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高度化し、拡張するが、改革滞る中国経済?(Upgraded, Expanded, but not Restructured Chinese Economy?)

韓国のシンクタンク用にコラムを書いたのですが、韓国語で発表されるそうです。昨年、所属研究所の英文ニュースレターに書いた中身を再構成して加筆したものですが、まだ日本語では発表していないので、ここに載せておきます。特に結論の箇所は引き続き深く考えなければならないと感じています。

 

  1. 中国経済改革の三つの方向性

中国経済の成長率の低下が世界的に注目を集めており、成長率低下の背景として人口ボーナスの消失、投資効率の低下、そして世界的な需要の低迷が指摘されている。このような背景のもと、中国政府が2015年以降、複数の大型の経済改革案を打ち出したことは注目に値する。具体的には、「中国製造2025」(Made in China 2025 program)、「一帯一路」(One Belt One Road initiative)、そして「供給側改革」(Supply Side Reform)である。筆者の理解では、これらの政策はそれぞれ、高度化(あるいはイノベーション)、対外拡張、そして構造改革に対応している。

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中国経済の改革の第一の方向性は、中国の地場企業による研究開発や、産業構造の転換を主たる内容とする高度化である。「中国製造2025」政策や、国家中長期科学技術発展計画がこの方向性を代表する政策であり、前者は戦略的新興産業(strategic emerging industries)の振興に加えて、既存産業とインターネット産業との融合を目指しており、そして後者は企業による研究開発の促進を主たる課題としている。言うまでもなく、2000年代半ば以降の賃金上昇のもとで、新たな成長の原動力を作り出すことが重要な課題となっているのである。上海を筆頭とする自由貿易試験区(Free Trade Pilot Zones)の設置も、中国への更なる外国金融・サービス業の進出を通して、先進地域での生産性の向上を目指していると考えられる。

そして第二の方向性が、中国の膨大な製造能力、そして外貨準備を活用するうえでの国外市場の開拓と経済活動の拡張(market discovery and oversea expansion)である。すでに2000年代から、中国企業の対外進出を支援する「走出去」(‘Going Global’)政策が実施されてきたが、2015年には「一帯一路」政策も文書化されている。「一帯一路」構想とは、周知の通り、陸路で中国沿海部から中央アジア諸国を通り、欧州に達する交通網の整備を機軸とする「陸のシルクロード経済ベルト」と、同じく欧州に達する海路輸送網の整備を中心とする「21世紀海のシルクロード」、この二つのルートに沿った開発計画である。この開発計画の対象となっている地域に含まれる国々は基本的にいわゆる新興国(emerging economies)であることから、本質的には中国と新興国との間の政治経済関係の深化を目指したものだと考えられ、具体的には経済回廊(economic corridor)の建設と政府系金融機関による融資が主な内容となっている。

そして第三の方向性は、中国経済が抱える構造的問題の改革である。典型的には、「供給側改革」と名づけられて進められている一連の政策がこれに当たる。その中身としては、鉄鋼業に代表される過剰生産能力の削減が注目を集めている一方で、民営企業の更なる発展や、国有企業への民間資本の導入による混合所有制の推進も含まれている。

 

  1. 構造転換は進むか?

以上、3つの方向性に関して、現状ではどのような評価が考えられるだろうか?

第一に、中国企業の事業内容の高度化は進むだろうか?OECDのデータによれば、中国のR&D支出は2000年に40 billion USDであったものが、2010年に200 billion USDを超え、2014年には344 billionに達している。この間、世界最大の研究開発支出を行ってきている米国は、300から400 billion USDの支出となっており、中国との差は急激に縮まりつつある。2020年までに中国のR&D総額がアメリカを超えることが予想される。中国国内でのR&Dの主な担い手となっているのは政府関連部門ではなく、民間の企業部門である。例えば通信機器大手のHuawei社がサムスン電子に対して特許侵害の訴訟を起こしたことは、中国から世界をリードする研究開発型の通信機器メーカーが生まれつつあることを印象付けている。

企業のR&D支出や特許取得を促進するうえで、中国政府のイノベーション政策の役割も無視し得ない。筆者は中国四川省の企業レベルデータを用いて、イノベーション政策の対象となった企業が、政策を享受していない同等の企業に比べてどの程度、特許出願数が多いかを検討した。その結果によれば、平均的に見て、政策の対象となった企業は、特許出願数を2件程度増加させる傾向があることが判明している。興味深いことに、同研究では、中央政府の政策よりも地方政府の政策の方が、効果が高いという結果も検出されている。中国の有力な企業は政策的支援も受けつつ、より高い技術を習得し、より高度な製品・サービスを提供するようになるという傾向は進むだろう。

最近話題となってきた産業を一つ取り上げるとすれば、コンシューマー向けの無人航空機(ドローン、Drone)産業におけるDJIの成功だろう。ドローンは空撮に加えて、農薬散布と測量ではすでに実用化が進み、将来的には物流手段としても期待がかかっている。日本が得意としてきたカメラ技術やセンサー技術を多く必要としていることから、本来、日本企業がこの製品市場で競争力を発揮することも可能なはずであった。しかしながら、2017年現在、アメリカやフランスのライバルと大きな差をつけて業界ナンバーワンとなっているのは、中国深圳(Shenzhen)市に本拠を置くDJI社である。グローバル市場シェアは70%とも言われ、ドローンの中核技術であるフライトコントローラーの内製化を実現している。こうした新興産業で、有力なベンチャービジネスが登場していることは、中国経済の高度化の一つの現れであろう。中国経済は様々な問題を抱えつつも、いわゆる1980年代生まれ、「80後(Balinghou)」の世代から、技術がわかり、国際感覚を持つ、新世代の中国人企業家が生まれてきている。企業家に加えて膨大な数の技術者の存在に注目すれば、今後、中国企業の高度化は進む。

