深圳在外研究メモ No.19 海外政府系テックプロジェクトと深圳のつながり編~深圳の、そして中国の新しい経済、新しいエコシステムと自国をつなげようとしているプロジェクトが続々

このブログシリーズで取り上げているように、深圳市が中国のなかでも注目されるテックベンチャーや実験の都市になっています。このことを反映して、国外から深圳への注目度も高くなっており、WIREDの動画Shenzhen: The Silicon Valley of Hardware、The Economistの記事 SPECIAL REPORT “Jewel in the crown: Welcome to Silicon Delta Shenzhen is a hothouse of innovationを筆頭に挙げることができます。

さらにこちらで色々と歩いていると、「国外政府系の出先機関」だけど、いわゆる深圳の下請け工場時代には絶対なかったようなプロジェクトが動いていることに気が付きます。先に結論を書いておくと、総じて、深圳の新しい経済、新しいエコシステムと各国をピンポイントでつなげるという共通性を見出すことができます。自分で見たり、直接当事者からお話を伺えている事例のみ書きます。

1)Sino-Finnish Design Park

深圳市は2013年6月にフィンランドのヘルシンキと姉妹都市協定を結んでいます。これをきっかけに1年5か月後の2014年11月にSino-Finnish Design Parkが開業。深圳市が力を入れるデザイン力を高めるためにこのデザインパークが開設され、国内外のデザインハウスや関連スマートハードウェア企業を誘致し、現在41社が入居が進んでいます。 福田にあるSIDA(Shenzhen Industrial Design Profession Association、深圳市工業設計行業協会)の大きな開発区内にあり、おそらくこの一帯は少し前まで工場または倉庫だったと思われるエリアです。

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55度に中身を保つ保温瓶。展示室には色々なプロダクトが並んでいます。

 

2)KOTRA深圳オフィス

日本で言うとJETROにあたるKOTRAはどうも中国国内の拠点の数が多いようで、深圳にも会展中心のすぐ近くにKOTRA深圳事務所が設立されています。この事務所は2014年12月に開設されており、その事業内容は興味深いです。一つは展示会の開催業務で、これはまあ普通なのですが、もう一つは韓国のAR/VR、ロボティクス、医療、ビッグデータ、画像認識系のスタートアップを深圳に連れてきて、こちらの投資家とのマッチングをやっています。シリコンバレー、イスラエル、シンガポールに続く第四のベンチャーのハブとして深圳を位置づけてサポートを行っているそうです。

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KOTRAの入るビル。

3)La French Tech Shenzhen

ラスベガスのCESでもフランスのベンチャー企業の数が米国、中国に次ぐ数だったことが注目を集めていました(日経記事「ブラブラカーだけじゃない 仏スタートアップが熱い」等参照。)。この背景の一つに言われているのが、フランス政府が推進するフレンチテック(La French Tech)というネットワーキングとアクセラレーション政策です。上記の日経の記事では、スタートアップを外に出して「火をつけ」、メンターとファンドをつけて「アクセラレート」する点が紹介されています。HAXのBenjaminもLa French Techを高く評価していて、観察会で訪問した際にも、失業保険をもらいながらスタートアップをできるし、みんなそれが当たり前だと思っている環境も含めて大事だ、という話をしていました(この点、Benjaminさんのプレゼン資料にも表れています:How to create 1,000 SONY)。

La French Tech深圳プログラムは2016年10月に正式スタートしており、Cecileさんにお話を伺ったのですが、活動内容としては①“Discover the Local Ecosystem”ツアーの開催(次はこれ)、②“École Centrale Graduates“プログラムと呼ばれる元留学生をフレンチテック関連企業を訪問するツアー、③毎月の深圳のバーでのカジュアルなミートアップ、④その他HAXなどでのミートアップやピッチイベントの開催とのことでした。

Ambassadorsと呼ばれるメンターには、HAXのBenjamin、Parrotのアジアパシフィックの代表TCHEN Elise氏、TCLのCHAMBON François氏 、ST MicroelectronicsのLECONTE Damien 氏が名を連ねています。日常的にはWeChatのLa French Tech Shenzhenのグループに100名ほどのメンバーがいるとのことで、ここで様々な情報が交換されているそうです。

Le French TechはHong Kongにすでに拠点があるらしく、そことの協力もしながらイベントの開催を行っているそうですが、香港ではコンサルタント事業が多い一方で、深圳はハードウェア系が強いため、プロジェクトとしては必ずしも一体感があるとは言えないそうです。La French Techの国外での仕組みは、話を聞いても正直まだよくわからなかった(というかかなり自由にやっていそうな感じだった)のでまた今後Cecileさんに教えてもらおうと思います。

Cecileさんご自身はワインを輸入し、それにQRコードやアプリケーションによるワインの特徴や体験を付加するようなアグリテックビジネスを展開しているそうです。

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観察会の時にもHAXのBenjaminは日本で起業する人を増やすうえで、La French Techが参考になると言及していました。

