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深圳在外研究メモ No.22 深圳でKickstarterのキャンペーン戦略を学ぶ編~「クラウドファンディングとはCommunity-driven fundingである、それ相応の準備が不可欠」

今週は深圳のメイカーコミュニティではKickstarterのデザインディレクターであるJulio Terraが来ていたこともあり、 クラウドファンディングに関わるセッションが開催されていました。その内容を簡単に紹介します。

1.Crowdfunding Masterclass@HAX

まずは水曜日にHAXで開催されたセッション。最初のセッションではMakeblockのJasenが経験をシェア、そして第二セッションではKickstarterのプロジェクトのサポートに特化したPR会社によるトークセッション、そして最後にHAXの現役やOBによるトークでした。

第一セッションでの話は、前回のHAXでのセッションに近く、第二セッションの話は広告の見地から、どのように重点的な顧客層に情報を発信するかという話が中心でした。この中でショッキングだった情報は、Jellop のGil Shterzerが割とあっさりと紹介した「Kickstarterのウェブサイトを見ている人の80%が男性である」という事実でした。ですから女性向けのプロジェクトが成功することが難しいそうです。

セッションとして一番面白かったのは時間的には短かったのですが、最後のセッションでした。それぞれのプロジェクトの責任者が、Kickstarterでローンチして以降の日ごとのBack金額のグラフを見ながら、「この時にあのメディアに載って、それでちょっと増えたんだよね」とか話していました。一つの典型的なパターンとして、MindsetというヘッドフォンプロジェクトのJacobが示したのが、U字型のグラフでした。キャンペーンが始まった直後に比較的関心が集まった後、停滞する時期が続き、後半にメディアへの掲載が入ることで終盤にBack額が上がるというパターンです。

VUEというスマートグラスウェアのプロジェクトの場合、一貫して低迷気味だったのですが、終盤にForbes、そしてTech Crunchに記事が掲載され、一気に金額が伸びたそうです。この日のトークのなかで、有力メディアに如何に掲載されるか、その一歩手前で、ジャーナリストに如何にプロジェクトの魅力を伝えるのか、といった点がたびたび出てきたのですが、こうしたグラフを見るとその意味がよく分かります。

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満員御礼のHAX。少し見ないうちに、座席も倍に拡張されていました。

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Jasen(Makeblock)とJulio(Kickstarter)のトークセッション。期せずして全く同じ格好。

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Kickstarter専門のPR会社へのインタビュー。

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一番盛り上がったセッション。現役HAX入居プロジェクトメンバーによるシェア。左からVUE(Tiantian)、Trainerbot、Roadie、そしてMindset(Jacob)。Jacobが過去最年少という話を聞いたけど、本当だろうか。

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MindsetのデイリーBack金額の推移。後半に一気に伸びているのはメディアに取り上げられたから(Kicktraqから検索可能)。

2.Julio Terra from Kickstarter@Xfactory

翌日の夜、柴火創客の新たなMakerspaceであるXfactoryにてJulioによるトークが開催されました。

こちらはしっかりとしたプレゼン形式だったので、とりあえずプレゼンを聞きながらメモした内容をシェアしておきます。

 自分はもともとデザインコミュニティ出身でKickstarterで現在デザインと技術の担当をしている。

Kickstarterに最初に接したのは2010年にGlifというiPhone用の三脚をバックしたことだった。その後、100万ドルを調達するようなプロジェクトが登場し、かなりの金額をクラウドファンディグで調達できることがわかってきた。そしてKickstarter に入ることになった。

もしもKickstarterで自分が何かしようと思うのであれば、まずどれかプロジェクトをバックするべきだと思う。一つだけでなく、複数のものをサポートすべきだ。フロアのなかに、Kickstarterでプロジェクトを実際にやっている人はいるかな?今日はオーディエンスに4~5人くらいはプロジェクトしているひとがいるみたいだ。

1) 求められる戦略

Kickstarterでのクラウドファンディングは、戦略がないと成功しにくい。運で成功することはあるが、それは戦略とは言えない。今日のプレゼンの目標は、皆さんに道具をあげることだが、しかしこれをやればいいというレシピを提供することではない。

Kickstarterで成功するためには、5つのレベルを満たす必要がある。

  • まず初めに人が欲しいと思っているものをつくる
  • 人を動かす(あるいは衝動買いさせる、Compelling)プロジェクトにする
  • コミュニティを作る。
  • Buzzとメディアで注目を集める
  • さらに有料メディアを使い、売り上げをあげる。

