前述のコンファレンスの後にFablab Taipeiの創設者Ted Hungさんに案内していただき、インタビューができました。
Hungさんは米国の大学院修士を終えたのちに現地企業に就職、帰国後に台北にFablabがないことに驚いて、2013年Fablab Taipeiを開設したそうです。当初の場所はかなり狭い敷地だったようで、2016年夏に現在の花博に移転してきたそうです。
インタビューで面白かった点をいくつかメモしておきます。第一は台北のメイカーカルチャーの特徴についてです。Hungさんによると、台北のメイカーカルチャーと既存の製造業との間には壁があるようで、その間には交流は少ないそうです。日本でもこれに近い状況のような気がするのですが、どうでしょうか。
台北のメイカーカルチャーはホビーに近いものが多い。台北近辺には数多くの工場があるものの、Fablabで行われていることとは率直に言って壁がある。ハードウェアを商業ベースで考えている人がプロトタイプを作ろうとする場合、やはり技術力のある台北付近の専門の工場に発注するケースが多く、Fablabで実際に量産につながるプロトタイプが作られたケースはとても少ない。クラウドファンディングで成功したものとしては、写真立てに電子カードを差し込んで、思い出の音楽を流すものや、アート系のインテリアなどがある。
第二に伺ったのは、深圳をどう見るか、という点です。興味深かったのは、Hungさんが、深圳のフェアーを「退屈だった」といったことでした。個人的にはかなり驚きましたが、これはHungさんが考えるMaker cultureと深圳の雰囲気が異なる、ということによって生じていて、台湾と大陸でも、このMakerに対する認識は大きく異なるのかもしれません。
深圳はとにかく速く、そして安い。100元で、極小のドローンを作って販売できてしまう。去年のMaker Faireに行ったが、正直言って退屈だった。なぜならアイデア自身はそこから出てきていないと感じたからだ。またメンタリティとしてもとにかくビジネスに乗せようとする、短期間にお金を儲けようとする傾向があって、私の理解するEnjoy、DIYを重視するメイカーの文化とは違った。メイカーに対する考え方は人それぞれだが、「創客(Chuangke)」はよりスタートアップをつくり、よりビジネス化することをめざしていて、Maker cultureとは違うのではと思った。ただ、大陸中国はMaker教育にとても力を入れているので、今後は米国とは異なるメイカー文化が大陸中国からでてくるのかもしれない。
第三は、台北のメイカームーブメントの動向についてです。Hungさんによると、台北のメイカームーブメントはこの3年で普及したものの、ネット系のサービスやソフトの事業化が見られる一方で、ハードウェア系の事業やDIYの動きはそれほど広がっていないとのことでした。Hungさんのお話からは、危機感も感じられました。
2013年から今年の夏までは別の場所で、狭かったが、ここに移ってきてだいぶ広くなった。それでも一部の木工用の機械設備は別の場所に設置している。2013年に台北に初めてメイカースペースを作ったが、その後、メイカースペースは普及して広がってきて、現在では台北だけでおそらく20か所くらいはメイカースペースができたと思う。ただ、感触では、全体に若干下火という印象もあって、一段落した印象だ。
台湾におけるメイカーズムーブメントを私は楽観視していない。特に技術がインターネットやバーチャルな方向に進んでいるので、バーチャルな世界が常に広がり続けている。その一方で、物理的な世界が広がっていないという印象がある。会員費で運営を維持しようとしているところが多いと思うが、なりなっていないところもある。2013年にFablabを作ったときは大きな夢を持っていたが、今はちょっと違う。
ひとまずのメモまで。
台北のロゴで、よく見るとLabとなっている。
ビジター用のコワーキングスペース
製品化された事例の一つ
製品化されたメモリーカード付き写真立て
Ted Hungさん(右)
「台北訪問記(2016年11月), No.3, Fablab Taipei訪問, 台北メイカーズムーブメントの普及と一段落?」への8件のフィードバック
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