深圳市内の遊園地「歓楽谷(Happy Valley, Huanlegu)」で「次元の壁を打破しよう」といううたい文句のアニメイベントが開催されていたので少し見てきました。
イベントの内容としては、参加者公募式で、アニメやゲームに関連する歌や劇を一般人が披露し、最後に表彰する形式です。細かくはわかりませんが、予選がずっと開催され、最終日に20組ほどが残っていました。日本語のアニメソングを歌う人が半分くらいで、日本のコンテンツの強さを感じたわけですが、現地で見学していて一番面白かったのは、スマホアプリで中継をしているグループがいくつかあったことです。
1.実況中継のグループに声をかけたら深圳大学の学生だった
写真はエントリーの下に並べてありますが、アニメイベントの一角で、5人組で脚立にスマホを乗せて、何やら実況しているグループが。メインの実況者は軽くコスプレをしている綺麗な女の子で、その周りで4人がサポートしています。さっそく声をかけてみると、実況は「花椒直播」アプリを使い、主に実況しているのは深圳大学2年生の66(りゅーりゅー)さんで、それ以外の人はみな社会人だけど、アニメやコスプレが好きで、66さんの活動をたまにサポートしているメンバーとのことでした。実況中継開始時にはほとんど見ている人はいなかったのですが、後半はリアルタイムで7500人を超えるユーザーが彼女のこの実況を見ていました。逆にインタビューされて、私も花椒に若干ですがデビューしました。
2.花椒(ふあじゃお、Huajiao)の概要
花椒(ふあじゃお、Huajiao)についてはすでにいくつかの記事で紹介されています。例えば「中国、スマホの中の「女神」たち 私生活さらし月収200万円」などで、主に女性の実況者が実収入を得ているという点が報道されています。「【中国EC】1年足らずで急成長「生放送アプリ」のパワーがすごい!」では類似サービスと広告料まで掲載されています。中国の企業系列でいうと、アンチウイルスソフト大手の奇虎360系列です。
もう少し利用の手続きとビジネスモデルを確認しておくと、
1)アプリをダウンロードしたら、誰でも視聴はできる。ブラウザからの視聴もできる。おそらく一見してその雰囲気は伝わると思います。
2)中国の携帯電話番号と紐づけることでコメントの書き込みができる
3)WeChat PayやAlipayとリンクすることで、アプリ内通貨「花椒豆(Huajiaodou)」を購入でき、これを気に入った実況中継者にリアルタイムで贈れる。もらった側は電子通貨や銀行口座に換算して振替可能(換金時の換算率は普通配信者で75%、優秀配信者で80%との報道あり。要確認)。要するにデジタル投げ銭ができる。
4)アプリ内通貨に当たる豆は、60豆6元から課金可能。購入量を増やしても割引は一切なし。10豆1元=16円なので、1豆1.6円から「実況乙です!」とデジタル投げ銭ができる。
5)中国の身分証で実名登録すると実況ができる。なお、Alipayの機能である、芝麻信用(Zhima Xinyong)とリンクさせることで、手続きはワンクリックで終了する。ちなみに実況画像をリアルタイムで「可愛く」修正することもできる。中国の身分証を持たない外国人は「信頼できる友人の身分証番号をいれる(この場合この友人のアカウントに入金される)」か別途カスタマーサービスに問い合わせてくれ、とのこと。
6)花椒運営側の収入は①デジタル投げ銭の換金差額(1元課金したら0.2元は確実に運営側のものになる)、②アプリとしてデイリーで500~1000万人が利用するので広告料収入が大きい、そして③花椒豆として預けられている多額の資金の運用、この三つが主要な収入だと思われる。
第三の投げ銭ができることが決定的で、これによりプロ、セミプロの実況中継者が続出し、ユーザーも増加しているようです。2015年6月にリリースされ、2016年6月にアクティブユーザー1000万ユーザーを超えたそうです。
3.課金額
現地記事「花椒直播发布首份年度大数据报告 详解直播行业发展现状」によると…
1)2016年の実況中継者が得た贈り物の回数は50億回、この中には無償のものも含まれているので、換金できる「花椒豆」の総収入は1.28億元(1元16円換算で20.48億円)。
2)課金している人の内訳は自営業27.8%、会社職員18.9%、産業・サービス業従業者14%、会社管理・経営者11.7%、大学教授6.3%(本当なのか…)。大学教授の課金額は5000万元に達したそう。
3)大学生が実況するのは一番多いらしく、毎日10万本の実況が行われている。学生で最高の収入を得たのは、190万元(3040万円)。