このうち、この中でも真ん中の3つを話す。なかでも一番大切なことは、クラウドファンディングとはCommunity-driven fundingだということだ。

2)準備時間

まずはどのくらいの時間をかけてキャンペーンを準備するべきだろうか。最低でも2か月半は必要だろう。成功するプロジェクトは普通、6か月くらいはかけている。ハードウェアプロジェクトの場合、最低限、リリースの前にBOM(Bill of Material)の作成が済んでいることが必要である。部品の単価がわかって、初めて最終製品の価格を決められるからだ。

その次に、10-12週はかけてキャンペーン用のHPをつくる必要がある。英語でなければならないし、ビデオを作らなければならない。そして8-10週かけてメディアへの準備が必要である。ジャーナリストへのプレゼン資料を作成し、説得する準備が必要だ。一度ニュースや雑誌記事でBuzzると、1万通レベルのメールがくるので、それに対応できるようにしなければならない。

そして6-8週かけて、いいビデオをつくる。概略を作って、台本をつくり、実施にロケーションをみつけ、役者を決めて、撮影し、編集して、音楽つける。これはなかなか時間がかかることだし、実際Kickstarterで成功するにはとても重要なプロセスだ。

次にコミュニティを作ること。最重要だ。これは非常に時間がかかるプロセスで、準備期間からキャンペーン中まで、ずっと必要な活動だ。Email Listはコミュニティではない。コミュニティの質が重要であり、人数の問題ではない。プロジェクトへの関心が高い人がいるコミュニティ、それこそが「質が高いコミュニティ」だ

設計や生産の面では、DFM(Design for Manufacturing)で設計を行うのに数か月の時間がかかる。そしてそれを1年かそれ以上かけて生産し、出荷することになる。

このように、プロジェクトの段階によって、タスクが変わっていくが、コミュニティづくりはずっと続く。このようなプロジェクトを一人で遂行するのは非常にむずかしいから、チームでやる必要がある。10万ドル以上のプロジェクトの場合、おそらく個人では難しいだろう。

3)時期ごとにやるべきこと

次に、キャンペーンのローンチまでの期間ごとにやるべきことを整理すると次の通りになる。

3-6か月前。そもそも、皆さんのビジネス全体にとって、キックスターターはとても小さい部分を占めるに過ぎないはずだ。会社全体の方向性を考えることがまず必要だ。Kickstarterで調達できる金額が多いほうがいいと思っている人がいるが、そうではない。たしかにスケールがあるほうが生産には規模の経済性が働くが、金額を調達すればそれだけのリスクを負うことになる。Backしている人は、「人間」であって、「ただの数」ではない。当然プロジェクトについて質問してきたりする。1万人のBackerがいれば、それだけの連絡が来ることになる。コミュニティと各段階での進捗をShareしていく必要がある。

ローンチの2か月前。実際に中身をつくっていく段階だ。キャンペーンのアウトラインを作り、メディアへの対応を準備する。ハードウェアの場合にはプロトタイプを作り、BOMを作っていく段階だ。

1か月前。コストを計算し、ビデオをつくり、最終的な目標金額(Funding Goal)を決めて、広報もスタートする時期だ。この時期に、製品の発送時期を決めることになるが、「これなら2か月で発送できる」と思ったら4か月後に設定したほうがいい。2倍くらい時間がかかると思ったほうが良い。

1週間前。プロジェクトの中身についてKickstarterの会社側のReviewにだす。そしてローンチ後のコミュニティへのアップデートの準備を始めなければならない。ダブルチェックで誰かにコスト(COGS)を精査してもらうことを勧める。とくに「全世界に発送」というのは現実的ではない。現実的になろう。Shipping Costを考える必要がある。

スタート。コミュニティ、そしてメディアにリリースを連絡しよう(Get the word out widely)。始まったらプロジェクトメンバーは様々な人に話し続ける必要がある。そしてコミュニティにはアップデートを送りつづけるべきだ。

4)個別のタスクについて

アウトラインはストーリーだ。ストーリーテリングなプロジェクトを作る必要がある。クラウドファンディングとは、「まだできてもいないもの、できるかわからないもの、そして出来たとしても6か月後に発送されるものに100ドルとか払わせようとする試み」。正直言って、ふざけた話だ。つまり熱狂させないと成功しない。

キャンペーンのなかで、それぞれのメディアの役割は異なる。

ビデオ:Why should I care

キャンペーンページ:Tell me more(Spec, size, science, tech)

アップデート:Explore details

ビデオは何を作っているか、からはじめよう(プロジェクトのOriginはいらない)。全体で2~3分をおススメする。最初の2分間は製品を触っている反応だけのやつとかよかった。

