コンファレンスに呼ばれて台湾にいったのですが、ちょうど「臺北國際創業週」を開催中でした。10月に大陸中国の側で「全国大衆創業・万衆創新活動ウィーク」があって、各地で関連の展示会が開催されていたのは知っていたのですが、台北でもこうしたイベントがあったとは知りませんでしたし、調べてみるととても考えさせられることばかりでした。
実際に訪問したのは2016 Meet Taipeiという展示会で、スタートアップ企業が数多く出店していました。その会場は、台北市北部の中山区、MRTの圓山駅の横にある、サッカースタジアム中山足球場を改造した場所です。Wikipediaで調べてみると、この元サッカー場は、1923年、日本統治時代に建設された圓山運動場(まるやまうんどうじょう)で、映画『KANO~1931海の向こうの甲子園~』で有名な、甲子園大会の台湾予選が行われた場所だそうです。その後、1989年にサッカー専用スタジアムに変更され、2008年には運動場としては閉鎖、その後「台北国際花の博覧会」の会場として使われ、現在でも、現地での会場の通称は「花博」でした。さらに現在ではアートやデザイン、そしてイノベーションにかかわる複合的な施設群となっています。
もう少しググってみると、大西正紀さんがブログ「台北の花博会場が、タレント&デザイナーにより音楽×食×芸術の商業施設に!」で書いていますね。そこでも「古いモノをリスペクトしつつ、きちんとその時代時代に求められていることを取り入れながら、常に変わり続けていくという視点」を台湾の人が持っていると指摘していますが、まさにそうですね。「台湾の人たちは、レガシーとは何かを知っている」。大西さんの指摘にまったく同意します。
圓山駅駅舎、このすぐ横に会場がありました
建物の外郭。塗装を塗りなおしていありますが、かなり古いことが感じられました。
Meet Taipei受付
会場の端からとった写真です
会場を出た中庭からは、そこがスタジアムだったことがすぐにわかります
展示場の裏に行ってみると、まさに昔の客席が残っています
写真をご覧になればすぐわかると思いますが、一見して建物の外郭は、かなり老朽化が進んでいました。スタジアムの外郭はほぼそのままで、スタジアムのグラウンド部分に展示会場を建設し、外郭の1階部分はお店やテナント(Fablab Taipeiなど)が入居していました。現地で、「なぜこれほど古いスタジアムを壊して再建設しなかったのか」と疑問に思ったのですが、単に私が歴史を知らないだけだったのでした。もっと勉強して、再訪問せねばなりません。
いずれにせよ、そう、この甲子園予選が行われた場所で、台湾中から新世代のスタートアップが集まるMeet Taipeiが開催されたわけです。Meet Taipeiは2011年から始まり、その主催団体はテクノロジー雑誌「數位時代」とMeetという団体でした。これを台北市の産業発展局、国家発展委員会、科技部、経済部中小企業処など、様々な団体がサポートしているという体制になっています。
4時間ほどしか見れなかったのですが、いくつか印象に残った点を書き残しておこうと思います。第一は、おもにソフトウェアや日用品のデザインなどがメインで、一部、ポータブル3Dプリンタなどのハードウェアもありましたが、深圳のMaker Faireと比べると全体としては少なかったと感じました。第二は、農業や食品といった、いわゆるテクノロジーから遠そうな領域で、有機農業や健康を売りにした出展もあった点が、とても台湾的だなと個人的には感じました。そして第三は、中小企業処や、大学なども含めて、公共機関・教育機関関連のインキュベーションプロジェクトからの出展が目立ったということです。台湾では、工業技術院がハイテク産業の育成の面で重要な役割を果たしてきたという話を聞いたことがありますが、こうしたスタートアップ企業の支援の面でも、公共機関が果たしている役割は大きそうです。
以下では、会場の雰囲気を写真を交えてご紹介します。
台湾の農作物を越境ECで主に大陸向けに輸出するビジネス。「両岸青年創業支援」というような枠組みがあるそうで、上海とアモイにもオフィスがあるそうです。
VR用のコンテンツを開発している会社。展示していた作品のなかで面白かったのは、ウイスキーの工場を見学するもので、ウイスキーの販売促進用とのこと。工業学校を卒業後に3Dインテリアデザイナーとして活動し、その後VR用のコンテンツにも事業を拡げたとのこと。端末はHTCのものでした。
台湾科技大学の「創新育成中心」のパビリオンのなかで、かなりの集客を集めていた、ポータブル3Dプリンター。149ドルでの量販を計画しており、来年にはリリースとのこと。
女性の創業を支援する「飛雁計画」、まさにFlying Geese Planと書かれていて興味をもって話を伺いました。とくに35~40歳の創業を支援しており、飲食やサービス業が主な事例とのことでした。
このロゴをデザインしたデザイナーがいったい何を狙ったのか、熱く語っていました。
フランスへの投資を呼びかけるセッション。「フランス人は意外に働き者ですよ」みたいな冊子を作っていて、なかなか面白かったです。台湾からの投資があるのでしょうか。
プレゼン会場はこのほかにも2か所あって、企業家によるプレゼンや、賞状の授与などが行われていました。
訪問団がいくつか来ていたのですが、喪服のグループがいたので声をかけてみたらやはりタイからの視察団でした。タイでも現在スタートアップ支援を進めているようで、その政策を立案実施するために、政府と企業の関係者が来ていました。
デザイナーズグループ、buyMood。東京デザインウィークにも出展したことがあるそうで、Tシャツやステッカーなど、どれもほしくなるようなものでした。ウェブサイトから買えるとのこと。
Maker Faire深圳が開催された海上世界の歴史については、すでに取り上げましたが、台北でも、実に歴史のある場所が新しいイノベーションやアートの拠点となってきていることを知り、再開発とはかくあるべきだと感じました。また現地ならではの産業基盤を活かして創業しようとする若い世代が、台湾にもたくさんいるということも感じられる展示会でした。普段は大陸のことばかりを勉強していますが、こうした台湾の新しい動きにも視野を広げていきたいと考えるようになった、とても有意義な訪問となりました。