2016年の総課金額20.48億円を、ユーザー数年央のアクティブユーザー数1000万人で割ると、204.8円になりますので、割とあり得る金額になっています。ただ、高額課金者はけた違いです。アプリ内で「今日の最高課金者」とか「累計最高課金者」を見ることができます。それによると、2017年5月7日夜12時時点では、1位は1.44億花椒豆を人に贈っており、1440万元、つまり2億3040万円を課金しています。クラッシュオブクランなどの世界的なスマホゲームではこのくらいの課金があり得るのでしょうか…。
4.ひとまずの感想
ちょっとした感想をメモしておくと、66さんはあまり投げ銭には関心を持っていない感じで、趣味で好きなことを実況している層のようでした。一方で、アプリ内には美女が踊って歌ってしゃべって、露骨に課金あおるような雰囲気もあります。シェアサイクルやシェアバッテリーを紹介した回とも共通することですが、「スマホと電子マネー」が結合することで、誰もがその場で課金できるようになったことで、このような実況中継アプリの興隆が起きているのでしょう。この他に中国や東南アジアで感じることですが、自撮り文化が強く、こうした配信が広まりやすい土壌もあるように思います。
※補足
なお、このような番組を通して、「過度なお色気」番組を配信したり、「国家転覆」などを意図した場合には即配信停止かつ実名登録なので場合によっては逮捕されるようです。利用規約を参照。
イベント会場の一角で実況中継するグループ。中央が66(りゅーりゅー)さん。右のサポート役は機材を運んだり、する機材担当で、左側はサポートで会話に参加したり、コメント欄を盛り上げる役だった。あともう一人の男性はカメラマンで、女性も時々66さんと会話しながら盛り上げていく感じ。
画面ではこのような感じ。右上に表示されている7,343人がリアルタイムで見ている。画面下のチャットには、入室、発言、贈り物がタイムラインで流れていく。例えば、画面中央左側には「中継おつです×11」と表示されていて、11豆が66さんに贈られている。ちなみに66さんの花椒号(ふあじゃおアカウント)は115464146です。なお、中堅の実況者で視聴者数万人はざらのよう。
サポートメンバーも手伝いつつ実況。機材はスマホ、脚立、ワイヤレスマイクのみ。データ通信料だけが気になる。
2時間にわたる実況の終盤。66さんは「午後は授業だからそろそろ中継終わるね~」と去って行った…。ポーズといい、装備といい、溢れる「RPGのパーティー感」。
タグには「歌唱」、「アウトドア」、「踊り」、「楽器」、「星座」など色々あるなかで「キャンパス」を見ると確かに全国の大学がヒットする。特に芸術系の学校が目立つが、もしこちらに留学中の方がいたら、学内で誰が中継しているか探してみたらいいかも。タグのなかには「顔値」なるものまである。
他の実況者の画面。5.8万人が視聴しており、総累計で330万豆(=33万元、528万円)を受け取っている実況者。画面下に課金アイテムやイベントアイテムを選択でき、「実況お疲れ様」が1豆(0.1元、1.6円)、右側のよくわからないアイテムは19,999豆なので、1,999元、つまり31,984円の課金アイテムをワンクリックで実況者に贈ることになる。
地味にゲームや将棋、麻雀を実況する人たちも。
課金ランキング。上位は1億豆、つまり1000万元(1.6億円)くらいの課金。北京、上海、広州、深圳のいい場所にマンション一部屋か場合によっては二部屋買えるくらい課金をしている。
同時点で二位だった(直前まで1位でした)の「星爷」さんは1.2億豆を送っていますが、フォローしているのは一人の実況中継者のみ。ハードコアなファンであることを感じさせる。ユーチューバーの場合には何よりもアクセス数を増やすことが重要ですが、花椒ではコアなファンを深掘りする戦略が有効。
受け取り側ランキング。豆の数に1.6をかけた円をもらっているので、最上位は数千万~億豆クラス、1億円くらいを稼いでいる。日本人ユーチューバーでいうとHIKAKINさんやマックスむらいさんクラスか。
追記
東洋経済に記事「色気で稼ぐ「生中継アイドル」を量産する現場 上海のアイドルマネジメント会社を直撃」が面白いです。実際、わたくしが取り上げている上のグループも、後日わかったことですが、メディア会社の支援がありました。
「深圳在外研究メモ No.18 アニメイベントで実況中継アプリ花椒の威力を知る編~学生グループが楽しく実況。平均課金額は200円でも、最高課金者は1.4億花椒豆(約2億3千万円)課金」への1件のフィードバック
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