 クラウドファンディングでBackしてくれる人は、製品だけをかっているわけではない、クリエイターが好きで、その創造のプロセスとか、Passionを持つ人のためにお金を出している人だ。だから、コミュニティを協力者だと思って進めるべき。そしてコミュニティとの関係を築くうえでは、Transparencyが大事。懐疑的に思われると質問してきて、場合によっては敵対的になってくる場合もある。

キャンペーンを始めるにあたり、Prototype demosは必要だろう。プロトライプのデモを見せられないときにもUser experienceは大事。だからビデオですくなくとも説得できるように、一部の機能でもいいから、何ができるようになるのかを見せていくことが不可欠。私が一番すきなビデオはMakey Makayでまったくお金はかかっていないがよかった。デザインのプロセスは、外の人から見たら結構面白いからそれを見せていく。

正直、正確な寸法の写真Renderingは必要ではない。Lifestyle photoがむしろ必要。生活の中でどのように使えるかがわかるものがいい。そして人とプロセスを見せていくことが有効だ。月の模型のプロジェクトはすごくいいビデオで、彼らが作っているところ見せていく(MOON)。名前だけでなくで、クリエイターの写真も見せていくことが有効だ。

広報(Outreach。コミュニティとの関係を、取引的(Transactional)には思わないほうがいい。Kickstarterはまだあなたの旅の一部でしかない。ジャーナリストとの関係もそうで、この後も色々関係が生まれてくる。RelationはGive and takeだ。徐々に関係を作っていくことが大事だ。

Build don’t Launch。ハードウェアスタートアップとは、アップルとかマイクロソフトとは全く違うサイズ。最後まで情報を隠しておいて、最後にリリースして大きくBuzzらせよう、とか思っても、それはむりだ。情報をどんどん出して作っていくことが大事。Build upだ。

Be ready to capture interest. 幸運にもテッククランチとかメジャーなメディアに記事が載ると、数日で4万通のメールがきたりする。それに対応できないと、それらのチャンスを逃すことになる。そのための準備をしておかなければならない。

これで分かったと思うが、Kickstarterのローンチの初日のために、クリエイターはすごい努力している。

キャンペーン終了後、アップデートし続けることが大事だ。メールで「僕らのプロジェクトをシェアして!シェアして!」ではむりがある。読者、Backerをインスパイアしていかなければならない。Kickstarter Liveで経験をシェアしていく、等の方法がある。

以上のように、かなり実践的な「レクチャー」という印象でした。

要約すると、本当に送られて来るかどうかわからないものに100ドル払わせようとするなら、それ相応の準備が必要で、なかでもコミュニティ(要するにファン)を作っていかなければ成功しない、となりそうです。

そしてQAも30分ほどはあったのでかなりみっちり議論が展開されたのですが、そのなかでも中国ならではだったのは、「Kickstarterに載っている製品が、ずっと安くTaobaoで売られているじゃないか」という質問でした。このテーマは結構まえの「山寨死」に関するエントリーでも取り上げたテーマでもあります。Julioの回答は、次のようなものでした。

コピーキャットへの簡単な対応策はない。Kickstarterの写真をそのままコピーして、そのまま売り始めたりする。対応策としては、ブランドをつくり、コミュニティをつくっていくことが大事だ。過去4年、Kickstarterを見ていると、実際に模倣されるケースもある。技術的にコピーが難しいものや、ソフトウェアで差別化されたものを作る必要がある。本物と偽のものの間には差がある。

この質問をした方は工場の人だったようで、質問の意図はむしろ「Kickstarterよりもこの辺の工場の方が安くていいものが作れるんじゃないか」という質問だったようにも思います。ですからJulioの回答が果たして彼を満足させたのかはわかりません…。

いずれにせよ、HAXでのセッションも満員でしたし、これだけの観衆が集まったわけで、この地域にKickstarterを巡るコミュニティがはっきりと形成されているのがよくわかりました。しかし同時に、Kickstarterは中国大陸には支社を設けておらず、中国大陸の住所ではキャンペーンをできないこともQ&Aでは話題に上りました。中国大陸のプロジェクトは、こうした不便さをものともせず、ローンチされていることになります。今度は、中国大陸から実際にプロジェクトを遂行している人たちにもこのあたりの話を聞いてみようと思います。

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Xfactoryにおけるセッションの風景。実況アプリ・映客でも実況されていました。

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キースライドの一つ。プロジェクトの段階ごとに、おおよそどのようなタスクがあるかを図示。

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キャンペーンページのおもな役割を解説。

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ストーリーを作ることを強調。


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