を大量に見つけることができます。開発コストを削減できる産業構造が生まれているということになります。

そしてこのサプライチェーンに、近年クリエイティビティが加わったわけです。大前提として圧倒的に若い人口構造が挙げられ、「1980年代以降生まれ、理系有力大学卒業、そして深圳創業」という経歴が王道になっています。スライドではDJIのフランクワン、Makeblockのジェイセン・ワン、Seeedのエリック・パンを挙げていますがこのほかにもまだまだ追記できます。さらにハードウェアアクセラレーターHAXのみではなく、広い意味ではコワーキングスペースも若い企業家(およびその卵)に機会を提供する場となっています。

DJIの登場はまぐれではなく、ハードウェアベンチャーの成長を促進する仕組みが構築されているわけです。これらのベンチャーが開発している製品は、ドローン、360度カメラ、家庭用ロボットアーム、水中ドローン、コミュニケーションロボット、などなどです。自動車産業、スマートフォン産業に比べると「ニッチだよね」、という評価は確かに可能です。しかし、これまで存在しなかった、あるいは世界で同時開発競争が行われる新製品カテゴリーで、深圳発のベンチャーが世界最速のスピードを記録しつつあることは重要です。これら「ポストスマホ時代」のハードウェアを切り拓く、そしてものすごい球数を投げてくる街として、深圳に注目する価値があると考えています。

 

4.第四節 新しい深圳とどうつながるか

最後に問題になるのはこの新しい深圳とどうつながるか、です。

深圳(中国)を下請け工場として使う時代から、深圳(中国)自身に開発とマーケティング能力のある、しかも若い企業が生まれてきているわけです。日本の有力企業も、こうしたベンチャー企業への納入実績を持っています。サプライヤーとしての取引関係をどう開拓するか、がまずは課題になります。「ローカルメーカーさんは代金回収が怖くて・・・」という一つの典型的反応を超えて、どのように信頼できる、そして伸びる中国企業との取引を選別し、開拓していくか、いま知恵が求められています

しかしそれ以上に、単なるハードウェアの街を超える場所になる可能性も含めて、多様なバックグラウンドを持つ人が、それぞれのセンスでつながりを持っていくことが大事だと考えています。フィンランド、韓国、フランス、イギリスが様々な取り組みをしています。特に答えはありませんが、それぞれの自分の地域の資源と、新しいイノベーションの拠点たる深圳とをつなげようと模索しています。

日本についてはこのブログシリーズでもたびたび言及しているニコ技深圳観察会が、コミュニティとして深圳に刺さっています。これは、エコシステムのなかの様々な特性のキーパーソンと関係を深めていくうえで、コミュニティで関わっていこうとするアプローチが、ロジックとして有効なためだと考えています。

もっと何かできるかもしれません。ひとまずここまで。

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