No.11の「 深圳市ソフトウェア産業基地(深圳湾)が意識高い編~Tencent新社屋、Stargeek, NAVER, そして総理コーヒー」では深圳大学のキャンパスの南側を紹介しました。今回は北側です。
北側は深圳の大通り、深南大道に面しており、そのランドマークは何といってもTencentの本社ビルです。Wechatの部隊が入居していると言われており、まさに中核的業務がここで担われているようです。メモNo.6で、TencentのVR部門を訪問した際にも紹介しましたが、ビルの下にはテンセントのキャラクターショップもあります。
ともかく、Tencentビルの東側の一角に麻雀嶺工業園区と呼ばれる区画があります。徒歩でも15分ほどで外周を歩けてしまうほどの小さい団地ですが、ここあたりにはほぼ工場はなくなっています。いまでは主にメーカーの本社機能やデザインハウスや貿易会社が入居しているようなのですが、歩いてみると「メイカー」的な側面も生まれていて、とても面白い地区になっていました。
深圳市博物館にあった、1980年代の深南大道の写真。文字通り何もなかった…。
現在の深圳大学の北端部分。手前左が深圳大学の文科楼で筆者の所属研究所があるところです。そして奥がTencentビル。右手の建設中のビルは何ビルなのか不明。これらのビル沿いに深南大道が走っています。
網掛けになっている箇所が麻雀嶺工業園区と呼ばれる工業団地、南側の緑色の場所が深圳大学です。(百度地図より)
あるビルの入居企業。一見、普通というか、貿易会社やネット系の会社が多く入っている印象。
1)Ufactory~ロボットアームスタートアップ
例えばこの団地の中の雑居ビルのワンフロアには、ロボットアームのスタートアップ、Ufactoryが入居しています。2013年5月に創業し、Kickstarterを皮切りにクラウドファンディングで成功、現在では従業員30名(製造部門を除く)のロボットスタートアップになっています。創業者のTonyに話を聞けたのですが、彼は1989年生まれで、北京の地質大学を卒業、大学院在籍の2012年に深圳にきて、Makeblockで半年ほど働いたそうです。当時はMakeblockは従業員10名ほどだったそう。先週Makeblock創業者のJasenが言っていた情報では400人に達していたので、かなり初期のMakeblockの中で働いていたそうです。そして彼もロボットアームのスタートアップとして、Kickstarterに製品を出し、これまでに4世代の製品をリリースしています。第一世代の製品の初出荷が2014年5月ですから、それ以降ほぼ毎年製品がアップグレードされていることになります。
Ufactoryはこのビルの二階に入居しています。
Indiegogoに出品された最新モデル。
プロトタイプが展示されていました。
創業者のTonyと。
2)LitcheeLab~メイカースペース
この団地の一角にはLitchee LabというFab Labがあります。私のメモに何回も登場しているLukeがここでUnityのワークショップをしていたことから知ったのですが、おもにSTEM教育系のワークショップが頻繁に開催されているようです。
LukeのUnity講座。
3)忘言手作~台湾系木工工房
さらにその横には本格的な木工工房があり、家具や小物を講座形式で学ぶことができます。創業者の一人は台湾出身の職人だそうです。趣味で習いに来る人向けの授業と、制作した製品の販売も行っていました。中で働いている方に少し話を伺ったのですが、四川省成都市でデザインを学んだ方が深圳に来て、この工房で働いていました。
ギター、家具など、比較的大きなものもここで加工していました。小物に特化した工房も深圳の別の場所に開設したそうです。
小物の制作例。ひとつひとつのものに工夫やユーモアが感じられました。
4)方塘(Fun Town)~DIYカフェ
階段を上がると、なにやら面白そうなカフェが。入ってみると、ここも台湾出身の方が3年前に開いたカフェで、手作り石鹸の工房を備えていました。ここでも週1~2回のペースでDIY講座が開催されているそうです。
ここで手作りされた石鹸。写真のものは保湿用に成分を調整しているもの。
5)思微(Simply Work)~深圳コワーキングスペースの大御所
同じく団地内には、深圳市内ですでに7か所にコワーキングスペースを展開している思微(Simply Work)もありました。別の場所の思微を訪問したこともあるのですが、超おしゃれで驚きました。内部の写真はあまりとれなかったのですが、オフィス内はほぼ満員状態で、20代の若者が、個人やチームでデスクまたは部屋を借り、プロジェクトを進めていました。フリーアドレスの机は月625元、フィックスアドレスは月1000元、4~5人向けの部屋が付き6000元でした。
入居プロジェクトの事例。ハードウェアも少なくないようでした。
ここで取り上げたのは、この団地内で”Maker”寄りの場所だけで、もちろん、通常のオフィスとして利用されている区画が大部分です。ただ、このように小さな団地の内部にも、これだけ面白いスペースが生まれている、かなり”Make”な場所になっているのは感じられると思います。おそらく10年前、あるいは5年前の2012年には上に取り上げたものは一つも無かったでしょう。10年前には製造をしていたと思いますし、5年前にはまだこうした新しい動きはなかったと思います。この意味で、この団地一つを取り上げるだけでも、いかに深圳が「工業団地」から新たなニューエコノミーへの移行しつつあるかを感じられると思います。ともかく面白い場所がたくさんあるのですが、少しずつ深掘りしていこうと思います。
※参考サイトのメモ
China’s Creative Communities: Making Value and The Value(s) of Making
「深圳在外研究メモ No.13 深圳大学北側の麻雀嶺工業園区付近を歩く編~元工業団地には ロボットスタートアップ、木工工房、コワーキング、メイカースペースが入居。「工場」からの脱皮を体感できる場所になっていた。」への1件のフィードバック
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