話題のドローンから見えてくる「新世代中国企業家群」の存在。DJIのフランク・ワンだけではないし、「彼ら」はドローン業界だけにいるのでもない。

お台場にできたドローンスクール、Drone Collegeでお話しさせていただく機会がありました。初めてドローンに触れる方に、マニアックな中国の話をしたので、会場の反応がどうだったのか、正直自信はありませんでした。いずれにしても、ドローン関係で幅広い繋がりを有する名倉さんと色々と議論できたのは私にとってもたいへん有意義でした。

レクチャーで私が強調したのは、DJI以外にも、中国から面白いドローンがバンバン開発されてきている、ドローンの形も用途もこれから広がっていく、ということです。ご紹介したのはコンシューマー向けのドローンの例で、3つあります。一つ目がPowerVision社のPowerEgg、二つ目がHoover Camera、そして三つ目がMakeblock社のAirblockです。

それぞれの機体については、すでに日本語でも紹介記事がでています。北京のPowervision Robot社のPowerEggについては、例えば、Drone.jpの「Powervision 社発。 空飛ぶタマゴ・ドローン登場!」があります。9月の展示会、Inter Droneでも展示されていたようで、2,100gで飛行時間が23分、価格は1,288ドル。飛行の安定性については現時点ではなんとも言えない段階ではありますが、とにかくそのデザインの発想が面白いドローンです。

二つ目は、Hover Cameraです。この会社はスタンフォード大学を出た中国人が北京で創業した会社で、ドローン全体をカゴで覆うことで、安全性を高めており、4Kカメラでの自撮り・レジャー用として、かつてない手軽さを提供するドローンです。実際、小型のドローンであっても、飛行中のプロペラが手に直接触れると切り傷がつくため、危険性がやはりあるのですが、このHover Cameraが提供する、手で持てるという気軽さはコンシューマー向けとして画期的なものです。

そして三つ目が、深圳に本社を置く、Makeblock社のAirblockです。教育用ロボット市場で一躍有名になって企業で、これまではプログラミング可能な自動車ロボットMbotがその中心的な製品でしたが、ついにドローンに参入しました。ここでも組み立てが可能で、プログラムを体験できるという点が特徴的です。

 

おそらくYoutubeで、これらの製品を見て、中国企業だと感じる人は少ないのではないでしょうか。これら3社とも新世代の中国人企業家が創業した企業で、その製品の革新性、ファッショナブルなセンス、マーケティングの手法からみて、過去の「中国企業」のイメージを大きく塗りかえるものです。無論、ドローン市場の雄、DJIもこうしたセンスを発揮していますが、ここで重要な点は、こうした企業がDJIだけではない、ということです。さらに言えば、ドローンだけではないのです。

 

現代中国学会の報告でも指摘したのですが、大まかに言うと、これらの企業の創業者は、1980年代生まれで、最高峰の理系大学を卒業し、その後にドローンやロボティクス産業に参入したという経歴です。2000年代の半ばから後半以降に創業した企業群ということになります。彼らにはいくつか特徴があるのですが、重要な点は、彼らが①最新技術を理解するエンジニアであること、②新世代のグローバルなニーズとセンスを持っていること、そして③ハードウェアを製造するうえでのサプライチェーンや投融資のエコシステムを活用できる環境にいた、という点です。欧米、そして日本の優秀な理系大学を卒業した人にも、①と②は同等以上にあったでしょう。しかしハードウェアを実現するうえで不可欠な③の環境が、欠けていたのではないか、現時点で私はそう考えています。これら3つの条件を満たす世代が、2000年代後半の中国に登場した。そしてそのタイミングはまさに中国経済が構造転換を必要としていた時期でもあったのです。

中国経済の行く末については、企業や地方政府の債務問題や、不動産価格の異常な高騰、そして2020年代に加速する高齢化など、多くの課題があります。こうした問題に対応するうえでも、経済の生長点ともいえる新世代企業家が、どのくらいのビジネスを作り出すことができるのか、この点がたいへん重要な論点だと考えています。