 

4)British Council “Hello Shenzhen” program

英国の文化事業であるブリティッシュカウンシルのプログラムでも、深圳のメイカーズムーブメントのコアメンバーを英国1か月呼び、英国のメイカースペースを訪問するツアーを開催しています。Hello Shenzhenプログラムと名付けられており、深圳側のファンド(深圳市国際交流合作基金, The Shenzhen Foundation for International Exchange and Cooperation)もついて費用がねん出されたそうです。深圳観察会で、柴火創客のVioletさんがこの体験をシェアしてくれたのですが、おおよそ下記の内容でした。

①4週間で3都市(London, Edinburgh, Cambridge)を訪問し、20社のベンチャースタートアップに面会、11のメイカースペースまたは組織を訪問

②深圳のメイカーが技術を重視したスタートアップとしての性格が強いのに対して、英国のメイカーたちはSocial Impactを重視している(例:METTLEという会社は視覚障碍者向けのイヤホンを開発)

 

深圳観察会にてイギリス訪問のプログラムを紹介してくれた柴火創客のVioletさん。

また、2017年5月13日、文化産業博覧会の分科会として、SIDA事務所にて”Hello Shenzhen”プログラム(第二回)の経験シェア会が開催されました。「創客西遊2.0」、つまり「メイカー西遊記2.0」というキーワードが的確で、基本的にはどの参加者もVioletさんと類似した英国と深圳のメイカーズカルチャーの差異を感じていたようでした。ツアー参加者10名のうち、4名はハードウェアメーカーや工業デザインハウスの青年創業者でした。

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深圳観察会にてイギリス訪問のプログラムを紹介してくれた柴火創客のVioletさん。

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“Hello Shenzhen”プログラム(第二回)の経験シェア会の様子。

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柴火創客のVioletさん。深圳+ロンドン+アムステルダム+成都、というフレームで新しいメイカーズの交流プロジェクトを準備中とのこと。パワフルな人達をつなげると、こうした新しいプロジェクトにつながっていく。

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オープンソースハードウェア・ラズパイで作ったロボットを、マインクラフト側でコントロールしてみよう、というプロジェクト。

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車いすを誰でもオーダーメイドのように調整できるようにしようというプロジェクト。英国側のメイカーが強調する”Social Impact”に影響され、こうした新しいプロジェクトに中国側の工業デザイナーが参画。

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「メイカー西遊記2.0」のメンバー。

 

5)そして日本はどうなのか?

ご覧の通り、かなりピンポイントで深圳のニューエコノミーを狙い撃ちにしたようなマッチングプログラムが動いていることがわかります。私も深圳に住みはじめて1か月なので、まだわからない部分もありますが、少なくとも上記のように政府が予算をつけている形で、日本と深圳(または中国)の新しいエコシステムやニューエコノミーをつなげようとしているプロジェクトは聞いたことがありません。このような不作為が深圳だけで起きているのであればまだいいのですが、もし仮にほかの世界のイノベーションの拠点でも生じつつあるとしたら、それは日本にとってはもったいないことだろうと感じます。民間でやればよい、という考えもあり得ますが、上記のような各国のプロジェクトが2014年からの2~3年で急激に動きつつあり、まだどれがベストプラクティスかはわかりません。それぞれの国ごとに状況は異なるので、答えはそもそもないのかもしれません。ただ、新たな越境したスタートアップやメイカーたちのコミュニティが生まれつつあるのを見ることができます。

日本の場合、とくに支援もなく自腹だけで運営されているニコ技深圳観察会がこうしたネットワーキングを担っているのは、正直例外的でもあり、逆にすごい気もします…。また、METIのフロンティアメイカーズ、JETROやJST(科学技術振興機構)は広い意味ではすでにこうした取り組みをやっているともいえますし、すでに日本からも視察にはたくさん来ているようです。

深圳在外研究メモ No.19 海外政府系テックプロジェクトと深圳のつながり編~深圳の、そして中国の新しい経済、新しいエコシステムと自国をつなげようとしているプロジェクトが続々」への2件のフィードバック

  1. ニコ技深セン観察会は、
    -日本企業と深センのベンチャーとのマッチング
    -日本の投資家と深センのベンチャーとのマッチング
    -中国での留学生が生まれる
    -現地のメイカースペースに拠点
    -深センのベンチャーが来日/来シンガポールした際のワークショップ、ハンズオン、講演などが多く行われている
    -深セン側の予算で多くの日本メイカーが中国に渡り、メイカーフェアで重要なパートを担う

    など、「深セン/日本/シンガポール間のもっとも効果的なエコシステム支援活動」だと思います。2016年以降は僕が中心じゃないプロジェクトが増えてきて、いいですね、、

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