第二に、対外経済拡張は今後も進展するだろうか?中国経済は1990年代初頭より、国外からの直接投資を受け入れる形で対外開放を進めていた。しかし2000年代の後半以降には、中国企業による国外への投資も急増している。直接投資の面から見ると依然としてアメリカが最大の投資国であるが、中国の対外直接投資ストック額は、2000年の0.4 trillion USDから、2010年には1.26、そして2014年には2.19 trillion USDへと急増している。

「一帯一路」構想とは3兆ドル以上の外貨準備を活用して国外への投資を加速させようとする構想だとも言える。需要が足りないなら、自ら作り出せばよい、という発想である。「一帯一路」は、金融面ではアジアインフラ投資銀行(Asian Infrastructure Investment Bank)やシルクロードファンド(Silk Road Fund)によってサポートされる見込みで、例えばSilk Road Fundの400億ドルの基金のうち、65%に当たる260億ドルは中国の外貨準備局(the State Administration of Foreign Exchange)が出資している。これまで米国債で運用されていた資金が、特にアジアのインフラ投資へと運用されることになる。

筆者は「一帯一路」の先行プロジェクトである、国外での工業団地の建設状況を調査したことがある。それによれば、海外での工業団地の建設の際、中国国家開発銀行(National Development Bank of China)が開発資金を融資し、実際の工業団地の開発と経営は中国の民間企業や地方政府が担っている。インドネシアのジャカルタ郊外に建設された中国の工業団地の場合、興味深いことに、日本の企業も団地に進出しており、中国主導の「一帯一路」が進むことで、第三国企業がそのインフラを活用することもありえる。

率直に言って、日本国内では、中国の「一帯一路」構想に対しては、懐疑的な見方が多い。その中には、採算性を疑うものや、構想の最終的な目標が明確でないことなどが含まれる。こうした猜疑心がもたらしつつある現象の一つは、中国企業の対外進出と、日本企業の対外進出とが、「ゼロサム」(Zero Sum)のゲーム、すなわちどちらかが得をすれば、どちらかが損をする、というフレームで把握することにつながっている。実際、インドネシアの高速鉄道の輸出競争などはこうしたフレームに当てはまる。しかしながら、冷静に考えれば、中国が融資して建設した道路の上を、日本車が走ることを拒否できるだろうか?中国経済と中国企業の対外進出には、ゼロサムとプラスサム(Positive-Sum)の両面があることを認識しなければならない。

最近のニュースの中でもう一つ関連するテーマを取り上げるとすれば、習近平国家主席が、2017年1月17日にスイスのダボス会議で講演した内容だろう。演説は明らかに1月20日に就任を控えたアメリカのトランプ大統領の保護主義的政策を念頭においたものだった。特に注目に値するのは、自由貿易を「擁護」したうえで、FTAAPやRCEPに言及し、そしてその文脈で「一帯一路」にも触れている点である。演説は言う、「5月に北京で、一帯一路国際協力ハイレベルフォーラムを開催し、協力を加速させ、協力プラットフォームを作り、成果を共有する」。「一帯一路」といえばインフラ建設にその重点があったが、中国主導の経済統合構想へとつながる可能性も示唆されている。

最後に、そして第三に、中国経済の構造改革はどこまで進むだろうか?中国経済の構造的問題としては過剰投資問題、不動産バブル問題、地方政府と企業の債務問題、環境問題など、数多くの問題がある。最近、特に注目を集めている問題としては、鉄鋼の過剰生産能力が解消されるか否か、いわゆる過剰生産の問題が挙げられるだろう。国際鉄鋼連盟のデータによれば、2015年の世界の粗鋼(crude steel)生産の約半分、8億トンが中国に集中しており、更に生産能力は10億トンに達するとも指摘されている。

中国政府は老朽化した生産能力の削減を目指す改革案を提示しているものの、鉄鋼業は一部の地域では雇用面から屋台骨を支えている。一部地域、例えば河北省では新規生産能力の増設も報道されており、構造調整は容易ではない。中国の過剰生産能力の地域分布については、国有企業の雇用規模が大きい地域ほど過剰生産能力が高いとする研究も報告されており、地方の国有企業の整理とからむ解決が難しい問題となっている。改革の第三の方向性である構造調整の実現は容易ではない。

筆者が参加した中国と世界について全般的に意見交換をするインフォーマルな会議で、興味深いやりとりがあった。外国人(つまり中国人以外)が比較的楽観的に中国の未来を語るのに対して、中国から参加していた専門家が、国有企業改革への幻滅や不動産市場の異常を筆頭に、辛らつな意見を述べたのである。「楽観的な外国人専門家と悲観的な中国人専門家」という現象は他の会議でも垣間見られた。中国経済が抱える構造的な問題の深さは、我々外国人にはなかなか理解しにくいものなのかもしれない。この意味で、我々はまだまだこの点を深く研究しなければならないだろう。

  1. ハイテクで、グローバルで、しかし不安定な中国経済?

以上の通り、3つの改革の方向性を念頭に置いた場合に、暫定的な中国経済の未来の姿は、「高度化し、拡張するが、改革は滞る」というものである。このことは何を意味するのだろうか?正直に言えば、このような仮説的な中国の未来が何を意味するのか、筆者にもわからない。ただし、上記のような変化を経た後には、「ハイテクで、グローバルで、しかし構造問題を抱える中国経済」が生まれることになる。ハイテクでも、グローバルでもなかった中国の過去数十年のイメージを持つ人には、なかなか受け入れられないかもしれないが、これが現実になるかもしれない。

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